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第十九話 マンドレイク

すみません、家のWi-Fiの調子が悪いので投稿が遅れてしまいました。


第十九話 マンドレイク


サイド 大川 京太朗


 どうも。父さんに確定申告について相談したら、交通費も距離次第だけど非課税になると教えてもらった京太朗です。


 講習で習った様な習わなかった様な、ぶっちゃけ既に記憶が曖昧になっていた。前半の一週間と後半の一週間がごっちゃになっている。けどレイラに聞いたら普通に習っていたらしい。


 ……てへっ☆!


 しかし、レイラは僕が忘れている事でも部分的にだが覚えていたりするらしい。地味にありがたい。


 ……ちゃんと、『ここは共有しないで』と事前に言っておけば配慮してくれるのはもっとありがたいが。


 それはそれとして、今日は駅を四つほど跨いだダンジョンに向かっていた。


 今回のダンジョンは、通称『森林のダンジョン』。


 ストアの中には結構な人がいて、今まで自分が通ったダンジョンの中で特に多いかもしれない。


 ちょっとだけ混んでいる更衣室で準備を済ませ、ゲートを潜り中へ。幸い……と言っていいのか、このダンジョンは比較的広めなので誰かに鉢合わせる事はないだろう。


 ……正直、このランクだとモンスターよりも敵と間違えて人を切ってしまう事の方が怖い。相手も覚醒者だから頑丈だろうけど、傷害事件とか裁判とか絶対に勘弁だ。


 あまり聞かないけど、ダンジョン内で当たり屋みたいな事をする人もいるらしい。怖い話だ。


 それはさておき、いつも通りレイラを召喚して自分も剣を構える。今回はリカッソを掴んで槍の様に持つ。なんせ、『森林』というだけあって草木が多い。


 ぱっと見は、偶にテレビで見る北欧とかの森が近いだろうか?雑草は足首ほどまでしかなく、代わりに何メートルもある背の高い木々が並んでいる。もしかしたら十メートルいくかもしれない。


 ちなみにだが、木々の隙間から見える青い空は偽物である。青いのは例の不思議な苔の親戚みたいなのが生えており、ダンジョン内を照らしている。端まで行くと緑色のゴツゴツとした岩壁にぶつかるそうだ。


 正直、『迷宮』と呼ぶには微妙な内部だが……魔法の知識がある人達がダンジョンと言っているからダンジョンなんだろう。


「では、早速参ります」


「うん」


 そうって、レイラがステッキ型杖を地面につけ『大地よ』と呟く。


 同時に、足元を魔力が流れていく感覚。だが目に見えた変化はない。それから数秒ほどしてから、レイラが顔をこちらに向けた。


「周辺にはないようです」


「そっか。なら、もう少し進んでみよう」


「はい」


 何をしたかと言えば、このダンジョンで『とあるブツ』を手に入れる為に地中の魔力を探ったのである。また、そのブツこそこのダンジョンに人が多い理由でもあるのだ。できれば早めに見つけたい。


 周囲を警戒しながら歩いていると、虫の羽音が聞こえてくる。かなり大きい。


 咄嗟に木の影に隠れて様子を窺うと、すぐに音の発生元が見えた。


 巨大な蜂。そうとしか形容のしようがない。人間とそう変わらないサイズのそれが、木々の間を飛んでいた。


 名は『ジャイアントビー』。なんとも安直なネーミングセンスだとは思うが、分りやすいに越した事はないと思おう。


 無機質な複眼が獲物を狙っている。それに向けて、レイラが隠れながら杖先を向けた。


「『木々よ』」


 ずるりと、周囲の木々が蠢き生えている枝が下に向かって異様な伸び方をする。それらがジャイアントビーを絡めとろうと、襲い掛かっていった。


 慌てた様子で高度を落としそれを回避するジャイアントビーに向かい、駆ける。あの複眼は飾りではないらしくすぐに相手もこちらを認識し、尻の針を向けてきた。


 異音と共に針が射出される。人の腕ほどもあるそれには毒が塗られているらしく、かすっただけで体内に入ってしまうとか。


 時速二百キロほどで突っ込んでくるそれを魔眼でもって回避しながら距離をつめ、下から切っ先を突き込んだ。


 ずぶりと相手の腹に突き刺さり、そのまま捻りながら地面へと叩きつけた。小さく土煙が舞い、奴の甲殻や羽がひしゃげる。


 ガチガチと顎を開閉しながらもがくジャイアントビーに上から剣を押し込んで固定。頭に向かって靴底を叩き込む。


 虫の頭を踏み潰した不快感を覚えながら、消滅する巨大蜂を見届け周囲を警戒。他に敵影はなし……かな。


「お疲れ様です、主様」


「うん。レイラこそ」


「では、この辺りでまた探ってみましょう」


「お願い」


 レイラが杖を地面につけるのを傍目に、周囲を警戒する。


 それにしても、やはりこういう場所だと彼女の『自然魔法』は相性がいいな。逆に人工物めいたダンジョンだと使いづらいらしいが、その為の魔道具も用意している……というか、それを増やすのを目的の一つとしてここに来たわけだし。


