第三十六話 勧誘
第三十六話 勧誘
サイド 大川 京太朗
新興宗教って怖いなぁと思った翌日。覚醒者を目指すという宗教が流行る反面、世間ではやはり覚醒者を危険視する声もあるわけで。
『異能を用いた犯罪は件数こそ減っていますが、それは狡猾さが増しただけという犯罪心理学の専門家が――』
『ゴーレムという存在に雇用を奪われる心配がされていますが、それ以上に召喚魔法とやら同様、個人が軍隊を持てる可能性にこそ危険を――』
『雪女というモンスターをご存じでしょうか。非常に人間に酷似した容姿を持つこのモンスターを、使役して好き勝手に使う。これは道徳的観点から――』
『有川大臣が独断で建設した覚醒者専用の学校。それに対して説明不足と叫ぶ与野党の声は強く、開校をする前にもう一度その必要性の有無を考える必要があると学校の問題を主に扱う記者の――』
『そもそもの話、国民に武器を持たせるのはいかがな物なのか。自衛隊や警察だけで対処できないのなら、米軍に助力を頼み――』
『モンスターには、ダンジョンでドロップした武器で対応可能です!だと言うのにそれを冒険者が勝手に売買できる現状を、いったいどうして許せておけるのでしょうか!そもそもそのドロップ品がどのように扱われるのかが――』
……なんというか、テレビ業界ってよくわからん。覚醒を推進したいのか、したくないのか。あるいはそういう考えとかじゃないのか。
まあ、なんにせよ自分とそこまで関係のある話でもない。討伐報酬を減らすだとか、ドロップ品の扱いを前に戻すとかの報道はふざけんなとしか言えないけど。
ついでに言えば、自分も詳しくないけど『ゴーレムで個人が軍隊を』、というのは無理のある話だと思う。それができるなら人手不足で民間人を冒険者にしてねぇよ、と。
なんでも、レイラ曰く並のゴーレムはそこまで強くないし、同時稼働もそれほどできないらしい。それこそ、自分がやろうとしているみたいに素材を全てダンジョン産の魔力を含んだ物を使うとかなら別だろうが。
ただ、そんな高級品を大量に揃えられるならAIとか機械でやった方が効率的だと思う。魔法は便利だけど万能ではない……らしい。結局自分も受け売りだけど。
何はともあれ、今日も今日とてダンジョンへ。テレビで危険視されようが、自分にはゴーレムが必要なのである。
ガラガラの電車に揺られながら、向かった先。前に行った『廃村のダンジョン』から徒歩で三十分ほどの位置にあるダンジョンを目指していた。随分と、この町も運がない。不人気ダンジョンと、更には『Cランクダンジョン』まで出来てしまうとは。
電車から降りて無人の改札を通り過ぎると、先週来た時にはなかった物を目にする。
『あなたも覚醒者となり次のステージへ』
「うへぇ……」
でかでかと、そんなポスターが駅前に張られていたのだ。禿げ頭のおっさんがギンギラギンな鎧姿で両手を広げている、『賢者の会』のやつだ。
まさかこんな田舎にまで……いや、田舎だからこそか?先ほど運のない町と思ったけど、藁にも縋るというか……。
なんにせよ、なんとなく見ているのが嫌だったのでバス停でスマホを弄りだす。アプリゲーでもやってよ。余所の町の宗教とか、自分に関わらないならご自由にとしか言えないし。
ちょうど自分がやり始めたゲーム、『おっぱい戦国大決戦』の去年開催した夏イベントが復刻をしているのだ。配布キャラである『おっぱい魔王:ノブネ』を絶対に確保しなければ。
そんなこんなで周回をしながらバスを待つ。ここ、一時間に二本しかないんだよなぁ……。
「すみません、ちょっと今いいですか?」
「はい?」
マナーモードでやっていたから、イヤホンもつけていない。声をかけられてすぐに振り返った。ついでに画面は隠す。理由は聞かないでほしい。
そこにいたのは、人の良さそうなおばさん二人。はて、いったいなんの用なのか。
「貴方、もしかして冒険者の方ですか?」
「……いやぁ、えっと」
咄嗟に、なんと答えていいものか視線を迷わせてしまった。もしかして困りごとかとも思うが、なんか嫌な予感もしたので肯定もしづらい。
すぐに、即答で『違う』と言ってこの場を去らなかった事を後悔する。
「やっぱりそうですよね。私達、『賢者の会』の会員をやっている者です」
「ここの町役場で『賢者の会』の説明会をやる予定なので、よかったら見学にいらっしゃいませんか?」
うわぁ……うわぁ……。
自分の顔が露骨に引きつるのがわかっただろうに、おばさん二人は笑みを浮かべたままチラシを差し出してきた。
「『賢者の会』は覚醒修行を手伝う場だけでなく、覚醒者の支援もしているんです」
「今の不理解な社会に窮屈さを感じていませんか?ダンジョンの脅威から世の中を守る行いをしているのに、不当な搾取を受けていませんか?」
「すー……いません。僕ちょっとあの、宗教は興味ないので」
「別に入信を強要しているわけではないのです。ただ今の日本の現状について、不満を吐き出してはみませんか?」
「同じような悩みを持つ方はたくさんいます。その人達と交流してみるだけでも構わないのですよ」
圧が、圧が強い。
……こうなれば、仕方がない。
「僕はそういうの特にないので!ほんと、大丈夫ですから!あ、ちょっと急用あるんで!失礼します!」
出来るだけハッキリとそう言うなり、スマホをポケットにねじ込んで走り出す。
三十六計逃げるに如かず!昔の偉い人の言葉を信じて、ダッシュあるのみ!
