第百十一話 銃撃
第百十一話 銃撃
デートである。古い言い方をすれば逢引である。
人のいりは半分ぐらいといった具合の電車に、雪音と二人揺られていた。
「ふふっ。なんだか緊張しますね、旦那様」
「う、うん」
そう笑いかけてくれる雪音に、ぎこちなく頷いて返した。
長い黒髪を腰まで伸ばしているのはいつも通りだけれども、キラリと輝く白い花の髪飾り。濡れ羽色の髪にそれはよく映えており、彼女の美貌を引き立てる。
服装も着物姿でも異界内にいる時のラフな私服でもなく、派手にならない程度にフリルをあしらわれた黒のシャツの上から白のワンピース姿。その大人びた雰囲気に、ついつい頭がクラクラしてしまう。
なんせそんな彼女が自分の隣に座っているのだ。それも二の腕同士がくっつくぐらいの距離で。
普段もっと凄い事しているだろうと思いつつも、しかしこういう『甘い』雰囲気というのはいつまで経っても慣れないものだ。
動揺を隠しきれていない自分の様子に、雪音はどこか満足そうな笑みを浮かべてこちらの肩にもたれかかってきた。
「こうして恋人同士の様に外へ出るのは初めてでしたね。いつも旦那様の中にいましたから」
「そ、そうだね。ごめん」
「何を謝る必要があるのです。ワタクシはいつも旦那様と一緒にいられて嬉しゅうございます。どうか、これからも傍にいさせてくださいまし……まずは、今日一日たっぷりと」
「は、はい」
「ふふっ……」
本当に幸せそうに笑う雪音は、いつも以上に美しく見えた。
ただまあ、それだけ美しい彼女を侍らせているわけだから当然の様に。
「ちっ……」
「なんであんなモブ顔が……顔も覚えられねぇ面しやがって……」
「……す……ろす……」
「棒と点で書けそうな顔しているくせに……」
怨嗟と嫉妬の眼がすげぇ。
いやぁ……すまんな、諸君!君達と違って僕にはこんな美人な彼女がいるのだよ。それもあと二人いる……この意味がわかるな?
正にハーレム。やはりモテ川モテ太朗を名乗っていいのでは?一度返上したが、なんだかんだ言って自分に相応しい呼び名なのでは?
少しだけ鼻の孔を拡げつつ、ドヤ顔をしてしまいそうな表情筋をおさえる。流石にそこまで大人気ない行為はしないつもりだ。心の中では滅茶苦茶胸を張るが。
そうこうしているうちに電車が駅に到着する。人混みに彼女を入れたくないので、少し遅れて一緒に降りた。
ただ、電車からホームへの隙間を警戒して雪音がこちらの腕にしがみ付いてくる。その爆乳に二の腕が包まれ、自分でもわかるぐらい鼻の下が伸びた。
いけない。今日はできるだけスマートな男であると決めているのだ。これでもレイラとのデートを完遂済み。経験者である以上は、彼女をリードぐらいしてみせないと。
「ゆ、雪音。その、いこっか」
「はい。旦那様」
甘くとろける様な声に、頬が緩む。かっー!可愛い。僕の彼女可愛い!
電車から降りた以降も組まれた腕からは柔らかく冷たい感触が伝わっており、色々と幸せだ。もはや周囲の嫉妬も気にならない。
さて、ここからのプランは完璧である。
まずは映画館に行き、次に事前に調べたお洒落な喫茶店で昼食。そこで『カップル用デザート』なるものを注文する予定である。そしてその後はペンギンやイルカのショーを見に水族館に行って、その後ハロウィンに向けて飾り付けがされているという公園に向かう。
最後には大人なホテルにゴールイン……完璧だ。完璧すぎる。やはり僕は恋愛の達人なのでは?
さあいざゆかん。栄光のデートロードへ!!
