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第二十四話 怪しい宗教にご注意を

第二十四話 怪しい宗教にご注意を


サイド 大川 京太朗



それから一時間ほどして、少し早めの昼食を食べながら両親に相談を終えた後。自分は指定された喫茶店へと向かっていた。


自転車をこぎながら、なんとなく周囲を警戒しつつ駅前のそのお店へと向かう。流石にこのタイミングでまたあの似非シスターが来るとは思えないが、念のため。


 家から車で十五分か二十分ぐらいの位置にある駅だが、覚醒者の体で自転車を使えばすぐにつく。


 赤信号で止まり、ふと太陽の強い光を仰ぎ見て五月とは思えない夏日だとテレビで言っていた事を思い出した。


 この体は便利なもので、暑さへの耐性も強いらしい。もっとも、湿気まではどうにもならないが……魔法とかで地球の温暖化も解決できないものか。まあ、その辺はお偉いさんや学者さんがどうにかするのだろう。


 そんな事を考えながら走っていると、あっという間に目的地に。喫茶店の駐車場端にある駐輪スペースに自転車を止め、店内へ入る。落ち着いた内装のそこは、休みの日だと言うのに意外と空いていた。時間帯がよかったのだろうか。


「やあ、京太朗君。こっちだよ」


 奥の方の席で東郷さんが軽く手を振っていたので、少し駆け足でそこに向かう。


「すみません、お待たせしました」


「いやいや、待ち合わせの五分前さ。こっちこそ呼びつけてごめんよ」


 会釈してから彼の対面に座ると、ほとんど同時にマスターと思しき初老の男性がメニューを持って来てくれた。


 小さくお礼を言いながら受け取り、中を見て一瞬ぎょっとしてしまう。


 たけぇ……海外の穀倉地帯とかがダンジョンに飲まれたとかで物価がかなり上がってきているけど、それにしても結構な値段がする。


 あ、このパフェ美味そう……いや、それでもたけぇわ。ちょっと躊躇う値段だぞ。


 喫茶店って馴染みがないが、こういう物なのか……。


「ここは奢るよ。好きに頼んでくれ」


「え、いやそこまでは……」


「大人に恰好をつけさせてくれよ。高校生に払わせたら私の方が恥ずかしいのさ」


「……その、お言葉に甘えて」


 口ではそういいつつも、マスターに自分はオレンジジュースを注文した。東郷さんはアイスコーヒーらしい。


 彼は『遠慮しなくていいのに』と苦笑を浮かべているが、そう言われても『あ、そっすか?じゃあこのグレートチョコレートパフェDXおなしゃすっ!』と言えるほど神経が図太くないのだ、こちらは。


 頼りになる大人とは思っているが、親しい人でもないのだ。


 ……それはそうと、落ち着いた雰囲気の店なのにこのネーミングはどうなんだろうか。大丈夫なのかマスター。


「それで……早速だけど、君の話を聞いてもいいかな?」


「あ、はい。例の不審者の件なんですけど」


 あの後覚えている限りを書いたメモを手に、東郷さんに花園加恋という人物について伝えた。


 東郷さんは真剣な表情でこちらの話を聞き終えると、深く頷く。


「わかった。そのシスター服を着た女性に関しては知り合いの警察に伝えておこう。よく教えてくれたね。後は任せてくれ」


「はい、よろしくお願いします。その、僕も警察署とかに行った方がいいんでしょうか?」


「いいや。今は君が警察に近づくのはまずい。マスコミが例の件について知りたくてうずうずしている様でね。お勧めはできないよ」


「そうですか……」


 面倒ごとを避けられて安堵するも、同時に他の面倒ごとがチラリと聞こえてため息が出そうになる。


 あのミノタウロスの一件。未だテレビでは冷めやらぬ話題として報道が続いていた。


「それにしても、本当にいいのかい?お勧めしないと言ったが、それは私個人の感想だ。名乗り出ればヒーローになれるよ?」


「絶対に嫌です」


 少しおどけた様子で問いかけてくる東郷さんに、オレンジジュースを一口飲んでから首を横に振る。


「ここで目立ったら、賞賛より身勝手な批判の方が多いのは目に見えていますよ。ヒーローどころか『他人を囮に生き残ったんじゃないか』と、訳の分からない言いがかりだってつけられかねません」


