第二十八話 日常
第二十八話 日常
サイド 大川 京太朗
なんか海外も大変な事になっているが、時計の針は止まらないし高校の行事も存在が消える事はない。
ぶっちゃけて言おう。体育祭である。
誰か助けて………。
生まれてこのかた『体育』と名のついたもので楽しいと思ったのは、レイラと雪音を交えた『夜の保健体育』ぐらい。
これは持論だが、小学校の体育の授業というのは運動の得意な奴がヒーローになる為のイベントであり、中学以降はそういうヒーローを持て囃す場となる。
今の肉体なら世界記録だろうと塗り替えられるだろうが、それはそれ。ここで覚醒者カミングアウトは『死』を意味する。
先にも言った通り、中学以降の体育関連はヒーローの見せ場。そこにポット出のモブ顔が主役面で活躍してみろ。総スカンは必至である。
だから自分は端っこで群衆Bとして『わーわー』と言っていればいいのだ。
いいのだ、が。
「えー、安全面を配慮して覚醒者は体育祭では特別枠に参加という事になりました」
朝の全校集会。そこで告げられた校長の話に、白目を剥いた。
だってこの特別枠。要は非覚醒者を怪我させない為に覚醒者のみで他に競技してねって事である。
神代回帰からもうすぐ二年と二カ月。世界中で覚醒者のスポーツ参加に疑問視されてきた中、ついに高校にも波がきてしまった。
何が問題だって?強制カミングアウトな所だよ!!
やべーよ、やべーよ……これ、覚醒者だけの徒競走とかに出たら当然誰が見ても僕が覚醒者ってバレるじゃん。
ざわざわと騒がしくなる体育館。それを抑えようと注意してまわる教師達。それらを傍目に、冷や汗をだらだらと流すのだった。
このままでは学校生活が終わる。友人二名を見れば、彼らも同じように冷や汗をかいていた。
三人で一瞬だけアイコンタクト。
どうしようね、これ……。
** *
「えー、朝の全校集会でもあったように、覚醒者は別枠で体育祭に出る事に決まった」
朝のは集会で潰れたので、帰りのホームルーム。その際に担任がそんな事を告げてきた。
当然の様に生徒達から不満の声が出てくる。
「せんせー。けどこれまで相原君がいるのを前提にリレーの練習してたんですけどー」
「そうですよ突然すぎます。そもそも誰がどの競技に出るとか決まっちゃってますしー」
「というかそれって差別じゃないっすか?学校が生徒を差別するんすか?」
クラスメイト達にとって、『覚醒者=相原君』なのが現状だ。
女性問題で停学処分に『なるはずだった』相原君であるが、どうも未だクラスの人気者であり続けているらしい。
なお、『なるはずだった』というのは、実際には停学にならなかったからである。なんか彼の親御さんが学校側に裁判も視野にいれて抗議した結果だとかなんとか。まあ知らんけど。
なんで未だ人気かって言われたら……顔面・コミュ力・元々の人脈。あとは噂だけど隣のクラスで起きていた虐めを止めたから人徳もどうとか。半信半疑だけど。
何より、身近にいる『覚醒者で冒険者』というのはやはり高校生にとってでかいらしい。
閑話休題。
非難の声をあげ、中にはスマホのカメラを向けようとしてくる生徒達に、担任が慌てた様に説明していく。
「お前達も、この前の愛知県であった事故を知っているだろう。五百メートル走の」
そういやそんなニュースあったなと、内容を思い出す。
たしかうちの高校よりも早い時期に体育祭をやる学校で、それに覚醒者な事を隠して参加していた生徒がいたそうな。
そいつが調子にのって全力疾走した結果大勝――とはならず、コーナーで盛大にずっこけた。
だが、覚醒者は異能なしでも時速100キロ近くのスピードで走れるわけで。
結論を言えば、自分のクラスの応援席に勢い余って突っ込んだ。その結果三人の生徒が骨を折るなどの重傷。軽傷者は十人にものぼるとか。
そんな事もあって、『やはり覚醒者が非覚醒者と一緒に競技するのは危なくない?』となったわけだ。
