第二十九話 剣の使い道
第二十九話 剣の使い道
サイド 大川 京太朗
東郷さんがウルトラCを決めてくれた体育祭は置いておいて、冒険者としての活動について考えるとしよう。
「やはり、私が使うのは効率的ではありませんね」
「ワタクシも剣の扱いは少々……」
「だよねー……」
人工異界の一室。机に置いてある一振りの剣を囲んで、自分、レイラ、雪音で首を捻る。どうしたものか。
この剣こそ、『クレタのダンジョン』にて手に入れた『スパルトイの剣』である。
スパルトイのランクは『B』。そのドロップ品となれば、二百万はかたい。売り方次第では三百いくかもしれない程の品だ。
正直心が揺れる。なんなら最初はとっとと売ってしまおうとさえ思っていた。
だが、そこでこうも思ってしまったのだ。
『これ、今後欲しいと思った時買い戻せる物だろうか』
と。だってこれ、『Bランク』ぞ?
売れば二百万以上だが、そもそも買おうと思っても普通の市場には出てこないだろう。国か、どこかの大企業ぐらいしかそもそも市場に立てない。少なくとも、一介の冒険者が購入できる可能性は極めて低いと思う。
将来、これが必要になった時後悔するんじゃないか?そんな風に悩んでしまう。
あれだ。一番近いのがゲームでレアアイテムを売るかどうかって時。あんな感じ。
でも、ただ置物として飾っているのはもったいない。それで何か活用方はないかと考えたものの……。
「僕が予備武器として使うにも、両手剣二本も持ち歩いたら邪魔だしなぁ……」
「かといって私も雪音さんも前に出る事はあまりありませんし」
「強いて言うなら、レイラ様の魔法が効かない相手に護身用として持って行くぐらいでしょうか?」
「問題は、そもそもそこまで強い相手ってのが普通いないからなぁ。そのランクにはいかないし、前みたいに巻き込まれた場合まで想定するのは……」
ぶっちゃけ、使う場面なくね?
「やっぱ売った方がいいかぁ」
「……いえ。ここは戦力の増強に使うべきかと」
「え?」
レイラの言葉に疑問符を浮かべる。
「我々では扱いきれないのなら、使いこなせる者を用意しましょう」
「えっと……他にパーティーメンバーを誘って、その人に預けるって事?」
「少し違いますね。『ゴーレム』を作ろうと考えております」
「ゴーレムって……え、マジで?」
こちらの言葉に、レイラが笑みを深めた。
「はい!ゴーレムなら万が一にも裏切る可能性はなく、なおかつ危険な状況では盾として扱えます」
「なるほど……」
言われてみれば。
正直、もう一人ぐらい前衛で戦える奴が欲しかったのもある。いい案かもしれない。
「レイラって、ゴーレムも作れたんだ……」
「はい。『魔道具作成』にはゴーレムも含まれますから」
「流石ですレイラ様!」
むんと胸を張るレイラ。柔らかそうな胸が揺れる。
なお、レイラは緑色のTシャツに紺のハーフパンツ。雪音は黒のキャミソールに青のミニスカートといつもよりラフな格好である。髪型もレイラがサイドテール、雪音はハーフアップと、雰囲気も違った。
両者とも異界の中だからか隙が多いというか、露出が強めである。むき出しの白い手足や、存在を強く主張する胸元。というか二人とも乳がでけぇから谷間がっ!