 世の中、出る杭は打たれるものだ。それは緒方さんを画面越しに視ていればいやでもわかる。あの人、学生時代の交友関係や家族構成までネットに晒されているんだぞ。なんならテレビの記者が実家に突撃取材までしていた。


 ある事ない事雑誌に書かれて、面白い発言を引き出そうと記者には挑発され、ネットでは玩具扱い。


 彼女を見て名乗り出る奴がいたら、間違いないただの馬鹿だ。あるいは海外にでも行くからそんなの関係ないと騒ぐ愉快犯かな?


「その言葉を聞いて安心したよ。あのダンジョンでの出来事は、整理がついたのかな?」


「まあ、一応はですけど。通っているクリニックでも次の受診で最後って話ですし」


「……もし君が望むなら、もっといい病院を紹介できる。京太朗君が通っているクリニックの先生がどういう人かは知らないが、君の口ぶりからあまり親身になってくれる人ではなさそうだね」


「ああ、いえ。そこまでは別に」


 正直、別の病院なら『気分爽快!元気溌溂!』となるとは思っていないし、なったらなったでちょっと怖い。


 ぶっちゃけ面倒くさいので、通院はさっさと終わらせたいのが本音だ。


「それより……その。あの時警察の人にお渡しした遺髪とかは、ちゃんと届きましたか?」


「……そういうのを、あまり気にしない方がいいと思うけどね。見知らぬ人の死を、君が考えすぎるのはよくない」


「ただの興味本位です。言えない事だったら、これ以上は聞きません」


「……緒方勇祢警部補が、直接奥さんに届けたらしい。君が遺髪を回収してくれた人は、彼女の部下だったらしいよ。これ以上は、後日会うだろう警部補に聞いておくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 少しだけ、胸のつっかえがとれた。


 あの時亡くなっていた人、ちゃんと弔ってもらえそうなのだな、と。


 あの一件のニュースを視ていて、拡大中のダンジョンで亡くなった人の遺体は収縮する迷宮に取り込まれるのだと知った。最初に襲われた人達も、自分とは別の場所で戦い死んだ人達も、お墓に入れられる物はないと聞く。


 これは偽善であると自覚はしているが、それはそれ。こういうのはスッキリさせておいた方が、気分がいい。


 それだけだ。自分にはそれで十分なのである。


「すみません、こっちの話ばかり。東郷さんから僕に用事ってなんだったんですか?」


 そもそも、警察に通報しようとしたら彼から電話があったのだ。


 問いかけると、彼は苦笑を浮かべながらコーヒーを飲む。


「なに、あの一件から無事に立ち直れたのかどうか気になってね。ちょっと会って話したかったのさ」


「あ、そうだったんですか。ありがとうございます、気を遣ってくれて……」


「いいんだよ。君は誇るべき事をした。大人の余計なお節介なんて、胸を張って『ご苦労』とでも言ってしまえばいいんだ」


「ちょ、無理ですよ。そんなの」


 なんでそこで東郷さんに威張らなきゃならんのだ。意味がわからん。


 揶揄ってきたのだろう。カラカラと笑っていた彼は、ふと真剣な表情に戻って懐からスマホを取り出した。


「そうそう。宗教で思い出したんだが、最近少し物騒な新興宗教が流行っていてね」


「新興宗教、ですか?」


「ああ。名前は『賢者の会』」


 そう言って机の上に置かれたスマホの画面には、やたら輝いているおっさんが映っていた。


「なんですかこの……色々と反射が凄そうな人」


 言葉を選ばなければ、『奇天烈な格好をした禿げたオッサン』である。


 目がやたらキラキラしている事以外は特徴のない顔。そして、首から下は金色と……ダイヤか?それらで過剰に装飾された鎧を着た男性が、何かを受け入れるかの様に両手を広げていた。


 あと、後光のつもりなのか後ろに視える日の光でスキンヘッドがもの凄い事になっている。ギャグか?


