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第一章 エピローグ

先日はお騒がせしてしまい申し訳ございません。


第一章エピローグ


サイド なし



 落ち着いた調度品。見る者が見れば一目で高級な家具や美術品が華美にならない様に配置された部屋で、二人の男がチェス盤を挟んで駒を動かす。


 昼間だというのにカーテンはしめ切られ、部屋を照らすのは小さな蝋燭の明かり一つだけ。


 なんとも奇妙な空間に、老人の声が響く。


「随分と派手にやっている様で。もう少しお行儀よくなされてはどうですかな?」


 輝きを失った金髪に白い肌。左目に武骨な眼帯をし、昔の文豪めいた服装をした老紳士。英国紳士めいた帽子とマフラーを脱いでリラックスした様子で椅子に座る彼は、今も世界中で捜索が続いている『神代回帰を告げた老人』その人であった。


「私もゆっくりと動ける時間があればいいのですが……あいにくと多忙でしてね。どうしてもテーブルマナーが疎かになってしまいます」


 そんな老人と対面するのは、有川琉璃雄ダンジョン対策大臣。


 今日もまた張り付けた様な胡散臭い笑みを浮かべ、『自分の家』だというのにスーツをきっかりと着こなし悠然と足を組んでいる。


 迷いなくチェスの駒を動かす老人が、右目で有川に手番を促した。


「それはそれは。しかし焦っている時こそ優雅でなければ。後になって後悔なさいますぞ?」


 老人が動かす白の駒を見下ろし、有川が黒のナイトを動かす。


「これは手厳しい。経験談ですかな?」


「――ええ。何分、長く生きておりますからな。間違いや失敗の経験は数多くありますとも」


「なるほど……ご忠告、しかと胸に留めておきましょう。ですが……」


 老人にあっさりとナイトを獲られながら、有川は軽く肩をすくめる。


「その焦らなければならない原因である貴方にそう言われると、なんとも釈然としませんね」


「おや?その様に感じる心がおありだったので?」


 にたりと、老人が歪んだ笑みを浮かべる。心底小馬鹿にした、侮蔑の笑み。


 上位者が下の者へと向けるそれを受けて、しかし有川の笑みもまた、崩れない。相も変わらず胡散臭い笑みを浮かべたまま、彼は駒を動かした。


「勿論ですとも。涙も枯れ果て、道化にすらなれない貴方とは違ってね」


「―――」


 瞬間、老人の笑みが消え失せた。


 もしもこの場に他の人間が……それこそ上位の覚醒者であったとしても、彼の変わりように背筋を凍らせ、息を詰まらせていただろう。


 圧倒的なまでの『殺意』。それは、とある人物が対面した牛頭の怪物が放ったそれが児戯に思えるほどの密度。


 正面から受ければ、並の人間など一瞬で発狂する。


「おや、貴方の手番ですよ。御老人」


 だが、胡散臭い笑みを浮かべ続ける男が、ここに一人。


 足を組んだまま、まるで緊張する若者を気遣い言葉を促す面接官の様にして、有川はチェス盤を手の平で示す。


「――赤子同然の若輩が、神たる我を侮るか」


「――空っぽの玉座に執着する老害が、いつまで先駆者のつもりでいる?」


 ピシリと、部屋の窓にヒビが入る。底冷えする風が床を這い、老人の眼が細められていく度に室内の気温がさがっていった。


 睨み合う事数秒。その硬直を終わらせたのは、老人のため息だった。


「いけませんなぁ……歳をとると怒りっぽくなってしまう」


「隠居なされてはいかがかな?よい避暑地を知っていますよ」


「ははっ、不要ですとも。まだまだやらねばならない事がありますからね」


 老人が駒を動かす。


「チェックメイト。それでは、私はこれにて」


「おやおや……負けてしまいました。もう一局お願いできませんか?」


「お忙しいのでしょう?老人と戯れるのは程々になさった方がよろしい。それに……貴方のお友達が動いている事に気づかないとでも?」


 どこからか出した帽子をかぶり、マフラーを巻いて老人は立ち上がる。


「では。有意義な時間でしたよ、『―――』」


 最後だけ言葉にせず、口だけを動かして。いつの間にか老人は消え失せていた。


 一人取り残された有川は、黒のキングを手に取る。


「完敗だな……あの泉の力、どうやら本当らしい」


 くるくると王の駒を弄んだあと、チェス盤の中央に置く。


「勝ち目など一片たりともありはしない。だが、ないのならば作るまで」


 胡散臭い笑みを浮かべたまま、彼は黒と白の王を対面させた。


「化け物同士、仲良く奪い合うとしましょうか。新たなる神代において、どちらが先に『国をつくる』か……競争です」


 ふわりと、蝋燭の火が消える。


「貴方の計画、利用させて頂く」



*  *    *



サイド 大川 京太朗



 ダンジョンの氾濫から一週間。自分は心療内科のクリニックに受診していた。


 なんでも、人死にを直接見てしまった冒険者は全員受けなければならないらしい。講習会で一応聞いてはいたが、自分が受ける事になるとはなぁ……。


 だがまあ、それも後二、三回の受診で終わりそうである。というか、意外と冒険者で心を病んでしまう人もいるらしい。動物系のモンスターとの戦闘が主な原因で。


 そんな理由で、クリニック側も忙しいらしい。そのせいかお医者さんも……言い方を選ばないなら『雑』である。やる気というか、そういうのを感じられない。まあ、変に熱心な感じでこられても困るが。