幸いここはヒビだらけの道路に、畑や空き地だらけの田舎道。自分が少し本気で走っても咎める存在はいない。
後方でまだ何か言っているおばさん達を無視し、ダンジョンに向かって一直線に向かうのであった。
* * *
現代文明は偉大なり……。
道に迷いかけるもスマホの地図機能でどうにかこうにか、目的のダンジョンに到着する。予定より二十分ほどかかったが無事ストアに入り、ようやく一息をついた。
いやぁ、まさか自分がああいう勧誘を受ける日がこようとは。今度からもっとすぐに断れる様に、気を付けておかないと。
……靴、大丈夫かなこれ。普通のスニーカーなんだけど、自分の脚力的にちょっと不安である。
ぱっと見、大丈夫そうかな……?けど帰ったらちゃんと見て、駄目なら買い替えるかぁ。
酷い目にあったと思いながら、ロッカールームで着替えを済ませてゲートに向かう。ガラガラだったので待ち時間もなく、そのままダンジョンへ入れた。
出た先は、森の中。なんだかんだ、オーソドックスな『迷宮』よりも、こういう自然の中めいた場所に自分は行く事が多い。実際は、石造りの迷路みたいなところの方がおおいけど、レイラの異能や採取したい物的にこういう場所がいい。
「レイラ、雪音」
「はい!」
「ここに」
レイラと雪音を出しながら、自分も留め具を外してツヴァイヘンダーを構える。
このダンジョンは木々の隙間が結構あるので、普通に剣を振りまわせそうだ。それでいて雑草も少ない。代わりに、少しだけ土が湿っている感じがする。泥とまでは言わないけど、踏ん張るのは少し難しいかも。
「主様、探索の前ですが、一つ提案が」
「ん?」
レイラが周囲を警戒しながら、小声で話しかけてくる。
「帰宅したらすぐに、東郷様へ連絡をとった方がよろしいかと。この町の役場があの宗教団体と関りがあるのなら、主様がこのダンジョンに入った事が知られるはず」
「待ち伏せ……というより、ランクを知られたかもって事?」
「はい。このダンジョンは『C』。そこに入った主様は、『B』ランク以上であると知られてしまいます」
「そっかぁ……」
これまた、面倒な。
なんだかんだ海外よりも平均値が高いとされている日本の覚醒者だが、その大半が『Cランク』。『B以上』は一割未満とネットで噂になっていたのを思い出す。
もしもあの宗教団体が覚醒者を集めたがっているのなら、自分はまた勧誘される可能性があるのか。
それは、確かに東郷さんに相談した方がいいかもしれない。
「けど、覚醒修行を目指す団体がなんで覚醒者を欲しがるかね……」
「そこまでは何とも。戦力として見ているのか、あるいは覚醒者至上主義な考え方からか。それとも、性交をはじめとした覚醒の促しが目的か」
「性交!?」
思わず大声で返しながら、レイラをガン見する。
そ、ま、た、確かに噂では聞いた事があるし、魚山君も下手な修行よりは効率的とは言っていたけども!
