第五章 エピローグ
第五章エピローグ
サイド 黄瀬 薫子
「おーい!生きてるか愚妹ー!」
『誰、がっ、愚妹だぁ……!』
ビルに背中から倒れ込んでいる翠のゴーレムに呼びかけると、うめき声と共に立ち上がる。
だが本当に立つのが精一杯らしい。左腕は欠損、頭部は半壊。全身無事な箇所なしという損傷具合は、逆によく本人は無事だったと褒めてやりたいぐらいだ。
絶対に言わないが。
「氾濫範囲内の巨人は殲滅しました。しかし、第二波が予測されます。ゴーレムの変更を」
『了、解……』
黒の巨人の輪郭がぼやけたかと思えば、頭部にあるあいつの腰に提げるアイテム袋へと格納される。
当然落ちてくる翠だが、途中でガルムが跳躍して背に乗せる事で安全に着地した。
「ありがとうございます……」
「構いません。負傷はしましたか?」
「いえ。私自身は問題ありません……」
少しは気分が落ち着いたらしい。いつもの猫を被った口調で桃花に返しながら、ガルムからおりる翠。
そのままアイテム袋から今度は四メートルほどの西洋騎士みたいなゴーレムを取り出した。
「流石に二十メートル級のゴーレムに予備はないですからね。ここからはこれで行きます」
「わかりました。葵の支援射撃を主体に戦いましょう」
「んー」
桃花の言葉にアイテム袋から取り出したペットボトルで喉を潤しながら、軽く右手をあげて応える。
いやぁ、流石にきっつい。全員限界が近そうだ。
翠はこういう時専用の主力ゴーレムを大破させ、桃花も使い魔への支援魔法で魔力切れが近い。かく言う私も腕の感覚がなくなってきていた。
まあ、念話で聞こえてきた葵の声だけやたら元気なままだったが。あいつはゴリラなので除外である。
「桃花、萌恵からの援軍はどれぐらいでつきそう?」
「……最速であと十分。普通に考えれば二十分といった所でしょう。有川大臣が紛れ込ませたドッペルゲンガーが邪魔で、自衛隊も政府もかなり動きが鈍い様です」
「そっか」
残り十分。いけそうでいけないかもしれない。下手をすればこの中から一人ぐらい死ぬかもしれないし、そうなったら二十分を待たずに崩れて全滅だな。
うーん……いざとなったら桃花だけでも逃がすかぁ。私と翠は確実に死ぬだろうけど、後々の事を考えたらその方がいい。
私達は生まれる時代を間違えたと思い、燻ぶっていた『屑』である。それを拾い上げてくれた萌恵と桃花には恩があるのだ。翠も同じ気持ちを抱いている。
それに……彼女らに出会って生きながらえたからこそ、生まれる時代を間違えるどころかドンピシャだったとわかったのだ。これなら後悔なく死ねる。
いや、やっぱ後悔はあるな。コミック黒薔薇の最新号まだ呼んでないし、冬コミだって行きたいし。
ふーむ……まあ悔いを残して死ぬのは道理と言えば道理。飲み込むとしよう。
「んっ」
強い気配を感じて剣を握る手に力を籠める。それに反応して桃花と翠も臨戦態勢になった。
視線をあげた先。無人となった街の中、黒く巨大な球体が現れた。
艶はなく溶岩が固まった様な黒。百メートル近く上空にあるのにハッキリと見えるその球体は、直径三十メートルはあるだろうか。ごつごつとした表面が、不思議と脈打っている気がした。
ぶわりと汗が出る。それは宙を浮かびゆっくりと落ちてくる存在からのプレッシャー……だけではない。
気温が上昇している。それも加速度的に上がっていっている様で、アスファルトの地面やコンクリの建物の表面が溶け始めた。あの球体に比較的近い場所のビルに至っては、既に溶けて崩れていっている。
ただ暑いだけでは説明できない溶け方だった。アレは恐らく概念的な、魔力による熱の放出。だからと言ってここまでというのは桁外だ。前例がない。
いや……似た様な話なら噂レベルだが聞いた事がある。
ドイツに派遣されたイギリスの覚醒者部隊。彼らが現地のダンジョンで遠くに似た様な球体と、そこから這い出てこようとする影を見たという報告だ。
熱のせいでカメラの類は壊れてその映像は残っていないが、もしや……。
「あちゃー、こりゃまずいわ」
そうぼやいて、ユニコーンの後ろから降りる。
「翠ー」
『……なんですか、馬鹿姉』
既にゴーレムに乗り込んだ妹に問いかける。どうせあっちも同じ事を考えているだろうけど、一応確認だ。
「お姉ちゃんと一緒に死んでくんない?」
『……しょうがないですね。一回だけですよ』
「サンキュー」
そんな冗談めかした会話。はて、こんな風に話したのはいつ以来だったっけ。
