第十一話 デビュー
第十一話 デビュー
サイド 大川 京太朗
なんか、凄い事になってる。
『有川臨時総理のこの海外批判ととれる発言は不要な軋轢を――』
『冒険者免許のみで、刀剣に類する物を一般人が売買できるのは治安の――』
『アメリカのトンプソン大統領は有川臨時総理の発言に対し、とんでもない陰謀論だと口にしており――』
テレビは今日もお祭り騒ぎだった。これ、あの放送から一週間経っても続いてんだよ?
そう、有川臨時総理の緊急会見から一週間である。冒険者講習も終わり、晴れて自分も冒険者となった。いや、免許証が送付されるのはあと数日かかるけども。
そして今日は入学式でもある。
春休み?ははっ、やっこさんは死んだよ。どうして死んじまったんだ……僕は、あんなにもダラダラするのを楽しみにしていたのに……。
具体的に言うと両親が家にいないタイミングを狙ってレイラと『にゃんにゃん』するつもりだったのに!!
後だし同然でやらされたアイテムの売買に関する法律や税期について。教える側もかなり四苦八苦していたせいで、講義はそりゃあもうぐっだぐだだったなぁ。しょうがないとは思うけど
疲れた。本当に疲れた。もうしばらくは『税』も『%』も見たくない。
だが、それでも冒険者の収入が増えるのなら願ったり叶ったりだ。お金はあるに越した事はない。
さっきちょろっと調べたが、アメリカの企業を含め国内外問わず色んな会社がダンジョン産のアイテムの売買について手を挙げているらしい。
曰く、ダンジョンの武器ならば魔力を帯びているので、覚醒者でなくてもモンスターにダメージを与えられるとか。
まあ、それでも身体能力に差があり過ぎるし、そもそもダンジョン内での活動時間。そしてモンスターの視認能力など様々な問題があるから、覚醒者がすぐにお役御免となる事はないけど。
だがそれらを考えた上で、やはり魅力的なのだろうな。覚醒していなくてもモンスターに対抗できる手段というのは。なんなら、覚醒のきっかけとしても効果的らしい。モンスターの討伐は。
……まあ。普通の加工技術だとダンジョン産の鉱物や武器は魔力を失ってしまうから、溶かして銃弾にってのは数を揃えられそうにないらしいけど。
閑話休題。
今日は高校の入学式。新生活の始まりである。更に言えば、父さんの再就職も決まった。
……例の改正で冒険者組合は修羅場ってるらしいけど。頑張れ父さん。新人だからって優しくはしねぇぜなブラックモードかもしれないけど、ガンバだ。
「遂に始まるな。俺の筋肉美女育成計画が」
「ああ。これから僕の触手愛好会の道は始まる」
「黙れ馬鹿ども」
入学式。新しい制服に身をつつんで出席するのだが、会場である体育館に行く前にそれぞれの教室に生徒達は集められた。
で、まさかの熊井君と魚山君と同じクラスである。嬉しいは嬉しいが、それでも同類と思われたくない。
「ちなみに京太朗よ。お前の抱負は?」
「おうあくしろよ。ちゃきちゃき吐くんだよ」
「え、いや、特にないけど……」
「かっー、これだから最近の若いのは……」
「ただ漠然と日々を過ごしてしまう。その不幸をわからんとは」
「言いたい事はわかるけど、それで筋肉と触手が出てくるのは斜め下に馬鹿だよ」
抱負……抱負ねぇ。
この高校時代に目指すべき目標と言われて、ぱっと浮かぶのはやはり『モテたい』だろうか。口にはしないけど。
いや、浮気じゃないんだよ?レイラいるし。けどほら、付き合うかは別としてチヤホヤはされたいんだよ。同級生の女子たちに。
『キャー、京太朗君かっこいー!』
とか。
『素敵!強くて紳士的でイケメンだなんて!』
とか。
『体だけの関係でもいいの……思い出を、ください』
とか!!
とか!!!!
いやぁ、僕も?冒険者ですし?覚醒者なわけですし?結構、強い方の部類なわけだし?やっぱここは『特別』だって事を見せたい的な?
っぁー!僕の『オーラ』ってやつが漏れちゃったら?まあ不可抗力っつうか?
ふっ……見えるぜ。モテ過ぎて困っちゃうなと黄昏る自分の未来が。まさか、これが未来視の魔眼?
今始まるぜ、僕の桃色な高校生活がなぁ!