「旦那さま~」
「ひゃい」
そっと兜の隙間。首筋に雪音の吐息がかけられる。
厚着に鎖帷子で背後から押し付けられる乳房の感触はよくわからない。なのに、妙に近づかれただけで寒気がした。
本能が告げている。今、雪音の瞳はかつてないほど冷たいと。
「ワタクシ、愛人や一晩限りの相手なら許しますけど……それでも嫉妬ぐらいはしますから、ね……?」
「はい!」
「もしも劣情を抱いたのでしたら、ワタクシが存分に受け止めますから……」
「はい!!!!」
「ひゃっ」
雪音がこちらの大声に小さく悲鳴をあげる。可愛い。
頭の中に昨日洗いっこした時の彼女の裸体が浮かぶ。雪の様に白く、最高級の陶磁器よりきめ細かい肌。華奢な肩や腰なのに、乳尻太ももだけ肉ののった、スケベな体。
そして薄ピンク色の先端をたたえた柔らかなあのオッパイの感触。
「よろしくお願いします!!!!」
もともと勧誘してきたのがおばさん二人という段階で、行きたくないしな『賢者の会』!
さっきのはレイラという美少女の口から『性交』という単語が出たから反応しちゃっただけである。
「もう、そんなにも求められたら照れてしまいます……♡」
すげぇ、ドンびくどころかハニカミながら寄り添ってくれる。
きちゃったよ……いいやむしろ来ているよ、俺の春。青じゃなくってピンク色の方の春真っ盛りだよ……!
「主様。私の体も使っていいので、あの宗教団体に関わるのは止めておいた方がいいかと」
「レイラ?」
彼女の言葉に振り返り、つい視線が改造軍服めいた服を押し上げる巨乳やミニスカートから覗く絶対領域を上下してしまう。
ごめん。真面目な話をしているのはわかっているんだ。けど本能には抗えないだけなんだ。
「あの宗教団体が主様の生存と健康にどう影響するのかが読めません。適度な距離をたもち、手を組む事も明確な敵対もしない立ち位置。軽い警戒の状態がいいかと」
「つまり、勧誘を断る役を東郷さんにしてもらうと?」
「はい。彼としても、黒い噂のある宗教団体に『手駒』をとられるのは面白くないはずです」
「手駒って……そんな人聞きの悪い。別に東郷さんはそういうの考えてないと思うけど」
彼は間違いなくいい人だ。何度もお世話になっているし、あまりそういう言い方は……。
こちらの言葉に、レイラはニッコリと笑みを返す。
「失礼しました。以後気を付けます」
「え、あ、うん。ありがとう?」
これ、さてはかなり東郷さんを警戒しているな?いつもの笑顔と明るい口調だが、流石にそれぐらいは察する。
まさか……。
「レイラ」
「はい」
「僕、男色の気はないから。安心して」
「はい、存じております」
嫉妬……!どう考えても嫉妬……!
かっー!困っちゃうわー。彼女たちからの嫉妬を一身に浴びちゃうとか、罪な男だわー!これが『モテる男』の辛い所かぁー!?
ふっー。しょうがない。ここはレイラと雪音の心配を払拭するムーブを示さなければ。モテる彼氏として、な!
変なおばさん達による勧誘で落ちていたテンションがV字回復する。よし、今日もゴーレムの素材集めと、ついでに金を稼ぐとしよう!
「まずは探索に集中しよう!なんか、『色々』は、家に帰った後でね!」
「はい、旦那様♡」
「……そうですね!頑張りましょう!」
はて。そこはかとなくレイラが『こいつわかってねーけど、結果的に良いならヨシ!』と言いたげな気がするが、それも嫉妬故だろう。
ふぅ……ちゃんと僕の心は、君達に向いているから安心だぞ☆
「主様、もう一つご忠告が」
「なにかな、レイラ」
「兜の下でしているだろう顔を、外では絶対にしないでください。不要な敵を作ります」
「なんで???」
視えてないだろうにそこまで言うの?え、兜越しでもそんな腹立つ顔しているの、僕。
困った様な笑顔で言うレイラに、上がったテンションを平常へと戻されながら探索を始めるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
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Q.京太朗どんな顔してたの。
A.モブフェイスでドヤ顔しながら『やれやれだぜ』ってしてました。老若男女問わず百人が百人拳を握る顔面ですね。
Q.ストアの町役場職員が個人情報をもらすの?
A.ストアに入っているコンビニとかは一般人も働いていますので、そこから『偶然』情報がもれる事もある感じですね。
Q.一発で京太朗の存在に気づく……まさか、このおばさん達も覚醒者!?
A.いいえ。単純にいくら影が薄かろうが人っ子一人いない場所に突っ立っていたから気づかれただけです。覚醒者と見抜かれたのは、そうでもないと若者がこの町に外から来ないからですね。
たぶん他に二、三人いれば京太朗は背景化して気づかれなかったと思います。