ちなみに、世界大会とかは一年ぐらい前の段階で『覚醒者の選手は参加をお考え下さい』と、消極的ながら参加を控える様に言われていたりする。
「あのような事故を起こさない為にも、せめて今年一年は様子を見る必要があるんだ」
道理である。
ぶっちゃけ、言い方は悪いけど高校の体育祭『ごとき』で死人が出かねないとか、馬鹿馬鹿しい。誰にとってもメリットとデメリットが釣り合っていない。そんな事で被害者も加害者も人生台無しになってたまるか。
が、それはそれとして生徒達から散発的ながら不平の声があがる。
ははーん、この後の流れ察したわ。
「まあまあ、皆落ち着いてくれ」
立ち上がり、教室を宥める相原君。ピタリと生徒達の口が閉じられた。
当然僕もお口にチャック。いや元々喋っていないけど、この茶番を邪魔したら社会的に終わりである。
「先生たちの立場も考えてあげよう。それに、俺だって万が一にも皆に怪我はさせたくないしさ。差別とかそういうのは言わないで、今やるべき事やろうぜ」
キリッと白い歯を見せて笑う相原君。わー、いけめーん。
クソがっ。
「相原君がそう言うなら」
「そうだねー。相原君の言う通りだよ」
「ならしょうがないかー」
これまた、散発的に彼を肯定する声。
それらに頷いて返し、相原君は担任に笑みを浮かべる。
「じゃあ先生、後の話をどうぞ」
「……あ、ああ」
露骨に機嫌が悪そうな担任。無理もない。ようは停学にされかけた相原君の地位の補強と、教師に対する当てつけであるのだから。
教師の不利的状況を相原君がとりなす事で解決した。この構図が大事なのだろう。
高校のクラスでそんなアホなって?学校って狭い社会は、恐い所なんやなとしか言いようがない。
「あー、今日はまだ突然の事だから、競技の参加については明日の体育の授業で行う事になっている。それでは、日直」
「はい。きりーつ」
やる気のない日直の声に従い、本日は終了。
だが、自分達に時間的猶予はない。終了どころか今からが本番だ。
覚醒者とバレない範囲の早足で教室を後にし、それぞれ準備にとりかかった。
* * *
「本当にこれは必要なんですか……?」
「ああ!」
困った様な笑みを浮かべるレイラと共に、例の公園に揃ういつもの面子。
なお、雪音は家で母さんの手伝いをしている。いつの間に仲良くなったんだあの二人。
「では、これより『オペレーション仮病』の会議を行う」
「「応ッ」」
熊井君の言葉に、魚山君と頷く。
「……で、どうしよっか」
「はい!僕が二人をぶん殴って骨を折るから熊井君は僕の骨を折って!」
「正気か?」
「馬鹿かな?」
「ですよねー」
ぱっと浮かんだが、当然の様にそっこうで却下された。知ってた。
「で、真面目にどうやって体育祭を休むよ?」
「そもそも競技の決め直しだって問題だ。それに参加する段階でクラスメイトに僕たちが覚醒者だと知られる」
「いっそ、体育祭自体をなくすしか……」
「あの~」
三人揃って頭を抱えていると、レイラが手をあげた。
「普通に、非覚醒者と偽ってしまえば良いのでは?それだけで解決するかと」
「それは駄目だ、レイラ。嘘はつけない」
「何故でしょうか?道理の問題ですか?」
「いや。単純に高校三年間、覚醒者である事を隠し通せるとは思っていないから」
自分達は度々ダンジョンに行っているのだ。高校の周りは極力選んでいないが、それでもいつかはバレるだろう。
もしかしたら隠し通せるかもしれないが、最悪は考えておいた方がいい。
「そして、もしもバレた時。『えーあの時嘘ついて私ら危険にさらしたんだー。さいてーい』とボロカスに言われるのが怖い」
「村八分不可避だ……」
「高校でまで虐められるのは嫌だ……」
攻撃される材料を増やすわけにはいかない。大義名分の有無。虐めの残虐さにも、そういうのは関わってくるのだ。
