第九十五話 沼地のダンジョン
第九十五話 沼地のダンジョン
サイド 大川 京太朗
右手に盾、左手に剣という変わったスタイルの奴が二体。槍持ちが一体。そんな三体のリザードマンを前に、自分とリーンフォースの間に立つ雪音が両手の扇子を振り上げた。
「『乱れ白雪』!」
瞬間、扇状に放たれる吹雪。局所的に発生したそれは木々の表面を凍てつかせ、泥の地面には雪が浅く積もる。
この魔法……妖術はそこまで大きな威力はこのランク帯だと出ない。だが、相性というものは存在する。
『ギ、ァァァ……!?』
トカゲに似ているせいなのか、あるいは構成する魔力が熱の変化に弱いのか。理由は不明ながら、リザードマンは急激に冷やされるとその動きがかなり鈍る。
三体のリザードマンは先ほどまでの勢いはどこへやら、鱗の表面に霜をつけながら木の陰に隠れ冷気から身を守ろうとする。
このまま押し切れれば直接剣を交える事もなく――。
『魔力反応あり。四時の方向より三体、接近中』
なんて事は、このダンジョンでは起きえない。
「雪音はそのまま、リーンフォースはその護衛!あっちは僕らでやる!」
「はい!」
返事を聞きながら、ツヴァイヘンダーを槍の様に構えながら走る。その進行方向には、泥も木々も関係なく全力疾走でこちらに向かう三体の新手。
大きな足裏に加え尻尾によるバランス制御。それによりこの地形でも奴らの足は鈍らない。むしろこういう地面だからこその速度とさえ言われている。
構成は全員盾持ち。横一列で突っ込んでくる奴らに、こちらから見て右端へと狙いを定めた。
駆け出した泥の地面が爆ぜる。魔法による不思議な反発感を覚えながら、突撃。直進するこちらに、当然ながら奴らの顔が向けられる。
ほぼ同時に魔眼が発動。だが回避も防御も必要ない。そのまま走り続けた。
高い動体視力が、リザードマンの鼻の様な器官の下から細長い物が飛んでくるのを捉える。空気で押し出されたそれらは、真っすぐに自分へと向かってきた。
それらは毒針……正確には毒の牙である。現代に現れたリザードマンの歯には強力な神経系の毒があり、生え変わりの度にそれを溜めこんではこうして中距離武器として使ってくるのだ。
連射された数十本の毒針は、しかし自分の身を傷つけない。兜に当たり硬質な音をたて弾かれるか、サーコートに突き立つもそこで止まる。毒は強力だが、その貫通力は大した事はない。
それでも目玉に当たれば重症だろうが、その類は『視てから避ければいい』。構わず突っ込む。
減速をしないこちらに慌てたか、リザードマンが焦って盾を構える。それに対し自分は剣を振り上げた。
一瞬だけ『魔力開放』を発動。木と金属の盾をかち割り、腕を落として頭蓋に至る刀身。それは相手の首の付け根まで食い込み、明らかな致命傷となった。
普通に抜く間も惜しいとその個体の腹を蹴り飛ばしながら、視線を顔ごと横に。中央の個体はこちらに向きを変え、左端の方はそのまま雪音達の方に向かおうとしていた。
『ギャ、ギャッ!!』
『ギィ!』
リザードマンだけに伝わる言語か、あるいはただの鳴き声か。二体はそんな風に喉を震わせる。
構うものか。こいつらなら、剣を迷わせる必要が無い。
黄瀬さんの言葉を一瞬だけ思い出しながら、中央の個体に。左手の剣を振りかぶりながら右手の盾で胸と頭をガードしながら進むリザードマンに、こちらは切っ先を正面に向け突撃。
木々の隙間がちょうど直線になる所で、両者の加速がのった一撃が同時に放たれる。
『ギヤァ!』
振り下ろされる曲刀。だが遅い。リーチと速度分上回ったこちらの一撃が、相手の盾を捉える。
分厚いそれを砕き、下にある腕さえも串刺しに。だが僅かにそれて脇腹に刺さった切っ先に、リザードマンが笑った気がした。
縮まった距離で近づく相手の刃を視界の端におさめながら、自分は更に踏み込んだ。リカッソに触れるほど押し込まれた剣を、思いっきり捻る。
肉を抉り骨をへし折ってから剣を斜めに振り抜く。近づいた分相手の剣の鍔が肩にあたるも、この位置なら力がのらずなんの痛痒もない。
血しぶきをあげるその個体の鼻づらに左の拳を叩き込み、木に背中を叩きつけた所で頭をかち割った。
「『大地よ』」
そうしながら最後の一体に視線を向ければ、ちょうど木々の蔦が伸びてその個体の首と左腕に巻き付くところだった。