「待ちなさい。薫子、何故私の後ろから降りたのですか。第一、今の会話は」
「決まってんでしょ。あんただけ逃げろって意味。あ、でもユニコーンとフェネクス以外は借りていい?二人だけじゃあんまもたないかも」
「ふざけないでください。貴女たちに死ぬ許可を与えた覚えはありません。三人で挑み、応援の到着まで時間を稼ぎます」
「いやぁ、流石に無理だわ。逃げなって」
「この場の指揮官は私です。指示に従いなさい薫子。翠もです」
困った。わがままお嬢様モードに入っちゃったか。
じろりとこちらを見下ろし、手を差し出してくる桃花に兜越しだが頭を掻く。人間死ぬときゃ死ぬんだから、順番ぐらい守らせてほしいものだ。
私らが先。あんたは後。ただそれだけだってのに。
「桃花ぁ。あんたこんな所で死んじゃダメな人間でしょ?優先順位を考えなよ。あんたが死んだら、桜井家はどうすんのさ」
「その心配は無用です。私と萌恵ちゃん。そして貴女たちとなら、どんな困難でも乗り越えられるはずです」
ダメだこりゃ。聞く耳もってくんねーもん。ピラトゥスドラゴンが私の背後に陣取っているし、こりゃ力ずくでも自分の後ろに乗せる気ね。
だがあまり悠長にしている時間もなさそうだ。
「葵、発射用意」
『了解しました』
木札で指示を出し、すぐに例の球体へと矢が降ってくる。音の壁を何枚か破って突っ込んでくるそれらを受けて、しかし未だ無傷だ。
いくつもの爆炎と轟音が響くも、球体はゆっくりと高度を下げてくるだけ。
あと二十メートルで地上。その時、ピシリとヒビが入った。
―――瞬間、膨大な熱量が街を包み込む。
景色が赤く染まり、建物が、いいや地面さえも溶解するか灰になる。そこらに放置されていた逃げ遅れた人々の遺体さえも灰塵と化し、溶けていく景色に飲み込まれた。
腕だ。腕が生えている。
球体の上部にできたヒビを内側から割る様に、巨大な腕が突き出ているのだ。煌々と輝くその腕は歪んだ視界のせいでぼんやりとしか見えないが、筋骨隆々とした戦士のもの。
続けてもう一本の腕が同じ個所から突き出され、左右に球体を割りひらいていく。出てこようとしているのだ。あの球体に眠っていた、何かが。
「翠!」
『ごめんなさい桃花さん!』
「っ!?」
桃花が腕で熱風から目を庇っている隙に、翠のゴーレムがユニコーンごと抱えて思いっきりぶん投げた。
あいつなら着地ぐらいどうにかするだろう。ピラトゥスドラゴンに目くばせすれば、その穏やかな瞳がまるで問いかける様にこちらに向けられていた。
それは、私の身を案じるかの様だった。
「死に場所として不足はないわ。あんたも付き合ってくれる?」
故に、ことさらに明るい声でそう言ってやる。萌恵たちに拾われた時に、本当は死んでいるはずの命だ。使うなら、今しかない。
『───オオオオオオォォォ………!!』
ピラトゥスドラゴンが咆哮をあげ、首を垂れてきた。なんだ、お前も主人を生かすためなら死んでもいい口なわけね。
遠慮なくその頭部に乗せてもらい、両手で剣を構える。
徐々に姿を現す炎の巨人。燃え盛る様に逆立つ炎の髪。腕同様輝く逞しい肉体。その双眸はまだ閉じられたまま、腰から下も球体に埋まったままだというのに、相対しただけで全細胞が悲鳴をあげているのがわかる。
挑めば死ぬ。抗えば地獄が待っている。アレはそういう存在だ。
「ハッ!」
だからどうした。むしろこれは誉と喜ばねば無礼だろう。想像が正しければ、海の向こうの国にて一つの神話が終わる時に現れた巨人の中の巨人なのだから。
球体のヒビが更に増えていく。完全に奴が地上に現れた時、はたして関東圏に安全な地があるのやら。
故に、まだ不完全な状態のうちに一太刀いれる!龍が天を駆け熱風に抗い前進する。それだけで鱗は赤熱し、私の身もまた焼かれていった。
狙うは首から上。この剣ならば強度など無視してかち割れる。問題は、刀身と腕がその前に使い物にならなくなる可能性。
……先に逝くわよ、翠。
「おおおおおおおおおおおおおお!!!」
後悔も恐怖も振り払い、ただの戦士として敵へと迫る。
さあ、この黄瀬薫子の生涯最後の一撃!とくと―――。
『YUUURRRRYYYYYYY────ッ!!!』
白銀の彗星が、通り過ぎていった。
「……は?」
理解が追い付かない。破壊と破滅の象徴である炎の巨人はどこにいった。
まさか、いやないと思うが。あそこで半壊しながら落ちていく球体しか残っていないとでも?