 ……我ながら、薄情な人間なのかもしれない。


 誰かが死ぬ所を視た。遺体から遺髪や所持品を回収した。そういう事を経験した反動が、お巡りさん達に家へ送ってもらう最中にぶり返して、食欲なんてなかったのに。


 家に帰って両親に抱きしめられて、母さんが用意してくれたご飯の匂いを嗅いだらお腹が減って美味しく食べて。夜には普通に眠る事ができた。レイラに約束通りハグしてもらってキスしたもらった時はムラッともきた。


 レイラのくだり以外をお医者さんに話したら、『そうですか』としか返ってこなかったけど。その辺どうなんだろう……。


 今も、家へ直帰するわけでもなく友人二人が『生還祝い』とかでカラオケに誘ってくれたから、そこに向かっているわけだし。


 ちょっとだけ、そんな事を考えながら歩いていく。



*  *    *



「いや生きてたら普通そんなもんじゃない?」


「だよねー」


「いや軽いなお前ら!?」


 魚山君の返答に、うんうんと頷いていたら熊井君がぎょっと目を向けてきた。


 どうしたよ。


「もっと、こう、ないんかい!?」


「え、もっと思い悩めと?」


「僕は人間のクズです……」


「極端!?そういうわけじゃなくってだな……こう……大丈夫なのか?」


「なんか、意外と……?」


 自分でも本当にびっくりなんだけどね、この感覚。


「そりゃあ、思い出したら気が憂鬱になるし、魔眼で自分が死にまくる光景はしばらく忘れられそうにないけどさ。なんか気づいたら他の事に意識がむいているというか、忘れている時があるというか……」


「感情というものを維持するにも、エネルギーは使うんだよ。臥薪嘗胆という故事成語があるけど、あれの由来だって恨みを忘れない為に薪の上にふす事で痛みを覚えていたりしたからね。京太朗の抱いたそれらも、たぶん同じ事だよ」


「おお……」


「なんかそれっぽい……」


「昨日マンガでそんな感じの話を読んだ」


「そんなこったろうと思ったよ」


「すげぇ安心した。いつもの魚山だわ」


「なんだとう」


 カラオケルームじゃなかったら隣の部屋から怒られていたぐらいの声で、馬鹿な話をしていく。


 同じクラスの相原君が同級生と『大人なホテル』に行って生活指導の先生にしょっぴかれていたとか、隣のクラスの覚醒者がハーレム作っているとか、そんな本当にくだらない内容。


 二人とも、あの日あった事を詳しくは聞いてこない。なんだかんだ、気を遣ってくれているらしい。


 ――あのダンジョンの氾濫……あれで生き残った覚醒者は、自分を含めて五人だそうだ。


 三十人ほどが戦ったはずなのに、生き残ったのはそれだけ。奇跡的にその中に入っていたあの女性警官、『緒方勇祢』も、左目と左手を失った。


 緒方さんは眼帯姿で記者たちの前に出て、全ての責任は自分にあると話していた。だが、あの行動に対する意見は賛否共に激しい。


『勇敢な女騎士』『令和のジャンヌダルク』


『無謀な行動で民間人を死なせた駄目警官』『英雄気取りのクソ女』


 ネットでもテレビでも、その評価は二分されている。そのせいなのか、警察側は彼女の出した辞表を未だ受理していないらしい。


 ……あの時回収した遺髪と遺品は、自分を送ってくれたお巡りさんに渡してある。緒方さんの部下だった人らしく、その件のお礼と説明に来週あたり彼女が来ると昨日警察から電話があった。


 母さんとかは蛇蝎のごとく緒方さんを嫌っていたし、自分も負の感情がないかと言えば嘘になる。


 けれど、あの時『誰かの為に行動する事ができた』。その一点だけでも、あの人は尊敬に値すると思う。


 ちょっとだけ、どんな顔で会えばいいのかわからないけど。


 まあ、このモブ顔で普通に会えばいいか。その後の事はしーらね。


「そう言えばさ、最近こんなのが流行っているんだって」


「え、どんなん?」


「筋肉、筋肉、筋肉、筋肉♪筋肉チョモラン~マ~!!」


 熊井君の出す騒音をよそに、魚山君がスマホの画面を出してくる。


「歌ってみた動画?」


「うん。この『ゴールデンギター』って人のが最近人気らしい。普段通りと言っても、少しは心の疲れもあるんでしょ?じゃあ良い音楽でも楽しんだら。こんな怪音波じゃなくって」


「サンキュー、今度聞いてみるわ」


 画面には『焼肉定食!!』と書かれたTシャツを着た女の人が、ギターを構えている姿が映っている。といっても、顔の所は見切れているのでわからないが。


 どの辺がゴールデン?ギターを眺めると、弦の所がそうらしい。だが、個人的にはギターにのっているおっぱいの方が気になる。これは……最低でも『E』はあると見た!