『ギ、ガァァ……!?』
腕と首で吊るされるリザードマン。だがその拘束もすぐに引き千切ってしまうだろう。現に、脚が泥の地面から僅かに浮いてしまっているもののギチリと蔦が異音を発したのだから。
拘束が解かれる前に、無防備な左わき腹に剣を突き刺す。推定肋骨がある辺りに骨を避けて放たれた平突きに、リザードマンが苦悶のうめき声をあげた。
それを無視して剣を横に切り払い、リカッソから順手に持ち替えて上から下に思いっきり振り下ろす。その一撃は見事頭蓋を叩き割り、斜めに抜けていって脳天から脇腹にかけてを引き裂いていく。
それが致命傷になったと思いながら、念のためレイラ達の方に後退。それから数秒ほどでリザードマン達が粒子に変わり始めた。
こちらは問題ない。では雪音はと視線をそちらに向ければ、先の三体とも氷の槍で貫かれて死んだ所だった。どうも、リーンフォースまでたどり着く前に全部倒されたらしい。
やはり雪音の……雪女の妖術は凄まじい。単純な威力ならランク詐欺もいい所だ。味方だから頼もしいが、敵にいたら嫌すぎる。
「旦那様、ご無事でしたか?」
「うん。全員無事そうでなにより」
軽く周囲を見回し敵影がない事を確認。ついでにドロップも無し、と。
リカッソを持ち直し槍の様に構える。事前情報が正しいならこれで終わるはずがない。不人気なので数が多いというのもあるが、それ以上に奴らは『群れる』。
ダンジョンらしからぬ地形のここは、壁などで遮られる事なく移動できる。だが、それは相手も同じ事。
「たぶん次がすぐに来る。注意を」
「はい!」
彼女らの返事の直後、やはりリーンフォースの警告が入る。
『魔力反応あり。十時方向、三時方向からそれぞれ三体と四体接近中。先に遭遇するのは十時方向からくる敵です』
「わかった。十時方向に前進。速攻で片付けてから残りを潰す」
『了解』
リーンフォースを先頭に駆け足で進めば、すぐに三体のリザードマン達が見えてきた。相変わらずわかりづらい色合いをしているが、手に持っている武器の反射と魔眼の視力の良さで把握できる。
『ギァ、ギァ!!』
槍持ち一、盾持ち二。先頭の一体が何かを叫んでいる間に接近し、槍持ちに突きを放つ。
相手も振り下ろしで迎撃をしてくるが、それよりも先にこちらの攻撃が届いた。右腕を肩ごと抉り飛ばしつつ横を通り抜け、膝裏に蹴りをいれながら反転。
短い悲鳴をあげながら尻尾を振り回してくるその個体を放置し、他のリザードマンに駆けた。
どうやら盾持ち二体で挟撃をしようとしているようだが、遅い。あちらに有利な地形だろうが素の能力値が違う。
ついでに言えば、こちらは一人ではない。
「『氷牙』!」
「『大地よ』」
背後の二体を魔法攻撃が襲うのを感じながら、残りの盾持ちに突撃。不利と見たか、そいつは後退しながら盾を構えて毒針を乱射してきた。
魔眼がそのうちの一本が眼球に届くのを予知し、咄嗟に木の陰に入ってやり過ごす。そのまま弧を描くように接近。相手が剣で迎撃しようとした瞬間に蹴りで盾を砕いた。
バランスを崩し転倒したその個体の頭に剣を上から叩きつけ、念のため喉のあたりを踏み砕きながら刀身を引き抜く。
残り二体を確認すれば、隻腕の個体は木の枝に拘束された状態でリーンフォースに心臓を貫かれており、残り一体は氷の槍で木に磔にされていた。
三体とも粒子になり始め、兜の下で小さくため息をつく。だが、まだ休ませてはくれないらしい。
『六時方向から三体。先の四体と合流する動きをしながらこちらに向かっています』
「わかった。レイラ、雪音。まとめて薙ぎ払って」
「はい」
「お任せください!」
接近してくる七体。それに対しレイラと雪音がそれぞれ得物を向ける。
「『水よ』」
「『乱れ白雪』!」
泥の地面から濁った水が波となってリザードマン達を襲う。腰当たりまであるそれに立ち止まる事で耐えた様だが、続く冷風に水が凍り付いた。
完全に動きが封じられ、ギャアギャアと騒ぎながらも武器や盾を取り落とすリザードマンの集団。
そこへ、容赦なく雪音の放った氷の槍が突き刺さっていく。レイラはともかくリザードマンと雪女は同ランクのはずだと言うのに、一方的な蹂躙だった。
チラリと、リーンフォースに視線を向ける。
『周辺に魔力反応はありません』
「そっか。ありがとう」
