第百十三話 常在戦場とはいかずとも
第百十三話 常在戦場とはいかずとも
『全国で発生した十二件の銃撃事件。覚醒者やその家族を狙ったこの事件で十一人の死亡が確認されており――』
『突然バーンって音がしたんですよ!最初は大きなタイヤがパンクしたのかなって。けど誰かが『伏せろー!』って直前に言っていてですね。何が起きたのかさっぱりだったんですけど慌てて逃げて――』
『犯人グループがダンジョン被害者互助会『ユマニテ』のメンバーを自称している事に対し、『ユマニテ』の代表扇子純氏が記者会見で彼らとの関係を否定し――』
『使われた武器は海外から輸入された物がほとんであり、警察は密輸ルートを洗い出す事で今回の事件の糾明に――』
『逮捕された犯人たちは『職場も家も失い、自棄になった』『自分達が苦しい生活をしているのに楽に稼いでいる冒険者が許せなかった』と発言しており、その犯行の身勝手さが――』
『『ユマニテ』は大きくなり過ぎたんですよ。代表の扇子って人は関係を否定していましたが、犯人たちがあの施設に出入りしている姿は目撃されている。それだけ、政府の支援が届いていない被災者が多いって事でもありますがね』
『いやぁ。あの動画の犯行声明には当然不快感を持ちましたよ、私も。ですがね、死者十一人のうち八人が襲撃した側っていうのは驚きましたよ。銃とか爆弾とかで突然襲われたのに逆に殺しちゃうって、覚醒者ってやっぱり怖くないですか?』
『警察の対応は後手に回り過ぎていますね。普通あれだけの銃が一般人の手に流れたとなれば、気づけて当たり前なんですよ。サブマシンガンまで大量に使われたって話じゃないですか。これは怠慢としか――』
『有川ダンジョン対策大臣はSNSで今回襲撃者を殺めてしまった覚醒者に罪はなく、正当防衛が適用されるだろうと発言した事に関して話題になっており――』
翌日。自分は学校の寮まで戻ってきていた。
あの後は結局検査と事情聴取が夕方まで続き、精神的に疲れ果てたまま帰る事に。送ってもらえたのはありがたかったが、学校の人達から『パトカー帰りの大川』と噂され余計に怖がられている気がする。クラスメイトの犬山君なんて、秒で揉み手をしながら挨拶してきたぞ。僕は昭和のヤンキーか。
何がアレって、ふざけてそういう事をしているわけではなくガチで恐怖している様子だからちょっと心にくる。僕ほど無害な好青年は世にいないと思うんだが?
なお、雪音が襲撃犯たちの足を凍らせた事に関してはなあなあで済んだ。『凍傷?魔法で治りましたが?怪我の重症度がわからないし、ただの逮捕活動の一環でしょう』とやってきたお巡りさん達がにこやかに言っていた。
……あのお巡りさん達。なんとなく東郷さんに似ていた気がするけどツッコんだら恐いから知らないふりをしておいた。彼に似た雰囲気の人達って事は、そういう事なんだろう。
その後にむしろ感謝状がどうこうと言われたが、面倒そうなので辞退した。なんか微妙に厄ネタの気配がしたし。
あとは……そうだ。緒方夫妻からひたすら感謝されて、今度お礼がしたいからと連絡先を交換したんだっけ。相変わらずのマシンガントークに押されて頷いちゃったけど、少し気まずいなぁ。あんまり知らない人と話すの、得意じゃないんだけど。
何はともあれ。『自分は』無事に終わった昨日の一件。だが、世間ではとんでもない事になっていた。
「お前呪われてんじゃねえの?」
「魔法の類というより神の祟り的な?」
「俺お前とだけは絶対にダブルデートしねぇわ」
「命の危機から帰還した友人への言葉がそれか?」
夕方。授業も終わって相原君の工房にお邪魔していた。
依頼した品が出来たと言うので取りにきたのだが、メガネとゴリラも何故かついてきたのである。
「だってどう見ても無傷じゃん。心身ともに」
「頭だけじゃなく全身超合金なんだなって」
「お前学校でロケラン担いで『ユマニテ』の事務所襲撃したって言われてるぞ」
「おいちょっと待て」
色々言いたいけどゴリラお前なんつった?
