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第百三話 祝勝会

第百三話 祝勝会



 彼女達とのデートの計画をたてる必要があるが、その前に。重大なイベント……いいや『試練』が待ち受けている。



『祝勝会』



 自分の中では『B+ダンジョンに行け』と言われるに等しい苦行である。正直行きたくない。ポンポンペインペイン案件であった。


 とあるホテルにて開かれるこれに参加するわけだが……滅茶苦茶緊張する。


 服装は自由とされているが、それが逆に困った。制服で行くか、スーツで行くか。それともカジュアルな服装で行くか。


 東郷さんのアドバイスに従い、学生らしい私服で行く事に。コーデは雪音にしてもらった。


 受付をすませ会場に入ると、中はかなり広い。というか豪華だ。なんというか、凄く場違いな所に来てしまった感じがして辛い。


 だが……うん。予想通りというか、他の参加者達もあまり明るい顔ではなかった。


『話しかけないでくださいお願いします。アレですよアレ。自分一人が好きなタイプなんですよほんと』


『あ゛~なんで俺来ちゃったんだろ。今からでも腹痛って事で帰れないかな。とりあえずトイレに行くふりをして時間稼ぎを……』


『私は壁私は壁私は壁私は壁私は壁私は壁私は壁私は壁……』


 などなど。コミュ力の低い自分でも察せられるほどに気配を消そうとしている有り様である。


 これには呼んだ側の自衛隊員たちもたじたじといった様子で、会場のあちこちで話しかけては会話が続かずに気まずい空気を出していた。


 というかもうすぐ予定時刻だけど、なんか人数少なくない?さては『実は祖父のお葬式が』とか『ちょっと今日は体調が優れなくて』とかそういう電話して逃げた奴が大量に出たな?僕は詳しいんだ。だって僕も直前までそれしようか迷っていたから。


 自衛隊の皆さん、侮りましたね。秘密作戦だから御しやすい面々を集めたようですが、そういうコミュ障はこういった場では息をひそめるしかないのです。その上あなた方『陽の者』とは決して相いれない……これが人種の違いからくるすれ違いというやつか。


 いや人種……人種でいいのかコレ。けどコミュ障とリア充はもう外宇宙レベルの差があるよな……。


「さ、流石にその恰好は困ります」


「何故ですか?特に服装の指定はなかったはずですが」


 ふと、そんな会話が聞こえてきて入口の方を振り返る。いや、内容でもう誰が何をやらかしているのか察したが。


「公序良俗に反すると言いますか……その恰好はホテル側に迷惑がですね」


「なにを言うかと思えば。騎士の装いが公序良俗のどこに反するのです!」


 主に全身だしそれを騎士の装いと言うのはヨーロッパに続く騎士の家系の人らに謝れと言いたい。


 案の定駄騎士さんが受付の人に止められていた。彼女の服装は前と同じビキニアーマーである。


 いや、前と同じというのは語弊があるかもしれない。


「ちゃんと今日に合わせて『特別仕様』にしてきたのに!!」


 ギンギラに輝いていた。金ぴかである。あの輝き、もしかしてマジで黄金か。


 重量でズレない様にする為か、前よりも強めに乳や尻に食い込んでいる気がする。端的に言おう。エッチだ。


 兜は鉄製のままだが、代わりに変なトサカまでつけているのはもう何のつもりなのかと。


 相変わらずだだすべってんなぁ……。


「失礼」


「むむ。これは水無瀬指揮官殿」


 そこに登場する水無瀬三佐。凄い、元々険しい顔の人なのに二割増しで皺が増えている。


 何やら彼女を説得している様で、一分ほどで納得してくれたらしく彼女は別室に移動していった。


 すごい……これが佐官の人心掌握術。見習わないと。


「これで良いですね!肌の面積を減らしてきました!!」


 ビキニアーマーの下に全身タイツを着た駄騎士さんが現れた。


「……はい。それで、結構です」


 遠い目をする水無瀬三佐。


 おいどうした佐官の人心掌握術。ただの妥協じゃねぇかおい。


 それでも、自分は自然と彼に敬礼をしていた。変人に絡まれて憔悴した水無瀬三佐の姿が、どういうわけか他人事に思えなかったのだ。


 お疲れ様です、水無瀬三佐……ここからも駄騎士さん係をよろしくお願いします。


 そんなハプニングがあったものの、パーティーが始まる。会場にある小さめの壇上に三佐が上りマイクを手に話しだした。


『本日はお集まりいただきありがとうございます。未成年の方もいらっしゃいますのでアルコール類はございませんし、皆さまのご活躍を考えればささやかな場ではありますが、どうか楽しんでいってください』