「彼はその『賢者の会』教祖、小山耕助五十二歳。信者からは『アカツキ様』と呼ばれているそうだよ」


「確かに夜明けみたいな頭ですけども」


「髪の事は言わないであげてね?」


「あ、はい」


 なにやら東郷さんの眼が怖い。


 ……大丈夫ですよ、まだ貴方の生え際は無事ですからね!たぶん!


「この『賢者の会』。どうも、『覚醒者第一主義』を掲げていてね。覚醒者こそがこれからの世界を導き、守護する存在である。という教えらしい」


「はぁ……」


 それはまた……極端な思考だことで。


 確かにダンジョンだのモンスターだのの相手は覚醒者がする必要があるし、その分優遇してほしいとは思う。具体的には報酬金の増額とか。


 だが、そこで『世界を導き~』だのなんだのと言われてもなぁ……。


 言っては何だが、冒険者をやっている覚醒者は基本的に職に困った人やバイト感覚でやっているかのどっちかである。そんな事を言われても困るのだ。


 覚醒者にも頭のいい人や権力者はいるって?そういう人らは冒険者にならず、そもそもモンスターとはそうそう戦わねぇよ。


「覚醒者の地位向上を訴えるだけならまだしも、非覚醒者の覚醒修行もやっているらしいが……非覚醒者への不当な搾取や暴行、脅迫など黒い噂も多くてね。近々警察の方から捜査があるとは思うが、なんせ『異能』がらみだ。証拠の確保は難しいだろうね」


「うわぁ……」


 思った以上にアレな所らしい。関わらんとこ。犯罪の証拠がなさそうでも、そんな噂がたっていて教祖が『コレ』とか嫌な予感しかせんわ。


「……覚醒者と非覚醒者で、段々と溝が出来ている。君も、どうかその流れに飲み込まれてしまわない様に気を付けてくれ」


「ええ、はい……わかりました」


 覚醒者差別とか、非覚醒者への犯罪とか、そういったニュースはちょくちょく聞いていた。


 それが、更に増えていくのかと思うと少し憂鬱になる。


 ……サラマンダーのところ以外は、近場のダンジョンには行かない様にした方がいいかな。クラスの奴らにばれると思った以上に面倒な事になりそうだ。


 魚山君達はどういうダンジョンに行っているんだろう。今度聞いてみるか。


「辛気臭い話ばかりですまない。私は先に出るから、ゆっくりしていってくれ」


 スマホをしまい伝票を手に立ち上がる東郷さんに、慌てて頭をさげる。


「色々とありがとうございます」


「いいんだ。せめてこれぐらいは、ね」


 ひらひらと手を振った後、彼が一度立ち止まり神妙な顔で振り返る。


「……例のシスターだが、できて注意程度だと思う。だから、もしかしたらまた君に接触するかもしれない。その時は、どうか警察を頼る様にしてくれ。くれぐれも、君自身の手でどうにかしようとか、武力行使はしないように」


「は?はぁ。わかりました」


 何をそんな当たり前な事を?


