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第三十八話 熊井信夫の筋肉恋路 1

注意

 シリアスさんは休暇をとりました。


第三十八話 熊井信夫の筋肉恋路 1


サイド 大川 京太朗



 六月も終わりが近付き、蒸し暑さが日増しに上がっている頃。ザーザーと雨が降る中、自分は熊井君の家に来ていた。


 学校帰りに立ち寄る様に言われたのである。魚山君も含めた三人で、彼の部屋に招かれていた。


 ジュースとお菓子の乗ったお盆を中央に置き、それを囲んで座布団やクッションに腰を据えた状態で、既に五分が経過している。


 何かを言おうとしてはすぐに当たり障りのない話で誤魔化す熊井君に、いい加減焦れてきた。


「今日は、雨が凄いな」


「お前天気の話何回目だよ」


「たぶん三回目だね」


 流石に多いわ。どんだけ会話デッキ乏しいんだよ。


 ……よそう。そこにツッコムと僕のデッキの貧弱さも露見する。小粋なトークとは無縁の人間しかこの場にいねぇ。


「……お前らを、口の堅い奴らだと信じて話す」


「おう」


 いったいなんだと思いながら、彼の言葉を待つ。


 神妙な面持ちで、熊井君が一度ジュースで唇を湿らせてから言葉を続けた。


 僕達は友達だ。こうも酷く悩んでいるのなら、できる範囲で力になろう。



「滅茶苦茶好みの女性を見かけたんだが、どうアプローチすればいいと思う」



「ごめん、力になれない」


「その願いは我らの力を超えている……」


 そっと、魚山君と二人首を横に振った。すまねぇ、女性へのアプローチは小粋なトーク以上に苦手分野なんだ。


「少しは考えろよ!?知恵を貸してくれよぉ!」


「ない袖は振れないんだ。本当にすまない」


「そもそも頼る相手が間違っている。コミュ障ナルシスト人外フェチと触手に人生賭けている奴に恋愛相談とか、頭は大丈夫か」


「おい待ておい」


 魚山君の脇腹を連続でつつく。てめぇマジで僕をなんだと思ってんだ。コミュ障は認めるけどそれ以外が風評被害も甚だしい。


 腕でこちらの指をガードする彼の脇に、的確に抉り込んでいく。馬鹿め、スペックが違うわ!


「しょうがないだろう、そもそも他に選択肢がないんだから」


「悲しい人生送ってんな、君……」


「同情するよ……」


「逆にそれでいいのかお前ら」


 だって恋愛相談ができる相手が僕らだけって。もうだいぶヤバいぞ?人として。


「しょうがない。この前いつの間にか鞄の中に相原君のメアドとSNSのIDが入っていたから、彼に頼ろう」


「え、なにそれ恐い」


 ふっ、これで恐がるようでは甘いぞ魚山君。なんせその連絡先と一緒に『布教用』と丁寧にラッピングされた『全体的にふくよかな女性』のエロ本が三冊入っていたからな。


 そんなもんを勝手に入れられた事と、あいつこんな物学校に持って来てんのかってのと、そして表紙の段階でメンタル削れる本だった事と……もう自分でもどの辺に恐怖を感じたのかわからないのが一番の恐怖ポイントだったよ。


 なにがあれって、善意百%っぽいもん。まるで少年漫画の主人公が仲間を信じる場面とかそういうのでしか見ない目をしていたもん。あんな純粋な瞳人生で初めて見たよ。


 相原君。君はどこに向かっているの?そしてなんで僕に布教しようとすんの?せめて自分の中だけで完結して?


「いいや駄目だ。あいつは頼れない」


「え、なんで。仲悪いっけ?」


「まあ仲がいいわけでもないしね。京太朗以外は僕らそもそも相原と話した事ないし」


「あー」


 信用できない相手に好きな人について話すのは無理だな、しょうがない。


 僕も小学校の頃クラスメイトに『絶対に誰にも言わないから好きな人教えて』と言われ、その言葉を信じた結果いつの間にかクラス中に知れ渡っていたっけ……。


 告白もしていないのに『きもい。無理』と振られたあげく、虐めのきっかけにもなったけなぁ。先生に相談しても露骨に面倒そうな顔したあげく、とりあってもらえなかったし……。