「うーん、ここからどう行けばいいのかしら」
「駅員さんに聞いたが、よくわからんかったしなぁ……」
「…………」
覚醒者は基本的に五感の能力が高い。個人差はあるけど、非覚醒者とは比べ物にならないぐらいに。
そのせいだろうか。自分の近所の駅とは比べ物にならない人の行き来がある場所でも、そんな会話がふと耳に入って来てしまった。
ついでに、自分の眼は魔眼。未来視以外にも基本的に目の機能が高い。要は、視野も広いし視力もいいのである。
だから、初老の夫婦が困ったようにスマホと駅に貼られた地図を何度も見比べている様子に気づいてしまったのだ。
一瞬迷う。無視してデートを続行するか、声をかけるか。通り過ぎざまに一瞬気になっただけならそのまま過ぎ去るのだが、立ち止まったタイミングで聞こえてしまったのがなぁ……。
スマートにデートをするのなら、無視一択だ。別に自分が世話してやる義務はないし、物事には優先順位がある。デートに来たのだから、命がかかっている状況でもない限り彼女を優先すべきだ。
何より、ここで自分が出しゃばらずとも問題が解決する可能性は高い。なんせここは駅だ。駅員さんに一度聞いた様だし、もう一度尋ねればいい。ついでに駅近くには交番もあるから、どうにでもなるだろう。
ただ……ここで見捨てるのは心が痛むのも事実。幸か不幸か、この日に備えて駅周辺の地理は全力で頭に叩き込んだし、いざという時のカンペも仕込んである。デートをスマートに決めるためだけではなく、氾濫に巻き込まれた時の対策も兼ねているからそりゃもうガチのやつを。
だから簡単な道案内ならできるし、そうでなくとも多少の助けができるはずだ。
でも、しかし……。
「ごめん、雪音。ちょっとあっちの本屋さんで時間を潰していてくれる?僕はちょっと、えーと……」
逡巡は五秒。結果的に、ここで見捨てるのは『格好悪い』となった。
自分は雪音の彼氏としてここにいる。であれば、みっともない姿を見せたくなかった。自尊心的にも、彼女に軽蔑されたくないという恐怖的にも。
ただ、それで雪音を放置してしまう事への謝罪と言い訳を言おうとしていたら、唇に彼女の細くしなやかな指が押し当てられた。
「言ったはずです、旦那様。今日一日一緒にいてくださいと。ですから、ワタクシも一緒に、ね」
ニッコリとほほ笑む雪音。
やだ……うちの彼女、顔だけじゃなく心まで美人さん……。
何はともあれ彼女の許可も頂いたので、初老の夫婦に話しかけに行く。
「あの……大丈夫ですか?」
「はい?」
不思議そうに振り返った夫妻は一度驚いた様子で雪音を見た後、一拍遅れてこちらを二度見してきた。
うん、知ってた。
「あ、え?どこから……?」
「異能ってやつか?まさかテレポート……」
「いえ。普通に彼女の隣にいました」
「「!?」」
「ぷ、くく……」
そんな驚く?ねえそんな驚く?
あと雪音。ツボに入ったのか知らんけど笑い過ぎ。
「ご、ごめんなさいね」
「すまない……その、地図に集中し過ぎていたみたいだ」
「お構いなく。慣れていますから」
早くも話しかけた事を後悔し始めるも、ここで『じゃ、これで』と言ったら意味不明すぎる。
大丈夫。大丈夫だ京太朗。こういう事は一度や二度じゃないだろう。前にもたくさん……たくさんあったなぁ、こんな事。少し泣きそう。
「それで、どうなさったんですか?地図の前で困っていた様ですが」
「ああ、それがね?娘が住んでいるマンションに行きたいんだけど、よくわからなくって」
「だからサプライズなんて考えずに連絡してから行けばよかっただろう」
「あら、けど貴方だって賛成していたじゃない」
「むぅ……」
「えっと……どの辺にあるとか教えてもらえますか?もしかしたらわかるかもしれません」
「あら、いいの?でもデートの途中なんじゃ」
あ、やっぱそう見えちゃいます?見えちゃいますよね。
しまったなー!気を遣わせちゃったかー!どう見ても相思相愛なカップルだからなー!デートとしか思えないよなー!!
このマダムめちゃくちゃ視る目があるじゃないか。きっと二人のお子さんはビッグな人物に違いない。それこそ英雄とか呼ばれちゃうぐらい!
「ご安心ください。僕も彼女とのんびり街を回ろうと思っていたので、そのついでって言ったら少し変かもしれませんけど……」
「そうなの?うーん、じゃあお願いしようからしら」
「はい。といっても、どこまでお力になれるかわかりませんが」
「ここのマンションなんだけどね?このコンビニが目印らしいんだけど全然わからなくって……」
「ふむ……ああ、それなら大丈夫です。ご案内しましょう」
「まあ、しっかりした彼氏さんね!」
「はい。自慢の旦那様です」
嬉しそうに頷く雪音。ふっ……どうも、『モテ川モテ太朗』をこの瞬間もう一度就任させて頂きました大川京太朗です。
まさか偶然昨夜『あれ、このルート違くね?あ、このコンビニが分岐点か。あっぶねー、ギリギリまで間違えてた』とデートプランについて焦っていたおかげで瞬時に道がわかったとは誰も思うまい。
「では、こちらです」
何はともあれ、目的地のマンションは駅から近い。これなら道案内を終えた後でも本来の予定に戻れるだろう。
僕のデートフェイズはまだ終わっていないぜ!!
