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第百二十七話 最悪の更に下

第百二十七話 最悪の更に下



 高層ビルの立ち並ぶ文明の溢れた街は、出来の悪い英雄譚の劇場と成り果てていた。


『■■■■■■■■────ッ!!??』


『ハハハハハハハハハ!!アハハハハハ!!!』


 巨人から奪った剣を振るい、敵の首を刎ねる黒のゴーレム。まだ三体の敵に囲まれていると言うのに、その狂笑は止まらない。


 他の個体が振り下ろした斧を、突き出した槍を、叩きつけてくる巨大な剣を受けながら平然と反撃を繰り出す姿は彼女こそが本当の怪物であるかの様だった。


 だが不壊不滅の存在などではない。裂かれた左肩は脱落寸前であり、抉られた脇腹からは赤い魔力が血の様に流れ、持ち主の死亡から実体を保てなくなった剣は相手の得物を受けきれずに頭部への攻撃を許していた。


『いってぇなぁ!おい!!』


 だが、黒の巨人はやはり止まらない。


 半壊した顔面。その奥から覗くのは紛れもなく黄瀬翠さんその人であった。


 妖精の様な魔装を纏った彼女が、眼を閉じたままいくつもの赤い光帯に縛られている。だが、その口元には笑みさえ浮かべて、ゴーレムを動かし続けていた。


『だがこうでなくっちゃぁ!楽しもう、最期まで!』


 千切れかけの左腕でわざと攻撃を受け槍持ちの間合いに入るなり、その首を掴んで後ろから斬りかかる斧持ちの攻撃の盾にする。


 そして素早く首を放すなり右手の五指を揃え、その膨大な質量をのせて突貫。剣持ちへと接近した。


 当然迎撃として振るわれた横薙ぎの一閃を、身をかがめ地を這う様な姿勢で回避。騎兵のランスチャージがごとく駆け抜け様に巨人の胸を貫手で抉り飛ばした。


 それによって血潮がビルを濡らし、倒れる巨人が建物の上に寄りかかり倒壊させていく。


 人類の文明など全否定するような光景。これが、『神代』。


『聞こえますか、大川君』


「はい」


 木札を手に返答する。


 自分達はビルからビルへと移動する事で巨人たちの目を逃れ、氾濫の中心と思しき場所に向かっていた。


『現在、萌恵ちゃんが自衛隊と交渉中です。有川大臣が事前に強力な民間覚醒者達にダンジョンの間引き依頼をしていたらしく、そちらに引っ張られていた方々を応援として送ってもらえないか話しています』


「それは心強い。本当に」


『こちらのコネクションも使っていますが、陸自の水無瀬三佐や防衛装備庁の矢島部長からも貴方の事を聞いて支援を送る様に進言してくれています。良い縁をもちましたね」


「……はい。自分には身に余るほどに」


 また借りが出来てしまったな。


 これでも自分だって大人の世界に足を踏み入れていると思っていたけど、結局は誰かにケツを持ってもらっている。それが少しだけ歯がゆい。


『卑下する事はありませんよ、大川君。これは君が助け、仕事をこなし、会話をする事で作った縁です。貴方だから作れた。自信を持ちなさい』


「は、はい」


『そして、これを恩と思うのなら後で返しに行きなさい。それでいいのです』


「はい!」


 木札から聞こえる落ち着いた声に頷く。


 そうだ。何をこの鉄火場で考えているのか。自分がすべきはここを無事に乗り越え、全員で帰還しこの借りを返す事だ。


『話を戻します。現在、この場に確認できている巨人の総数は五十七体。いずれも理性をもたず、本能のまま暴れています。統制はとれておらす、動きも粗雑。恐らく有川大臣に化けたモンスターが操っていると予測されます。方法は不明ですが、ね』


 桜井さんの話を聞きながら、ガラスのなくなった窓から外を窺う。黄瀬さんも移動したらしく、この周辺に巨人の類は見えない。リーンフォースも何も言わない事から間違いないだろう。


『貴方達が向かっている場所に公立の文化センターがあります。そこを守る様に巨人たちが巡回しているのが確認できました。今から奴らの注意をひくので、その隙に突入してください。また、その建物が別のダンジョン化している可能性があります』


「別のダンジョン?」


 まさかダンジョンの中にダンジョンみたいな、マトリョーシカじみた事が?