とりあえず第一波は終わったらしい。雪音とレイラにも短く労いの言葉を告げながら、リザードマン達が消えた後に視線を向けた。
やはりドロップはなし。事前情報通りなら泥の上に浮くか突き刺さっているはずなので、一目でわかるはずだが……。
「警戒しつつ探索を続行しよう。雪音、ここからも頼んだ」
「はい!どうか存分にワタクシに頼ってください、旦那様!」
「え、あ、うん」
なにやら少しだけテンションが高めな雪音に驚きながら、間引きと並行して探索を続けた。
* * *
探索開始から約二時間。未だ帰還用のゲートは発見できていなかった。
というのも、戦闘回数が多すぎたのだ。ダンジョンに入ってから、直線だと一キロちょっとしか移動していない。
リザードマンは群れる。集落を作っているわけではないのだが、最低でも二体。多ければ五体で行動し、それらが大きく離れる事もなくダンジョン内を徘徊している。
お世辞にも良いとは言えない足場と視界。蒸し暑い環境に、頑丈かつ毒針を使うモンスター。そりゃあ不人気になる。
ついでに、そのドロップ品は苦労に合った物かと言えば微妙なところだ。
リザードマンは珍しい事に落とすアイテムが二種類ある。片方は『使っていた武器』。こちらはダンジョン産の武器だけあって高値で売れる。
だがもう一種。『リザードマンの毒袋』は別だ。
学校の地下にあるダンジョンで戦ったトラッシュどものガス袋と似た様なものである。扱いが難しい上に売っても大した儲けにならない。そのうえ、リザードマンのドロップ品としてはこっちの方が圧倒的に多いと聞く。
実際、ここまで二百体ほど倒したが落としたのは毒袋一つのみ。今日は少し運が悪いようだ。
思考がそんな風に逸れてしまうのを、どうにか引き戻す。この環境と探索時間は否応なしに集中力を削ってくるから、ゲートを見つけ次第戻らなければ。
まさか午前だけで予定の間引きを終えるのは予想外である。午後はゆっくり休むか。
ツヴァイヘンダーを握り直し、更に進んでいく。すると、木々がどんどん開けていった。
……そう言えば市のホームページにあったな、そんな情報。となれば、このダンジョンの『C+』が近くにいるはずだ。
「そろそろ『丘』が見えるかも。その場合は注意して」
「はい」
「わかりました!」
『了解』
木々の壁が終わり、視界が一気に開ける。と言っても、まるで曇天の下の様な雰囲気だが。
泥の地面はまだ続いているのだが、それは少しずつ斜面に変わり丘の様になっていた。所々に雑草を生やすだけで、それ以外の存在は見て取れない。
だが、こちらにはリーンフォースがいる。
『魔力反応あり。大型の反応が一体、一時の方角から近づいてきます』
「迎撃用意。雪音」
「はい!」
バサリと銀色の扇子を振るいながら彼女が呪文を唱える。
「『氷牢・乱杭』!」
リーンフォースが告げた方角に次々と刺さる氷の柱。それらが跳ね上げた泥が、地面に落ちる前に凍っていく。
およそ三十の氷柱が突き立ち丘の一角を占拠した瞬間。爆発でも起きた様に泥の地面が弾け飛んだ。
兜や肩にそれがかかるのを感じながら、視線はとび出てきた怪異に集中する。
『ゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛―――ッ!!』
野太く不気味で、しかしどこか空気の抜けた様な音が混じる咆哮。それを上げながら怪物の巨体が大気にさらされた。
蛇に似た頭部には口の両側に九つの穴があり、剥き出しの牙はそれぞれが剣の様に鋭く長い。ウナギの様にぬめりのある体表に、頭に比較的近い位置からは虫の様な足が八本四対で生えている。
『ラムトンワーム』
イギリスに伝わる『ラムトンのワーム』という伝説に似た姿からそう呼ばれるこの怪物。竜にも蛇にもウナギにも見えるそれは、ぎょろりと人間に似た眼球でこちらを見下ろしてきた。
直後、その巨体に見合わぬ俊敏性でもってラムトンワームが大口を開けて迫って来た。その先にいるのは、雪音。
だがその直前でリーンフォースが割って入り、正面から奴の口を受け止める。上顎を剣で防ぎ、下顎は左手で掴んだ。
人間など丸呑みにできる巨大な口を受け止めた故に、彼女の姿勢は酷く不安定なものになる。泥の地面に押し込まれる様に、その鎧を汚しながら腰まで埋められた。
