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第二章 エピローグ 前

第二章 エピローグ 前


サイド 大川 京太朗



 呆然と見上げる先。そこには、一騎のチャリオットが空を駆けていた。


 二頭の馬が牽くそれは白い靄の様な軌跡を残して、真っすぐとこちらに向かってくる。そして、チャリオットに乗る一人の騎士と目が合った。


 白銀の鎧を身に纏った、大柄な騎士だ。身長は二メートルを超えているかもしれない。装飾華美な印象を受ける鎧姿だが、関節部など戦闘を考えた作りをしているのが見て取れた。


 金色の手綱を軽く振るい、ゆったりと河原に着陸する。



「無事ですか!!??我が愛馬よ!!!!」



「声でっか」


 再生したばかりの鼓膜が爆ぜるかと思った。


 というか、この声。そして意味不明の言動。まさか……。


「花園、加恋さん……?」


「ええ!!助けに来ましたよ、『シルバー・リリィ』!」


「人違いです」


 訳も分からぬままほとんど条件反射で会話していると、彼女が軽く右手を掲げそこに巨大な鉄槌が出現させた。


 花園加恋が片手で軽々と持つ身の丈を超えるメイスは、先端部がブロックを組み合わせた様な奇妙な形状をしている。


 そして、その形状はほんの一瞬だけこの眼が捉えた隕石の残像と一致した。


 導き出された事実に脳が理解を拒むが……こんな世界だ。まさかとは思いつつも、どうにか受け止めて問いかける。


「あの……もしかして、あのドラゴンを撃墜したのは」


「はい。私です。助けに来たと言ったでしょう」


 明るい口調で、それこそ何でもない事の様に告げる彼女。その様子に疲労した様子は一切見て取れない。


 不意打ちだとか、そんな話ではない。花園加恋にとって、先の一撃は『本当に何でもない事』なのだ。


 隕石と見まごうあの一撃。あれは……彼女が投げたメイスに他ならないだろうに。


 開いた口が塞がらない。それでも、どうにか言葉を絞り出す。


「あ、ありがとうございました」


 助けられた。


 その事実は覆しようのない事実である。素直に感謝する他ない。たとえ相手が『わりと頭がやべぇ不審者』だとしても、礼を言わないのは不誠実に過ぎる。


 それだけ、自分の命もレイラと雪音の命も大切に思っているつもりだ。


「いいえ。同士にして愛馬を守るのは聖騎士として当然の事。それより、お話は一端ここまでにしておきましょう。シルバーはそちらの二人を連れて離脱してください」


 メイスを軽く振るい、花園加恋は空を見上げる。そこには大量のワイバーン達が飛んでおり、更にはこちらに向かってくるファイアードレイクの姿まであった。


 本来なら絶望的な光景だというのに、不思議なものだ。花園加恋の姿を視ていると、まるで脅威に思えない。


 ……それはそうと、さっきから彼女のチャリオットに繋がれた馬たちが僕を舐めたり噛んだりしてくるんですけど。


 兜越しに舌でべろべろと唾液をつけられ、もう一頭はサーコートの肩部分を食んでいる。なにこれ?


「ふふっ。どうやら気に入られたようですね、シルバー」


「いえ……いや、そう言えば馬、既にいるじゃないですか」


 なんだったんだあの『愛馬』呼ばわり。一緒にチャリオットを牽けと?