まあ、世の中クソみたいな理由でやらかす奴の方が多いけど。
「ええ……では、いっそグラウンドを破壊してしまうのは?」
「それだ!」
「「いやいやいや」」
何目から鱗みたいな顔してんだ魚山君。
熊井君と二人して全力で首を横に振ると、魔法使い二名が不思議そうな顔を向けてきた。いやこっちがしたいわその顔。
「バレなきゃよくない?」
「よくないよ?倫理観と法律ってご存じ?」
「いや、だからバレなきゃ良いじゃん」
「よくねぇよ!?」
本当に大丈夫か魚山君!?君がそんな事を言うなんて……。
いや、割と中一の頃からこんなんだった気がする。なんだ、いつも通りか。いやそれはそれでどうよ。
「主様!」
「レイラ。君もね、冗談は――」
「とりあえずグラウンドに直径十メートルの穴をあければいいでしょうか?」
「良くないよ?」
冗談じゃなかったかー。そっかー。
「あのね?グランドは皆の物だからね?たくさんのお金と労力で作られて、維持されている物だからね?おいそれと壊すのは駄目だよ?」
「バレなければセーフではないのですか……?」
「倫理観って人間社会で生きていくのに大切だと思うの」
「ならしょうがないですね!」
納得してくれたらしい。よかった。
冷や汗どばって出たわ。そろそろ僕のシャツやばいぞ?主に汗の臭いで。
「今日中にどうにか対策を考えねぇと」
「だね。残念だが時間がない」
「そうだ。いっそ脅迫文を魔法で校舎に刻めば中止になるんじゃ?」
「それでは防犯カメラに映る可能性があります。ここは校長に金銭を使った交渉をするのがよいかと」
「お前ら二人はちょっと黙ってろ」
「今真面目な話しているから。お口にチャックなマジで」
……ちょっとだけ『ありかも』と思ったのは内緒だぞ!
* * *
結局、その日は上手い策は浮かばず……残念ながらレイラが最初に提案した『このまま非覚醒者のふりをする』というものに。
とんでもない爆弾を抱える事になるが、やむを得ない。こうなったらどうにかして隠し通すのみ。
……いっそ、貯金ペースは減るかもだがダンジョンに行く回数を減らしてバレるリスクを減らすか?
「ん?」
夜、自室で手つかずの宿題を前に考え事をしていたら、スマホに着信があった。
「東郷さん?」
表示された名前に疑問符を浮かべながら、とりあえず電話に出る。
「はい、大川ですけど」
『やあ、夜分遅くにすまないね。東郷だ』
「いえ、特に何かしているわけでもなかったので別に……」
強いて言うならストレス発散でレイラに『保健体育』に誘われたけど断ったので、宿題以外は暇である。
いや、その宿題があるから断ったんだけども。それはそれこれはこれ。
『そうかい?実はこの前相談のあった不審者の件で伝えておきたい事があってね』
「……ああ、花園加恋って似非シスターの」
あの人物を忘れた事はない。
顔とスタイルが凄かったのもあるが、それ以上に感じた『プレッシャー』がとんでもなかったので。もしかして、ミノタウロスより強いんじゃないかあの人。
『彼女だが、一応警察の方から注意があったそうだ。けど何であれ宗教関係は口出ししづらいし、今の所はそこまで無理な勧誘もしていない。申し訳ないが、注意以上は無理そうだ』
「そう、ですか……いえ、それだけでもありがたいです」
注意だけと言われればそれだけと思うが、法的にそれ以上は無理なら仕方がない。
今度現れたら大声を出しながら逃げよう。腕力は負けたが、足の速さならこっちに分があるかもしれない。
『そう言って貰えると安心するよ……話は変わるが、なんだか声に元気がないね?悩み事かな?』
「あー……いえ、そんなご相談するほどでは」
『ははっ。いや、大した事はできなかったお詫びもかねてね。井戸にでも話すつもりで、愚痴の一つでもどうだい。気が楽になるよ』
「……それなら、お言葉に甘えて」
東郷さんの優しい声に、ついつい口が滑る。