 うん、よそう。この記憶は封印だ封印。今はレイラも雪音もいるし?貯金二百万超えてますし?勝ち組だからね僕は。


「信用どうこうの問題じゃねぇ。あいつは、俺の敵だ」


「わっつ?」


「ほほう」


 何いってんだこいつ。モテ度の話か、クラスカーストの話か。どちらにせよ僕らと彼では勝負にもならんぞ。


「京太朗……奴が極度の『デブ専』なのは本当だな?」


「ああ。なんなら証拠品があるけど見せようか?」


「逆になんで証拠品があるの???」


 それはね、魚山君。『布教用』が入れられていたのが一回だけじゃないからだよ?ついでに小声で、『後で感想、教えてくれよな☆』と無駄にイケメンな顔面でウインクされながら言われるんだよ。


 もう新手の怪談として語れるんじゃねえかな、あいつの存在。


「俺は筋肉派。奴は脂肪派。板チョコと大福が相容れねぇ」


「最近は大福にあんこの代わりにチョコを入れる場合も」


「魚山君、シャラップ」


「人の性癖は、自由だ。だが協力関係には絶対になれねぇし、今が令和じゃなきゃ果たし状を投げつけているぜ」


「そこまで?」


「相原も、恐らく同じだろうよ」


「そこまで??」


 いや、よく考えたら『布教用』と書かれた雑誌の中に、時々『筋肉など時代遅れ』とか『丸みと柔らかさこそが至高』と書かれていたな。その時は心を無にしていたから気にしなかったけど、まさかあれは熊井君への牽制?


 ……え、僕熊井君の性癖は彼に言ってないんだけど。どうやって知ったの?嗅覚?変態の嗅覚?


 ちなみに、あまりにも感想を求められるので一応一回は目を通す事にしてから返却している。だって恐いし。


「だから頼む。お前達だけが頼りなんだ!」


「うーん……」


 なんにせよ、言いたくない相手に無理矢理相談させるのはよくない。


 ここは、友達として無い知恵を絞るか。


「わかった。あまり参考にならないだろうけど、力になろう」


「上手くいったらラーメン奢りなよ」


「二人とも……恩にきる!」


 老け顔に笑みを浮かべる熊井君。


 それにしても、彼が恋をしたという事は……。


「で、相手はボディビルダー?それとも格闘家?」


「あるいは動物園のゴリラか?あいにくゴリラに人間の言語は通じないぞ」


「魚山」


「うん」


「後で殴るわ」


「なんで?」


 残当。


「実は、この人でな……」


 そう言って彼がスマホを差し出してくる。そこに映し出された女性の姿に、思わず『おぉ』と感嘆の声をあげてしまった。


 異性としてではない。曲がりなりにも、冒険者としての視点でその姿に敬意を覚えたのだ。


 言葉を選ばないのでああれば、第一印象は『アマゾネス』。


 日焼けなのか小麦色をした体をつつむのは、ビキニアーマーと動物の革で出来た腰布みたいのを巻いた物だけ。しかし、一切いやらしいとは思えない。


 丸太の様に太く強靭な四肢。むき出しの腹筋はハッキリと六つに割れ、胸は『胸筋』という単語しか浮かばない。ブラなど、ただのサポーターか防具の一種にしか思えん。


 そして頭と一体になっているのかと聞きたくなる首の発達具合。脂肪ではなく筋肉であそこまで太くなるものなのか、人体って。


 顎も人の骨程度なら軽く嚙み砕けそうなほどで、顔立ちも鷹の様に鋭い目にやや潰れた鼻。『日頃から殴り合いに慣れていそう』と思うのは、流石に偏見だろうか。


「名前は車谷鉄子さん。二十二歳で専業の冒険者らしい」


 専業……つまり冒険者一本で食って行こうと。それまた剛毅な。


 そこまで『戦士』としての威圧感が画面越しにも溢れてくる彼女に圧倒されていたが、その頭部に動物の耳が生えている事にようやく気づく。


 ドレッドヘアでわかりづらいが……クマの耳か?


