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第四十二話 燃ゆる街

第四十二話 燃ゆる街


サイド 大川 京太朗



 走る。斬る。跳ぶ。斬る。


「こ、のぉ!」


 右前脚ごと羽を凍らされたワイバーンの逆鱗を、体当たりの様にして剣で貫く。


『ガ、アァ……!?』


「お、おおお!」


 衝撃で数メートル後退りしながらうめく飛竜に、剣を捻りながら蹴り飛ばして引き抜く。


 肩で息をしながら、消滅するそいつを横目に声を上げた。


「こっちに!急いで!」


 最初に助けた四人家族。そこから、共に避難する集団は既に十数人に膨れ上がっていた。


 駆け足で道路を進んでいく彼らと共に移動しながら、視線を周囲に巡らせる。どこから来るかわかったものではない。


 トラックがどこかの建物に頭から突っ込んでいたり、電柱が倒れている道路。車どころか歩きですら難儀する道は、非覚醒者ばかりの集団が進めば亀の歩みかと思ってしまう速度しか出させてくれない。しかも、子供や老人までいるのだ。


「な、なぁ!」


「はい?」


 視線を周囲の警戒に使いながら、逃げている住民の一人が問いかけてきた声に応える。


「建物の中とか地下を移動するとかじゃ駄目なのか!?マンホールから下に降りるとか!」


「マンホールって言ったって、人が通れるやつの方が少ないですよ。屋内は……壁や天井が壊されてこっちの動きを封じてきそうですね」


「そ、そうか……」


 自分もこの前、偶然テレビでマンホールの下とやらを見て知ったが。どうも人が通れるのはごく一部のやつだけらしい。屋内の方は論外だ。まだ路地裏にダイブしたワイバーンが殺した者達の姿が、目の奥にこびりついている。一般の建物の強度では話にならない。


 たしか、ワイバーンは目だけでなく魔力の探知にも長けたはず。屋根で視線を切ろうが、構わず突撃してくるだろう。


 そんな会話をしている間にも、魔眼は発動する。


「左上!」


「『水よ』!」


「『氷牙』!」


 自分の声に、レイラと雪音が左上目掛けて魔法を発動。水と氷の槍が、建物の屋上から飛びかかって来たワイバーンに直撃する。


『ギァ!?』


 奇襲を察知されて動揺したか、その飛竜は頭や胴体に何本もの槍を受けながら失速。車道を行く避難民の直前、歩道で一度バウンドしてからガードレールにぶつかって止まる。大きくひしゃげたそれに対し、落下自体のダメージは奴に見受けられない。