「『氷牙』!」
「『アイシクル・ミサイル』!」
彼女が奴を止めてくれた間に左へ逃れていたレイラと雪音が、側面から魔法を放つ。
振るわれるタクトと扇子。氷でできた礫の群れと槍がぬめりのある体表に突き刺さった。それに悲鳴をあげながら身をよじらせるワーム。見れば、その傷口が凍り付いていた。
カサカサと虫の足で宙を掻きながら距離をとろうとする奴に、自分が駆ける。一息に間合いをつめ、両手で柄を握った状態で思いっきり振り抜いた。
ごっそりと抉れ飛ぶ肉塊。丸太数本分はあろうワームの身体が削れ、再度悲鳴が響く。
『ギ、ガァァァア゛ア゛ア゛!!』
瞬間、魔眼が発動した。咄嗟に跳躍すれば、自分がさっきまで立っていた場所を横薙ぎの尾が通り過ぎていったのである。
奴はそのままとぐろを巻くように体を丸めたと思ったら、その巨大な口から緑色の霧を放出させた。その量は凄まじく、濃霧の様に辺りへと広がる。
「雪音!」
「問題ありません!」
これは毒の霧だ。この中で唯一それが通用する彼女に声をかければ、元気な声が返ってくる。手筈通り、レイラが守ってくれたらしい。
そしてまた発動する魔眼。こちらに振り下ろされる尻尾を予知し、魔力を解き放つ。
ロケットの様に射出された身体で真上に突きを放つと、衝撃でワームの尾が千切れ飛んだ。
霧の上にまで跳んだ状態で見下ろせば、ワームが憎々し気にこちらを睨みつけていた。そしてその身には今しがた千切れた尾以外に、傷と言えるのは氷の槍と礫で抉られた箇所のみ。
レイラ達の近くに着地した頃には既に毒の霧はほぼ晴れていた。その中で、泥の地面に落ちた尾の先端から虫の様な足が生えてきたのを目撃する。
独立して動き出したそれが本体にくっついたかと思えば、何事も無かった様に尾が生えてくるではないか。
事前に聞いていたとは言え、呆れるほどの再生能力だ。剣を構えなおし、兜の下で小さく呼吸を整える。
さて、それでもアレの対処は簡単だ。再生しづらい攻撃で削りきるか、再生が間に合わない火力で押しつぶす。『魔力解放』で二、三回体を弾けさせれば倒せるはずだが……。
「お任せください、旦那様!」
雪音が両の扇子を構え、そう吠える。
未だゲートも見つかっていないのだ。ここは自分の魔力温存も兼ねて、彼女に任せるとしよう。
再び大口をあけて突っ込んでくるワーム。だがこんどは上からではなく、泥の斜面を滑る様に横方向から迫って来た。
その頭を、リーンフォースが切り上げる。牙と両手剣がぶつかり、火花を散らして互いの体勢を僅かに崩す。だが体重の差か、持ち直すのは相手の方が速い。
ぐるりと勢いそのままワームが体を横回転させる。振るわれた薙ぎ払いの尾。それに、今度は自分が踏み込んだ。
自分より遥かに大きい相手。それだけに振るう無駄の多すぎる大上段の一太刀により、ワームの身体を引き裂いた。相手の勢いものってぬめりのある体表を無視し、文字通り両断する。
その巨体を半分の長さにし、ワームが絶叫をあげる。だが血が流れたのはほんの数秒。すぐさま止血され、下半分にも虫の足が生えてきていた。
それでも、勝負は既についている。
「『水よ』」
「『氷牙・大槌』!!」
泥の地面から巻き上げられる大量の水。それを周囲に渦巻かせながら、氷の破城槌が空を駆けた。
砲弾というにも質量があり過ぎるそれが、ワームの顔面に直撃。頭蓋を砕いて頭部にめり込み、その重量でもって身を傾かせる。
ゆっくりと倒れ行くその身体は、地面にたどり着く頃には氷像へと変わっていた。泥にまみれながら、それは自重でもって砕けていく。
念のため千切れた下半身の方に視線を向ければ、帰るべき本体を失った故だろう。痙攣していたかと思えば、バチリと弾けて消え失せた。
氷像の方も粒子に変わっていくのを確認し、兜の下で小さくため息をつく。地味に疲れた。ここまでの疲労も合わさって、流石にきつい。
「皆、無事?」
「はい、問題ありません」
「大丈夫です、旦那様!」
『異常ありません』
三人とも大丈夫らしい。一応目視で軽く確認してから、小さく頷く。
それにしてもこのダンジョンでは雪音が大活躍である。相性がいいのもあるが、それ以上に本人のやる気が凄い。元からそうではあるのだが、今日は特にそう思えた。
……帰ったらその辺、詳しく聞いた方が良いかな?