『どこですかシルバー!我らが守るべき花が手折られようとしています!近くにいるのでしょう、シルバーリリィ!!!』
彗星が通り過ぎた衝撃で吹き飛ばされたピラトゥスドラゴン。どうにか体勢を立て直す龍の上で、更に上空を飛ぶ何かを見やる。
所々焼け焦げ、今にも崩れてしまいそうなチャリオット。そして、あちこち黒くなった白銀の鎧を身に纏った誰か。
そいつは意味不明の事を叫んで旋回したかと思ったら、チャリオットを消してどこかに……いや。氾濫の中央地点の方に跳び下りていった。
「なに、あれ」
思わずそう呟いた私は悪くない。
応援が到着するまでまだまだかかると聞いていたが、まさかアレが噂に聞く『花園加恋』?
政府側も彼女の情報はトップシークレットらしく、うちにも碌な情報が入っていないが……制御は難しいと聞いた。そんな人物が恐らくかなりの無理をしてまで飛んでくる理由が、ここにあったと?
いや、今はそんな事は後回しだ。
炎の巨人が消えた直後、もはや跡形もなくなった街に続々と巨人たちが実体化していっている。再出現が始まったのだ。
余分な思考は不要。目の前の敵を撃滅する事だけを考えなくてはならない。
後方から蹄の音も聞こえてきているが、それも今は無視する事に決めた。
* * *
サイド 郡 凛
「う、ぐぅ……」
瓦礫を押しのけ、剣を杖代わりにしながら立ち上がる。しかし視界はグラグラと揺れ、思考も定まらない。
よりかかろうとしたビルの瓦礫は、しかし触れた瞬間崩れてしまい地面に跪いてしまう。
こんな事をしている場合じゃ、ないのに……!
胡桃が最後にいた場所を目指してここまで飛ばしてきたが、そこは巨人たちの暴虐に飲み込まれていた。更に悪い事は重なる様で、フォートへスターが追ってきていた覚醒者により負傷してしまったのだ。
それでもと自分を鼓舞し彼女から降り徒歩で今のこの街を移動するのは、流石に無謀だったと痛感する。
単騎では勝ち目のない巨人たちの視線を逃れ、遠回りばかりで目的地には一向に近づけずグルグルと回るばかりだった。それどころか魔力濃度や巨人によって亡くなった人達の遺体を安全な所に運ぶ余裕すらなく、心身ともに疲弊していくだけ。
それでも自衛隊が来たのか爆音が何度も響いて、気づいたら巨人はいなくなっていた。
己の無力さをより深く実感するが、事態の解決に来たのだろう自衛隊にも助けを求めるわけにもいかず、できるだけ隠れて目的地に向かっていたが……。
そこで、凄まじい熱を感じたのだけは覚えている。しかしそこから先は思い出せない。一瞬だけ金色の髪を見た気がするが……疲労のあまり、胡桃の幻影でも見たというのか。だとしたら笑えない。
もう一度剣を地面に突き立て、体を起こした。
大丈夫、まだ戦える。走れる。胡桃を助けに行ける……!