* * *
サイド 緒方 勇祢
どうしてこうなった。
普段……というか今まで来た事のない高級料亭の座敷にスーツ姿で正座しながら、冷や汗をだらだらと流す。
もう気温もだいぶ落ちてきたというのに汗が止まらないのは、店の雰囲気もさることながら対面する二人のせいである。
「そう硬くならなくても大丈夫だよ、緒方君」
そう朗らかに笑いかけてくる、初老の男性。大山金之助『警察庁長官』。
「別に取って食おうというわけではない。楽にしてくれ」
彫りの深い日焼けした顔で渋い声を出す老年に片足が入った男性。深山平一郎『統合幕僚長』。
いったい何がどうして、たかが一警察官の……いいや。たかが『お飾りの英雄』に過ぎない自分の前に警察と自衛隊の重鎮が座っているのか。
訳が分からない。突然上司から『内密な話がある』と非番だというのに呼び出されたかと思えば車に乗せられ、気が付いたら料亭の前に。件の上司はそのまま走り去っていった。
あのケツ顎は次あったらケツを脳天にも作ってやる……ではなく、説明ぐらいしてほしい。本気で意味不明だ。
「単刀直入に言おう。君にはとある部隊の隊長を務めてほしい」
「……とある部隊、ですか?」
大山長官の言葉に、どうにか言葉を絞り出す。
当たり前ながら仕事の話らしい。発言に注意しながら、彼の言葉を待つ。
「既に各県警で覚醒者部隊を作ろうとしている。あるいは既に運用を始めているという話は君も知っているね?」
「はい。若輩の身ながら、私もその末席を汚させて頂いております」
「うん。そうして出来た警察内部の覚醒者部隊から、エースと呼べる者達を集めた特殊部隊を新設する予定があるんだ」
なるほど。ようやく話が見えてきた。
「その隊長を、自分がですか?」
「そうだ。『抜刀隊』。かつて西南戦争で活躍した先人たちにあやかって、この名前を使いたいと思う」
「しかし……なぜ私なんですか?もっと相応しい人がいるはずでは」
そう言いながら、しかし自分の中では薄っすらと答えがわかってしまっていた。
それでもその事実から目を逸らしたくて、つい口が動いてしまう。
「確かに君より強い者も、年齢が上の者もいるだろう。しかし、君には『知名度』と『求心力』がある」
大山長官が、笑みを深めた。
「『クレタのジャンヌダルク』『賢者の会を終わらせた女』。二つ名に事欠かない君には、是非とも隊長として立ってもらいたいんだ」
「………それ、は」
どちらも、偽りの名前だ。
クレタの、ミノタウロスの時。私はただ市民と部下を死なせただけだ。あまつさえガタガタと震えながら隠れていただけの、共に死ぬ覚悟さえなかった臆病者。
もう一つの『賢者の会』の一件とて、私は大した事をしていない。世間に語られる様にいち早くあの宗教団体の非道に気づけたわけでもなければ、新聞に書かれた様な八面六臂の活躍だってしていないのだ。
認めがたい。認められない、張りぼての勇名。だがそれを剥がしてしまえばどうなるか。警察の威信は地に落ち、治安の更なる悪化は免れない。
私は、しかし……。
「申し訳ありませんが、その話は――」
「もしも、この呼び名に罪悪感を覚えているのなら」
「っ!」
こちらの言葉を遮り大山長官が喋る。その顔に人懐っこそうな笑みを浮かべたまま。
「君はこの話を受けるべきだ。手柄を奪った者。死なせた者。助けられなかった者。彼らの犠牲を全て無駄にしないためにも、ね」
「っ……」
言葉が出ない。
脳裏に浮かぶ、自分が死地へと導いてしまった人達。そして、その生き残りからさえ向けられる賞賛や感謝の瞳。
違う。違う違う違う!!私は、そんな目で見られるべきではない!英雄などではない!