 哀れ水無瀬三佐。きっとあらかじめ原稿を用意していただろうに、変人との会話で消耗しすぎたか。とても短い挨拶で終えてしまった。


 ……いや。それとも祝勝会の内容が内容だ。下手な発言をして問題にならない様、最小限に纏めた結果かもしれない。今の世の中、どこから情報が洩れるかわかったもんじゃないし。


『では代わりましてこの駄目じゃない騎士こと駄騎士から騎士団の諸君にこの言葉を送ろう!!』


 おいなんか出てきたぞ。


『よくぞ生き残った!!乾杯!!!!』


「あ、かんぱーい……」


「「「乾杯!!!」」」


 自分含めまばらにグラスを軽くあげる参加者たち。そしてどうにか場を盛り上げようとする自衛隊員の人達の声が会場に響く。


 なんか微妙な空気を出しながら壇上からおりていく駄騎士さん。たぶん素は真面目な人だろうから、特に面白いセリフ浮かばなかったんだろうな……。


 何はともあれ、当初の目的を果たさなければ。


 別に各テーブルに並んだ高そうな食事目当てでここに来たわけではない。この祝勝会に参加した理由は『コネづくり』一択である。



 あ、けどあのお肉美味しそう。絶対凄く高い牛肉じゃん。



 ……正気に戻れ、僕!鎮まれ内なる男子高校生!!


 今の自分ならあれぐらいキロで買えるはずである。ただこういう場所でプロが作った物が置かれるとつい、ね?


 ふらふらと引き寄せられそうになるのを堪え、本来のプランを思い出す。


 大まかな流れはこうだ。まず一人で所在なさげにしている奴を探す。場の空気に押されて誰かに話しかけたいけど、誰にどう話しかけたらいいかわからないという奴だ。


 後は例の『B+ダンジョン』での経験について軽く話を振る。共通の話題、それも苦労話というのは話題として申し分ない。大声でするのはまずくとも、個人間の会話としてなら問題あるまい。


 そして徐々に相手の趣味や出身について話を深めていく……完璧だ。なんて完璧なコンボなんだ。流石は僕の知るコミュ強トップ層に相談しただけはある。


『いやぁ。けどお前対人コミュはマジで終わってるしなぁ』


『その……無理はしない方がいい。事故を起こすよりはきっとマシだ』


 何やら相原君も東郷さんも不穏な事を言っていたが、為せば成る。為さねば成らぬ何事も!!


 というわけで突貫!!


「先日のダンジョンは大変でしたね」


「あ、はい。その……はい」


「へぇ、今そんなアニメをやっているんですね!」


「そうなんですよ!それであそこは右腕が――」


「俺と一緒に自衛官を、やらないか?」


「きゅん……」


 な、なにぃ!!??


 既に各所で参加者たちが自衛隊員達と仲良く談笑している、だとぅ!?一部では連絡先の交換まで……は、早すぎる。


 パーティー開始から約三分……たった三分で、参加者が全員……!?


「やあ、大川君、だったね」


「え、あ、はい」


 動揺していた自分に話しかけてきたのは、まさかの水無瀬三佐だった。


 彼は厳めしい顔に僅かながら憂いを浮かべてこちらの眼を見て語り掛けてくる。


「君はあのダンジョンで特に危険な相手と戦ったと聞く。よく無事で帰って来てくれた」


「は、はい。どうも……」


 たしか、カメラは提出できなかったけど報告書みたいなのは出したっけな、そう言えば。


 全力でリーンフォースの隠し能力やレイラとの融合については誤魔化したが、何か怪しまれる要素がなかったか少し不安だった。しかし、彼の様子からその辺は大丈夫だったように思える。


「改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう。そしてすまない。本当なら、うちの子供と同じくらいの歳の子にやらせる仕事ではなかったのに」


「い、いえそんな」


 というかどうしよう。え、なに話せばいいの?


 パズズのダンジョン……に、ついては特に共有できる気もしない。趣味の話?いやいや、年齢も職業も違い過ぎる。しゅ、出身について聞くとか?