「っ……はぁ……はぁ……!」
ようやく視界が定まってきた。崩壊しきった街並みに一瞬愕然とするが、すぐにまた歩き出す。
見晴らしが良くなっている。すぐに身をひそめられる場所に移動しないと、巨人たちに……!
―――ずぅぅん……。
「っ!」
巨大な足音がすぐ近くでした。体を隠せる場所はないかと視線を巡らせるが、あるのはまるで溶け落ちたかのように原型を留めていない建物の残骸ばかり。すぐに奴らの視線を切れる物はなかった。
……まだだ。まだ諦めない。
音のした方向を見れば、そこには一体の巨人が駆けている。真っすぐとこちらに走るそいつの手には、巨体に見合った塔の様な槍があった。
あれを受ける事はできない。足の小指を切り落とし、バランスを崩した所を駆け抜ければ……!
「待っていて、胡桃……!」
両手で剣を構え、駆けだし―――。
「ちょっ、待った待った!落ち着いて!!」
突然そんな声がして、立ちはだかる人影が一つ。
「え?」
思わず素っ頓狂な声をあげる。
それはあまりにも美しい少女だった。
砂金を集めた様な黄金の髪は足元まで伸び、ツインテールに纏められている。見に纏う魔力の影響かそれはふわりふわりと宙にただよい、それでいて砂埃で汚れる様子もない。
白雪の様に美しく、磁器の様にきめ細かい肌。黄金比と呼ぶに相応しい端正な顔は同年代ぐらいなのに妙な色気がある。だが、今はその顔を年相応の様に慌てさせていた。
古代を舞台にした演劇に出てくるような恰好で、片目を眼帯で塞いだその少女がわたわたと手を振っている。
「だ、駄目です『ゴールデンギター』さん!今は私の魔法で姿を隠していますから、攻撃しなければ見つかりません!」
「は、え?」
なんで私の投稿者としての名前を?いや、それ以前になにを言って……。
そうこうしている間に巨人との距離はもう目と鼻の先にまで来ている。慌てて少女を庇う様に剣を構えるが、どうにも奴の視線が明後日の方向を向いている様に思えた。
警戒しつつも観察していれば、その巨人は走り去ってしまった。
「いったい何が……」
「だから、私の魔法です!今私と貴女には幻影がかかっていて、どんなモンスターも覚醒者も私達だって見破れません!いや、魔眼はちょっと厳しいですが」
自信満々に胸をはってそう言ったかと思えば、彼女はそっと隻眼を逸らす。
コロコロと表情が変わるその少女に、何となく一歩だけ距離をとった。
「君は……誰……?」
「あ、そう言えばまだ自己紹介をしていませんでした!」
その少女は小ぶりな胸に手を当て、低めの身長を大きく見せたいのか少しだけ背伸びまでして答える。
「私は『シズク』!シズク・リンドバリ。貴女のファンです、『ゴールデンギター』さん!!」
言ってやったぞとばかりに「ふんす」と鼻息を出す、幻想的な雰囲気を自ら台無しにしている少女。
シズクと名乗った彼女に、自分はこんな状況だというのに首を傾げるしかなかった。
* * *
サイド なし
公立の文化センター。そのフロアの一つ。しかし、この光景を見て何人が信じるだろうか。
床を、壁を、天井を覆う樹の根の様なものたち。いっそ神秘的な雰囲気さえあるその場所の中央に、巨大な柱がある。
ともすればこの建物自体を支えているのかと思うほどのそれは、緑色の光を内側から発していた。
「中々に強情だね、まったく」
その柱の傍に立つ一人の男。
仕立ての良いスーツを着こなす、整った顔に胡散臭い笑みを浮かべた人物。有川琉璃雄ダンジョン対策大臣その人である。
彼がそう話しかけるが、柱は……柱の中にいる少女は答えない。
ギチギチと音がなる柱の内部。そこでは一人の少女が己の周囲に緑色の光を鱗状に展開し圧殺せんと迫る樹を防いでいるのだ。
妖精の様なその少女、伊藤胡桃は白い肌に玉のような汗を浮かべ必死に結界を維持する。喋る余裕もないと、歯を食いしばる彼女に有川大臣がまた語り掛けた。
「気になっているんじゃないかな。君のご両親について」
「っ……!」