『ええ。勿論この予測が外れている可能性もありますが、当たっていた場合この念話は使えなくなると考えた方がいいでしょう。あるいは、よほどダンジョンに損傷が出る様な事があれば……これは、あまり現実的ではありませんが』


 確かに。ダンジョンの外壁……通常は次元の狭間がどうたらで視認できないが、氾濫の中ならばあの黒い天蓋の事を指す。そして、アレが地面につきその内部を膨張させたダンジョンの場合も同じだ。


 あれは通り抜ける事だけなら地面につく前なら可能だが、干渉する事は極めて難しい。空間系の魔法使いが数十人で儀式を行うか、あるいはそれに匹敵する膨大な魔力をぶつけるか。


 地面についた後は、どんな攻撃も『位相』とやらが合っていないとかで破壊できないらしい。新宿を覆うあの黒い壁をどうにかしようと政府も尽力してきたが、未だに広がるのを防ぐのが精一杯だと聞いた事がある。


「というより、その文化センターとやらが天蓋に覆われていた場合ゲートを探す事になるわけですか」


『いいえ、探す必要はありません。本来正面玄関があった位置にゲートと思しき物が視えています。また、外観も普通ではありませんでした。私も使い魔越しに確認しただけなので、後はご自身の眼でご確認ください』


「わかりました。何から何までありがとうございます」


『いいえ。こちらも貴方の働きに期待している立場です。有川大臣の件、頼みましたよ』


「はい」


 ……今更だけど、『騙して悪いが』的な事ないよね?


 いや、それはないか。有川大臣が人外であった以上、もはややる事は決まってしまっている。


 ……一応、確かめるか。


「桜井さん、質問いいでしょうか?」


『今使い魔達で誘導をしている所ですので、敵が交戦地点に着くまででよろしければ』


「ありがとうございます」


 深呼吸を一回。気持ちを落ち着かせる。


「有川大臣が化け物に入れ替わっているとして、人間に戻す事は可能ですか?」


『……恐らく不可能です』


 ここで断言ではなく『恐らく』と入れたか。汚れ仕事だけ押し付けて『はいさよなら』はなさそうだ。それだったならもっと言い方があるだろう。というか、これ以上探る時間はない。


 心理戦とか無理なので、もう一個の懸念事項について話を進めていく。


「その『恐らく』の部分についてお聞きしても?」


『奴ら『ドッペルゲンガー』には大本の存在がいます。それが有川大臣であると我々は確信を抱いていますが、彼を魔眼持ちに見てもらっても首から上に異変は見られませんでした』


「なら、どうして彼がモンスターであると?」


『状況証拠と信用できる筋からの情報。これだけでは不服ですか?』


 不服……と言いたいが、自分としても彼が黒だと思うので口に出して否定はしなかった。


『話を戻しましょう。通常、ドッペルゲンガーは変身先の首から上を食べて入れ替わります。その際、完全に生命活動が停止する前に頭部の機能を自分達で代替するため、奴らは存在を維持する魔力を入れ替わり先から持続的に得る事ができます。また、分裂した仲間を人間の顔と入れ替える能力も推測されています』


 え、なにそれえっぐ。


 頭を失ってもほんの少しの間は生きていられると聞くが、すぐさま頭の機能を再現して『生きている』状態にしているって事?なんだそのインチキ。


 だが、それなら人間社会に潜り込めるのも納得がいく。抱えている同族を人間と入れ替える時以外は人を襲う必要がなく、その際に死体が出る事もない。


 推定されるランクは会見の映像的に『Eランク』。高くても『Dランク』。なるほど、それなら魔力消費も人間一人分の供給で問題ないか。


『つまり、入れ替わられた人間を助けようと思えばドッペルを排除後に間髪入れず失われた頭部を復元する必要があるのです』


「それは……無理ですね」


 部分的な脳の再生なら『白魔法』でできたとテレビで聞いた事がある。しかし、首から上を丸ごとというのはかなり難しいはずだ。それも、首から上を失って残り数秒の猶予すら怪しい状況からなど。