端的に言おう。ムラムラします。
「ただ、性能も考えるなら材料にも拘りたいですね。コアは『白銀の林檎』から作るとして、基礎フレームからダンジョン産の素材を使いたく思います」
「なら、そういうのが手に入りそうなダンジョンを今後行った方がいいか」
「ですね」
ちなみにだが、雪音も僕の固有異能について知っている。流石に、彼女にまで隠すのは無理だった。
なのでこの異界の一室は『白銀の林檎』の栽培及び加工場にもなっている。ついでに異界内の空気循環とか冷暖房もアレでレイラが作った魔道具でまかなっていたりしていた。
あの林檎が凄いのか、レイラが凄いのか。たぶん両方だろう。
「では、明日から頑張りましょうね、旦那様!」
そう言って雪音が胸にしなだれかかって来た。脇腹に彼女の爆乳が押し当てられ、形を変える。
むっちりとした柔らかさを伝えてくる感触に、自分の鼻の下が伸びるのがわかった。この冷たくも心地良いのが癖になる。
今は金曜の夜。つまり……。
「きゃっ」
左手を彼女のスカートの下に潜り込ませ、ショーツごしに尻肉を鷲掴みにする。
胸同様ひんやりとしながら、しかしそれ以上に弾力のある巨尻を楽しんだ。
「もう、旦那様ったら……」
「だ、駄目かな?」
「旦那様が望むのでしたら、今からでも……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら更に体を預けてくる雪音に、テンションが跳ね上がる。
これはいけるかもしれないと、そっとレイラにも視線を向けた。
「きょ、今日は三人で、その……」
「かしこまりました。奥の部屋に布団を敷いてありますので、そちらで」
レイラがいつも通りの笑みを浮かべて右側からゆっくりと抱き着いてくる。
おっほ!また違った巨乳の感触に、自分でもキモイぐらい鼻息が荒くなった。
母さん……父さん……産んでくれて、ありがとう……!
* * *
翌日、土曜日。駅を二つまたいだダンジョンへ。
『巨木のダンジョン』
木々が生い茂り、それぞれの高さが十数メートルはある。
前に行った『森林のダンジョン』に似ているが、違うのは木々の大きさだけではない。
『Cランクダンジョン』
自分でも初となるランクだ。正直緊張する。
ランク故か人も少ないストアを抜けて入って来たこのダンジョン。自分が先頭にたち、雪音、レイラと続く。
木と木の距離があるので、ツヴァイヘンダーを振るう分には問題ない。柄を順手に持ち進む。
「では、やります」
「お願い」
レイラがステッキ型の杖を地面にあて、魔力を流す。やっている事は『マンドレイク』を探した時と同じ。だが、今回は別の物を探していた。
「……あちらです」
「よし、行こう。
そうして進む事三分ほど。立ち止まり、レイラが一本の木を指し示す。
それは普通の木にしか見えないが、レイラが言うのだから間違いない。
「雪音、あの木に」
「はい、お任せください」
ばさりと、雪音が両手の扇子を広げる。
光を反射して輝く銀色のそれは一瞬鉄扇と見まごうが、純木製だ。正確には、塗料も含めて『白銀の林檎』で出来ている。要はレイラのステッキと同じだ。
「『氷牙』!」
雪音が右の扇子を振るえば、腕ほどもある氷柱が五本出現。それらが高速でレイラが指さした木に向かっていく。
彼我の距離は三十メートルほど。瞬く間に着弾し、そこを起点として氷が木を覆っていく。
『ギィ――――ッ!?』
硬い物がこすれ合う様な不快な音をだして、その木が大きく幹をくねらせた。
太い枝をブンブンと振り回し悶える怪物じみた木。先端がこちらに向けられると、ヤツメウナギの様な口から唾液が撒き散らされた。
しかしそれらも届かない。巨大な鞭の様な枝も、強酸の唾液も射程距離外だ。
『トレント』
木に擬態した……というか、木の化け物である。
なんせこのモンスター、ドロップ品が木材なので。一見木に見えてモンスターで、しかし実際木という。わりとわけのわからない存在だ。