 それでも、穿たれた傷口からは大量の血が流れて雨水に混じっている。見るからに深手。四肢で踏ん張ろうとする動きは鈍い。


「ひぃ!」


「きゃぁああああ!?」


 悲鳴を聞きながら、よろよろと立ち上がるワイバーンに駆けた。奴が顔をあげた瞬間、側頭部に剣をフルスイング。鱗と頭蓋骨を割り、脳を破壊する。


 絶命したそれを警戒しながら、また周囲の警戒。


 直後、また別の個体が避難民の人達に襲い掛かる姿を魔眼が幻視する。


「こ、の」


 徐々に雨が強くなるなか、水たまりを弾けさせながら跳躍。斜めに猛スピードで突っ込んできたワイバーンの首に、横から斬りかかる。


 剣が首に食い込んだタイミングで『魔力開放』を発動。己自身を押し出し、強引に剣を振り切った。


 衝撃で諸共に地面へと叩きつけられる。着地に失敗して自分も転倒するが、素早く立ち上がった。


「主様!」


 その時、また魔眼が危機を伝えてくる。レイラの声もほぼ同時。ほとんど反射で体を横に投げ出せば、地面スレスレを一体のワイバーンが飛んでいった。


 そいつの爪がぶつかり弾けたアスファルトが体に当たるのを感じながら、視線で追えばどこかのデパートの壁面に爪をたて四つん這いに張り付いたところだった。


『ガァ!!』


 こちらに頭を向けるなり、口から『かまいたち』が飛んでくる。普通に受ければ後方の人達にレジストされ散らされた風が当たる。


「らぁ!」


 魔眼で風の軌道を読み、そこへ『魔力開放』を僅かに発動させながら剣を振り下ろす。目の前の空間が爆ぜて、一瞬だけ周囲の雨水が吹き飛んだ。


 それとほぼ同時に、氷の槍がワイバーンの翼に突き刺さる。悲鳴をあげて落下したそれに跳びかかり、口の中へと剣を突っ込んだ。


 刀身を捻ってから、肉を引き裂く。声もなく絶命したそれを前に、切っ先を地面に当てながら息を整えようとする。


「はぁ……はぁ……」


 流石に、きつい。これで何体目か。少なく見積もっても五十は倒したはずだが、未だ街中から破壊音と時折ワイバーンの鳴き声が聞こえてきている。


 度重なる襲撃と、避難民の足に合わせている事もあって未だに脱出できていない。このままでは、本気で彼らを見捨てて自分達だけでも……。


 憂鬱になる考えが頭をよぎった時、兜越しながら大量の足音と人の声を聞きとる。


「まさか……」


「主様、あちらに向かいましょう!」


「ああ!皆さん、あっちです!えっと……すみません、案内お願いします」


「わ、わかった。けどあっちに何が……?」


 避難民の一人に道案内を頼めば、彼らもすぐに同じものが聞こえてきたらしい。雨と恐怖で暗かった顔に、希望が宿る。


「こ、こっちだ。たぶん国道の方からだ!」


 中年の男性に導かれながら駆け足で進んでいけば、大きな道路に出る。そこには大勢の人が集まり、脱出の為移動している所だった。


『押さないでください!荷物は最低限だけで、できるだけ身軽な状態で移動してください!』


 警官が拡声器を手に誘導をしているらしい。そして、その声に釣られたのかワイバーンが飛来するも、空中で何本もの槍や矢が突き刺さり撃墜される。


 視れば、覚醒者と思しき者達が避難民を守る様にそれぞれ武器を構えて周辺を警戒していた。


「これは……」


「そこの君ぃ!」


 その集団をぼんやりと見ていたら、突然横合いから声がかけられる。


 丸坊主の大柄な男性。両手用のメイスを肩に担いだ、武骨な顔立ちをした二十後半ほどの人。たぶん、覚醒者なのだろう。服装は獣の革と金属鎧を混ぜた様な鎧姿だった。


「君は覚醒者か?だったら避難の手伝いをお願いしたい。無理強いはしないが……」


「できる範囲でいいなら、お手伝いします」


「そうか、助かる。単独でワイバーン相手にやれそうか?」


「一体なら確実に。同数だとなんとかって感じです」


 ちらりと、レイラ達に視線を向けながら答える。


「ほぉ……それは頼もしい。ではあの辺りで警戒を頼む。もっとも、私の仲間たちが敵を倒すから、君の所にくるのは撃ち漏らしだけだろうが」


「はぁ、わかりました」


 若干雰囲気に棘があるが、楽で安全ならその方がいい。


 こちらが頷いて返すと、彼は僕の後ろにいる人達に視線を向ける。


「そっちの者達は警察の指示にでも従っていろ。我々が守ってやる」


「は、はい」


「ありがとうございます」


 礼を言う避難民に、男性は大きく鼻息を鳴らして去って行った。自尊心満たして満足したようにも、彼らを見下していた様にも見える。


 だがまあ、それぐらいならどうでもいい。言われた持ち場に移動する。ここまで来て後は全投げというのも気分が悪いし、安全の為にも従おう。


「あ、あの!ありがとうございました!」


「貴方は命の恩人です……なんてお礼を言ったらいいか」


 そう声をかけてきたのは、最初に助けた四人家族だった。状況がよくわかっていないのか、ポカンとした子供たちを抱えながら頭を下げてくる夫婦に、思わずこっちこそ頭を下げてしまう。


「いえいえそんな。困った時はお互い様ですから」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


「いえいえそんな……」


 お互い頭を下げあって、ザ・日本人なやりとりに思わず夫婦と苦笑を浮かべてしまう。こっちは兜を被っていたけど、たぶん向こうも察したと思う。


 未だ危機から脱せたわけではないが、それでも事態は好転した様に思えて気が緩んだのだ。それを自覚して内心気を引き締めなおしながら、踵を返す。


「では、お互い生きて脱出しましょう」


「はい、そちらこそお気をつけて」


「お嬢さんたちも、ありがとうね」


「いえ」


「お気になさらず」


 静かに微笑むレイラと雪音を引き連れて持ち場に行く途中、父親に抱えられた子供が手を振ってきた。それに対し、こちらも小さく振り返して――。



―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッッ!!!