「……見つけました。あちらの方角に、五十メートルほどの距離で一つ」


「よしっ、行ってみよう」


「はい!」


 早速見つかったらしい。流石レイラ。


 駆け足になってしまいそうなのを堪え、彼女が示した場所に向かう。そこは他と区別のつかない木々と雑草だけがある様に見えるが……。


「あれです」


 彼女が杖を向けた先。そこの草だけ、他のと違う。茄子の葉っぱに似たのが生えている事に気づいた。


「では手筈通りに。私は周囲の警戒をいたします」


「わかった」


 剣を近くに突き刺し、代わりにダガーを握る。片膝をついて左手でその葉っぱに触れ、しっかりと握る。


 軽く引っ張って千切れないのを確認し、そのまま一息に引き抜いた。


 すると、すぐに奇妙な根が姿を現す。それは目と口があり人の顔にも見えるが、普通ならただの錯覚で済む事だろう。


 だが、ここはダンジョン。普通の場所ではない。根に刻まれた目と口が開き、この世のものとは思えない絶叫を――。


「よっ」


『ギッ』


 上げる前に、ダガーで首……首?を刎ねた。根は沈黙し、ぶらりとこちらの手の中でぶら下がる。


『マンドレイク』


 ぶっちゃけ、メジャー過ぎるほどにメジャーな魔法の植物だ。根っこが人みたいになっていて、地面から引き抜くと絶叫をあげて聞いた者を失神させたり酷い時は死に至らしめたり。


 まあ、覚醒者ならよっぽど『抵抗』の値が低くなければ大丈夫らしいが。それでも絶叫を聞きつけたモンスターが寄ってくるから、叫ぶ前に斬るのがセオリーだ。それに、もしも近くに他の冒険者がいたら迷惑になる。


 ダガーで軽く地面をほじくれば、残りの部分もちゃんと掘り出せたので一旦地面に置き、アイテム袋から水筒を取り出した。


 当然水分補給が目的ではなく、この中にマンドレイクを入れる為である。


 この水筒。一見何の変哲もないが、底と蓋に魔法陣が描かれている。レイラが刻んでくれたのだ。


 通常、モンスターもダンジョン内の土や植物も外に持ち出せば魔力の粒子となって空気に溶けてしまう。それを防ぐため、こういった魔道具が必要となるのだ。


 所持している人が魔力を流し込み続ければ内部で維持できるし、取り出した後『加工』する時に魔法使いが魔力を弄ればそのまま残して置けるとか。


 なお、水筒を選んだのは大きさや形がちょうど良かったのと、安くて密閉性が十分だからである。大量生産って凄い。


 ……ちなみに、でっかいの作ってモンスターの死体留めて研究所に放り込んだりできないかと興味本位で聞いたら、聞いた事のない材料が多数必要との事。この水筒とは比べ物にならない性能が要求されるらしい。


 とにもかくにも、この『マンドレイクの採取』が目当てで皆このダンジョンに来ているのである。


 なんでも、魔法薬の材料になるらしく欲しい人はきりがないのだとか。六月からは『クエスト制度』も始まるし、これの採取依頼も出てくるのだろう。


 かくいう自分達もこれで作りたい物があるので、六月以降の乱獲を見越して今の内に採りに来たのだ。


 それでも人は多めだけど。考える事は皆同じらしい。


「採れるだけ採って帰ろう。幸い、まだ乱獲がどうこうの規制はないし」


「はい。トラブルの起きない範囲で、ですが」


「ああ」


 水筒をアイテム袋にしまい、また歩き出す。が、その矢先に魔眼が発動。


「とぉ!?」


 慌てて横に避ければ、ぼたりと空から……いいや上にある木の枝から液体の様な物が落ちてきた。


 スライムである。半透明なアメーバみたいなのが、ウネウネと動きこちらに近づいてくる。


 だがこれはレイラに任せよう。もう一度、避けた先で魔眼が発動してしまった。


「このっ」


 後ろから振り下ろされた大鎌を、剣を上に掲げて防ぐ。


『シークレット・マンティス』


 茶色い保護色で体をつつみ込んだ、巨大カマキリである。その長さは触覚を抜いても二メートルを超えている。受け止めた大鎌は鈍く光を反射しており、素人目にも鉄の扉だろうと切り裂ける切れ味をもつのだと感じ取れた。


