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第九十四話 理屈

第九十四話 理屈


サイド 大川 京太朗



 ……よくわからないが、自分が絡まれたらかなり面倒な事になるのは察しがついた。できるだけ目立たない様に、不自然にならない程度の早歩きでバス停に向かう。


 前に『賢者の会』の勧誘に遭遇した時みたいにこのまま徒歩でストアに行ってしまおうかとも思ったが、その時よりパッと見地理が複雑に思えた。スマホの地図機能で行こうにも、かなり難しい。


 バスが来るまでここでじっとしているしかない、か。


『この街に住んでいる皆さんは、常にダンジョンの脅威にさらされている状況にあります』


 なにやら、ポロシャツ姿のお爺さんがマイクを手に言っている。


『ダンジョンは、モンスターは凄まじい脅威です。非覚醒状態では怪物の姿を認識する事もできず、ただ食い殺されるばかり。ダンジョンの氾濫が始まれば、すぐにその場を避難しなければ高濃度の魔力によりそれだけで死んでしまう』


 しみじみと語るお爺さん。まあ、言っている事は正しい。


『故に、ダンジョンへの対策は急務にあります。ですが、それを行うには覚醒者の、そして冒険者の数があまりにも少ない』


 ……そりゃあ、はい。


 元々が百人に一人。『神代回帰』の後から覚醒した人もいるだろうが、海外に流れた分も考えればプラマイはどう考えてもマイナスだろう。


『覚醒者だからと言って、必ずしも冒険者にならなければいけないわけではありません。彼らにも職業選択の自由がある。これを強制するのは憲法に反します。ですが、だからと言って国民を守る存在が足りないままでいいわけがありません』


 お爺さんが額に汗を流しながら、その言葉に熱をこめていく。


『非覚醒者が覚醒するには早くても三年の修行が必要とされています!これでは、警察や自衛隊から覚醒者を増やす事も難しい!ではその人手不足をどう解消するのか?それは、産業革命からずっと続けてきたように、技術でもって補うのです!』


 技術……技術なぁ。


 ぶっちゃけ、そこが一番の問題なんだよなぁ。


『皆さんの懸念はわかります。非覚醒者がモンスターに対抗するための装備は、そう簡単に量産できるのかと。だからこその復興支援です!金と人を動かす事で、被災し働き先のない人達に職を与える!それによりマンパワーを生み出すのです』


 ああー……一理ある、かも。


 ダンジョンの氾濫により住む場所と職場を失った人々。彼らには衣食住の支援が必要だが、自立するための職も当然必要である。そして、その部分を『対モンスターの武器』にあてようと。


『それでも足りないかもしれない。ですがその時は、海外と協力すれば問題ないはずです。そもそもダンジョンの氾濫は世界的に対応するべき事柄なのです。日本だけで考えてはいけません。モンスターを倒せる武器について、各国とお金と技術を出し合うのです。そうすれば、あっという間に量産ができる!私達はそう考えております!』


 国際協力が必要というのも、道理はある。


 日本はそもそも資源が足りない。海底から採掘するにも、金と外交的な問題と難しい。それに三人寄れば文殊の知恵とも言うし、海外の偉い学者さんの脳みそも借りられれば技術の進歩は格段にあがるだろう。


『覚醒者に頼るだけの今が、正しい社会なのでしょうか!?イギリスでは覚醒者を貴族とし、土地と権力を与える事で領民と領土を守る様にする動きがあります!立憲君主制から絶対王政に退行する流れが出来始めている!皆さんもつい最近ニュースで見たのではないですか?『賢者の会』の蛮行の証拠を!!』


 聞きたくない組織名が出てきたな。


『覚醒者がどれだけ特別な力を持とうが、人なのです。そして人間は弱い。欲望に抗えない時もあるでしょう。貴族制に戻ってしまえば、人権がどんどん軽視されていく事は目に見えています。それを避ける為にも、人が平等になれる為の武器が必要なのです!!』


 いや、言いたい事はわかるけど、ここ日本。


『ダンジョンの間引きは常日頃から行わなければならず、氾濫時は柔軟かつ臨機応変な対応が必要です。そのために、地方にも戦える力が必要だとは思いませんか!何かある度に、どこどこから応援をよこしてもらうなどという対応では間に合いません!!事実、私が氾濫に巻き込まれた時も自衛隊は間に合わなかった!』


 ……そう言えば、『ユマニテ』の扇子代表は氾濫に巻き込まれて故郷を失ったとか聞いた気がする。


 もしかして、この人達もユマニテとやらだろうか?