「獣人?」


「正確にはハーフだがな。可愛いだろう?」


 いや、まったく。失礼ながら異性ではなく戦士としか見れない。


 それにしても獣人のハーフとは。初めて見た。


『亜人』


 覚醒者の中でも一割そこらしかいない、エルフ・ドワーフ・獣人たちの事である。


 エルフは長い耳と美しい容姿。そして高い魔力と五感の鋭さが有名である。ただし、華奢で力はそこまでない者が多い。まあ、ハーフとは言えどこぞの変質者みたいな例外もいるけど。


 ドワーフは男女ともに力と頑強さに優れ、代わりに耳が少し遠い。男性のドワーフは髭がセンサーの様に敏感で、暗闇では目よりも優れた索敵能力をもつという。なお、男はおっさんにしか見えないが女性のドワーフは『ロリ巨乳』ばかりである。


 そして獣人。動物の特徴をもった覚醒者であり、その能力は混ざった動物によって大きく異なる。例えばウサギの獣人であれば聴覚と跳躍力に優れ、馬の獣人はとにかく脚力が凄い。基本的に身体能力が高く魔力が低いが、狐獣人みたいな例外もいる。


 クマの獣人はフィジカルお化けと聞いた事がある。ハーフでもこれとは。凄まじいな。


「あ、ちなみに父親がクマの獣人で、母親がドワーフなんだそうだ」


「なにその筋肉のサラブレッド」


「いや、女性のドワーフは見た目だとそんなに筋肉がつかない。この筋肉はお父さん似か、あるいは彼女の努力した結果だろう」


「詳しいね、京太朗」


「ちょっと調べた事があってな」


 具体的に言うと相原君の布教に削られた心を中和しようと、エロ本を物色した時に女性ドワーフ物を嗜んだのでな。この中では一番詳しい自信がある。


 なお、一番効いた中和剤はレイラと雪音の癒しである。やっぱオッパイは偉大だ。ボンッキュボンが至高だよ。


「というか、家族構成まで知っているとかもうだいぶ仲いいじゃん」


「うん。僕らのアドバイスとかいらなくない?」


 あれか?もう一歩踏み出すための助言をくれと?ハードルたけぇなおい。


 そう思って熊井君に視線を向けたのだが、そっと目を逸らされた。


「……おい、まさか」


「よく見たらこの写真。顔が別の方向に向いているね」


 魚山君の言葉にスマホへと視線を戻せば、確かに彼の言う通りだ。ダンジョン内の様子らしいが、これは報酬記録用のカメラ映像の一部から引っ張って来たな?


 勝手ながらスライドさせれば、車谷さんの姿が隠し撮りみたいにいくつも……。


「裁判長、判決を」


「ストーカー行為で有罪」


「待って!?偶然だから!偶然ダンジョン内で見かけただけだから!」


「じゃあなんで名前と家族構成知ってんだよおい」


「吐けおらぁ」


 事と次第によってはガチでお巡りさん案件である。


 友人を警察に突き出すのは避けたいが、最悪それも想定しなければならない。


「ストアの受付さんに聞いたんだよ!嘘じゃねえ!」


「馬鹿な。ストアがそんな個人情報をペラペラ喋るわけないだろう」


「いや、喋るな」


「マ?」


「マ」


「マかぁ」


 悲しいけどこの前の一件で僕の中のストアへの信用はがた落ちである。わりと簡単にゲロるぞあいつら。


「まあ、俺の誠意ある筋肉談義に感銘を受けてくれた様でな」


「それは脅迫か拷問では?」


「いいや、たぶん単純に勧誘したがっていると思ったんじゃない?彼女一人で行動しているぽいっし」


「あ、そうなん?」


「うん」


 頷いて魚山君が熊井君のスマホを渡してくる。


「ほら、ソロで移動している」


「ほんとだ」


 車谷さんの周囲に人影はない。凄まじい背筋を晒して一人で歩いている。


「というか、ダンジョンって事は魚山君一緒にいたんじゃねえの。この盗撮犯と」


「人聞きぃ!?」


「一緒にいたが、別に偶然すれ違った冒険者を一々覚える暇があったら僕はアイナとツァレの雄姿を目に焼き付けているよ。そうじゃなければ普通に周囲を警戒している」


「……一応聞くけど、アイナとツァレって誰」


「僕の使い魔達だが?京太朗が一緒に捕まえてくれた」


「OK把握」


 世界中のアイナさんとツァレさん、彼に代わって謝ります。ごめんなさい。


「ようやく俺は運命の相手と出会えたんだよ!俺の眼が正しければ彼女は身長196cm!体重117kg!体脂肪率8%前後!種族だけじゃねぇ、あれは戦うために自ら鍛え上げた本物の筋肉だ!!」