「なんでそんな話に?」
「さあ?まあお前他のクラスメイトから一目おかれるどころかヤベー奴認定されているしな」
「どうしてぇ!?」
理不尽過ぎない?僕授業態度とか普通だったよね。いや歴史の授業とかで睡魔と格闘してはいるけど、そんなん他の学生も同じじゃん。
「いやぁ……一応聞くけどさ京太朗。黄瀬さんの講習での戦闘、自分が周りにどう見えたと思う?」
「………華麗かつ優美に戦う物語に出てくる聖騎士?」
「他の生徒を粗方叩き潰した教官を逆に圧倒して、ゴーレムだったとは言え容赦なく手足をもいだかと思えば念入りに胸を抉っていたバーサーカー」
「うそん」
「ほんと」
相原君の言葉に愕然とする。マジか。あの場の空気が妙に冷えて感じたのは、てっきり黄瀬妹さんに他の生徒達がドン引いているからだとばっかり。
「強いし頼りになるとは思われているけど、同時に戦ったら危険な奴って感じだな。好感度もそこそこだし、昭和の番長的な?」
「そんなポジション求めとらんかった」
おかしい。僕ほど品行方正で誰にでも優しい少年そうはいないのに。
あれか……モテ川モテ太朗だからか?誰かしらが嫉妬で変な噂を流している?そうに違いない。
「くっ……僕がモテオーラを放出し過ぎているせいで……!」
「おい。もしかして『頭にゼロ距離バズーカ食らった』って噂本当だったのか?」
「いや、アレが素だね」
「元からあんなんだ。ほっとけ」
「なんだとぅ」
友人達のあんまりな対応に口をへの字にする。おかしな事など何一つとして言っていないだろうに。
というかゼロ距離バズーカ食らったら死ぬ。それで生きている人間などいるものか。
……いや。二人ほど大丈夫そうな人が浮かんだ。眼力だけでバズーカ刻みそうな上司と、元々の頑丈さで笑みが一切崩れなさそうな自称聖騎士。
女性は男に守られるものって考えは古いんだな……いやこれそういう話かな?違う気がする。
それはそうと、生物学上女性な人達で思い出した。
「というかさぁ……僕、昨日雪音とのデートだったんだよ。なのに台無しになっちゃって」
「雪音?ああ、お前が契約している雪女か」
「そうそう。せっかく頑張ってデートプランを組んだのに。本人は気にしなくていいって言っているけど、何か埋めあわせしたいんだけどどうしたもんか……」
「「「………」」」
何故か顔を見合わせる三馬鹿。どうしたよそんな無言でアイコンタクトして。
「お家デートってやつがちょっと前に流行ったけど、まだ現役だぜ!」
「何度も外出っていうのも相手に負担がかかるし、それがいいんじゃない?」
「お前はもうデート目当てで外出するな」
「せめて隠す努力をしろゴリラ」
露骨に外出自粛しろって言ってくるのは予想していたけどストレート過ぎんぞ、ゴリラ。
「だってお前、聞いた感じデートの度に何かしら巻き込まれてるじゃん」
「二回目のデートの時は成功したわ!」
「レアケースだっただけでは?」
「酷いな!?レアケース発生するほどまだデートしてねぇよ!」
「お前が原因とは言わないけどお前が行くとこ行くとこで事件起きんじゃん。祟られてんの?」
「お、お祓い受けたし……」
残念イケメンと触手メガネと筋肉ゴリラの心無い言葉の数々に、最後の方は苦し紛れに答える。
「……一応聞くけど、お前がお祓いしてもらったのって京都の神社?」
「そうだけど、なんで知ってんの?」
どこぞのストーカーゴリラでもないのに、なんで相原君がそんな事を知っているのか。
なんとなく嫌な予感を覚えていると、彼がスマホの画面を見せてくる。
「この前京都の神社仏閣の主たちが揃って体調不良になったんだけど、お前なんもしてないよな?」
「……む、ムカンケイデス」
マジで知らん。なにそれこわっ。
なに?なんなの?僕ってなんかやべぇのが憑いていたりすんの?