『自分の命を守る為にも。そして子供たちの命と未来を守る為にも、力が必要なのです。これを野蛮な思想と考える方もいるでしょう。それも正しい。ですが、願うだけでは駄目なのです。力なき言葉は、ただの命乞いにしかならない。そして、モンスターに命乞いは通じないのです……それを、私はダンジョンの氾濫に遭遇した時に痛感しました……』


 言葉に熱をいれ過ぎたのだろう。お爺さんは息をきらし、目じりに薄っすらと涙まで浮かべていた。


 気が付けば、結構な人数が立ち止まって彼の演説に聞き入っている。無論通り過ぎる人の方が多いが、中々に人の多い街なのもあって駅の周りには平日だというのに賑わいがあった。


 まばらながら拍手も起きている中、バスが到着する。待っていましたとばかりに乗り込み、カードを機械にあててから席に座った。


 座席が七割がた埋まって出発するバスの車内で、あのお爺さんの言葉を思い出す。


 今までは『ユマニテ』とやらは無知で考え無しのアレな人達と思っていたが、むしろ自分の方こそ深く考える事を放棄していたらしい。


 彼らもきちんと考え、その上で行動している。それほどのバイタリティを持つ彼らを、どうして自分が下に見る事ができようか。


 思っていた以上に立派な組織な様である。彼らの言っている事は、それほど間違っていない。



 けど『金剛』なんだよなぁ……。



 根本的な部分で、彼らは間違えてしまっている。というか無知だ。


 これは本来なら知らなくて当然の事なので、彼らを責めるのは……いや。『正確にどんな武装で非覚醒者の自衛隊員がモンスターを倒したのか』を把握せずに行動し出しているのは、ちょっとツッコミたいが。


 まず、アレは自分が戦った感じ『着る装甲車』みたいな物である。重装甲に加え熊なみの膂力。それでもって現代兵器に魔力の籠った銃弾を搭載するのは、ダンジョン内での活動を考えれば良いと思う。


 だが、街中で扱うには不向きだろう。それに地方にアレを配備って、パトカーの代わりに装甲車を使うって事だし。


 ついでに言えば、これはレイラの推測なので確信はないけど……金剛を作るのって、結構な部分で覚醒者のハンドメイド品が関わっているっぽい。


 ゴーレム技術やら魔法薬やらが使われていると考えれば、当然とも言える。相原君の工房みたいにある程度の自動化はできるかもしれないが、現代の工場を想定してはいけない。


 なので非覚醒者の労働者をつぎ込んでも、どこまで役に立つか……いや、経済を回してくれるのは非常にありがたいんだけどね?


 まあ、それらの問題を国際協力でなんやかんやクリアしたとしよう。自分の様な凡骨では思いつかない様な方法で、現代のダヴィンチやガリレオが解決するかもしれない。海外とちゃんと足並み揃うかも、蘇ったリンカーンとかガンジーとかが上手い事してくれたとしよう。



 魔力を帯びた金属はどうするんだよ……。



 卵が先か鶏が先か。『金剛』で『金剛』を作りだし戦う為の物資を確保するのは、非常に難しい気がする。その辺の資源はいったいどうするのか。最初のうちだけ、冒険者をそこに突っ込むとか?ならその間のダンジョンは?


 ……やはり、難しい気がする。


 個人的には『言っている事は正しいけど、実現は難しいから普通に別方向で復興だけ頑張って』と言いたくなる。


 文句ばかりで悪いけど、自分に出せる対案などもう少し冒険者が増える様な方向に力を使ってくれ、ぐらいだ。それはあまりにも僕の視点に寄り過ぎた意見である。胸を張って言える事ではない。


 しかし、先の問題点も矢島さんがなんか上手い感じにアレコレしてくれたら解決するはずだ。


 ガンバ……矢島さん、ガンバ……!


 バスに揺られながら、心の中で眼鏡に白衣がトレードマークな彼にエールを送った。


 あ、けど冒険者をこれ以上縛り上げる感じのはやめてね?いやマジで。


 色々皆さんあるんだろうけど、それはそれこれはこれ。僕だって自分の生活が大事である。嫁が三人もいるし、両親への親孝行もまだできていない。更には父さんの職場はストアである。