「へい!筋肉~!へい!筋肉~!腹筋6LDKー!永住ぅかぁくぅてぇい!!」


「……ところでこの曲なに?」


「知らない。けどちゃんと登録されている曲らしいよ」


「世も末だな」


 しょうがねぇ、僕がいれた『おっぱい天国カーニバル』を熱唱してイカレた音楽センスを正してやろう。万年音痴という不名誉は、今日この日をもって返上させて頂く!



*  *   *



 翌日、魚山君から勧められた例の動画を視ていた。


『~♪』


 なるほど……確かにいい歌声だ。それにベルトで作られたパイスラや、時々ギター本体に押し上げられた乳の変形も素晴らしい。


 ただなぁ……。


 コメント欄をスライドし、首を捻る。どうにも、自分みたいな感想を抱いている人は少ない……というか見かけない。皆が皆、彼女の歌声を褒めたたえている。アンチすらいねぇ。


 なんだろうなこの違和感。そう思って過去の方を探ってみると……あ、これ『神代回帰』の前だわ。


 その歌声は、今のと比べるとかなり拙い。胸もまだ成長途中で、膨らみかけという感じ。


 再生回数はかなり少ないし、コメントも卑猥なものから下手糞などの悪口が多数。


 だが不思議と、自分にはこっちの方が聴いていて心地よかった。最近のはプロ級のそれだが、これは『カラオケが上手い人』レベル。だというのに、こっちの方が好みだった。


 ……もしかして僕、音楽センス狂っていたりする?ちょっと不安になってきた。そう言えば昨日も友人二名からブーイングの嵐だったし。いや、僕の生還祝いなのに熱唱への相の手が『引っ込めー』だの『黙れ音痴ー』だのは酷いと思うが。


 動画が再生されているスマホを手に首を傾げていると、インターホンが鳴る。はて、宅配だろうか?


 両親も出かけている、『はーい、今あけまーす』と返事をしながら玄関へ。


 母さんがなんか頼んでいたのか、それとも親戚からなんか来たのか。『ミノタウロスの一件』に自分が関わっていた事は諸事情により伏せてあるから、マスコミの類ではないと思いたいけど。


 そう思いながら開けた瞬間、視界に跳び込んできた『奇跡の具現』に思わず目をとらわれた。



 でっっっっかっ!?



 巨峰。そう表現する事すら生ぬるい、超特大サイズのおっぱい。黒い衣服を内側から限界まで押し上げるそれは、正に神秘。


 メートル越えは確実。更には、それだけのサイズを誇りながらも見事なロケット型。


 あ、ありえねぇ。こんな巨大戦艦がこの世に実在していたのか?アニメの中だけじゃなかったのか?


 ちょうど視線の高さにくるそれに対し、ただただ魅入られる。これは、ミノタウロス以上のプレッシャーだ……!


「もし、今お時間よろしいでしょうか」


「え、あ、いや」


 涼やかな声で話しかけられて、ようやく来訪者の顔を視る。


 美しい女性だった。新雪の様に白く、最高級の磁器よりもきめ細やかな肌。黒いベールがそれを際立たせ、輝く金髪も相まってどこか幻想的にも感じる。


 エメラルド色の瞳はキラキラと輝き、真っすぐとこちらを見下ろしていた。そこでふと、ベールの下におさめられた耳が、普通のそれよりも長い事に気づく。


 エルフ……いやハーフエルフ?


 呆然としている自分に、彼女は言葉を続けた。



「貴方は百合の女神を信じますか?」



「すみません僕これから塾なので!!!」



 この時ほど、素早くドアを閉めようとした事はこれまでの人生に一度としてない。覚醒者としての反射速度を全開にして、『シスター服』を着たこの人の視界から離れようとする。


 これドア開けちゃあかんやつだった!!??


「まあまあ。ほんの少しの時間でよいのです」


 がっしりと掴まれたドア。びくともしないそれに驚愕し、ニコニコと笑う謎のシスターを見上げる。


 ……いや百合の女神ってなにぃ!?






読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


明日より、第二章を投稿させていただきます。


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― 新着の感想 ―
おそらくミノタウルスを倒すことが脱出できる唯一の条件だったと思う。 だから主人公がやられてたら全滅していたはず。 そもそもダンジョン化に巻き込まれたのは運が悪かっただけで女性警官の意志でダンジョン…
[気になる点] 〇〇への賛否両論 世界がここまで変わったのにと思う・・・ てか、変わったばかりで被害も拡大中だよね? 批判している暇があれば手を動かせ論が主になると思うけど 大震災直後とかと同じと思う…
[一言] これは他の神話系列の神様も出てきそう( どんな女神がいても今更だが…ジャンル百合は虚乳主義と同じく業の道でござる。 おのれまた魔道へ墜ちたのかっ!(
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