第三十五話 賢者の会
第三十五話 賢者の会
サイド 大川 京太朗
「おっぱーい。おぱいおぱい。おぱおぱ」
「しょくーしゅ。触手触手触手ぅぅ……」
「筋肉。きん筋肉筋肉、きんにーくっく」
人気のない公園でそんな事をそれぞれ叫んだあと、全員真顔になる。
「おかしい。昨日テレビで『男子高校生は性癖だけで会話できる』と言っていたのに」
「異文化、だからじゃないかな」
「言語の壁は厚い……」
いつもの面子でうんうんと頷いたところで、ニコニコと笑っていたレイラが、そっと首を横に振った。
「主様、御友人方」
「なにかな、レイラ」
「恐れながら、発狂した様にしか見えませんでしたので今後は控えた方がよろしいかと」
「やっぱり~?」
そんな気はしていた。
学校からほど近い所にある、例の公園。久々に友人二人とレイラで打ち込み練習をした後の休憩時間である。
「そういや、そっちはどうなの。最近」
「なんだその普段会話しない父親みたいな話の振り」
「お父さんと洗濯物一緒にしないでって言ったでしょ!」
「言われてねぇし誰がお父さんだ」
渾身の裏声で叫ぶ魚山君に、軽く肩をすくめる。
「君らが僕とパーティー解散するって言って、二人だけで活動しだしたんじゃん。そのうちまた組むかもなんでしょ。そりゃ聞くよ」
「そうさなぁ。とりあえず。俺と魚山の使い魔達でごり押し戦法って感じでダンジョン潜ってんな」
「基本的に『Dランク』ダンジョンを回っているね」
なるほど。シーモンク二体に熊井君が前衛で相手をひたすら殴ると。それまた脳筋な。
けど『青魔法』は確か治癒系の呪文も使えたはずだから、斥候がいない以外わりとなんとかなるらしい。モンスターからの不意打ちも、ランク差で叩き潰せるだろうし。
「そういう京太朗はどうよ」
「こっちも基本『D』かなぁ。偶に『C』行くけど。雪音も加わったから、結構安定はしているかな」
「ほーん」
「あ、雪音と言えば、熊井君は使い魔見つかったの?」
そう尋ねると、彼は渋い顔で腕を組んだ。
「それがなぁ……中々『これだ』って思える相手が見つからん。いっそ、普通に人間の交際相手を探した方がいいかもしれん」
「君の性癖の場合それがいいだろう。僕や京太朗とは違い、普通の人間でも適用される」
「待った。僕は普通の性癖だが?」
「え?……特殊ナルシスト人外スキーじゃないの?」
「さてはお前だな母さんたちに変な事吹き込んだの」
魚山君の顔面にアイアンクロウを叩き込む。
「ちょ、ギブギブ」
「最近雪音が母さんと仲いいからどうにかなっているとはいえ、視線が微妙に痛いんだからなこの野郎」
「今僕は物理的に痛い」
「痛くしてんだよ」
まったく。手を離してやれば、魚山君が小さくうめきながら眼鏡の位置を直す。
「そう言えば、その雪音さん?ってのは普段どうしてんだ?魚山は使い魔を霊体にして体内に入れているらしいけど」
「ダンジョンに行く時はそうしているけど、普段は家に居てもらっているよ」
当初はダンジョンの氾濫に自分が巻き込まれた時の対策として使い魔になってもらったが、よく考えたら突然近所にダンジョンが出来て、それが気づかぬ間に溢れる可能性もあるのだ。
いざという時、母さんを守ってくれる人がいてくれた方が安心できる。父さんはストアの方にいるから、たぶん家よりも安全だろうし。
雪音も母さんの家事を手伝ってくれているらしく、いつの間にか仲良くなっていたのは驚いた。
なお、あまり関係ないが今日は土曜日なのに父さんは仕事だ。なんか、今後はカレンダー通りじゃなく時間帯も含めてシフト制で行かないといけないとか。やっぱストアも大変らしい。
未だできて一年と少しの冒険者制度。その周りの機関もまた、形態その他が手探りなそうな。
「ま、俺も理想の相手を見つけられる様、またダンジョン回りするかねぇ」
「僕も触手ハーレムの為に同行しよう。思わぬ出会いがあるかもしれない」
「おーう、頑張れー」
