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第百四話 トレード

第百四話 トレード



 すぅ……はぁぁぁ……。


 よし。


「すみません、詳しくお願いします」


 大丈夫だ。まだここまでなら大丈夫だ。何が大丈夫なのかわからないが、まだ慌てる様な状態ではない。


 普段相手にしている変態どもと比べればまだ……たぶん、恐らくまともな相手のはず。落ち着いて会話をすれば意図も見えてくるだろう。


「具体的に、『パズズの羽』をどう使うつもりなのですか?」


「むむっ。話さなければ駄目ですか?動画のネタバレになってしまいかねないのですが」


「すみませんが、物が物ですので。僕はSNSとかほとんどやっていないから、ネタバレを拡散する事もしません。もし必要なら後ほど誓約書にもサインしましょう」


 そう、本当に物が物である。


 あの羽はそれこそ、覚醒者が魔力を流し込みながら上流とかダムにつけたらそれだけでパンデミックを起こしかねない危険物だ。僕がアレの所持と売買が許可されているのは、例の依頼の報酬だからに他ならない。


 え?じゃあそんな物トレードしようとするな?そうしないと報酬として意味ないし……。


「そう言う事でしたら、わかりました」


「ご理解感謝します」


「実は『パズズの羽』を武器に仕込みたいのです。モンスターに使えば触れただけで腐らせる事ができますから」


「なるほど」


 それは普通だな。僕も一度は考えたし。


「そして敵モンスターに上手い事奪われます」


「なんて?」


 待って今僕の耳がおかしくなったみたい。


「そして私のビキニアーマーをいい具合に破壊してもらうのです」


 おかしかったのはこの人の頭かぁ。


「BANされる限界を狙うには優れた衣装ブレイクの道具が必要です!!スライムでは私の魔装を突破できなかった……しかし、パズズなら!あのドスケベモンスターなら!!」


「戦った身として言います。その呼び方だけはやめて上げてください」


 普段は倒したモンスターにそんな感情を抱かないが、『ドスケベモンスター』だの『エッチな道具生産機』などと呼ばれるのはあまりにも不憫だ。


 激闘を繰り広げた相手。その名誉ぐらいは守ってやっても罰は当たるまい。


「それは失礼。こちらとしては『ユニコーンの角』をトレードに出そうかと思っていたのですが……」


「詳しく聞かせてください。場合によってはあのドスケベモンスターの羽をお渡ししましょう」



 パズズはドスケベだよ。そういう顔してたもん。



「え、というかどうやってユニコーンの角を?」


「普通にテイムしてからぽっきりと。すぐにとは言いませんが、魔力を与えれば再生しますし」


「いや、そういう事じゃ……いえ、何でもないです」



『ユニコーン』



 一本の角を額から生やした白馬のモンスターである。恐らく、神話や伝説に詳しくない人でもこの名前に聞き覚えぐらいはあるだろう。


 純白の毛並みはこの世のどんな絹より美しく、駆ければ地上の馬に勝てるもの無し。その角の一突きは鉄の鎧も盾も紙切れの様に引き裂き、邪悪なるものを撃ち滅ぼす幻想の馬。


 そしてその名槍のごとき角には浄化の力が宿っており、触れた水はどれだけ汚れていようとも一瞬で清められるとか。


 そんな存在が『C+モンスター』として現代に蘇ったわけだが……伝承通り、あの『ドスケベモンスター』は処女の前にしか姿を現さない。


 そう、処女である。日本では『淫獣』『セクハラ馬』『厄介オタク』と呼ばれるのがユニコーンだ。なお、万が一処女以外が遭遇すると全力で殺しに来る。しかも地味に強い。それこそ同ランク帯では頭一つ抜き出ている。


 なので、アレをテイムした事について深く聴くのはそれ自体がセクハラになるというか……。


「今度の投稿でユニコーンに乗って登場する予定です!よければ見てくださいね!!」


「あ、はい」


 この人、むしろ『処女』な事アピールする気満々だ……!熟知してやがる。自分のサイトに登録している男の大半はその事実に喜ぶと……!