あれか?幽霊もののエロ本を使った事があったが、それが原因か?それとも狐耳巨乳巫女ものに嵌った事があったがそれで罰が当たったとか?あるいは『神代回帰』ちょっと前にシスター物のエロゲをやっていた事か。
いかん……エロ本とエロゲに関しては心当たりがありすぎる。
「……よし、この話はやめよう!」
「逃げやがった」
「逃げるな」
「逃げるとは見下げ果てた奴よ」
「うっせぇバーカ!バーカ!!」
別に逃げてねぇし!元々別の用件でここに来たんだから正道に戻っただけだし!
「相原君、アレ!例のやつ完成したって聞いたけど」
「おう。完璧に仕上げてやったぞ」
そう言って彼が机の下からアタッシュケースを取り出した。こちら側に開かれたので中身を目視で確認し、頷いて受け取る。
「ありがとう。代金は口座に振り込んどく」
「ん?いいのか、触って確認しなくて」
「いやだって僕、そういう目利きとかできんし……なんか変えてほしい所あったらレイラに見てもらってからにするよ」
「さよけ」
魔力を感じるから注文通りの物なんだろうけど、詳しいとこまではわからん。
冒険者になってまだ半年程度。色々と濃い経験を積んできたが、そういった方面はからっきしである。自分自身はアイテム袋以外碌に魔道具を使わないのもあるかもしれないが。
だが相原君の仕事ぶりは信用している。リーンフォースの装甲の予備を一部持ち込んで依頼したが、素人目には渡した要望書通りの姿だ。
「なんだそりゃ。お前が使う……にしてはサイズが合わないな」
横から覗き込んでいた熊井君が疑問符を浮かべる。
「そりゃ使うのは雪音だし」
「……自分じゃなくって使い魔を強化するの?前衛にするには雪女じゃきつくない?」
反対側で疑問符を浮かべる魚山君に、軽く肩をすくめてみせた。
「いや普通に後衛を務めてもらうよ。僕には魔装があるし、雪音の強化は火力の安定につながるから結果的に自分の安全になるからね」
「ほーん。相変わらず変わってるな」
「そんな変わってるか、これ……」
眼鏡の位置を直す魚山君にこっちが疑問符を浮かべる。
そりゃあ自分だって己の防御力を上げたいが、盾や鎧を後付けで足しても機動力が落ちて却って危ない。両手剣を扱うし、左手は極力フリーにしておきたいのもあるが。
ほんと、自分の追加武装として合うとしたら中距離攻撃用の得物なんだが……法律が許さないのなら仕方がない。ある物を工夫するのが精いっぱいだ。
お互い疑問符を浮かべる自分達に、相原君がやや呆れたように口を開いた。
「そりゃお前。使い魔は基本的に主の生存ありきだからな。まず契約者の方を守るのがセオリーさ。雪女に限らず、使い魔を持った冒険者は前に出たがらない傾向もあるって話だしな」
「あー、そういう」
相原君の説明に納得する。確かに、契約者が死ねば使い魔は消滅するか野良のモンスターとして処理されるかだ。優先すべきは契約者の生存である。
ついでに、使い魔に前に出て戦ってもらいたがる人の気持ちもわからないでもない。自分だってリーンフォースにタンクをやってもらっているし。
ただ、自分も前に出ないと死ぬ現場が多すぎてそれが常になっていると言うか……モンスター相手の剣の振るい方忘れたら、どっかで簡単に死にそうだから嫌だ。
「ま、とにかくありがとう。早速レイラに工房で見てもらうよ」
彼女は今自室の人工異界にいる。今朝桜呉服店から郵送で届いた布を使って準備をしている事だろう。
早速これを彼女に見てもらい、例の装備の完成を急いでもらわねば。
昨日は無事に帰れたが、全国各地で起きたというあの事件で亡くなった覚醒者もいる。次があった時、自分が被害者名簿に加わらないという保証はないのだ。
まあ、メインは対モンスター戦を想定した装備だけど……対人戦で使えないわけではない。備えあれば患いなし、だ。
「じゃ、また明日」
「ん、またな。くれぐれも外出デートはするなよ」
「アデュオース。幽霊とか見たら写メよろしく」
「寝る前に盛り塩でもしとけよ~」
「やかましいわっ!?」
わかったよ次はお家デートにしておくよこん畜生!