「念のためもう一度。『氷牙』」
再度放たれた氷柱が止めとなったようで、トレントは完全に凍り付き自重で崩れ落ちた。
魔力の粒子となって消えた後には、奴が埋まっていた分ぽっかりと空いた穴だけが残る。
ドロップ品はなし。まあそんなもんか。
「いかがでしょう旦那様!ワタクシの妖術は!」
「凄かったし綺麗だったよ」
着物の袖で口元を軽く隠しながら、妖艶に笑う雪音。うーん、美人さん。
「どうか『とれんと』という魔物はお任せください。ワタクシが全て凍り付かせてみせましょう」
「ああ、頼りにしてる」
「はい!」
さて、トレントは雪音が相手してくれるわけだし、自分とレイラは『他』を叩き潰そう。
どすどすと大きな足音が響いて来た。何もかもがでかいこのダンジョンで、それでも地響きで木々が揺れて葉が舞い落ちる。
巨木の隙間から、一体の巨人が顔を覗かせた。
深緑色の肌に黄色い目玉。ぼさぼさとした長い髪に口ひげ、手足は獣の様な体毛で覆われている。手にはその巨体に見合う棍棒を引きずり、こちらを見るなり咆哮を浴びせてきた。
『トロール』
身の丈三メートルは越える巨人は棍棒を振り上げて、自分達に向かって真っすぐと突っ込んでくる。
その姿に、一瞬だけミノタウロスがダブって見えた。
だが、違う。これはあそこまで規格外の存在ではない。
「レイラ!」
「『エンチェント:フレイム』!」
彼女がタクトを一振りすれば、ツヴァイヘンダーの刀身が炎に包まれる。
迫る巨人に対し、こちらも正面から突貫。歩幅は違えど、それでは埋められない速度差でもって懐に飛び込んだ。
勢いそのまま、トロールの右膝を思いっきり斬りつける。分厚い皮膚も肉も断ち切り、骨さえも叩き割った。
『ガア゛ア゛ア゛ア゛!?』
野太い悲鳴をあげて倒れてくるトロールの体を避け、奴の右側から回り込む様にその背に飛び乗る。
一本一本が指ほどもある毛を焼き切り、背後から一刀のもとに首を斬り落とした。
トロールは怪力もさることながら、その頑強さと異様な再生能力が特に恐ろしいとされる。
だが明確な弱点として、鈍い動きと『焼かれた傷は再生しない』というのがある。
首を斬り落とされれば流石に死ぬが、片足がもげた程度では数分でくっつけてくるらしい。
「おお、お見事です、旦那様!レイラ様!」
「いやぁ」
兜ごしに後頭部を掻きながら照れる。美人に褒められるのはやはりいい。
と、このモンスターもドロップは無しか。残念。
トレントは『木材』を、トロールは『大きな頭蓋骨』を落とす。後者は大した値がつかないが、それでも何もないよりはいい。
またレイラに『自然魔法』で地中の魔力を探ってもらう。トレントは地面に根を張っている事もあり、彼女の魔法で場所を探れるのが便利だ。
やはり森とかだとレイラの魔法は本当に頼りになる。
「っ!」
そうして歩いていると、魔眼に反応があった。
「伏せろ!」
「はい!」
「ひゃぁ!?」
素早く雪音とレイラがしゃがみ、自分は剣を横薙ぎに振るう。先ほどまで雪音の頭があった位置で、硬質な音が響いた。
片方は自分の剣。それにぶつかってきたのは、一本の針だった。
だがこの森は本当に何でもかんでもでかい。子供の腕ほどの太さをしたそれが、地面に突き刺さる。
「援護、任せた!」
「お任せを!」
剣を手に、攻撃の主へと駆けた。
無音で近づき、木々の隙間から猛毒の針を飛ばすモンスター。前情報通りなら、このダンジョンではたった一種。
『魔力開放』
「で、やぁ!」
奴がいるだろう木に切りかかり、その幹を叩き割る。
両断というにはあまりにもバラバラな切り口をさらして木が倒れて他の木に縁りかかるが、そこにモンスターの姿はない。
その状況を視認するのと、ほぼ同時。魔眼が発動した。
「おっと」
咄嗟に体を後ろにそらせば、目の前を爪が通り過ぎていった。カウンターでこちらも剣を振るうが、身軽な動きで逃げられてしまう。
数メートル先でこちらを睨む、一体の獅子。百獣の王を彷彿させるその怪物は、野生にいるのと異なる点は四つ。
