第百九話 デートに備えて
第百九話 デートに備えて
「俺たち友達だよな?」
十月もまだ上旬だというのに随分と寒くなってきて、皆厚着をしだした頃。放課後に寮の一階にいつもの面子で集った時に、突然相原君がそんな事を言い出した。
「え、あ、うん」
「そうだね」
「俺は好敵手であって友ではないがな」
それはライバルと書いて友と読む案件では?
「だよな。俺たち四人、友達だよな……ならさ」
どこかどんよりとした目で相原君が僕の肩を掴んでくる。
「ど う し て 俺 だ け ?」
「え、え、な、なにが?」
まるで幽鬼の様な表情で問いかけてくる彼に、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
「お前方々に電話しまくったらしいじゃん……熊井も京太朗や魚山に助け求めたじゃん……どうして俺だけハブられたの?どうして……?」
「うぇぇ……だ、だって繋がらなかったし」
何かと思えば車谷さんが海外産変態集団に攫われた時の話か。
こっちだって東郷さん水無瀬三佐矢島さん赤城さんって電話した後に、相原君に連絡をとったのだ。ただ留守電になってしまっただけで。
「しょうがないだろう!?ダンジョンに入っていたんだから!」
「いやだったらこっちだってしょうがないし……」
「待っていてくれてもいいじゃん!」
「待てるかぁ!?」
到着があと五分遅れていたら車谷さんを連れた変態共は海の上だったんだぞ?追いかける難易度が跳ね上がるわ。
そんな理屈はわかっているだろうに相原君がこちらの腕に縋りついて来た。
「出●杉君か!?俺は出木●君枠なのか!?イケメンで頭脳明晰で運動神経もいい最強格だからそういう扱いなのか!?」
「厚かましいな!?いやもういいよそれで!」
「いいよそれでってなんだよ!俺の事面倒くさい奴って思ってるだろ!」
「その通りだよ!?君さては楽しんでるな!?」
「わりと」
「よかったね!」
けろっとウソ泣きを引っ込める相原君。なんだこいつ。
「まあ落ち着けよモヤシ」
「なんだと薄情ゴリラ」
いやこれわりと根に持ってるな?
じろりと睨んでくる相原君に、しかし気づいた様子もなくゴリ……熊井君がドヤ顔を浮かべる。
「俺の結婚式には呼んでやるからよ。この中で唯一真っ当に結婚式ができる俺がなぁ!」
「よし、こいつに奢らせるの高級ステーキにしようぜ。もしくは回らない寿司」
「今ネットで一人百万するコース料理が食べられる所を探している」
「すみません調子にのりました」
わきまえろよゴリラ貴様。態度次第では近所のラーメン屋でトッピング全のせか『時価』としか書いていない寿司屋のどっちか決まるからなマジで。
つうかそこマジで地雷だから気を付けろよ。この前『雪女と結婚する』って宣言したら『非モテのあまり人外に走った奴』とか『籍いれられねぇじゃん』とか煽られた冒険者が刃傷沙汰起こしたってニュース見たからな。
鬼嫁ならぬモンスター嫁な人達にとっては地味にデリケートな問題なのである。
「その件につきましては誠に感謝しております、はい」
「おう。とりあえずお世話になった人達への菓子折り代は半分だせよほんと」
「いや、そこは全部出すから」
「いやいや。頼ったのは僕だし、今後も付き合いあるのは僕だから。ここで何も出さないのは精神的になんかやだ」
「……面倒な性格してるな、お前」
「うるせぇやい」
まあ公務員三人組からは『むしろ善意の通報ありがとね』と言われているし、赤城さんからは『もう身内みたいなものだし借りに思う必要はないよ』と昨日電話があったけど。
だがそれはそれ。頼っておいたのに『あ、そっすか!あざっす!』だけで済ませるのも気分が悪い。
「それはそうと京太朗、いつの間にそんなえげつないコネ抱えたのさ」
「……まあ、色々あって」
魚山君の問いにそっと視線を逸らす。『金剛』の事は名前と大まかな性能は発表されたものの、詳しい所はまだ秘密らしいからどこまで喋っていいのかわからない。そしてパズズの一件はそもそも機密である。
だからどれも言えねぇ。赤城さんとのきっかけも矢島さんで、矢島さんは『金剛』の生みの親だし。
「コネと言ったら相原君じゃない?今のとこどうなのその辺」
「随分ふんわりとした質問だな……うーん、覚醒者に限定してだと、連絡先交換しているのは学内で五十人。学外で百二十人ぐらいだな」
「うっそだろお前」
話題を逸らすために聞いたのにさらっととんでもない数字が出て来たんだけど。
コミュ力弱者三人が愕然とするなか、相原君は平然と続ける。
「つっても、京太朗のみたいにお偉いさんの名前がずらずら出てくるわけじゃねぇよ?冒険者なのは合計すると半分ぐらいだし、一番社会的地位があるのは陸自の一尉だぞ」
「いや何をどうしたらそんな人脈作れるんだよ……」
「そりゃお前。鍛冶師としての伝手をコロコロさせていけば倍々ゲームで広がるに決まっているだろう」
やべぇ、相原君が別の生命体に見えてきた。
「ま、人には向き不向きがあるんだ。お前らコミュ障どもでも社会はやり方次第で生きていけるさ」
「君が言うと説得力があるのかないのかわからないな……」
「同感」
「お、俺は今後親戚づきあいでコミュ力鍛えられるし?」
「そういや熊井、お前京太朗から聞いたけど高校卒業するまで付き合うのは断られたらしいじゃん。どうなんだよ、その辺」
「京太朗てめぇ……」
「だって秘密にする事じゃないじゃん」
睨んでくるゴリラをドウドウと宥める。
「たくっ。別に。実質恋人同士なお友達からって事で、健全なお付き合いをしていく感じだよ」
「えぇ……つっまんねぇ」
「人の恋路で楽しむなや」
「え、ごめん楽しむ気満々だわ」
「ほらキリキリ吐くんだよ」
「敵しかいねぇ!?」
恋バナが好きなのが女子だけだと思うなよ?外野から好き勝手言える他人の恋路ほど面白いものはないのだ。
そんな馬鹿話をしていて、そう言えばと内ポケットに仕込んだアイテム袋から封筒を取り出す。
「話は変わるんだけどさ相原君。君に受け取ってほしいものがあるんだ」
「ごめん京太朗。俺たち友達のままでいよ?お前とは付き合った場合の自分を想像できないんだ」
「おい馬鹿やめろ。そういう冗談はゴリラに流れ弾が飛ぶから」
「ご、ごふぅ……」
「「ゴリラぁ!?」」
「計画通り」
悪役そのものな笑みを浮かべる相原君。くそ、確信犯か!