* * *
「レイラぁぁぁぁ……」
「はい、どうしましたか主様」
自室に帰るなり、召喚したレイラの胸に縋りつく。彼女は笑顔のまま抱きしめ、頭を撫でてくれた。
ぐすん……癒される。あとおっぱいでかいし柔らかい。いい匂いする……。
「高校デビュー……失敗した」
「はい、私も記憶していますよ」
* * *
正直特に語る事もなかった高校の入学式。だが本番はクラスでの自己紹介だと意気込んでいた。
自分の苗字は『大川』……『お』である。魚山君の方が早いが、奴は生粋の変態だから問題ない。
ここで、『自分が冒険者であり覚醒者』な事をカミングアウトする……!
中学時代は頑なに隠したが、環境が変わった今ならいける。自分を信じろ!これから、僕の華々しい学校生活が始まるんだ!勇気をもて!
「じゃあ左端の一番前の人から自己紹介初めて」
担任の男性教師が、笑顔のままそう言いだした。よし、やはりあいうえお順!この席はそのようになっている!
くるぜ、僕の時代が!
「はい。相原健介っす。よろしく。こう見えて覚醒者で冒険者だから、放課後の付き合いは悪いかもしれねぇ。けど遊びとか気安く誘ってくれよな」
ひょ?
机に向かってイメージトレーニングをしていた所に聞こえた、そんな言葉。ぎこちなく顔をあげれば、三つ前の席で自己紹介をするイケメン。
え、お前その整った面で冒険者なの?つうか、え、待って?それは卑怯じゃん。ズルじゃん。『あいばら』ってなんだよ。自己紹介RTAかよ。
「マジかよ、すげぇ!」
「私同級生の覚醒者って初めてー」
「冒険者ってどんな感じなんだろう」
既に教室の関心は彼に集中している。その状況で、あの余裕の態度。
間違いねぇ、奴はAグループだ……!
ち、畜生……!勝てるわけがない!ここで自分も覚醒者だの冒険者だの言っても、よくて二番煎じ。下手をすればAグループのイケメン様にたてつく不届きもの扱いは不可避だぁ!!
何故かって?僕の顔面は僕が一番知っているからだよ?
「魚山健吾です。趣味は読書です。よろしくお願いします」
魚山くぅぅぅぅぅぅぅん!?なんんだその普通過ぎて無味無臭な自己紹介は!弾けろよ!
くそ、よく考えたらあいつ僕らの前以外では普通に擬態すんだった!
そして自分の前にいる『江崎』って人も自己紹介を終え、僕の番に。
く、くそ。考えている時間はない!ここは無難に――。
「オ゛っ!………大川京太朗です……趣味は、ゲームとかです。よろしくお願いします」
……終わった。
* * *
ふふ……クラスに流れた失笑。しばらくは忘れられそうにないぜ。
高校でも僕はモブの中のモブ。モブ川モブ太朗として過ごすのさ。モテモテなんて夢のまた夢だよ。
「残念でしたね。高校デビューに成功し、異性に好かれる算段でしたのに」
「こひゅ」
息がつまる。え、あ、そうじゃん。馬鹿じゃん。レイラって僕と記憶を部分的に共有すんじゃん。
あかん。これは、あかん。顔を擦り付けておっぱいの感触を楽しんでいる場合でも、さりげなく尻に手を回そうとしている場合でもねえ!
「ち、違うんだよレイラ。いや、ほら、これは円滑な学校生活を送る為のことでして決して浮気とかそういうのでは」
ここでレイラに嫌われたら死ぬ!自害する自信があるぞ僕は!
「……?ああ、なるほど」
慌てて胸から離れた自分を不思議そうに見た後、レイラが納得したように手を叩いた。
「主様は私がいるのに他の『つがい』を持つことに、罪悪感を抱いているのですね?」
「 」
頭が真っ白になる。あかん。
「ご安心ください。私はその様な事を気にしません。むしろ、強く推奨します」
「へ?」
「遺伝子を残したいのは生物の基本的欲求です。それを果たしたいのは当たり前ですし、主様の一部である私も強く望みます。この身は本質が霊体ですので、子を孕めません、主様は私とは別につがいを用意すべきです。そもそも、守護精霊はそういうものではありませんし」
「あ、いや、その……」
レイラは本心で言っている。それは伝わるのだが、気まずい。
なんか字面にすると僕、滅茶苦茶最低な奴では?クソの中のクソでは?