「身長体重までストアの人喋ったのかよ」


「いいや、俺の目測だ。だから1cmや1kgぐらいなら誤差があるかもしれない」


「なるほど。僕が一目で触手の長さと太さがわかるのと同じか」


 なにその魔眼:『筋』とか魔眼:『触』とか言われそうなの。


 僕も目測で『なんカップ』とか予想をたてたりするけど、そんな正確な数値わかんねぇよ。新手のモンスターかお前らは。


「で、その車谷さんの連絡先とか、普段通っているダンジョンとかわかんの?」


「……そこでお前に頼みたい事があるんだ、京太朗」


「なんぞ」


「なんか、こう。未来予知で彼女の行動範囲を割り出してくれ」


「できるわけねぇだろ」


「そんな!?」


「いや世界の終わりみたいな顔されても」


 できんものはできん。そんな万能な眼だったらまず花園加恋の現在地を特定して東郷さんに電話するわ。


「望みが、潰えた……!」


「あー……彼女を見かけたダンジョンに通ってみるとか?そんなコロコロ通うダンジョンを変える人の方が少ないらしいし、そのうちまた会えるんじゃない?」


 かくいう自分は、サラマンダーのダンジョン以外だと結構バラバラだが。大半の冒険者はいくつかのダンジョンを狩場と定めて行動するらしい。


 それで不人気ダンジョンの間引きが大変な事になっているらしいが、それはまた別の話。


「それしかないね。せっかくだし、今からどうやって話しかけるか考えておいたら?」


「え、そんな恥ずかしい……」


「きめぇ」


「吐きそう」


 もじもじしだした熊井君に強烈な吐き気を覚える。貴様、それが許されるのは美女や美少女だけだぞ。鏡を見ろこのゴリラ。


「じゃ、じゃあお前らはどうやって声かけんだよ!気になる相手に、第一声で!」


「………い、いい天気ですね?」


「このクソ雑魚会話デッキが!!」


「なんだとぅ」


 お前に言われたかねぇよと思うが、事実なのでこれ以上言えねぇ。


「尿道にいれるならどんな触手がいいですかとか?」


「お前それ真剣に考えた?」


「ああ。友人の恋路のため、渾身のナンパ文句を考えた。どうだ」


「そっかー。とりあえず保留にしとくなー」


「む、即採用ではないのか……」


 逆にお前はその口説き文句で引っかかるのか。


 ……引っかかるだろうな、確実に。同士!とか叫びながら触手談義に花を咲かせると思う。


「くっ……!いったいどうすれば……はっ、そうだ!お前らが彼女を襲い、それを俺が助ける!」


「上等だよそのまま血祭りにあげてやる」


「二度と排泄できない体にしてやろう……」


「ジョーク!イッツアジョーク!!」


 てめぇナチュラルに友達を使い捨てにしようとすんじゃねぞマジで。


 そんな馬鹿な話が、一時間ほど続く。いい加減帰らないと家の人に迷惑なので解散となったが、どうも熊井君の悩みはまだまだ続きそうだ。


 ……それはそうと、とうとう相原君から自作と思しきエロ同人が届いたのだが、そろそろ新手のハラスメントという事で真面目に対処した方がいいのだろうか。


 後日、真剣にもうやめるようお願いしたら今後やらないと約束してくれた。それはそれとして『ここまで真面目に感想を言ってくれるなんて……やっぱお前は才能あるぜ☆』とウインクしてきやがったので、無言で中指をたてた僕は悪くないと思う。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.相原はどうやって熊井の性癖を知ったの?

A.相原

「一目見た時から気づいたよーー奴は、俺の生涯最大の敵だと」


Q.ストアの情報管理ガバガバぁ!?

A.職員

「ソロとか危ないからパーティー組んでくれるならいいかなって……性癖がどうこうと思わないじゃん」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ドワーフ耳遠い設定ワロタ、声でかいイメージあるし。
[一言] しりあす「(チーン)」 「なんてこった、シリアスが殺されちまった!」 「この人でなしー!」 (以上アイサツ、以下まじめな疑問) 亜人の解説はチマチマ小出しで出てきていますが、これもしかし…
[一言]  ボディビル・ポージングで語り合えるっ。  そして―― 「筋肉が綺麗ですね」<<「月が綺麗ですね」  の、あの遠回しの告白をするのだ。  女性は、どんな女性でも『乙女』と知るべし。  自分…
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