「『大地よ』」


 視界の端でレイラがスライムを一撃で吹き飛ばすのを確認しながら、こちらも鎌を弾き上げ振り向きざまに一閃。相手の腹を両断する。


『ジジッ』


 真っ二つになったのにまだ蠢くマンティスの頭に剣を叩き込み、完全に息の根を止めた。それでも消滅まで痙攣していたのは、正直気持ち悪かったが。


「ご無事ですか、主様」


「うん、まあ。凄くびっくりした……」


 特にスライム。一応、僕の場合張り付かれたら『魔力開放』で弾き飛ばせばいいのだが……その間にマンティスに襲われただろうな。


 本当に嫌なモンスターだな、スライム。マンティスの方は単体なら大した脅威ではないが、二つ合わさると危険度がぐっと増す。


 スライムが顔に張り付いている間に、マンティスが冒険者をその鎌で羽交い絞めにするのだ。窒息と拘束のダブルコンボで、運が悪いとそのまま死ぬと聞く。


 一応、マンティスの筋力は『C』だし耐久はかなり低いから力づくで抜け出せる覚醒者の方が多いけど。それでも偶に死者が出るというのだ。


 ダンジョンは全力でこっちを殺しに来ているのだと、改めて実感する。


「……ほどほどで帰ろうか」


「はい。安全第一ですね」


 ちょっとビビったので、そういう事に。まだ心臓がばくばくいっている。


 午前午後合わせて四時間ほど潜り、この日は終了。残念ながらドロップ品はなかったが、マンドレイクは十本も手に入った。普通の冒険者が一日で採れるのが五、六本なあたり、レイラ様様である。


 ……ちなみに、売れば一本三十万という事でかなり迷った。けど買うってなったら五十万以上するし、たぶんこれから値上がりしていくだろうからと。断腸の思いで全て自分達で消費する事を決定した。


 なお、その日の夕方は両親が法事という事で家におらず、レイラに『慰めて』もらえたのでその辺の葛藤は吹き飛んだが。


 マンドレイクのお金より、命の方が大事だよね。死んだら元も子もないのだ。なのにどうして人は皆、争うのだろう……。



*   *   *



 翌日。気持ちのいい朝を迎えたわけだが、今日は探索を休むことに。


 心身ともに万全だが、それはそれとして有事の備えをしておく事にしたのだ。


 主にレイラが。


「では、早速やっていきましょう!」


「お願いします、先生!」


「……今度、女教師のシチュエーションをお試しになりますか?」


「……お願いします、先生!」


「はい、かしこまりました。では、そちらはまた後日に」


 揶揄う様に笑うレイラに、胸が高鳴る。ちくしょう、今両親ともリビングの方にいるから!


 それはさておき、家の庭に敷いた青いビニールシートの上に並べられた物を見ていく。



『二本分のマンドレイクをみじん切りにした物を乗せた小皿』


『通販で買ったバラの種』


『すり鉢とすりこぎ棒』


『カセットコンロ』


『小鍋と木べら』


『液体肥料』


『水道水の入ったペットボトル』


『計量カップ』


『ちょっと大きめの平皿二枚』



 ……冷静になると意味不明なラインナップである。


 魔法の知識が皆無な自分がぼけーとしている横で、レイラがすり鉢にマンドレイクとバラの種を入れて、胡坐をかくとその上に置く。


 ミニスカがめくれて綺麗な太ももが!絶対領域が!


 っと、目を見開くが今は自重しよう。自分から見学させてほしいとお願いしたわけだし。


 そのまますり潰されていくマンドレイクと種。茶色がかったとろろみたいになった所で彼女は一度手を止め、カセットコンロを地面の上に置きそこへ小鍋をセット。中にペットボトルの水を入れていく。ボトルには事前に分量がわかる様にマジックで線が引いてあった。


 その水に計量カップで液体肥料を慎重に足していく。時折、木べらでかき回しながら。


 なお、『なんで液体肥料なのか』と聞いたところ、『本来なら多数の薬草を煎じる必要がありますが、これなら必要な成分が全て入っていますので。便利ですよね!』とのこと。現代技術ってすげぇ。