「い、いやだ……いざ高校卒業したら相手の熱が冷めて……い、いや。鉄子さんはそんな人じゃ……け、けど俺よりいい男が現われでもしたら……」
「安心しろゴリラ!お前ほどあの人の隣が似合う男はいない!」
「うほほーほほーほほー」
「ふんっ」
「あべしっ」
わき腹をどつかれて沈黙する眼鏡。野生動物を刺激するから……。
「で、なんだよその封筒」
「いや。とある『外装』を作ってほしくて、その依頼書を。先に渡しとくから見積とか出してほしいなって」
「ほーん。ここで開けても?」
「大丈夫だよ」
封筒からレイラが書いた依頼書を取り出し読んでいく相原君。数分ほどして、彼が顔をあげる。
「おっまえ、リーンフォースの時といい……いや、詳しくは聞かねぇよ。手の内を探る気はねぇし」
「ごめん、ありがとう。受けてくれる?」
「まあいいけどよ。高くつくからな」
「おう。そこのゴリラから絞るから安心してくれ」
「!?」
「マジか。じゃあ普段の倍の値段請求しとくか」
「!?」
「冗談だから落ち着けゴリラ」
「そんな顔すんなよゴリラ」
「まずゴリラ呼びやめろやモブ顔&モヤシ」
そんなこんなで時間が過ぎていき、解散する。
さて。とりあえず相原君には依頼できたし、詳しい所は後で詰めていくとして。
自分は『他の準備』をするとしよう。
* * *
そんなわけで、また別のダンジョンを目指して電車に揺られる。
デートは来週にやるとして、その前にやるだけの事はやっておかないと。
流石にまたトラブルに巻き込まれるとは思っていないが、念には念を入れるに越した事はない。というか、『常在戦場』とまではいかずとも常に戦力の拡充は考えておくべきである。なんせこんなご時世なので。
今回は日帰りで行ける距離にあったダンジョンを目指す。駅からバスを使い、山だらけの道を進んだ。
道中、廃村が目立つ。手入れされなくなった畑と思しき場所には雑草がこれでもかと背を伸ばし、近くの山々は蔦の侵食が酷い。
こういう土地の人達は一時期『賢者の会』が信者として受け入れて洗脳していたけど、今は桜井自動車が結構な数を受け入れているとか。この前赤城さんからちらっと聞いた。
なんでも人工異界内の環境をできるだけ通常の農場に近づけたから、そこで働く人間を募集したとか。ついでに人工異界内の居住空間のテスターも。
人体実験だとか実質監禁じゃないのかと批判する声も上がっているが、世間では基本的に好意的な眼で見られている。それだけダンジョン被害で住む場所を失った人や土地不足が問題となっているのだ。
また、批判している人達の一部は『ユマニテ』に合流したらしい。彼らとしては、ダンジョン周辺から避難しなくてもいいぐらいストアがある場所に国で戦力を揃えろとのこと。
この前まで『自衛隊はいらない』とか『防衛費を減らして外交費用に』と言われていたのだが、今は真逆の様子だ。国民は強い国防力を求めている……なんて、柄にもないな。
そんな事を考えていると、目的地に到着する。過疎というか滅びた村落に囲まれているわりに、意外と人がいる。最近不人気ダンジョンにばかり行っているから、その辺の感覚が少し狂っているかもしれない。
決してここは人気なわけではないが、中の下ぐらいの人の入りがある。ストアへと入っていき、ロッカールームで手早く準備を終えて受付を通った。
そしてゲートを潜り、ダンジョンの中に。
そうして見えてきたのは、整地された地面と木製の壁。それらが続く碁盤の様な街並みは、どの建物も木造建築でありかなり古いデザインと工法が使われている様に思えた。
そう、それこそ時代劇に出てくる京都の街並みの様に。
ランクは『C』。市のホームページで書かれていた名前は、『魔都の迷宮』。
カサカサと、そんな音がどこからか聞こえてくる場所だった。
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