まったく。人を疫病神かなんかだと思っているのかあいつらは。確かに自分でもやたら厄介ごとに巻き込まれる自覚はあるが、だからって言い過ぎではないか。
……ま、まあ?友人達が心配して言ってくれているのだから今後は自室の異界で済む範囲にしようと思うけど。
別にビビってないが?自分の運を信用してないわけではないのだが!?
そう自分に言い聞かせながら相原君の部屋を出て行き、廊下を歩いている時。スマホに着信があった。
「はい、大川です」
『やっほー、大川君。赤城だよ』
「あ、どうも。お久しぶりです」
電話の相手を確認せずに出たが、眼力でバズーカ切り裂きそうな上司だった。
『ごめんねぇ、最近碌に電話に出られなくって。仕事の方が忙しくってさ~』
「はい、いいえ。人工異界の製造販売や『賢者の会』の被害者を受け入れたとか、ニュースで見ていますし。赤城さんがご多忙だと存じて上げておりましたので」
ちょっと失礼な事を考えたのもあり、敬語が少し変になって焦る。
それはそうと通話越しには元気そうだが、大丈夫なのだろうか?最近、桜井自動車はかなりの動きを見せている。先ほど言った事は社交辞令の類ではなく、本気で忙しいだろう事を察しての事だ。
……まあ、そんな中鉄子さん救出の助力をお願いしてしまったのだが。そのうちマジで菓子折り持っていかないと。
『そう言ってくれると嬉しいよ。早速で悪いんだけどね?今日は仕事の依頼をしたいんだ』
「はぁ。内容をお聞きしても?」
『前と同じさ。とあるダンジョンがうちの子会社の近くにあってね。普段は別の冒険者を回しているんだけど、最近別件で動いてもらっていてね。代わりに間引きをしてほしいんだ。ランクと出現モンスター、報酬については後でメールするから、可能なら受けてくれるかい?』
「わかりました。僕のできる範囲の仕事でしたら」
『ありがとう。君には期待しているよ――本当に、ね』
一瞬、獲物を前にした肉食獣の様な気配を感じて戦闘態勢に入りそうになる。魔装を展開しそうになるのを理性でブレーキをかけ、小さく深呼吸をした。
そんなこちらの様子を察しただろうに、彼女は電話越しにカラカラと笑う。
『ごめんごめん!最近剣を振るう機会が多くてね、我ながら未熟だなぁ。けど、君に期待しているのは本音だよ。我が社の重要な戦力だからね。やってもらいたい事は山ほどある』
「は、はあ。恐縮です」
『それじゃ、詳しい仕事の内容はおって連絡するよ。じゃあね、大川君』
「はい。失礼します」
本当に忙しいのだろう。早口一歩手前な様子で通話が切られた。
スマホをポケットにねじ込みながら、ため息を一つ。さっきの『殺気』にも似た……なんだろう。『闘気』とでも言えばいいのか。
それを浴びせられてこちらも気が気ではない。相変わらずおっかない上司だ。
それにしても、『別件』ねぇ……流石にグレーゾーンな話を僕に投げてくるとは思えないけど、いったい何をしているのやら。
もしかしたらそっちの方にも近々呼ばれたりして?なんて、流石にそこまであちらも僕を信用していないだろう。なんせ己はただの小僧である。少しばかり戦闘経験と異能は特殊であるが、それだけだ。人生経験という点では青二才だと自覚している。
雪音の新装備の『外装』が入ったケースを手に、自分の部屋へと向かった。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.日和っているだけでのほほんとしている主人公はなんなの?こいつの家族も化け物に食わせた方がよくない?
A.実は、当初のプロットでは主人公の両親が殺される感じのも想定していました。
ただそうなると復讐鬼になっちゃうというか……『思考回路が凡人な主人公の視点から見た変わっていく世界の物語』というのに反するかなと思い、没になりました。
不快にさせてしまった方には申し訳ありませんが、こういうノリで今作は書かせて頂けたらなと思います。作者の実力不足のせいでもありますので、今後も精進していくのでご容赦ください。
なお、これが『クトゥルフ式』の方だったら両親が化け物にされたあげくその介錯を主人公にやらせてS●N値直葬させていました。実際過去作の主人公には似た様な事させましたし。