 しっかりと混ざった所に、先ほどすり潰したマンドレイクと種だった物を流し込む。で、コンロに火をつけてまたかき混ぜていった。


「『水よ』『大地よ』」


 右手で木べらを動かしながら、彼女は左手をかざしてそう呟くと、手の平から淡い緑色の光が鍋に向かって降り注いでいく。


 普通に考えたら、こんな事をしても何もできないが……そこはやはり、『魔法』というやつなのだろう。


 十分ほどそれを眺めていると、彼女が火を止めて余熱で鍋の中身を軽く熱し、木べらで平皿に落としていった。


 出来上がったのは、黒い粘土みたいな物。


「後はこれをこねて小指の先ほどの丸薬にし、日の光で乾燥させます。おやりになりますか?」


「じゃあ、せっかくだし」


 そんなわけで粘土みたいになったそれを千切ってはこねて、もう一枚の平皿に並べていく。


 出来上がったそれを前に、レイラが満足そうに頷いた。


「これで三日ほど経てば完成です」


「おおー」


 ぶっちゃけよくわからないが、これで良いらしい。


「これがいざという時の足止めに使えるの?」


「はい!魔力を込めて投げつければ、急成長した茨が対象に絡みついたりバリケードの様に展開されます。多少強度も高められていますので、時間稼ぎ程度にはなります。使い捨てですが」


「なるほどなー」


 そういう魔法薬なのね。『魔道具作成』ってある程度なら魔法薬も作れるらしいから便利だなぁ。


 ちなみに、これに『白銀の林檎』を使わない理由は『使い捨て』だからである。使ったらその場に放置するケースも考えられるので、少しでも知られたくない物は材料にしたくない。


 まあ、単純に今日作る物とは相性が悪いかららしいが。


「では、次は『魔除けのお香』を作っていきましょう」


「へい」


 材料をアイテム袋から取り出しながら、合いの手をいれる。


 思ったより見ていて楽しい。全然何をしているのかわからないが、それはそれこれはこれ。生で魔法の道具や薬が作られるのは中々に浪漫を感じる。これでテンションが上がらない健全な男子高校生はいない。


 それはそうと、今から作る『魔除けお香』は特に僕の林檎と相性が悪いらしい。


『アタランテと黄金の林檎の逸話』


 ギリシャ神話にあるお話なのだが、大雑把に言うとアタランテ。あるいはアタランテーという女狩人がいて。自分と結婚したければ徒競走して勝ってみせろと言ったそうな。


 かなり足が速かった彼女に勝てる者はいなかったが、挑戦者の一人が競争中に三つの黄金の林檎を一つずつ落としていって彼女の気を逸らし、勝利して嫁にしたという。


 その後も話は続くが、今は関係ない。問題なのは、『黄金林檎には人を引き寄せる力がある』という事である。それこそ、数々の伝説を残した狩人が勝負中に意識を逸らしてしまう程に。


 自分のは『白銀の林檎』だが、類似の力を持つ可能性があるとレイラは言っていた。初めてあの林檎を実体化させた時、自分達以外の視界に入れない方がいいとまで。


 今だって、時々『白銀の林檎』を植える鉢植えにはレイラが色々と細工をしてくれているのだ。両親の眼に触れない様に注意している。


 ともかく、そんな理由で『白銀の林檎』を使えないのだとか。魔力に引き寄せられて、逆にモンスターを誘引する可能性があるらしい。


 レイラがお香を作る様子を眺めながら、そんな事を考える。全てが全て、あれで解決するわけじゃないんだなぁ。


 ……まあ、木べらの方は固有異能の林檎の樹から作った物だが。そっちはいいらしい。


 なお、この後『阻害の茨』や『魔除けのお香』がとんでもない高額で取引されている事を知り、売ってしまうか本気で悩んだのは秘密である。


 ……今度、またあのダンジョンに行こうと思う。たぶんその時は凄い人でごった返しているから、まともに採取できないだろうけど。マンドレイクの自家栽培が許可されていたらなぁ。




読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.黄金リンゴって人を魅了する力ってあったっけ?

A.今作ではあると言うことで……。

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― 新着の感想 ―
[一言] レイラさんとの数々のプレイをノクタあたりで書けませんかねぇ…
[一言] むしろ白銀の林檎をマンドラゴラに接木すれば強いアイテムが出来たり? マンドラゴラは一説には死刑場に生えるとも毒草の一種である言われていたりするので林檎と合わせてモンスターの死体にぶっ刺して魔…
[一言] むしろ魔寄せの香を作って魔物を乱獲するとか出来そう。
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