ピクリと胡桃の眉が動く。樹が邪魔で彼女の顔が視えていないだろうに、有川大臣は楽し気に続けた。
「さっきも言ったが、君が視たアレは間違いなく今のご両親だよ。多少、顔が変わってしまったがね」
「……だ」
「おや」
「嘘だ……!」
絞り出すように響いた声に、有川大臣はややオーバーに肩をすくめてみせた。
「酷いな。私は誠実が服を着ている様な男だよ?こんな嘘をつくわけないじゃないか」
「本当の、お父さんとお母さんは、どこにいるの……!」
明らかに怒気が混ざった声と、胡散臭い声がフロアに響く。
「認めがたいかい。ご両親が人ではなくなったのが」
「答えて……!」
「答えているよ。君のご両親は、人ならざるものになった」
「……こ、のっ……!」
僅かに、柱が膨らむ。
「お前が……お前がお父さんとお母さんを……!」
内側から胡桃が魔力の放出量を上げ、突き破ろうとしているのだ。
「そうだよ、私が君の両親をああした」
「殺す……!殺してやる!絶対、絶対に――」
「そんなに怒る事かい?人を望まぬ存在に変えるのは、君だって同じなのに」
「………!?」
ピタリと、柱の膨張が止まる。
「郡凛くん。君のお友達らしいね。数年前から動画投稿サイトに自分の歌った曲を出して、コメントで将来の夢は歌手であると語っていたっけ」
有川大臣が柱の周りを歩き始める。
「だが最近は投稿が止まっている。人気が出始めた頃だというのに、ね」
「やめ、て」
「まあ、彼女の固有異能を考えれば不思議ではないが」
「やめて!」
「やめないとも。友人の、いいや思い人の夢を奪った少女よ」
「ち、ちがっ」
「違わないさ!」
柱に手を押し当て、有川大臣が力を籠める。
それに押される様にして結界が縮まりだした。彼の細腕では大した力は加えられないだろうに、しかし少しずつ胡桃が押されていく。
「酷い子だ。大切な人の、一番大切にしているものを奪うなんて。いいや、それだけじゃない。その傷につけこんで、まるで自分だけが理解者であるように振る舞う。これほど浅ましい存在がいるかな?」
「わたし、は」
「罪を償いたいと、思わないのかい?それとも人命救助のためだから仕方がなかったと?そもそも、君がしっかりしていれば防げた事態ではなかったのかな?」
ギシギシと、結界が軋みだす。
「……私が、チャンスをあげよう」
「なにを……」
「償えるチャンスだ」
有川大臣は表情を変える事なく続ける。
「私なら君の大切な人の声を、元通りにしてあげられる。だから、その為に力を貸してほしいんだ」
「ふざけない、で……お父さん達をあんな風にしたお前なんか、信用できない!」
僅かに結界が広がり、大臣の手が押し戻される。
「おやおや。まあ信じられないと言われるのは慣れているさ。しかし……本当に、あのご両親が君のご両親ではないと思うのかい?」
「当たり前でしょ、だって……!」
「気づかなかっただろう」
「そ、それは」
「声も、顔も、喋り方も、記憶も。そのままだったはずだ。確かに種族は変わってしまったが、それだけじゃないか」
ピシリと、結界にヒビが入る。
「いいんだ。気づかなくって当たり前なんだ。だって同じなんだから」
「ち、違う」
「まだご両親は生きている。会わせてあげよう。だから――」
一発の銃声が響き渡る。
ゆっくりと振り返る有川大臣。彼の視線の先。通路と繋がる暗い空洞から、死体が一つ倒れてきた。
首から上を失ったスーツ姿の女性の身体。それの横を、銃を構えながら通り過ぎる男が一人。
「仲間の姿を別の顔にも変えられるとは、恐れ入ったよ。随分と器用じゃないか」
フレームのない眼鏡をかけたその男性に、有川大臣は歓迎する様に両手をひろげてみせる。
「それはありがとう、東郷。久しぶりだね」
「……だが、話術の方は不器用過ぎる。随分と焦っている様だな、化け物」
東郷美代吉――本名、西園寺康夫。公安の職員である彼が、青白い顔にいくつもの汗を流してそこにいた。
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