 なんという強メンタル。これが動画投稿者というやつか。


「と、いうわけでどうです?その食いつきよう、『あの噂』は既に聞き及んでいるのでは?」


 しまった。反応し過ぎたか。こういう交渉事では『欲しい』というのを態度に出すのは悪手と聞くものの、実際に隠すのは難しい。


 というか服装含めてインパクトが強すぎて元々苦手な腹芸が壊滅的な事になっとる。


「まあ、『ユニコーンの角を水に浸せば白の魔石が作れる』と聞いた事がありますが」


 前に『金剛』の戦闘を見て気になったのだ。どうやってあれほどの魔石を手に入れているのかと。それで色々と調べたのだが……『覚醒者の血肉を材料に』だの『モンスターを生きたまま加工する』だの、どれもこれも眉唾ものの話ばかり。


 そんな話の中で一番信憑性の高かったのが、これだ。


「合っていますよ、その噂。ユニコーンの角は確かに白の魔石が作れます」


「マジですか」


「ええ。騎士は嘘をつきません。なんなら、後で書面にして約束しても構いませんとも」


 自信満々に逸らした胸を叩く駄騎士。気合でそのおっぱいから視線を逸らし、思考を続けた。


 白の魔石が手に入るなら、戦いの幅を更に持てる。白魔法の使い手は少ないがそれが活躍する機会というのはかなり多い。それこそドラウグルと戦った時にあったなら、どれほど楽ができたか。


 ただの回復なら『青魔法』でも可能だが、アンデッドの類への『浄化』は『白魔法』の専売特許。そうでなくとも、使えるのと使えないのでは違い過ぎる。


 今の時代、手札はいくらあっても足りない。なんせそれほどにダンジョンが多すぎるのだから。


「ですが『B+』の素材と交換となると……」


 それはそれとして。ちょっとした吊り上げはただの挨拶という事で許してほしい。


 だが交渉事なんて全然わからないので、ここからどう立ち回ればいいのかさっぱり浮かんでいないのだが。


「うーむ。確かにユニコーンのテイムは処女でも難しいですが、パズズはケタが違いますからねぇ……私が持っているコレクションの目録を後で見せるので、その中から一つお付けするって事でどうでしょう」


「コレクション?」


「はい。珍しい素材や魔道具、ドロップ品ですね。動画に出してマウントとったり再生数を稼ぐために集めています」


 理由が予想の斜め下にいったな、おい。


「それで、どうです?コレクションの中には『Bランク』のドロップ品もありますよ?加工が少し難しいですが」


 駄騎士さんのコレクション、ねぇ……。


 自分もこの人の動画を度々視聴している。エロ目的もあるが、それ以上に他の冒険者の情報欲しさな所もあった。その際に彼女が自慢……というか紹介しているドロップ品や魔道具についても見聞きしている。


 いくつか気になる物もあったが、さて。


「……その目録を見てから決めるというのでも?」


「構いませんよ。もしも気に入ったのがなければ……うーん。私の動画にゲスト出演する権利とか?」


「いやそれはいらないです」


「即答!?まあ頷かれても少し困りますが。男性と同じ画面に映ったら発狂してしまうお嬢様や御領主様がいるかもしれませんからね」


 こちとら林檎という特大の爆弾を抱えているのだ。目立つのは絶対にごめんである。


 けどチヤホヤはしてほしい。有名税とかも嫌だが、承認欲求は満たされたいものだ。その点ではこの人を本気で尊敬する。登録者数や再生数をかなり出しているが、その分炎上回数が半端ない。それも炎上商法の類ではないのに、だ。


「ではコレクションの中に気に入った物がない場合、足りない分については純粋に現金という事でいかがですかな?」


「……わかりました。その場合も金額について相談させて頂きますが」


「ええ、構いませんとも!」


 握手をしてトレード成立……は、気が早いな。詳しい所はレイラ達も交えて決めてから話を進めないと。連絡先を交換して、後でコレクションとやらの目録を送ってもらう事になった。