まあ、この人には隠す事でもないし。
『なるほどね。学校で虐めの標的にされるのを避ける方法と』
「はい。いや、情けない話なんですけどね?」
『いやいや。そんな事はないよ。そうやって悩む君は、社会性のあるいい子だ。損をするタイプとも言うけどね』
東郷さんの言葉に乾いた笑いを返す。
個人的には、損するタイプと聞いて浮かんだのが緒方さんだから少し複雑だ。あそこまで人生ハードモードになりたくはない。
『うーん……私の方でも教育委員会や学校関係に少し話してみるよ。そういう、覚醒者の子供の悩みを聴くのもダンジョン対策課の仕事だからね』
「え、いやそんな……大げさな事にはしたくないといいますか」
『ああ、安心してくれ。君の為だけに何かをするという事はないと、誓おう。京太朗君が気負う必要はない』
こちらに言い聞かせる様に、彼は続ける。
『同じような悩みに苦しんでいる覚醒者の子供たち。それら全ての助けとなるために、私は動くつもりだ。少し、やり方が不器用かもしれないがね』
最後だけおどけて言う東郷さんに、自然と笑いがこぼれた。
「ははっ。そう、ですか。なら期待させてもらいます」
『おっと、これは責任重大だ。だが任せたまえ。大人として全力を尽くすとも。では、今日はこの辺りで。お休み、京太朗君』
「はい、お休みなさい東郷さん」
通話を終え、ため息を一つ。彼の言う通り、他人に話したら少しスッキリした。
大丈夫、なんとかなる。いざとなったら不登校になってやるか転校するつもりでいればいい。そうなる時はどうせ他二人も一緒だから、恐くない。
とりあえず、目の前の宿題どうにかしなきゃなぁ……。
* * *
翌日。朝のホームルームにて。
「えー、覚醒者か否かがわかる様な形態を生徒に強いるのは差別や虐めを発生させる可能性を教育委員会より示唆されたのもあり、今年のみだが体育祭は参加したい者だけするという形になった」
滅茶苦茶歯切れの悪い様子で、担任が喋る。
「覚醒者でない生徒も参加したくない場合は参加しなくていい。以上、詳しくは体育の授業で参加する競技等について話があるから、その時に体育の先生から聞くように」
ざわつく教室の中、たらりと汗を一筋。
東郷さん、やべぇ………。
なお、帰宅してすぐに電話したら『元々そういう意見があったのを、少し後押ししただけだよ』と言われた。
ありがたやぁ、ありがたやぁ。
* * *
サイド 東郷 美代吉――本名:西園寺 康夫
「ふぅ……」
夜、県庁の近くにある喫茶店の喫煙席で煙草を吸う。今日もまた、疲れた。
曇りガラスの窓を眺め、少しだけぼうっとする。当然外の様子は見えないが、席についたら自然とこうする癖がついていた。何故か、学生時代を思い出すから。
『康夫!裏山に秘密基地作ろうぜぇ!』
「くくっ……」
やばい、一人で思いだし笑いとか変人すぎる。
高校生だってのに、あの馬鹿はそういやそんな事言っていたっけな。
今しがた煙草に火をつけたライターを見て、友人の姿を思い浮かべる。すでに、言葉は思い出せるのに声が思い出せない。
……魔法なんてもんがあるなら、あいつを、もう一度―――。
「嫌な歳の取り方したもんだ」
いつの間にか短くなっていた煙草を、携帯灰皿にねじ込む。机に置いてある灰皿は、仕事がら使わない癖があるので。
そうしていると、ノック音が聞こえた。
この喫茶店、わざわざ喫煙席がガラスで覆われているのだ。話には聞いていたけど、今日初めて来たから少し驚いた。
ガラス戸をノックした青年に軽く手をあげ、元々あった伝票を手に禁煙席へ移る。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いいさ。待ち時間も楽しめるのが特技なんだ」
やってきたウエイターにコーヒーを二人分注文し、背もたれに体を預けた。