「嫉妬ですか?」


「違いますけど?」


「まったく……そういう事にしておいてあげましょう」


「ちょっと?」


 なんすかその『まったく、仕方のない子ですね』とばかりな態度は。


「では、私はまだ見ぬ百合の可能性を守る為、ここのモンスターを『掃討』してきます。また百合について語り合いましょうね、シルバー!!」


「語り合った覚えは、ないです」


「ハイヨー!!」


『『ヒヒィィィンン!!』』


 そうして去っていく彼女を見送れば、高度が上がるにつれチャリオットの速度が上昇。あっという間に自分の目でも追うのがやっとの領域に。


 ワイバーン達は路傍の石の様にはね飛ばされ、ファイアードレイクのブレスは白い光にかき消されたかと思えば次の瞬間、巨大な頭部がはじけ飛んでいた。


 ……考えるのは、やめよう。


「帰る、かぁ……」


「そうですね……」


「疲れました……」


 レイラに肩を貸してもらい立ち上がり、三人でのんびり天蓋の外を目指す。


 自分達を狙う竜も龍もいない。気が付けば自分達から半径数百メートルの範囲で、飛んでいる存在は白銀のチャリオットだけになっていた。


 自分達があれだけ必死に戦い、勝ち取ったと思った結果。それがこうも簡単に上回れるのは、少しきついものがある。


 だが、まあ……それでもいいか。


「雪音……」


「はい、旦那様」


「後で、絶対お説教するから」


「……はい。愛されていますね、ワタクシ」


「当たり前だ、馬鹿……」


 三人で身を寄せ合って歩き、天街の外に出る頃には。


 ダンジョンの拡大は、完全に止まっていた。



*  *  *



 あれから三日が経ち、被害の全容も大まかにだが明らかになっていった。


 土日……たった二日間のうちに日本各地で発生した合計七つの氾濫。最低でも『Cランク』、最悪で『Aランク』のダンジョンが、それぞれあふれ出したのだ。


 結果、死者行方不明者は判明しているだけで三万を超える。ダンジョンの難易度を考えれば、少ない……なんて。遺族や被害者の前では到底言えないが。


 国会やテレビではダンジョンの位置を把握できていなかった事に関する責任の追及や、今後の対策について騒がられている。


 そんな中、一際注目を浴びる団体があった。


『皆さん。世界は変わったのです』


 スキンヘッドな事以外特徴を感じられない顔立ちの、喪服のつもりなのか黒い着物を着た男性が壇上で語る。


――『賢者の会』教祖、小山耕助。信者達からは『アカツキ様』と呼ばれる男。


『今回の痛ましい災害に対し、亡くなった方々に心からのご冥福をお祈りいたします。ですが、嘆いてばかりもいられません。我々は、今を生きているのですから』


『この災害から学ばなければなりません。どうすればこれだけの被害を受けずに済んだのか。そして、生き残った方々がいる理由についてを』


『助かった方々に問えば、その答えはおのずと返ってくるでしょう。いったい何が……誰が、悪しき魔物たちを打ち払ったのかを。この災害を鎮めたのかを』


『それは警察ですか?いいえ、彼らの尽力も決してなかったわけではありません。しかし、避難誘導が限界。強力な魔物に抗う術を彼らは持っていませんでした』


『では自衛隊ですか?いいえ、彼らはそもそも戦いの場に間に合っていません。避難後の仮設住宅等で活躍はしていらっしゃいますが、根本的な部分では舞台にすら立てていないのです』