 待てよ、今まさに子供の事を言ったんだからそこを掘り下げて……。


「それにしても君は本当に凄いな。私もダンジョンに潜る事はあるが、大川君ほどの活躍はできないよ」


「そ、そんな事ないですよ、はい……」


 落ち着け。この人の……というかこの人達の魂胆は見えている。取り込みだ。


 ここにいるのは『民間では』という枕詞はつくものの、凄腕の冒険者達。万年人手不足と言われ、『神代回帰』後は悪化して更に人員が足りていない自衛隊からすれば喉から手が出るほどに欲しいはずだ。


 だからこその祝勝会。自分はコネづくりが目的だったが、この人達はその上を狙っている。


 ふっ……申し訳ないが、自衛隊に入るのは最後の手段と考えているのでこの場はお断りさせてもらおう。貴方達の事は尊敬しているが、なりたいかは別問題である。


「そう言えば、水無瀬三佐のお子さんって……」


「……すまない。この様な場でする話ではないんだが、半年前にダンジョンの氾濫でね」


「す、すみません……」


「いや、私の方こそ」


 ……ぼ、僕は屈しないぞ!!



*  *    *



 連絡先を交換してしまった。


 終始相手のペースを崩す事はできず、暗い話から面白い話、緊張する話から高揚する話まで。顔に似合わずウイットに富んだ人物であった。


 ま、まあ?見方を変えれば三佐の連絡先っていう収穫はあったし?自衛隊に入るとかそういう約束はしていないから結果的にプラス的な?元々の目的からそこまで外れていないし?


 ……もしや、僕。口が上手い相手には良い様に転がされるタイプなのでは?


『今更気づいたのかお前……』


『いや、うん……純粋って事だから……』


 イマジナリー相原君と東郷さんが呆れと憐憫の混じった視線を向けてきている気がした。


 ま、まだだ。まだ終わらんよ。まだ時間はある。他の参加者たちも自衛隊の人達と仲良く話しているが、会話が終わった人や異能を使ってまで気配を消している者もいる。自分の魔眼は異能の類なら見逃さない。


 いざ、進軍!!


「やあ、そこの遍歴の騎士よ」



――失念していた。



 この会場で決して目を離してはいけない人物。そして否が応でも注目を集める人物。そんな彼女を、先ほどまで意識して見ない様にしていたのだった。


 だってこんな場所なのにエロで目が曇ったらまずいから。


 壊れたブリキ人形みたいにぎこちない動きで振り返る。そこには案の定、ビキニアーマーの下に全身タイツを着込んだバケツ頭の女性が立っていた。


「私の自己紹介は不要でしょうが、あえて名乗りましょう!日本一有名かつ、世界一フォロワーが多い冒険者!駄目じゃない騎士、駄騎士です!!」


「はぃ……」


 どうにかそう答えて、彼を探す。あの人が駄騎士係だったはず……!


 視界の端に見つけた水無瀬三佐に、そっと救援のアイコンタクトをとる。


 そっと目を逸らされた。


 み、水無瀬ぇぇぇええええええ!逃げるな!自分の職務から逃げるなぁあああああ!!


「さあ、名乗りには名乗りで返すものですよ。遍歴の騎士」


「あ、はい。大川京太朗、です……」


「なるほど、いい名前です。なんか、こう……いい名前です」


「ありがとうございます……」


「うむ……」


 流れる沈黙。駄騎士さんの方も兜の下で汗を流している気がした。


 ……いったい何を話せばいいんだ!!


 落ち着け京太朗。こういう時こそ友人達ならどうするかを考えるんだ。そうすれば絆の力で状況を打開できる会話デッキが構築されるはず。己の運命力を信じろ!


『まずは相手の体脂肪率を読みとれ』


『まずは相手の筋肉の質を見るんだ』


『体のどこに触手を入れたいか聞けば人は友になれる』


 ……黙ってろ!!


 友人達ならどうするかを想像するも、どいつもこいつも役にたたねぇ。よく考えたら僕のイメージするあいつらって、僕以上の案を出せないのでは?ゴミじゃん。


 万事休すとなるも、東郷さんの言葉を思い出す。


「こ、この前のダンジョンではどうでした?」


 そうだ。共通の話題が、切れる手札が僕にはあった。


 これならいけると思ってそう尋ねれば、彼女も深く頷いてくれる。


「ええ。中々に大変でしたよ。実は時々自衛隊から依頼を受けてダンジョンに潜る事はあるのですが、あのダンジョンは状態異常が面倒で」


「あー。薬とか防具とか気を遣わないといけませんもんね」


 どうにか会話が続く。


 やれる。僕だってやれるんだ。もうコミュ障なんて言わせない!