 失った脳を治して、それでその人が本物なのかという倫理問題は置いておくとしても。単純に難易度が高すぎる。


 一瞬自分ならいけるかと思ったが、それはそれでリスクがでかい。


 あいにくと自分は聖人ではないのだ。他人の為に今後の人生ぶん投げるような事、『ワンチャンあるから』で実行できない。


 ただ……。


「有川大臣が―――」


『失礼。時間切れのようです』


 視線を黄瀬妹さんが暴れている場所とは別の方角に向ける。すると、青い光の混じった爆炎がビルごしにも見る事ができた。


 さっきから時折響くこの爆音はいったい何なのだろうか。自衛隊が魔力を籠めたミサイルやら砲弾を撃っているのかと思ったが、どうにも違う気がする。


『戦闘に入ります。そちらは任意のタイミングで突入を。返事ができるかわかりませんが、その際には一言お願いします』


「わかりました。失礼します」


 念話を終え、木札を剣帯の間にねじ込む。


「レイラ」


『分の悪い賭けかと』


 聞きたい事はわかっているとばかりに、脳内で彼女が答える。


『ですが、最後の判断はお任せします』


「……責任重大だね」


『ええ。主様が死んだ時、私はもちろん雪音とリーンフォースも終わる事をお忘れなきよう』


「ああ」


 一応、彼女らの事に関しては自分がうっかり死んだ時どうにかならないか法律の抜け道を探ったが、いい手段は見つからなかった。


 このパーティーは自分が死んだらそれで終わる。つい先ほど話に出ていた『ドッペルゲンガー』とやらを笑えないな。


 だからこそ、『あの可能性』について頭の片隅で考えておく必要がある。


 今の日本は薄氷の上……いいや。有川大臣に化けた怪物によりそれも叩き割られた。そのうえで、自分が彼女ら三人と暮らしていくには。更に両親や友人達とも笑って過ごせるようにするには何が最善か。


 ……ほんと、僕こういう頭脳労働苦手なんだよなぁ。


『申し訳ありません。実は私も頭を使うのは得意ではありませんので』


 それでも僕よりは頭良いじゃん絶対。


 茶目っ気を出しながら囁くレイラに内心で肩をすくめながら、剣を担ぎ直して雪音達に振り返る。


「これから例の地点へ一気に近づく。二人とも、準備はいい?」


 そう問いかけた瞬間、雪音が目をキラリと輝かせた。それとほぼ同時に何故かリーンフォースが兜を脱ぐ。


 長い金髪を白い布でまとめた彼女は、相変わらずの無表情のままこちらに片膝をついてきた。


「本機は、感情の類を持ち合わせおりません」


「え、あ、うん……」


 突然の事に驚いているうちに、左手を握られた。金属鎧同士がガチャリと音をたてる。


「戦うために作られ、愛でられるためにこの顔を与えられました。そして、これまで御身の盾として、兵器として傍に侍らせて頂きました」


 リーンフォースがその人形の様に……いいや、事実人形として作られた美しい顔をこちらに向けた。


 エメラルド色の瞳が、こちらをじっと見上げている。


「その日々に、充足も不満も抱いた事はありません。それでも。どうかこれからも、本機に貴方を守らせてください。マイスター。この身は、その為にあるのだから」


「リーンフォース……」


 複雑な感情を抱く。


 彼女を作り出したのはレイラであり、それに同意したのは自分だ。この姿になるのは予想外だったけど、それでも生み出した側の人間である。


 そんな自分を守る事が存在意義だと言う彼女に、悲しみと嬉しさがこみあげてしまった。我ながら、浅ましい男だと思う。


 しかし、だからこそ。


「ああ、これからもよろしく頼む。リーンフォース」


「了解しました。マイスター」


 そう言って、リーンフォースが籠手に包まれたこちらの手の甲にキスをした後立ち上がる。


 そして、その毅然とした騎士の様な態度のまま言葉を続けた。


「というのをやるとマイスターが喜ぶと雪音が言っていました」


「突然の裏切り!?」


 さらっと告げられた言葉に雪音が目を見開く。


「雪音……?」


 え、なにさっきのやり取りゴリゴリに台本あったの?というかこの緊急時に何やってんの?