だがそれも脱出してからの事。今はダンジョンに集中するとしよう。
ドロップアイテムが無い事を確認し、剣を担いで探索を再開した。
* * *
ラムトンワームの討伐から三十分後、どうにか丘の一角にゲートを発見して帰還した。その間にもリザードマンどもが二十体ほど出てきたのだから、たまったものではない。
それでも、実習で出された課題である間引き自体は完了した。一日がかりのはずが、半日で終了である。
……まあ、やはり不人気ダンジョンらしく苦労と報酬は見合わないが。
市町村から出された依頼とは違い学校からの課題なので、別途の報酬はなし。討伐報酬とドロップ品だけである。少しだけ不服だ。
まあ、間引きをしてもらった市の方から学校の運営資金に寄付がされ、結果的に自分が利用する学食や寮の環境に繋がると強引に自分を納得させる。
切り替えよう。今日は早めに帰れるのだし、異界で雪音の話を聞いた後ごろごろしながらゲームでもするか、ムフフな事でもしているか。
ドロップ品の鑑定を待ちながらそんな事を考えていると、スマホが鳴り出す。はて誰からの電話だろうと画面を見れば、そこには矢島さんの名前が表示されていた。
ストアの端っこに移動して、通話に出る。いったい何の用だろうか。
「はいもしも――」
『京太朗くぅぅぅぅんんんん!!!』
「―――――」
瞬間、覚醒者でなければ鼓膜にダメージが出たであろう大声がスマホから響く。ストアにいた職員さん達や売店の人達がギョッとしてこちらを見てきた。
顔が引きつるのを自覚しながら、彼らの視線から逃げるように背を丸めながら壁を向く。スマホのスピーカー、今ので壊れていないだろうな。
「なんですか、そんな大声で」
『ごほっ、げほっ、おげぇ……ちょ、ごほ……待って……』
「……どうぞごゆっくり」
あまりの大声に発した方が喉を傷めたらしい。えずく中年オヤジの声を聞きながら、天井を仰いだ。
今日は、マジで運が無いらしい。いや氾濫に巻き込まれるよりはマシか。
『ふぅ……すまない、待たせたね』
「いえ、お構いなく。それよりいったいどうしたんですか」
『実は君にまた依頼したい事があるのだよ』
「依頼、ですか?……あの、僕は今桜井自動車の」
『わかっているとも!赤城部長からは許可を得ている!彼女が後日正式な依頼として君に伝える予定だったが、待ちきれないので私の方から電話をかけさせてもらった!!』
「は、はぁ」
それでいいのか社会人とも思うが、赤城さんが良いと言っているのなら自分がどうこう言うつもりはない。矢島さんとは知らない仲でもないし。
「では、依頼の内容とは」
『実は君にぃ……彼らの引率をしてほしいのだ。いや、護衛かな?』
「……まさか」
『そう、そのまさかだとも!』
電話越しに、彼が眼鏡の下で瞳をギラギラとさせている姿が伝わって来た。
『『金剛』を『Cランクダンジョン』に放り込む!!その際に同行してほしいのだよ!!』
……マジかぁ。
朝に駅で聞いた演説を思い出し、なんともタイムリーな話だと目を瞬かせた。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
申し訳ありませんが、リアルが忙しいので明日の投稿は休ませていただきます。