「酷い事を言っている自覚はあるよ、私にもね。なんせ私達が君を英雄にした。その意思に関係なく、ね。だから君は私達を恨んでいい。その権利がある」
「わた、しは……」
「だけどね。たとえ偽りでも英雄であるのなら、やらねばならない事がある。たとえ惰性や恐怖からだとしてもその肩書を受けたのなら、君は既に『共犯者』だ」
「きょうはん、しゃ……?」
「そうだ。私達と君は、共に罪人だよ」
すとんと、心のどこかで何かが落ちた気がした。
私だけの罪ではない?私が背負うべき咎は、一人だけで償うものではないと?
下衆そのものの言葉を吐きながら、しかし慈愛さえ感じる大山長官の瞳。それを目にして、伸ばしそうになった手を膝の上で強く握った。
爪が手の平に食い込んでも構わず、強く。強く。骨が軋む程に。
「……いいえ、長官。私の罪は、私のものです」
「緒方君」
「申し訳ありません。しかし………それでも私には……」
深く頭を下げる。
一瞬でも誰かがこの荷物を背負ってくれる。一人ではないのだと考えた自分が恨めしい。なんの成長もしていない。
あの日、あの時。私が英雄に『成り下がった』あの場所で、英雄願望に溺れたのは私自身の選択だ。
選んだのならば、責任をとらねばならない。たとえ償い切れぬ罪だとしても、私は背負わなければならないのだ。
ああ……あの日死んだ部下はどんな顔をするだろうか。あの日戦ったあの少年は、いったいどうしているのだろうか。
彼らに償える日は、いったいいつになったら来るのだろうか。
「抜刀隊隊長の座、謹んでお受けさせて頂きます。もっと相応しい方が現れるまでのつなぎとして、粉骨砕身。全身全霊でもって務めさせて頂きます」
「……そう、か」
「はい。ですが、『共犯』というのは別の事。私の罪は私にあり、貴方の罪は貴方にある。そう、愚考いたします」
数秒ほどの沈黙の後、大山長官が明るい声で話しかけてくる。
「顔をあげてくれ、緒方君。すまないね、老人のたわ言と聞き流してくれ」
「老人というほどの歳でもないでしょう。私よりも年下なのですから」
「ははっ!それもそうですな!」
統合幕僚長の言葉に大山長官が笑い声をあげる。それを聞きながら自分も顔をあげた。
しかし……なぜ『抜刀隊』新設の話で統合幕僚長が?
確かに抜刀隊が組織された頃は当時の軍隊とも関りがあったが、当然自衛隊ができた後に抜刀隊が彼らと共に戦った事などない。というか、日露戦争頃にはもう抜刀隊など時代遅れの存在である。
兵器よりも個々の戦闘能力が必要になった、『神代』だからこそまともに使える部隊だろうから。どう考えても時代に逆行した武力集団である。
「さて……私がここにいる事が不思議な様だな」
「はっ、いえ、その」
こちらの考えなどお見通しとばかりに鋭い眼光を向けてくる統合幕僚長。
「ちょっとちょっと。うちの子をそんな睨まないでくださいよ」
「……睨んでいない。元々こういう目だ」
そう言って笑う大山長官と、相変わらず仏頂面で答える統合幕僚長。もしかしてこの二人、仲が良いのだろうか?
話を戻す様に統合幕僚長が小さく咳払いをし、自分も背筋を伸ばす。
「その疑問はもっともだが、理由はこの話に続きがあるからだ、緒方。貴様には『抜刀隊初代隊長』の後に、やってもらいたい事がある。私はあるお方の代わりにそれを伝えるためにここへ来た」
「は、はぁ……」
代わり?統合幕僚長ほどの人物が?