『ならば誰が。それは、覚醒者です』


『魔物たちを打ち倒し、住民の方々を守ったのはその場に居合わせた勇敢な覚醒者達なのです。どうかそれを、忘れないでください』


『恩に着せようなどと、浅ましい事を考えているわけではありません。ただ、これからの社会には覚醒者こそが最も必要だという事実を知って頂きたい』


『魔物に既存の兵器も、戦術も、なにもかもが通用しないのです。これからは、覚醒者が社会の、世界の守り手となるのです!!』


 大仰に両手を広げた教祖。その左右に、魔装を纏った覚醒者達がずらりと並ぶ。


『覚醒するのです!それこそが、これからの世界で生きる唯一の手段!共に鍛え、いずれきたる終末に備えるのです!!』



*  *  *



 そんな感じで世間が賑わっている中、夕方頃に自分はいつもの公園で友人達といた。


 二人は学校帰りのため制服姿だが、僕は私服である。なんせ休んだので。


「やっぱさ……僕思うんだ」


 白い雲の流れる青空を見上げ、あの光景を思い出す。大切な……素晴らしい光景を。


「乳合わせって、最高やなって」


「なんて??」


 どうした熊井君。そんなゴリラが豆鉄砲くらったみたいな顔して。


「乳合わせって、最高やなって」


「OK。俺の耳がいかれた訳ではないのがわかった」


「そうだね。君がいかれているのは性癖だもんね」


「しばくぞてめぇ」


「えー」


 割とマジで拳を構える彼に、両手を突き出して牽制する。


 どーどーどー。


「てめぇ人が心配して話しを聞きに来てやれば」


「ごめんて。けどそんな真面目な空気出されてもリアクション困るし」


「ふむ……空元気って感じじゃないね。てっきりもっと沈んでいると思ったけど」


 眼鏡の位置を直しながら、魚山君が首を傾げる。


 あれから三日経ったわけだが、うちの学校の生徒にもあの氾濫に巻き込まれた奴は結構いたらしい。


 そういう生徒が休む事は珍しくないっぽいので、自分も学校を休んでぐったりしていたわけだ。


「いやぁ。脱出して自衛隊に保護して貰った後さ。冷静になったら目の前で死んだ人の顔とか、自分が死にかけた事を思い出して意識失いかけたりしたんだよ」


「ふんふん」


「そりゃあな」


「そんで、家に帰って両親と抱き合って。とうとう緊張の糸もきれて泣いちゃったんだよね。情けない事にそのまま眠っちゃったんだけど、悪夢を見て跳び起きるし、洗面所でゲロ吐くし」


「……大変だったね」


「きつい、体験だったな。情けなくなんてねぇよ、絶対」


「あんがと。で、腹減ったから母さんの作ってくれた朝食食べて、シャワーあびて」


「「うんうん」」


「昼はラーメン食いに行って」


「「うんん???」」


「夕方にレイラ達に『セッ!』な事をしてもらったらメンタル回復した」


「待て待て待て」


「わかるー」


「ええ!?」


 魚山君と両手の人差し指を向け合って『だよねー」と頷き合う。


「いやいやいや。待った。お前、え、それでいいの?」


「良いも何も、まあそんな事もあったなぁと。二度と遭遇したくないけど」


「既に二度あったし三度目があるのでは?」


「おい馬鹿やめろ。三度目の正直って言葉もあるから」


「待て!ちょっと待て!もっとさぁ!トラウマとかさぁ!?」


「そんな……熊井君は僕に傷ついていてほしかったのか」


「友情はないのか。このゴリラめ」


「俺か?俺がおかしいのか……?」


 宇宙の真理と戦うゴリラな老け顔に、小さく肩をすくめる。


 彼の言いたい事はわかる。自分が同じ様な事を話されたら、混乱すると思うし。


「そりゃあ思う所はあるけどさ。僕も僕の彼女たちも無事だし。ぶっちゃけ親しい人は亡くなった人の中にはいない。泣いて寝てゲロ吐いて上手い飯と熱いシャワーを味わって、美女に慰められりゃあ多少は落ち着くもんだよ」


「そういうもん、なのか?無理してないんだな?」


「モチのロン」


 口にはしないけど、こうして友達と馬鹿な話をするのも『癒し』になっているかもしれない。


 ……自分が薄情な人間なのかもと、考えてしまう。だが、それでも『生きている』のだ。そして、『生きたい』とも思っている。


 開き直る様だけど、あそこで亡くなった人達は数いれど、僕のせいではない。これは、事実だと思う。路地に逃げ込んでワイバーンの急降下を受けた人達も……言っては悪いが、罪悪感は特にない。


 あの日あった悲劇は、『災害』が悪い。人為的なもんでもないんだし、人間が責任をとれるものでもないのだ。


 トラウマに一切なっていない事はないと思う。新しく東郷さんから紹介してもらったお医者さんも、そんな感じの事を言っていた。


 けれど、それでも。


「人間、生きていたら腹もすくし眠くもなるし、ムラムラもするもんだよ」


「おい最後」


「うっせぇ健全な男子高校生から性欲が消えるわけないだろ」


「くっ、百理ある」


「圧倒的正論」


 三大欲求なめちゃいけない。人が生きていたら切り離せないから、それだけ強い欲求として語られているのである。


 生きたいと思えるからこそ、それらを満たす事で心が保たれるのだろう。個人的にはそう思った。


「そう言えば、京太朗が巻き込まれた現場で噂になっている事があったよ」


「え、どんな?」


 この話は終わりとばかりに、魚山君がスマホを取り出した。


「なんでも、覚醒者に助けられた人達の書き込みとかが話題になっているらしい」


「ほほぅ……」


 これは……きてしまったか、僕の時代が。たくさん助けたしなぁ。もうそりゃあもう、八面六臂の大活躍をしたと冷静になって思い返せば自負できる。


 スマホの画面をスライドする魚山君に、キメ顔で目を細めた。


「ちなみに、どんな話題が?」


「色々あるけど、有名どころなら『銀髪オッドアイの美少女と雪女が背中合わせに戦っていた』とか」


 ははん、レイラと雪音の事だな?