 そういう視線を彼女に向ければ、両手の人差し指をつんつんしながら雪音は視線を逸らした。


「だ、だって時々旦那様は悩み過ぎる所がありますから。ワタクシ達はどこまでも貴方様についていく覚悟ですよー、と知って頂きたく。本当はこの後ワタクシもいい感じの事を言って一致団結という流れにですね……」


「音声データを録音しております。雪音が『ワタクシがここで『めいんひろいん』なる者の様な事を言って東郷何某に圧倒的な正妻力の差を見せつけてやります!!』という発言を再生しますか?」


「リーンフォース!?なんだかワタクシに厳しくありませんか!?」


「本機の最優先対象はマイスターとドクターです。その存在への虚偽は許されません」


「虚偽じゃない、虚偽じゃないのです。こう、現代の言葉で表すなら『えもい』なるものをですね。旦那様に提供して『てぇてぇ』なる感情を」


「理解不能」


「おわかりになって!?」


 ……なんというか、真剣に悩んでいた自分がアホに思えてきた。


「雪音」


「ひゃい!?違いますのよ?決して旦那様に男色の気があるとは疑っておりません。ただ二刀流の可能性といいますか、万が一にもワタクシ達の夫婦生活にですね」


「ありがとう」


「はえ?」


 何やら言っている彼女に礼を言って、軽く肩を回す。


『考えは纏まりましたか?』


「全然。けど、とりあえずやる事は定まった」


 雪音達にも聞こえる様に魔力で空気を振るわせるレイラに答える。


 そうだ。我ながら優先順位を忘れてはいけない。確かに将来の事とか、家族友人知り合いその他の事とか、色々とあるだろう。


 だがまず考えるべき事は一つ。いいや二つ。


「この氾濫を起こした奴をぶん殴る。そして、帰ろう」


『はい!』


「了解」


「へ、あ、はい!勿論です!」



*   *   *



 ようやく氾濫の中央が見えてくる。魔力の温存のため極力戦闘を避けてきたのもあって多少遠回りしてしまったが、無事にここまで来られた。


 そして、目の前の異様な光景に思わず兜の下で顔を引きつらせる。それでも理性を働かせて剣帯から木札を引き抜いて顔に寄せた。


「……目的地と思しき場所に到着。何かの建物が、樹と融合しています」


 コンクリで出来ているのだろう近代的な建物が、巨大な樹と一体になっていた。


 各階層の間に樹木の太い幹がいくつも挟まり、その高さを上げている。壁面にも蔦や枝葉がまとわりつき、もはやその下も原型を留めてはいまい。更には建物周辺が木の根に押しつぶされていて景色すら変わり果てていた。


 童話に樹と家が一体になっている場面がよくあるが、あれを巨大に。そしてどこかおぞましくした様な光景だった。


 足が止まってしまったが、迷っている暇はない。この『樹木』を直視した段階で、最悪の仮説が確信に変わった。



 これは……今回の一件は、『林檎』が関わっている。



 物的な証拠はない。だが本能的に理解してしまう。この樹に宿る力は己のそれと酷似していると。なんなら、あっちの方が上かもしれない。


 固有異能の共鳴……なんて、聞いた事ないけれど。それでも『ありえない』と否定できないのが神代というやつか。


 とんでもない事になった。これだけでも『最悪』と言いたいのに、下には下があるらしい。魔法に疎い自分でもわかってしまうほど『良くない事』が起きている。


「レイラ、これはもしかして」


『はい。間違いなく龍脈に直接つながっています』


 木札に聞こえない様レイラに問いかければ、脳内にそんな答えが返ってきた。


 龍脈。地球に走る莫大な魔力の流れ。それを吸い上げる様に、あるいは楔となる様にこの不可思議な樹の塔は繋がっている。


 どう考えても自然に起きた事ではない。どこの馬鹿かは知らないが……いやたぶん胡散臭い面の大臣に擬態した化け物だけども。絶対に碌な事にならないのは事実だ。なんせ自分がもつ林檎ですら、魔法の媒体にすれば凄まじい効果をもつのだから。


 どんな人間より多い魔力を持っている龍脈に、恐らく凄まじい力を持っている魔法の杖。これをやったのが有川大臣に化けているモンスターだとしたら、いったい何をするつもりなのやら。


 もう一度深呼吸。鼻から吸って口から息を吐く。


「桜井さん。大川です。これより建物内部に突入します」


『────ご武運を』


 返事はないだろうと思ったが、言いつけだったので発した言葉。それに一言だけ返って来て少し驚き木札へ視線を向けるが、それ以上の言葉は発せられなかった。


 代わりとばかりに、未だ爆音が遠くから響いている。


 沈黙するそれをアイテム袋にねじ込み、剣のリカッソを掴み槍の様に持ち直した。もはやここまで来たら後は進むのみ。一度だけ彼女らに視線を向ければ、力強い頷きで応えてくれた。