「それより……私は君の戦いについて聞きたいですね」


「え?僕のですか?」


「ええ。とても興味があります」


 駄騎士さんが自分の話よりも他人の話を気にする?少し意外だな。


「あの中で最も取れ高のないオーラを出しながら、その実、ダンジョンに入る直前になって取れ高の鬼の様な顔立ちになった。そんな貴方の話が聞きたいのです」


 すみません、どういう意味で?


 どうにか彼女の言葉をかみ砕こうとしていると、むんずと肩を掴まれた。


 く、そんな近づかれると視線が彼女の胸元にいきそうになる。レイラ達とはまた違ったエロボディ。健全な男子高校生の前に出しちゃダメだろこの人。けど動画にはいつもお世話になっております!


 なるほど、確かに全身タイツを着る事で露出は減った。だがそれだけだ。そのボディラインは健在であり、むしろタイツに引き締められる事でより際立っていると言っていい。


 世の中には『タイツ派』というものがある。なるほど……自分は今までタイツと聞いて思い浮かぶのは足についてだけであったが……これは奥が深い。


 タイツ越しに薄っすら見える肌色。ナイスです。



「もしかしてですが……『パズズの羽』とかドロップしませんでした?」


「………」



 思考を切り替える。


 浮ついていた脳みそを意識して冷やし、仕事の時のそれに。


「トレードについて、と考えてよろしいですか?」


「……君、多重人格って言われない?」


「前に一度だけ言われた事はありますが、特にそういうのではありません」


 黄瀬さんといい、何故そう思うのか不思議だ。僕は僕である。ただ最近、そういうのの切り替えが上手くなった自覚はあるが。


 なんにせよ、『仕事の話』であれば緊張しなくてすむ。何よりこちらとしてはあのダンジョンでの戦闘について詳しく聞かれるのは少し面倒だ。


「それで……『パズズの羽』がどうしましたか?」



「いや、エロい道具に使えないかなと」



「……なんて?」


 どうしよう、せっかく切り替えたのに早速迷走しだした気がするんだけど?


 そっと周囲に視線で助けを求める。既に周囲に人がいなかった。これなら会話が聞かれる心配もあるまい。いやぁ、好都合だなー。


 ……どうして。どうしてこうなった……。


 遠くで水無瀬三佐が敬礼してきた気がするので、内心で中指たてておいた。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.そう言えば、東郷さんからの依頼の報酬って本当に適正価格なの?

A.世界全体でダンジョン関連の報酬は相場が決まりだした所なので、払う側も受け取る側もちょっと苦労していますね。

 ただ、現実の『防衛出動手当』とか海外のPMCの給料とかを考えると、東郷さんの出す報酬は結構な額かもしれません。


Q.おっさんとは楽しく会話できて女とは無理とか、京太朗本当に女体好きかぁ?というかノンケかぁ?

A.京太朗はゴリゴリに女体好きのノンケですが、心の壁というやつですね。

 おっさんに対しては『コミュ障の壁』だけで、それも相手が聞き上手で『自分の話を聞いてくれる』『気持ちよく喋らせてくれる』相手には簡単に懐きます。あと、同世代じゃないから変に肩肘張らずに済むというのもあります。コミュ障は同年代と喋る方が緊張するので……。

 これが異性になると、『コミュ障の壁』に『異性とどんな会話をすればいいのかわからない緊張の壁』と『もしかしたらキモがられて攻撃されるかもという心配の壁』が存在します。

 本人がどれだけモテ太朗を自称しようが、京太朗の本質はコミュ障非モテのままですから。否定されるのを怖がって硬直してしまう感じですね。


 なお、そもそも心の壁関係なく某赤色も某シスターも某駄目騎士も『関わったらやべぇ奴』だから楽しむどうこう以前の問題というのがありますけど。


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― 新着の感想 ―
[一言] >某赤色も某シスターも某駄目騎士も『関わったらやべぇ奴』  一般的には京太郎君もそのカテゴリー・・・と言うか類友(T_T) >遠くで水無瀬三佐が敬礼してきた気がするので、内心で中指たてておい…
[一言] やっぱり覚醒者は皆変人な件 1兆光年譲っても強い覚醒者は特異な性癖持ちだよね 性癖の覚醒者たるO川KY太郎師曰く「変人にあらずんば覚醒者にあらず」
[良い点] なんか上手く表現出来ませんけど、駄騎士さんの姿がリオのサンバカーニバルの踊り子さんのようにイメージが浮かんでしまいました。  駄騎士さんすいませんm(_ _)mペコリエロい目で観てしまいま…
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