「頑張ってください主様!私で存分に練習し、立派な御子を作りましょう!」
「……はい」
ぎゅっとこちらの手を握って微笑みかけてくるレイラ。まさかの彼女公認である。
……どうも、大川京太朗改めクズ野郎です。それはそれとしてムラっときちゃった事をここに表明します。いや口に出さないから表明してねえけど。
そっかぁ……OKなのか……。
ただね、レイラ。僕今気づいたんだけどさ。
「ご希望ならこのまま『練習』を行いますか?」
「……いや、今は家に母さんいるし」
美少女守護精霊とちゅっちゅしている奴とか、顔と性格以前に普通の女性からしたらお断り案件では?
少なくとも逆の立場なら関わらん様にする気がする。
……ごめん、母さん。父さん。孫は諦めてくれ!!
* * *
「ダンジョン行こうぜ!」
「声がでけぇ」
「ナチュラルにうざい」
「酷くない?」
入学式から数日。土曜日となる。だがそれよりも重要な事があった。
冒険者免許が昨日家に届いたのだ。遂に自分も冒険者デビューである。
「というか、お前中学の頃はかなり冒険者に消極的だったじゃん。なんでそんな乗り気に?」
「だって初ダンジョンが……」
「あー」
熊井君がそっと目を逸らす。
初めてだったのに……相方がゴリゴリにやる気ないという凄まじく気まずい状況で、ダンジョン探索を終えた。正直なんか色々とガッカリしたのを忘れていない。
僕だって、冒険者のリスクについて思う所はある。しかしそれはそれ、これはこれ。やはり男たるもの、ダンジョンという響きには浪漫を感じてしまうのだ。
「あと純粋に金がほしい」
「ストレートだなおい」
「けど百理ある」
「だな」
そう、現金である。
こっちは冒険者講習会と免許の発行で散々散財したのだ。ここいらで稼いでおきたい。
幸いな事に、父さんに払われる給料はしっかりとしたものらしい。我が家の経済状態は回復に向かっている。
だがこんなご時世、やはり貯金って大事だと思うのだ。突然父さんが失職した事で痛感した。人生、どんな事が起きるか想像もつかないのだと。
学生の身分だが、やれる事はやっておきたい。ついでに、初めて自分の稼いだ金で少しぐらい親孝行もしてみたいのだ。無茶なコネ入社は、まあ例外だろう。
そう、こういう真面目な考えのもと金を稼ぎたいのであって、『自由にできるお金でレイラ用のコスプレ衣装とかホテル代』なんてこれっぽっちも考えていない。
信じて!!
「どうした京太朗。突然卑しさ全開の眼で空を見上げて」
「凄いな。ギャンブル漫画の敵役ぐらい濁った眼だったよ」
「そんなに?僕の眼そんなにアレだった?」
「「うん」」
……信じて!!
* * *
「金と言えばさ、ドロップアイテムの相場って今どうなってんの?」
「んー」
電車に揺られながら、小声でだべる。
うちから駅を三つほど挟んだ所にある『Eランクダンジョン』。そこを目指しているのだ。
休みの日だが、結構田舎な方に向かう電車だけあってかなり空いていた。先ほどまではそこそこ車両に人がいたが、先ほどの駅で降りる人が多かったおかげで今は普通に座れている。
もしかしたら、同じ車両に乗っている人達は自分達と同じ目的かもしれない。あそこの男の人とか、登山バックみたいなのを抱えているし。
「スケルトンとかゴブリンとか、そういうモンスターが落とす鉄の剣や槍で十万前後って感じらしいよ」
「マジかよ。どう見ても安物だったぞ、ダンジョンで見た時」
「え、ドロップしたの?」
「一回だけね。当然講習所の物って事で回収されたけど」
僕の時は落ちなかったが、まあそれは運か。
スマホをスライドし、ドロップアイテムの買い取りについて調べていく。
「んで、『リビングアーマー』とか言うモンスターは……わお」
「どったよ」
「Dランクのモンスターなんだけどさ……剣や槍だったら二十五万。鎧だったら百万だって」
「ふぁっ!?」
「声がでけぇ」
熊井君の脇を魚山君がどつく。その間にこちらへ視線を向けてきた人に軽く会釈しておいた。
驚くのも無理はない。なんせ改正前の授業ではおそよ二万円ぐらいしか貰えないと聞いたのだ、Dランクのドロップアイテムって。
前に日本刀がネットで数十万円の値で売られているのを見た事があるけど……それでもやはり、二十五万は高い。かかるコストが違う……はず。