そんな感じで、二人と別れ家に帰る。僕はもう午後だし、今日は冒険者業を休むつもりだ。明日あたり、またゴーレムの素材集めに向かうつもりである。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、旦那様」
パタパタとスリッパの音をさせ、笑顔で迎えてくれる雪音。
今日は紺色のTシャツにジーンズ姿で、その上からエプロンをつけている。長い髪をローポニーテールに結んでいて、どこかしっとりとした雰囲気もあった。
なんか、こう……新妻的な感じで、いい。
「お疲れ様でした。外は蒸し暑かったでしょう。冷たい麦茶を用意しておきますので、手洗いうがいの後、リビングへどうぞ」
「ありがとう、雪音」
六月も半ばを過ぎ、地球温暖化もあってか気温は少しだけ高くなってきた。まあ、それ以上に湿度が凄いのだが。
いかに覚醒者の体が頑丈とは言え、それはそれ。蒸し暑い空気というのは、やはり不快である。
洗面所で手洗いうがいを済ませてからリビングへ。ちょうどそのタイミングで、雪音がお盆にのせた麦茶を持って来てくれた。
「ありがとう、頂きます」
「はい。あ、そうそう。お義母様は牛乳を買い忘れたからと、買い物に。すぐに帰ってくるそうですが」
「あ、そうなの」
麦茶をぐびぐびと飲みながら、少し考える。
いかに最近物騒とは言え、買い物にまで自分や雪音がついていくのも気が引ける。というか、たぶんお互いに面倒臭い。
けど心配がないと言えば嘘になる。
「ご馳走様」
「洗いますので、コップを受け取りますね」
「え、いいよ自分で洗うって」
「いえいえ。どうぞ旦那様はお部屋でお寛ぎになっていてください」
そっと、雪音がこちらの耳元へと口を寄せる。
必然的に、彼女の爆乳がむにりと腕に押し付けられた。エプロンとシャツ、そしてブラジャー越しにでも感じる、重量感と柔らかさ。
僅かに冷気を帯びたその声が、耳を撫でる。
「後で、一緒にお風呂にでも入り、労ってくだされば十分です」
「はい!!」
元気よく返事したこちらにクスクスと笑いながら、雪音がコップを受け取りキッチンへと向かっていく。ついつい、視線はジーンズに包まれた臀部へ。
ジーンズはこういうお尻や太もものラインが最高だと常々思う。
軽い足取りで部屋に戻ると、レイラがゆっくりと傍に実体化した。
「主様。私は先に異界へ入り、作業をしていても宜しいでしょうか?ゴーレムの作成を進めようかと」
「あ、うん。お願い」
「はい。いつもの作業部屋におりますので、ご用があれば何なりとお申し付けください」
そう言って優雅な一礼と共に異界へと入っていくレイラ。
ゴーレムかぁ……どうせだから普段から連れまわせるようにと彼女は言っていたけど、どんな感じになるんだろうか。
一度聞いたらはぐらかされてしまったし、気になる。が、無理に暴くほどでもない。煩悩が漏れない様に、変に口出しするのは避けないと。
宿題はもう済ませてあるし、少し暇だ。スマホを取り出し、適当に弄る。
……両親の身の安全とか考えたら、やっぱ二人にも覚醒者になってもらうのが一番なんだろうか。けど覚醒修行って大変だし、年単位で必要らしいから普段の生活考えると難しいし。
なんとなしに『覚醒者になるには』と検索すれば、色々なお寺や神社。はては怪しいサークルまで表示される。その中には、魔力を帯びた食べ物の販売についても書かれていた。
自分の出す『白銀の林檎』なら、修行とか無しでも覚醒できるのだろうか。
そんな思考が浮かぶが、すぐに振り払う。
レイラの杖を始め、色々な物に加工し使っているが、やはりアレは未知の植物。おいそれと摂取させるのは恐い。『使う』のと『食べる』では、安全性に天と地ほどの差があるものだ。
やはり、いい加減動物実験でもすべきなのだろうか。その辺のハクビシンとかイタチとか捕まえて。
けどなぁ、それで動物が覚醒したとか、モンスター化したとかになったら危ないしなぁ。