この店は『こちら側』だ。リラックスできる場所というのは、それだけでありがたい。
「例の資料、届きました」
「ありがとう。いつもすまないね」
「いえ、こちらもいつもお世話になっていますので」
受け取ったのは、とある雑誌出版社の内部資料。
早速一通り目を通したが……これはこれは。盗聴盗撮不法侵入脅迫捏造その他諸々。逆によくこれだけできたなと感心するほどだ。
この出版社。最近になってまた緒方勇祢の周囲を嗅ぎまわっていた所である。
彼女の話題が下火になってきているが、だからこそこういう『木っ端』が出てくるわけか。
「後はこちらで『処理』しておこう。ご苦労様」
「はい。けど今回はマシでしたよ。海外の連中が絡んできませんでしたから」
「彼らも今は随分と忙しいようだからね。国外に回せる人員は、大きい所の陣地争いで精一杯なんだろう」
誰が流したのか不明だが、一度日本国内にいる『ネズミ』の所在がばら撒かれた事がある。
結果、日本の裏側はちょっとしたパニックになった。どこも余裕などないだろう。おかげで、少しは自分達も動きやすくはなった。
「そう言えば東郷さん。『例のあれ』、やり過ぎじゃないですか?」
「うん?どうしてだい。ベストではないが、ベターだとは思っているがね」
「けど、あんなのその学生が勘違いしますよ?貴方に頼めばなんでも叶うって」
青年の言葉に、思わず苦笑を浮かべる。
「安心してくれ。彼はそこまで幼稚でもなければ、腐ってしまうほど大人なわけでもない。良くも悪くも『少年』だよ」
「そう、ですか……?」
「多少わがままになったとしても、それはそれで操縦しやすい範囲だ。体育祭が原因で死人が出たなんて、馬鹿馬鹿しいだろう?」
コーヒーを口に含みながら、青年の反応を探る。
首を軽く捻った彼は、どうにかこちらの言葉を飲み込もうとしているらしい。
「まあ、癇癪を起されたらたまりませんが」
……ああ、こいつもか。
「違う違う。癇癪なんてものじゃないさ。『テロ』だよ」
「て、テロ?」
一般人よりは聞き慣れた言葉でも、ここで出るとは思っていなかったのか青年が目を見開く。
「アメリカの銃乱射事件を、装甲車でやるようなものだ。それも、彼だけじゃない。日本の覚醒者。その中高生がもしも日本中でやらかしたとして、この国にどれだけの被害が出ると思うかね」
「それは……」
よかった。この青年はこれだけでわかってくれたらしい。
また『配置換え』なんて面倒、ごめんこうむる。
「他の学校でも似た様な措置をするための前例としてちょうどいい。というか、既に同じ事をやっているところだよ」
本当に馬鹿馬鹿しい。覚醒者の恐ろしさを正しく理解できているのは、自分達の中でもどれだけいるのやら。
それが学生となると、正直期待するだけ無駄と言った方がいい。
先日も、覚醒者に対する虐めが報告された。どうにかそれは転校その他の対応で落ち着いたものの、あと一歩遅ければ大惨事だったのは間違いない。
覚醒者を虐める側は、歪んだ形で法を神聖化してしまっている。
自分達の行いを棚に上げて、あるいは裁判になっても誤魔化せる範囲にしぼって、相手が反撃してきたら『虐められている側を罪人に出来る』と考えているのだ。
どれだけ力を持っていようが、暴力を振るった側が悪。その教育が間違っているとは言わないが……。
はたして彼らは、『相手が自暴自棄になり、街一つ皆殺しにしてしまう』と考えた事があるのだろうか?
覚醒者は、人の形をした兵器だ。少なくとも私はそう考えている。
彼らにも人格があり、家族がいて、社会性も個人差はあれ存在する。だから人として接する事ができる『だけ』だ。
危うい。今は覚醒者側も己の力を自覚しきれていないから、まだこれで済んでいる。
だがもし。日陰に追いやられた覚醒者達が『どうにでもできてしまう』と考えてしまったら?今は働いている、無意識の理性という楔が外れてしまったら?