「す、すまん。けどマジで驚いた」
「同じDランクの『レッドハウンド』とかいう狼が落とす牙とか、十五万円だって。金属の方がいいのかね」
「さあ……けどその辺の値段も変化するんじゃない?」
「かなぁ」
「それにしても、有川総理様様だな」
「もうすぐ新しい内閣で、ダンジョン対策庁の大臣になるらしいけどね」
熊井君の言葉を、魚山君が眼鏡の位置を直しながら訂正する。
そう。あの会見の後、本当に有川臨時内閣は解散。米倉利吉という、正直あんまり聞かない名前の人が総理大臣となった。
まあ、米倉総理はテレビの専門家さん曰く、『中継ぎ』らしいが。誰もこの時期の総理とかやりたくないから押し付けられたらしい。
で、件の有川大臣。彼は臨時総理として大鉈を振った影響で、ダンジョン対策庁という新設の仕事が多いのに政治の中枢に関われないとされる所に『島流し』されたとも評価されていた。
現在、テレビで非難轟々な彼だが、覚醒者……というか冒険者からはかなり感謝される存在となっている。
なんせああもキッパリとした発言をし、わが身を顧みず国の為と言いながら行動してみせたのだ。なんなら、覚醒者以外でも彼を支持する人も出ている。
ただなぁ……。
「感謝はしているけど、胡散臭くない?」
「それは確かに」
「胡散臭さが服着て歩いている感はある」
それはそれとしてなんか胡散臭い。浮世離れしているというか、なんというか。芝居がかった仕草が多いせいかもしれない。いつも不敵な笑みを浮かべているし。
今日本で『胡散臭い人選手権』をしたら間違いなく一位になるだろう。間違いない。
「けどあの人のおかげで稼げそうなのも事実だろ」
「それは確かに。だから感謝はしてるって」
そんな事を話している間に、電車が止まる。目的地に着いた様だ。
そこからバスに十五分ほど揺られ、とうとうダンジョンに到着した。
バス停から歩いていくと、ポツポツと畑の合間に家が並んでいるのが見える。だが、どこも人の気配がしなかった。田舎なら車を持っている家が多いだろうに、止まっている乗用車はない。車庫とかなら、知らんけど。
畑にいたっては、草がぼうぼうだ。これもダンジョンが発生して、危険だからと避難させられた結果なんだろうか。
自分達の様にダンジョンを儲け話と思う輩もいれば、こうして生活を捨てさせられた人達もいる。
なんとも複雑な気分になるが、すぐに思考を切り替えた。自分が考える事でもない。その辺はお偉いさん達の仕事である。
今はダンジョンの探索にこそ集中しよう。今回挑むのは講習の時と同じ『Eランクダンジョン』。出現するモンスターは『スケルトン』にそれの上位種である『スケルトンナイト』。そして『ミミック』。
難易度的には余裕だろうが、それぐらいでいい。なんせこちらはルーキー。相手を雑魚と思うなら、自分も雑魚だと認識する必要がある。
遂に、本当の意味で『初めてのダンジョン探索』が始まるのだ。
* * *
熊井信夫 種族:人間・覚醒者
筋力:B 耐久:B 敏捷:C 魔力:D 抵抗:D
異能
・捨て身の一撃
『一時的に筋力をワンランク上昇。反動でダメージあり』
備考
・筋肉美女マニア。理想は身長180以上、体重100キロ以上、体脂肪率15%以内。ダンジョンが出来る前はスポーツジムのトレーナーを将来の目標にしていた。
* * *
魚山健吾 種族:人間・覚醒者
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:B 抵抗:B
異能
・青魔法
『水系統の魔法。魔力を消費し、呪文か魔法陣により発動』
・使い魔契約
『一部モンスター・あるいは小動物に使用可能。主従関係を築ける』
備考
・重度の触手マニア。受ける専門。小学生の頃に水族館で見たイソギンチャクに心を奪われた。細い触手も太い触手も好き。理想は両方を兼ね備えたタイプ。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.有川臨時内閣って元々解散予定じゃないっけ?
A.本来はそうなのですが、内々に進んでいたので一般人からは『解散直前にぶっこんだ』のではなく、『ぶっこんだ結果解散する事になった』と見られています。