一つは、その大きさ。頭の位置が自分と同じであり、尻尾をぬいても全長は四メートルほどもある。
二つ目は、鬣。通常茶色に近いそれは、真っ赤に染められていた。血を彷彿とさせるそれが、森の中ではよく目立つ。
三つ目は、顔。ネコ科の縦長をした瞳孔に鼻と口元。しかし、その目の形や耳は人間のそれに酷似しており、異様な不気味さを伝えてくる。
最後、四つ目。尻尾。
一番近いのはサソリだろうか。節のある外骨格に包まれたそれは、あまりにも大きい。成人男性でも抱き着けば腕がギリギリ一周するぐらいか。
先端には数本の針が生えており、今まさに新たな物が奥から押し出される様に装填された。あれが先ほど放たれたのだ。
『マンティコア』
『ガルルル……!』
低い唸り声をあげたかと思えば、マンティコアが駆ける。
三角跳びめいた動きで木々を蹴りつけ、三次元の軌道でこちらへと飛びかかって来た。速い。少なくとも単純なスピードではあちらが上か。
空中で体を横回転させ、尻尾を振り回してくる。ずらりと並んだ針は、毒以前に人を殺めるには十分すぎる脅威である。
だが、この身ならば。
しゃがむ様にして回避しながら、剣を上に振るう。魔眼持ち特有の動体視力でもって正確に外骨格の隙間をとらえ、刀身を滑り込ませた。
両者の力が加わり、自分の拙い剣技でも切断は容易い。毒針を揃えた先端が、遠くの木々に丸ごと飛んでいった。
『ギャアアアア――ッ!?』
どこか人間に似た悲鳴に眉をひそめながら、バランスを崩して地面に落下したマンティコアの首目掛けて剣を振りおろす。
避けようとするが、あいにくと自分は一人ではない。
「『大地よ』」
逃げ先にせり上がった土壁で一瞬マンティコアの動きが止められた隙に、鬣もろとも首を叩き落とす。
断末魔の叫びを上げる間もなく、絶命。だが油断せずその死体から一歩分距離をとり、粒子となって消えるまで警戒を続けた。
消滅を見送ってから、周囲を軽く見回しながらようやく一息つく。
「ご無事ですか、旦那様!」
「うん、大丈夫。レイラと雪音は?」
「問題ありません」
「ワタクシもです」
被害なしで何より。一応ランク差もあり大丈夫なはずだが、それでもあまり気を抜いてはいられないダンジョンだ。
思ったより緊張するが、思ったより戦える。
講習で習った通り、気をつめ過ぎず、抜き過ぎず。平常心でもって探索をする……いや、やっぱムズイな。
剣の柄を握りなおし、深呼吸。あー、心臓バクバク言ってるわ。
「じゃあ、探索を続けよう」
「はい!初陣ですが、お役に立ってみせます」
「ですが安全第一で行きましょう。死んでは元も子もないですから」
「だね」
* * *
この日、午前午後合わせて四時間。ドロップは『トレントの木材』が二つに『トロールの頭蓋骨』が一つ。骨の方は売って、討伐報酬も合わせれば221,650円となった。
いやぁ、やっぱなんだかんだ『Cランク』は儲かる。何より二メートル近い木材が二つ手に入ったのも大きい。
特に重さは変わらないアイテム袋を懐にしまい、帰路につく。
自分の内側に戻った雪音とレイラと、帰ったらどういうゴーレムを作ろうか相談しよう。
軽い足取りでバス停に向かいながら、今日も探索を終えるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
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Q.主人公猿かよぉ!
A.作者の独断と偏見によりエッチOKな美少女二人を侍らせたら普通の男子高校生はこうなると考えて書きました。不快に思う方はすみません。
Q.守護精霊と一緒にとか雪女的にどうなの?
A.雪音
「正直驚きますが、レイラ様も旦那様ですから。それに、これなら浮気の心配も少ないと安心すらします」
千冬
「わかる。主人にどんな性癖があろうが裏切らないなら尽くすのが雪女道」