……ああ、やだやだ。最悪を想定するにしても、自分は内側で考えすぎてしまう悪い癖がある。ただでさえ今日は無理に教育委員会を動かしたのと、とある虐めっ子たちに『お灸』をすえてきたばかりなのだから。本当に疲れている。
正直、帰って寝たい。
「……有川大臣が言っていた、覚醒者だけの学校。本気で考えた方がよさそうですかね」
青年が、ぽつりとこぼす。
「そうだね……本当は、そういうのはあまり良くないのだが、背に腹は代えられないかもしれない」
一番手っ取り早い手段が、『隔離』だ。物理的に距離をとらせる。
だが当然、それによって出てくる問題も存在するだろう。偏見が固まってしまうかもしれないし、覚醒者同士のトラブルも増えるかもしれない。なんなら、反社会的な思想の覚醒者集団ができる可能性もある。
内と外、今考えただけでもざっと十は問題点が浮かぶが、では今の社会に必要ないかと言われると、NOと断言できない。
首を斜めに動かすのは好きじゃないんだがねぇ……。
「こっちでも準備ぐらいは、しておいた方がいいかもしれないな」
「ですね」
「ああ、話は変わるんだけどね?」
「はい?」
コーヒーのカップを軽く青年に傾ける。あいにくと、自分は彼の本名を知らないから名前で呼べない。それはまあ、お互い様だが。
「駐車場に行ったら自分の車を軽く掃除しておきなさい」
「え?」
「ここは『ホーム』だが、常在戦場という言葉を忘れてはいけないよ」
「っ……!」
まったく。リラックスし過ぎだね。海外の者達が互いの牽制に忙しいと言っても、こっちに何もしないほど温いわけないだろうに。
日本と海外。こと裏の戦いにおいて、我が国は悲しいほどに『格下』だ。
「焦るのは駐車場に行ってからでいい。周りの方は『同期』に頼んでおいたから」
懐からスマホを取り出して、軽く振る。
それを見た青年が、肩を大きく落として首を垂れた。
「すみません、俺……」
「いいよ。失敗は誰にでもある。今回はカバーができる範囲だった。これから覚えて行けばいいのさ」
彼を安心させるように笑ってやる。
はっはっは。絶対に逃がさないぞルーキー。君を育てないと私に『花園加恋係』が回ってきかねない。立派に役目を果たしてくれ。
労い、諫め、褒めて、叱り、認める。こういうのは、あの馬鹿な友人の方が得意だったのに。
どうして私に任せて先に逝ってしまうのか。全く、困ったものだよ。
――――数日後、あの青年が『花園加恋係』を辞退。上司が私の方をじっと見ている。
ふっ……世の中、クソだよ。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.京太朗達ってどれぐらいの付き合い?
A.中一からですね。小学校はそれぞれ違う所でした。クラスのあぶれた奴らが寄り集まった感じです。
Q.三人は今まで体育ではどうしていたの?
A.走る時は隣の生徒とほぼ並走。サッカーや野球では隅の方で参加しているふり、という感じですね。
Q.覚醒者に成長要素ってある?
A.ハード面では加齢以外あんまりないです。
子供や老人の覚醒者は基本的に能力値が低いです。といっても、十代前半から六十ぐらいまでの間だとそんな変化ないですね。『幼体』や『老体』以外なら、基本全盛期です。
筋トレしたからといって、特に筋力のランクが上がる事はありません。よっぽどの事をしたら『+』がつくかも?
ただし、何かしら魔道具を体に埋め込んだりしたら変化します。これは成長というより改造ですけど。
一番成長要素があるのは、やはりソフト面ですね。覚醒者個々人の技量や判断力が成長するかどうかですね。例をあげると、一話時点の京太朗と今の京太朗が戦ったら確実に今の彼が勝ちます。
まあ、結局はそもそも『覚醒者としての素質』が大きくなりますが。時代が進めば『血統主義』が出てくるかも……?