ついでに、『白銀の林檎』の力を両親に伝えるのも少し躊躇う。秘密とは、それを知る者が増えるごとに漏れるリスクが跳ね上がるとよくドラマとかで言われているものだ。
二人を信用していないわけではないが、例えば僕にとってはどうでもいいけど、両親にとっては放っておけない相手。学生時代からの友達とかが大怪我をした時、あの林檎を頼ろうと思うかもしれない。
それが悪い事とは思わないけど、そうして秘密を知る者が増えていくのは、なぁ。
「はぁ……」
小さくため息をつく。中々踏ん切りがつかない。レイラや雪音とも、また後で相談してみるか。
せっかくウキウキ気分だったのに、ネガティブな方向へ思考がいってしまう。ゲームでもして切り替えよ。
そう思ってスマホの画面をスライドしようとした時、検索したページでもトップに出てくる見出しが目に留まる。
「『安全安心な覚醒修行、お手伝いします』?」
そういう宣伝文句を掲げる怪しいサイトは多いけど、それを言っている組織の名前に覚えがあった。
『賢者の会』
前に、東郷さんが『黒い噂のある所』と言っていたやつだ。
「こわぁ……」
ちらっとサイトを見たら、山奥にかなりでかい建物……ついでに、その周りに集落めいた物まで建設予定だとかなんとか。怪しさが凄い。
火のない所に煙は立たぬ、なんて言うけど。やっぱ東郷さんの言う通りっぽいな。関わらんとこ。
* * *
夜、雪音とレイラの三人で洗いっこして身も心も軽やかな気分で夕食の時間を迎えていたのだが、母さんの様子が少しおかしい事に父さんが気づいた。
「どうした?なにか悩んでいるようだけど」
「それが午後買い物に行ったんだけどね?近所の田村さんが夫婦で変な宗教にはまり出したって聞いて」
「そうか……あそこの旦那さんとは同級生だったんだが、宗教に嵌るタイプには思えなかったんだがなぁ」
宗教、ねぇ……。
その会話を聞きながら、唐揚げを頬張る。
「『賢者の会』なんですって。覚醒修行がどうとか言っていたけど、どういうのなのかしらねぇ。そもそも何をする所なのか」
「覚醒修行かぁ……そう言えば、うちのストアでも偶にそこの信者って人が冒険者として来るなぁ」
唐揚げが口に残っているうちにご飯を掻きこみながら、ネットで見た宣伝を思い出す。
ネット上だとあんまり黒い噂は出ていなかったけど、前に東郷さんがあの団体の周囲を警察が探っているけど証拠は見つかっていないとか言っていた。彼の話だと、もしかしたら異能で何か『やらかして』いるのかもしれないとも。
そこで、クイズ番組を映していたテレビがCMに入る。
『秩序、安定、平和。今の日本でそれを実現できるのは、覚醒者だけなのです』
……噂をすれば。
『誰もが覚醒者になれる可能性を持っています。新しい社会。新しい世界に、一歩踏み出すお手伝いをさせてください』
テレビで、スーツを着たエルフの女性がそんな事を言っている。
『我らの家は常に開かれています。どうぞ、覚醒を望む方はいつでもお越しください』
でかでかと表示される、『賢者の会』の文字。
「……うさんくさぁ」
有川大臣に匹敵する胡散臭さとしか思えなかった。これに引っかかる人いんの?
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.なんで京太朗は両親に『白銀の林檎』を食べさせないの?
A.突然自分の手から出せるようになった林檎ですので、第一印象の「これ大丈夫なやつ?」という疑惑が残っているせいですね。それでも機会があれば、とも迷っているようですが。
Q.そういえば使い魔が体内にってどういう事?
A.使い魔と契約者は魔力の繫がりをもっており、人間は肉体という器で魔力の塊である魂を保護しています。
その保護している区画の近くに、霊体になった使い魔を押し込める感じですね。その間使い魔は半分眠っている状態に近く、ぼんやりとしか思考できません。
Q.使い魔を家に置きっぱってできるの?
A.個人差や適性により変わりますが、魔力を多めに供給すれば数キロ圏内で可能ですね。