「すぅ……全員、突入!」


 建物の正面玄関だった場所。そこにある白い扉に駆け、内部に跳びこむ。異界の中に入った時特有の違和感を覚えた後に、踏みしめた床は普通のタイル張りの床だった。


 しかし、内部の景色は外観通り異形のもの。


 壁も天井も木の枝で覆われ、柱には蔦が巻き付いている。照明は枝の隙間から光を出しているものの、はたしてそれは電気によるものなのか、ダンジョン由来のものなのか。


 少なくとも剣を振るうには問題ない広さだと判断し、順手に持ち替えながら周囲を警戒する。


 その時、リーンフォースが声をあげた。


『魔力反応あり。数は一、十時方向の柱の裏です。人間です』


「え?」


 今人間って言った?


 彼女の声に従いそちらを向ければ、そこから人影が一つ姿を現す。


 一言で表すなら鎧武者。戦国時代にでもいそうな恰好のそいつは、やけに傷ついている。大袖は右側がなくなっており、兜も大きなヒビが入っている。胴の所にいたっては脇腹の辺りがゴッソリなくなって血の滲んだ包帯が見えていた。


 あれは……まさか。


「大川、か……?」


「さ、酒井先生!?」


 やっぱりか!かなりボロボロで一瞬わからなかったが、授業の時見せてもらった彼の魔装である。


 鍔近くで折れた日本刀を手放し、先生が柱に寄りかかる様にして跪いた。


「ぐ、ぅぅ……」


「ちょ、大丈夫ですか!?レイラ、治療を!」


「はい!」


 合体を解除しレイラに出て来てもらい、タクトをかざす。ついでに後ろ手にハンドサインをしてから接近。彼の面頬を外させてもらう。


 桜井さんの話では、ドッペルゲンガーは魔眼持ちが直接顔を見れば判別できるはずだが。


「なんで、お前がここにいるんだ」


「いえ、それはこっちのセリフですけど……」


 どうやら本物らしい。レイラが彼の傷口を『白魔法』で治療している横で、リーンフォースと雪音が周囲を警戒する。


 それらは彼女らに任せ、自分は酒井先生から話を聞く事にした。


「俺は、昔の友人と有川大臣を追っていてな……だが、途中で氾濫が起きてこのざまだ」


「え、先生も大臣を?」


「お前も……?そうか、桜井自動車か……!」


 何かを察した様で眉間に皺を寄せた後、彼は強く目をつぶった。


「……いや、俺が怒るのは筋が通らない、か」


「先生?あの、よくわかりませんが今は体を休めてください。かなり傷が――」


「大川、頼みがある」


 こちらの言葉を遮り、酒井先生が襟を掴んで顔を引き寄せてきた。


 彼のどこかクマを連想させる目が、迷う様に揺れる。


「俺の友人を、『東郷』を助けてくれ……!」


 先生の口から出て来た予想外の名前に、一瞬頭が真っ白になった。


 東郷さんがこのダンジョンにいる?


「魔法薬を持っているはずだから魔力濃度で死ぬ事はないだろうが、先行していた奴の行方がわからん。合流はできなかった。悔しいが、俺ではここのモンスターに手も足も出なかった。外の状況はわからないが、この建物には『Bランクモンスター』が徘徊している」


 床に転がる折れた刀に視線を落とした後、酒井先生が続けた。


「頼む……あいつは、ここで死ぬつもりかもしれない……」





読んで頂きありがとうございます

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。

明日、今章のエピローグを投稿させて頂く予定です。少し中途半端な所ですが、次の章。というか最終章との文量の調整的にここで区切らせて頂きます。

物語も終わりが近付いてまいりました。どうか皆さま、今作を最後までよろしくお願いします。


Q.Aランクの後にBランクって格落ち感ない?

A.本来顔見せイベントモンスターの巨人をジャイアントキリングするバケツがおかしいだけです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の方も同様なことを大勢書いていらっしゃいますし、 自分まで書かなくてもいいかなぁと思いはするのですが、 やはりこの一言は書き込まなければと思う次第でもあり、 こんな中身のない感想を書…
[良い点] リーンフォースがゴーレム故に堅すぎるのか、それともコメディさんの仕業か、熱い展開来たって思っていたら、裏話完全暴露(笑) この緩い感じが京太朗君らしくていいかも。 (*´▽`*) [気にな…
[一言] 雪音「ほらぁ!やっぱり東郷何某が『めいんひろいん』しにきたじゃないですかぁ!」
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