 轟音が、響き渡った。


 最初、それがなんなのかわからなかった。だがあまりにも大きな音だったから、誰もが耳を押さえ顔を歪ませる。周囲の窓ガラスにもヒビが入っていき、何枚か割れて地面に降ってくるのが視界の端に映った。


 それでも頑丈な体をしている覚醒者達は、視線を音のした方向へと向けた。いったい何が起きたのかと。


 当然、その中には自分もいた。


「……は?」


 そんな間抜けな声を出したのが、自分なのか他の人なのか、よくわからない。


 太陽が、降ってきていた。


 燃え盛る球体が、黒の天蓋よりゆっくりと降下していく。それは周囲の雨を蒸発させながら、一際大きなビルの上に降り立った。


 炎の膜が開かれて、内側から一体の竜が……『龍』が、姿を現したのだ。


 深紅の鱗が全身を覆い尽くし、強靭な四肢は灼熱の業火が鱗の上から包み込む。背からは燃え盛る二つの火柱。それが揺らめいたかと思えば、翼へと形を変えた。


 遠く離れて、それこそ数キロ先にいるというのにその熱量を感じる様だ。それほどの炎を纏っていながら、しかし何よりも輝くのはその双眸。


 黄金の輝きを放つその瞳は、まるでこの街の全てを射貫いているかのようだった。


 その顎が開かれる。突撃槍もかくやという牙が並んだその口は、大型トラックとて易々と噛み砕くだろう。


 だが、今それが開かれたのは『口』としての機能を果たすためではなく、『砲口』としての機能を使う為だと、直感的に理解する。


「伏せろぉ!」


 誰がそう叫んだのか。もしかしたら自分だったかもしれないし、複数人が同時に言ったのかもしれない。


 ただ、その結果は一つだけ。


 龍の口に展開される、三つの光輪。紅蓮に染まったそれを中心に、炎が収束されていく。


 開き、溜め、開放されるまで、ほんの十秒。



『――――――』



 空が、燃えた。


 巨大な金属同士が激しく擦れあった様な不快な音と、ほぼ同時に駆け抜けた閃光。否、極光。


 直径数メートルはあろうその光が、どこかへと飛んでいく。


 その射線上にあった物は、全て溶断された。ビルもアパートも電柱も何もかも、阻むことなど一瞬たりともできずに撃ちぬかれ、その先へと通す。


 どこに向けて撃ったのか。それはわからない。けれど……きっと、人がいたのだ。この場所から逃げようとした、誰かがいた。それも、たくさん。


 ほんの僅かに遅れて火の海と化す、龍の周囲と極光が通り過ぎた後の街並み。


 崩れ落ちる建物の音が、腹の底を揺らす様に響いてくる。



『ファイアードレイク』



 世界中の伝承に残る龍の中で、本来『火を吹く』ものは少ない。だというのに、現代においてドラゴンは炎のブレスを吐くのだと印象付けた存在。


 ある種、龍の中の龍とさえ呼ぶべき物語の怪物。



『ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――――ッ!!!』



 先の轟音が、アレの咆哮であったのだとようやく理解した。


 そして、そのまま奴を見上げていればわかるだろう。


 黒の天蓋よりゆっくりと落ちてくる……いくつもの、太陽と見紛う炎の巨大な球体が。最初に音の発生源を探した時、見た物と同じものが。


 それらが、街へと降り立っていく。


 絶望はまだ、始まったばかり。


 炎膜が開かれ、そこから覗いた瞳の一つと自分は目が合ってしまったのだから。






読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 京太朗の命もここまでだった……。 とかいう文章がラストに来てもおかしくない位の絶望感ですね。 これ、生き残れるのか、かなり微妙なのですが……。がんがれ、兎に角、生きろ!
[気になる点] このレベルの事態がそこそこでも発生するなら、たとえ能力平均Cランクが120万人規模いたとしても日本もう終わりだと思う 勝てるどころか対抗できるビジョンが一切湧かないのはAランクの戦闘が…
[一言] いやいやハードモードすぎんよ。 前世で一体何やらかしたんだ。
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