 いやぁ、これは思わぬ収穫だ。変わり者ではあるものの、恐らくあの時待合室にいたメンツでは一番強いであろう人物と縁を結べて、そのうえ扱いに困っていた『パズズの羽』についても解決の兆しが見えるとは。


 なにより、やはり話してみれば意外とまともな人の様だ。羽を求めた理由以外は、普通の取引ができたと思う。普段の奇行はキャラ付けが八割ほどで素はそこまで変人ではないという予想は正しそうだ。


「うぇっへっへっへ……!これで私のエッチな姿が画面の向こうに届けられ、更なる高評価の雨あられ!かぁっー!承認欲求が満たされるぅぅ!!」


 ……八割じゃなく六割ぐらいかもしれない。


 ガッツポーズをして揺れる駄騎士さんの乳を見ながら深く頷く。レイラとか雪音は『ばるん』という感じに揺れるが、この人のは『たゆん』と小さく、しかし重量感をもって揺れる。なんか艶めかしい。


 どちらの乳揺れも好きだが、生で見る有名人の乳とは乙なものである。


 それからパーティーは一時間ほど続き、他にも色んなコネを……作れなかった。


 階級的に一番偉い人と、誰が見ても一番やべぇ奴と談笑?していた存在。それは他の人達にはどうにも奇異に映ったらしい。いや僕だってそんなのがいたら避けるけども。


 そんなわけで、話しかけても露骨に『いや、自分違う世界の住人なんで』『私は石私は石私は石』『この場で発狂したら帰れないかな……』という感じの人ばかり。残念ながらこれ以上の戦果は挙げられなかった。


 無理に深追いして逆に敵視される可能性もあるし、引き際と思うとしよう。水無瀬三佐の閉幕の挨拶も終え、祝勝会は某人物の周り以外和やかに閉幕となった。閉幕の挨拶も某人物が乗っ取ったが、割愛する。


 それにしても……得るものも多い祝勝会ではあったが、かなり疲れた。正直二度と来たくない。他の参加者たちも大半が似た様な様子で、ごく一部がよほど意気投合したらしく自衛隊の人達と二次会に行く感じだ。


 ……それはそうと。帰ったらレイラ達にビキニアーマーとかエロ修道服とか女盗賊なコスプレしてもらおう。いや他意はないけど。


 気持ち早足になりながら、駅に向かって真っすぐと歩いて行った。



*    *    *



 なお、その後どこから洩れたのか『陸上自衛隊の幹部自衛官。一般人女性に全身タイツビキニアーマーを着せてパーティーか!?』という記事が有名週刊誌に載り、水無瀬三佐が大変な目にあったらしい。


 ドンマイ。これに関してはマジでドンマイ。


 恐らく厳つい顔に凄まじい皺を刻みながら胃痛を堪えているだろう三佐を想い、虚空に向かってそっと敬礼をした。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.京太朗と駄騎士はどっちが強いの?

A.モンスター相手を想定した場合、取れ高を無視してガチれば個人戦力としてなら互角か駄騎士がやや有利。けどリーンフォース分総合力では京太朗が大差をつけて有利ですね。対人戦の場合どっちもぐだぐだになりますが。


ユニコーン

「膝枕されながらブラッシングされて極楽気分だったのに突然角を折られました……」

駄騎士の雪女千冬

「ざwまwあぁww」

駄騎士の守護精霊ノエル

「あ、ユニコーンが動画に出れなかったのは角の再生待ちだったからです。意外と再生に時間がかかるようで」

矢島さん

「ついでに我々が魔石を買っているのは桜井自動車からだぞ!詳しく話すと何故か殺されそうだから言えないけど!」


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― 新着の感想 ―
パズズの羽とユニコーンの角とでは入手難易度が桁違いですね。 せめて角は数本は出さないと釣り合わないかと。
[良い点] パズズはドスケベモンスター(笑) 大川のこういうところ好き
[良い点] 読み返してふと思ったけど、リーンフォースを頑丈に創れるくらいなら、雪音用の軽くて丈夫な、そう、ビキニアーマーとは言わないがそんな感じまで軽量化した頑丈な防具を着せてあげる事は出来ないのだろ…
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