 二人とも華があるし、魔法も派手だったから目立つのも無理はない。


「なるほど。で、僕は?」


「後は、『互いを信頼し合い巧みな連携をみせる銀髪と黒髪の美少女コンビが最強だった』ってのもあるね」


 それも二人の事だな。間違いない。他に該当しそうな人はあの場にいなかったし。


「で、僕は?」


「他には……『銀髪オッドアイの美少女魔法使いの覚醒者が、避難民を助ける為使い魔と一緒に巨大なドラゴンに挑んだ』とか」


 間違いなくレイラと雪音だな。


「僕は?」


「……あっ。『銀髪の少女がよくわからんバケツ頭のゴーレムをつれていた』って書き込みもあったよ」


「僕なんだよなぁ……」


 どう考えても僕だよなそれ。


 えぇ……いや。えぇ……?


「おかしいじゃん。僕の記憶では」



『キャー!騎士様ー!!』


『かっこいー!抱いてー!』


『HAHAHA!レディたち。ここは危ないから僕に任せてお逃げなさい!』


『『キャー!!』』



「という事があったのに」


「お前……トラウマで記憶が」


「可哀想に……現実と妄想が区別できなくなっている」


「うっせぇバーカ!!バァァァァカ!!!」


 わかっているよ畜生!そんな記憶ねぇよ!今捏造したわ!!


「たぶん、京太朗の全力戦闘の速度を目で追えない人が大半だったんじゃない?」


「ああ。だから『よくわからん』ってついていたのか。直接話した奴もいたかもしれんが、そもそもネットにそういうの書き込む奴ってどんぐらいいるかも知らんし」


「ちくしょう……ちくしょう……!」


 そりゃあさぁ。身バレとからさぁ、したくないけどさぁ。


 僕だってヒーロー願望ぐらいあるんだよ。『あの騎士様の正体はいったい!?』みたいな感じで注目を集めたい気持ちもあるんだよ正直!


 承認欲求っていうの?三大欲求だけじゃないのよ人間って。


「そう落ち込むなよ京太朗」


「熊井君……」


「どうせ人気者になっても、兜の下にある面を見られたらガッカリされるだけなんだから」


「どういう意味だ老け顔てめぇ」


 喧嘩か?喧嘩売っとんのか?


「それと……変な奇声をあげてドラゴンを殲滅した変な騎士がいたって噂も上がっているんだけど。まあこっちは都市伝説というか、デマかもしれないけどね」


「あー……」


「ギブギブギブ……!」


 熊井君の胸倉を掴んでゆすっていたら、魚山君が不思議そうに尋ねて来た。


「まあ……それは『自称聖騎士様』の事だろうなぁ」


「聖騎士?」


「今回ばかりは、感謝しなくちゃいけない相手というか、なんというか」


 絵に描いた様な不審者であるが、命の恩人だ。この借りはいつか返さなくてはいけない。これを仇で返しては、自分達の『命の価値』を貶める。


 ……とりあえず、今度変な勧誘を受けても通報はしないであげよう。他は、また会った時考えるか。


「宗教は、自由だしなぁ」


「はぁ?」


「ちょ、マジでギブだって……」


 澄み渡る青空を見上げ、そう呟く。


 白い雲の形が、百合の花に視えなくもなかった。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


この少し後に『第二章 エピローグ 後』を投稿させて頂きます。そちらも見て頂ければ幸いです。


Q.京太朗メンタル強くない?

A.どっちかと言うと、『メンタルを再生できる環境が整っている』感じですね。

『家族や友人の存在』+『安全な寝床と美味しい食事』+『きちんとした精神科医』+『巨乳美少女二人による慰めックス』。

 それに加え、後々『尊敬し頼れる大人から働きを認めてもらえる』も追加されるので、傷を負った心もほぼ回復した感じです。

 ……単純に、過去作の『クトゥルフ式』ほどS●N値が減った状態を書かないだけでもありますが。



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― 新着の感想 ―
これだけ必至こいて戦って全身ボロボロになり一般人なら重傷~重態でICU直行レベルの傷負いながら多くの人びとを助けたのに、「なんか美少女二人にまじってバケツ頭のゴーレムがいる」って悲惨な扱いww
[一言] つまらんなー
[良い点] めっちゃ面白いです! [一言] 強敵倒してもステータス的には成長しないのかなぁ
感想一覧
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