 疑問符を浮かべて首を傾げるこちらに、何故か笑みを浮かべて東条さんは会計を済ませて出て行ってしまった。


 ……僕、そんな野蛮な奴に視えるのだろうか。


「こちらをどうぞ」


「え?」


 オレンジジュースを飲み切ってしまおうとストローに口をつけたタイミングで、マスターが突然パフェを机に置いてきた。


「あの、注文した覚えは」


「先ほどのお客様からです。お支払いは既に済んでおりますので」


 ニコリとダンディに笑うマスターが引っ込んでいき、なんか照れくさくて頬を掻く。


 メニューを眺めた時、パフェの所で視線が少し止まってしまったのがバレていたのか。正直恥ずかしい。


 まあ、ここは好意に甘えるとしよう。昼食を終えてからまだそんなに経っていないが、そこは男子高校生。


 こてこてなネーミングのパフェは、見た目通りとても甘くておいしかった。



*  *   *



サイド 東郷 美代吉



「……これで五人目か」


 パーキングエリアの駐車場。車内で資料に目を通していく。


 記されているのは、ミノタウロスの出現したダンジョンの氾濫――通称、『クレタの悲劇』に巻き込まれ、生き残った覚醒者達だ。


 とりあえずだが、大きな心の傷を負った者はいないらしい。それでも軽い鬱状態の者もいたが……今後はもっといい医者が用意できないか、伝手をたどってみるか。


 といっても、診る側とて『ダンジョンで化け物に襲われました。その化け物に人が殺されるのを視ました』なんて相談、今までされた事もないだろうから対応に困るのは仕方がないかもしれないが。


 今時珍しいと言われてしまう紙の資料を鞄にしまい、懐からタバコを取り出す。


 それにしても……大川京太朗の様子を見に行ったらとんでもない人物の名前が出てきたものだな。


 頭の中に、とある覚醒者のデータを思い起こさせる。彼女の事を知っているのは、国内でもほんの一握り。絶対に国外へ流出してはならないと、公安から厳重にマークされているものの……その予想外すぎる行動に度々見失ってしまう要注意人物。



『花園加恋』――日本最強の覚醒者と目される不審者である。



 不幸中の幸いは、花園加恋は自分から他者を傷つけたり物を壊したりするタイプではない事か。それでも不審な行動で度々警察に通報されているけど。


 ……頼むから、市街地で彼女と高位の覚醒者が喧嘩の末殺し合いに発展なんて事は起きてほしくない。


 下手をすれば――地図が書き換わる。力のある覚醒者は存在が戦略兵器になりえるのだ。それこそ、例をあげるなら大川京太朗は『人の形をした装甲車』と言っていい。


 たかが一両の装甲車で大げさな、と思う事なかれ。平和な市街地で突然それが暴れ出したら何人死ぬかわからないし、そもそも未だ『人間サイズの戦術兵器』に有効な武器も戦術も確立していない。


 それこそ、周りの被害を気にせずRPGでもしこたま撃ちまくるか……『B+』の覚醒者でもこれなのだ。花園加恋に至っては、どうやって対処すればいいのかすらわからない。個人に対して国内で爆撃でもしろと?


「百合の守護騎士ってなんだよ……おじさんわかんないよ……」


 タバコの煙を力なく吐き出しながら、ぐったりとシートに体を預ける。


 同性愛者……とは違うらしい。花園加恋はあくまでも自分がそういう関係になるのではなく、『百合カップルを鑑賞しながら白米をかっこむ』のが趣味、というか『教義』であるらしい。


 監視はつけているのだが、『百合センサー』なるもので不規則かつ突飛な行動をする人物だ。動きの予測ができないうえに、他国にバレるわけにはいかないから視ている側も目立つ手段で追いかける事はできない。


 なお、この『百合センサー』とやらは『百合女神の導きに従っているだけ』とその監視員に対して言っていたとか。そいつは次の日に辞表を出してきていたのでよく覚えている。


 ……本当に、自分は歳をとったんだなぁ。若い子の事ぜんぜん理解できないんだから。いや、あれは『若い』でかこっていいのか?もっと別の枠組みにいる珍獣ではないのか?



 あ゛~……いっそ覚醒者全員、京太朗君ぐらいわかりやすくなんねぇかなぁ~。




花園加恋の秘められた正体……それは!

ただの!通りすがりの!『超パワーを持った不審者』だったのです!!

……これ、いっそ政府の不祥事とかだった方がマシだったんじゃないだろうか。


読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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自然発生した最強変態生物とかどうしろと。 助けてマスターフリーダム!
[気になる点] 運転席で身を預けるなら「椅子」よりも「座席」か「シート」になるかと思います。細かいこと 失礼しました。
[一言] 百合はただ大事に保ち鑑賞すべし、間に入ろうとするヤツはその骸を野に晒すべし… そんなことのたまうムチムチハーフエルフのシスターが国内最強… これから先百合っプルが出てくるフラグでもあるの…
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