閑話 郡凛の疾走
閑話 郡凛の疾走
サイド 郡 凛
「ここは私達に任せて、行って!」
「凛さんが化け物なわけねーだろぶっ殺すぞぉ!」
「ケツから手ぇ突っ込んで内臓引きずり出してやる!」
「凛様に害なす者は死ね。いや殺す」
自分を追いかけてきた覚醒者の人達。それを食い止めてくれる友人達に振り返る。
「ごめん、皆気を付けて!!」
「「「はい!」」」
魔装を展開したまま走り、路地を曲がった所で跳躍。一足でその辺の建物の屋上へと着地し、また跳躍。
屋上、電柱の上、民家の屋根。心の中でごめんなさいと言いながら、屋根瓦が足元で割れるのを感じながらひたすらに移動し続ける。
突然友人達がやってきたと思ったら告げられた、有川大臣から私を標的として出されたという『討伐令』。
いったいどうしてそうなったのかはわからないけど、有川大臣の襲撃犯は人に化けるモンスターに唆されて起きたもので、その化け物の首魁が自分だと言われているらしいのだ。
先ほどまで行動を共にしてくれていた友達の一人から聞いたのだが、既に『ユマニテ』の本部を数人の覚醒者が襲撃したらしい。そして、扇子代表たちは全員モンスターが化けた状態だったと動画で流れているとか。
それもあってか、元々覚醒者から信用の厚かった有川大臣の言葉に信用性が増した。それで、警察も何も飛び越えて私を殺しにくる人達が現れたのだ。
もう本当にわけがわからない。有川大臣も偽物なの?それとも誰かに操られている?疑問ばかりが浮かぶだけで、これだという答えは出てこない。
今も自分の為に戦ってくれている友人達は無事なのか。お母さんや祖父母の所には害意を持った人たちが行っていないのか。
そして、何よりも不安な事がある。
「胡桃……どうして出てくれないの、胡桃……!」
どれだけスマホで電話をかけても繋がらない親友。ご両親と東京観光をしてくると言っていたが、それでも電波自体がこうも届かない事に違和感をもつ。
自分同様、彼女にも危険が迫っているのではないか。そう思うだけで吐き気さえしてきた。
「いたぞ、あそこだ!」
「なっ」
鷲と馬が合わさった様なモンスター、『ヒポグリフ』に跨った男性がこちらを指差して叫ぶ。
その彼と、目が合ってしまった。
「ひっ……!」
一瞬、呼吸が止まる。
私を責める瞳。糾弾し、人間ではない何かとして敵意をむき出しにする『第三者』の眼。
思い出す、思い出す、思い出す。
お父さんが轢き逃げをしてしまった後の、周囲の眼を。投げつけられる心無い言葉も、云われない中傷も。お母さんがどんどん心を病んでいく姿も。
「くる、み……!」
親友の名を呼ぶ事で意識を現在に引き戻し、こちらに突撃してきたヒポグリフの爪を回避。その勢いのまま宙に身を投げ出した。
「『フォートへスター』!」
『ヒヒィィィィィィンンン!!!』
守護精霊である愛馬を呼び出し、天を駆ける。今までは目立つからと避けてきたが、もうそれを言っている余裕はない。
「待て、逃げるなぁ!く、くそ。魔力が……!」
不幸中の幸いか、相手は既に長時間飛行した後らしい。魔力切れかその速度は遅い。
あっという間に引きはがして、フォートへスターの背で荒い呼吸を整える。動悸が激しい。心臓が耳元で鼓動をしているかの様だ。
手綱を右手で握りながら、反対の手でスマホを確認する。
こんなご時世だからと、胡桃が入れてくれたGPSのアプリ。お互いの場所をいつでも確認できるそれを始めて使ったが、それが最後に表示していた場所。都内にある公立の文化センター。
これもまた不幸中の幸いか、自分はその建物に行った事がある。お父さんがまだ生きていた頃に、連れていってもらった事があるから。
手綱を握る手に力が籠もる。
あの日から、私はたくさんの人から『敵』になって。そして、お父さんが自殺してからは『いないもの』として扱われた。
お母さんも心を壊してしまって、居場所なんてない時に。それでも彼女は傍にいてくれたんだ。私の手を握って、ずっと一緒だよって……!
そんな『恩人』で『親友』である彼女を、絶対に死なせない。死なせるわけにはいかない。
……いいや、これは言い訳だ。今はただ、私の味方に一緒にいてほしかった。
あれから『誰かの役に立つ私』として生きてきて、それでも素の自分を出せたのは彼女とほんの数人の新しい友人達。
胡桃は大人は信用できないって硬く殻を閉じていたけれど、私は笑顔を張り付けたまま彼女よりもずっと疑心暗鬼に苛まれていた。
さっきまで笑い合っていた人が、突然私に敵意を向けても耐えられる様に。けれど、それでも寂しかったから。誰かに傍にいてほしかった。
「一人は、いやだよ……」
泣き言がこぼれる。それが聞こえたのか、フォートへスターが小さく嘶いた。
「ごめん、ありがとう」
慰める様なその声に、愛馬の首を軽く撫でた。
胡桃も知らない、私と家族の思い出。親子三人で県外の牧場に行って、そこで乗った馬にそっくりな彼女。
大丈夫。一人じゃない。まだ自分は、独りぼっちなんかじゃない。
今はとにかく胡桃と合流して、それから……それから……そうだ。前に会った赤城さんを頼ろう。
一度しか会った事がないけど、それでも凄い人なのはわかっている。申し訳ないけど、他に頼れる伝手なんてない。
―――本当に頼っていいの?その人も裏切るかもしれないのに。
内心で囁く過去の私に、だからどうしたと首を振る。
そうしなければ親友を助けられないというのなら、私は信じる。そもそも無茶を頼みに行く立場で、最初から疑うなどという不義理ができるものか。
「無事でいて、胡桃……!」
私はまだ、君に伝えたい事。一緒にしたい事。たくさんあるんだ!
こちらの気持ちに応える様に加速するフォートへスター。大気中の魔力を蹴り、その走りは誰にも止められない。
目指すは、ただ親友の元へ。
そのためなら………。
そっと、自分の喉に触れる。そこから発せられる声に不思議な力を与える、私の『固有異能』を意識して。
どんな手を使ってでも、私は……!
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