疑問符を浮かべる自分に彼が告げた事。
その内容に、目を見開いて驚愕する。何かの聞き間違いかと、あるいはこれは夢幻の類だったのかと。
しかし、目の前で真剣にこちらを見据える統合幕僚長も。どこか申し訳なさそうにする大山長官も。
どちらも、今の言葉を否定してくれる事はなかった。
* * *
サイド 大川 京太朗
「あらまあ、それじゃあその歳で冒険者を?」
「はい。やらせていただいております」
道中おばさんのマシンガントークに晒されながら進んでいく。
この人、話が一切途切れない。逆に旦那さんの方は寡黙というか、最低限の事しか喋らないのに。足して二で割った方がいいのではないだろうかこの夫婦。
いつの間にか冒険者である事まで話してしまっていた。いや、あの学校に通い始めてからはもうそんなに隠してはいないけども。
「大変じゃない?ご家族はなんて?」
「まあ、『辞めた方がいいんじゃないか』とは言われます。でも、こんなご時世ですから。自衛の為にも辞めるわけにはいかないなって」
あとは稼ぎとか雪音とかの問題もあるけど。対外向けにはこの理由を言う事にしている。嘘ではないし。
「……警察は、信用できない?」
「はい?」
「おい」
おばさんの問いに疑問符を浮かべると、おじさんの方が咎めるように彼女を見た。
「そういう話は簡単に踏み込むものじゃない」
「……ごめんなさいね。実はうちの娘、警察官なの」
「あー……」
そういう事か。
「すみません。別に警察の方が信じられないわけじゃなくって。ただ、どうしても手が回らない場所やタイミングがあるよなぁって思いまして」
「ううん、責めているわけじゃないの。ただ、私の娘も覚醒者で、一度ダンジョンで酷い目にあったらしくってね。酷い大怪我をしていたの。それに、心にも」
……まあ、そういう人もいるよな。
通常の探索でそこまでになる人はそれほどいないが、事故は起きるものだ。
何だかんだ覚醒者でもダンジョンに入って行方不明になるケースもある。この人達の娘さんは生きて帰っては来られたものの、心身ともに深手を負ったのだろう。
……歩き出してすぐにした自己紹介で聞いた苗字。それと一致する『負傷した警察官』が頭に浮かぶも、流石にそれはないだろう。そうだった場合、どれだけ世間は狭いのかと。
「だからね。少しだけ親御さんの気持ちになっちゃって」
「……そう言う事は、本人が決めるものだ」
「あなた」
「もう何度も話しただろう。あの子がその道を選んだ。なら、親として応援してやるしかない」
何やらしんみりとした空気になってしまった。腕に感じる雪音の乳の感触を楽しんでいる事に少しだけ罪悪感さえ覚えてくる。
そうしていると、まるで励ます様に彼女がより強く僕の腕を抱いた。
おっぱい!!
「うん?」
ふと、妙な感じがして顔を前に戻す。人通りは少しだけまばらな中、こちらに一直線で向かってくる人影が二つ。
マスクをして顔がわかりづらいが、三十前後の男性って感じか。寒くなってきたからかコートまで羽織っている。
それは別に特別おかしな話ではないのだが、少しだけ身構えるだけなら普通だろう。
そう、少しだけ身構えるだけなら。
「っ!?」
「旦那様?」
気づけば、自分は『戦闘態勢』に入ろうとしていた。いくらなんでも街中でそれはやり過ぎだ。自分で自分に驚き魔装を展開しそうになるのを気合で堪える。
そうしている間に距離を詰めた彼らは、視線を後ろにいる初老の夫妻に向けた。
「すみません。緒方辰男さんと、その奥さんの光江さんでしょうか?」
「え?はい、そうですが……」
おじさんとおばさんも不思議そうにしながら頷いて、前に出ようとした。
その時、魔眼が発動する。ほぼ同時に高い動体視力がコートの男達の動きを捉えた。
だが、一瞬その光景を脳が理解できなかった。だって、現代日本の街中にあるはずのない物だったから。
二度にわたる『本能』と『理性』のせめぎ合い。それが致命的なまでの隙をうむ。
「伏せろ!!」
そう吠えて、盾になろうとする雪音を突き飛ばし魔装を展開しながら夫妻の前に立ちふさがるのがやっとだった。
「人類の未来のために!!」
「天誅ぅぅ!!」
黒光りする筒。画面の向こう側でしか見た事のないそれは、ショットガンと呼ばれる武器であった。
なんの躊躇もなく絞られる引き金。素人目にもへっぴり腰で放たれたそれは、しかし散弾であった事と至近距離であった事もあり外れる事はない。
そう、外れることなく、眼前に立ち塞がった自分に銃弾が浴びせられたのだ。
響き渡る銃声。動揺しこちらに叫ぶ雪音。状況がわからず、悲鳴をあげる夫妻と周囲の人々。
そして、自分には魔眼で視た未来がやってくる。もはや避けようのない、光景が。
「いったぁ!?」
兜のスリットから散弾の鉄球が一個通り抜けてきて痛みに悶える。その衝撃は、『チャリで勢いよく走っていたら目に虫が入った時』に匹敵した。
いやなにごとぉ!?
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第百二話後書きより
京太朗
「僕のデートプランは完璧です。もしも一人目のデートの段階で無理なナンパ以外の荒事に巻き込まれるようなら超危険ダンジョンに放り込んでくれても構いませんよ!!」
……ワンアウトってところでしょうか?