 今更突然『冒険者の時代は終わりだぜー!』されたらとても困るので、身勝手ながらほどほどにお願いしたい。



*   *   *



 そんなこんなでバスに揺られる事三十分ほど。


 随分と長く感じたが、ダンジョンストアに到着する。ロッカールームで手早く支度をすませ、受付を通りゲートに。


 中に入り、まず視界に飛び込んで来たのは鬱蒼とした森だった。


「皆、出て来てくれ」


「「はい!」」


 レイラ達を出しながら、抜剣。リカッソを握り、軽く周囲を見回す。


 湿気が随分と強い。足元も泥になっており、踏ん張るのは少し難しいだろう。木々の隙間は幸いな事に広めだから、武器を振るうのはそこまで苦にならないか。


 ようやく蒸し暑い季節も終わりに近づいていた外とは違い、生暖かい空気の流れるダンジョン。そんな中で、探索を開始する。


「皆、気を引き締めていこう。いつも通りで」


「はい」


「お任せください!」


『了解』


 小気味良い返事を聞きながら、意識をダンジョンに集中させる。


 難しい事を考える必要は、今はない。ただ無事にここの探索を終える事に脳のリソースを使うのだ。


 なんせここが不人気ダンジョンとされるのは――ドロップ品の問題より、その危険度こそが問題なのだから。


 それはともかく。まずは足場である。これでは戦闘に支障が出るのか確実だ。


「レイラ、僕とリーンフォースの足元にも魔法をお願い」


「かしこまりました」


 そう頷くレイラの足元。その白い靴には泥一つついていない。そして彼女のタクトが軽く振るわれると、足元に魔力の流れを感じた。


「『アクアブーツ』」


 足を持ち上げてまたおろせば、泥の中ではなくその表面で留まる。少し不思議な感覚だが、これなら普段とそう変わらず動けるか。


 元は水上歩行の魔法らしいが、泥の場所でも有効らしい。


「ありがとう、レイラ」


「いえいえ」


「雪音は……それで、大丈夫なの?」


「はい!」


 足袋に下駄の彼女の足元の泥は表面が凍っていた。その上を歩いていくつもりの様だが……それ、逆にすべらない?


 そう思うのだが彼女は雪女。人間の常識では語れない存在だ。


「旦那様に頂いた『すまーとふぉん』なるもので調べた時は眉唾ものでしたが、実際にやってみるととても歩きやすいです!お試しになりますか?」


「いや、僕はやめておくよ」


 コロコロと笑う彼女の、兜の下で苦笑を浮かべる。


 少し前に貯金もかなり貯まって来たからと、彼女らにもスマホを購入したのである。無論、僕名義ではあるが。


 黄瀬妹さんも言っていたが、情報というやつは大切だ。僕も時々異能やダンジョン関係のは調べるけど、一人で集められる範囲などたかが知れている。ついでに、福利厚生ってわけじゃないけど自分だけスマホを弄るのもなんか悪い気がするし。


「まさか雪女の互助サイトが存在するとは思いませんでした。基本的にお互い夫自慢でためになる情報が少ないのですが……」


「んんっ!そろそろ、集中しようか」


「申し訳ございません」


 小さく咳ばらいをしてから引き締めなおす。雪音とお話ししていたいのは山々だが、ここはダンジョンだ。


 剣を握り直し、もう一度周囲を軽く見まわす。この間に接近してきた影はなし。リーンフォースも何も言わない辺り、大丈夫なようだ。


 といってもここは不人気ダンジョン。少しすれば何かしらに遭遇はするだろう。


「探索を始めよう。リーンフォース、周囲の警戒をしながら先頭をお願い」


『了解』


 いつも通りの順番でダンジョンを進んでいく。


 やはりというか、情報通りここは視界が悪い。木々やそれに絡まる蔦が邪魔だし、木の幹についた泥が一瞬別のものに見える時もある。また、迷宮の天井から注ぐ陽光もどきも枝葉に遮られて少しだけ暗い。


 じっとりとした暑さもあり、防具を着て動くだけで体力が削れそうだ。レイラのおかげで足元がマシになったのにこれなのだから、ここが不人気な理由の一端がわかると言うもの。


 不快は危険。学校で酒井先生が言っていた。集中力が続きづらい環境というのは、それだけで戦闘時は毒となる。


 疲労というより湿気のせいで浮かんだ汗が、兜の下で目に入った。左目が少し見づらくなった瞬間、リーンフォースが声をあげる。


『魔力反応有り。数は三。十時の方向よりこちらに接近中』


「総員戦闘用意。安全第一で」


「「はい!」」


『了解』


 リーンフォースの告げた方向に武器を構えながら、目を瞬かせて視界を確保。すぐにいつも通りとなった瞳で、近づいてくる影を捉える。


 それはかなり見づらい体色をしていた。濃い緑色をベースに所どころ茶色のまだら模様が浮かんでいるのは迷彩柄そのものであり、更には跳ねたのか塗ったのか泥まで付着している。


 そんな鱗が並んだ皮膚に、縦長の瞳孔がある黄色い眼玉。二足歩行で歩くトカゲの様な怪物。


『リザードマン』


 もはやファンタジーものの創作物ではメジャーとなったそれらが、こちらを睨みつけ泥など気にした様子もなく武器を構えて向かってきていた。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.冒険者の遠距離武器ってどこからが駄目なの?

A.基本的に使い手に依存する物。魔法の杖や弓矢。それこそ普通の投げ斧ならOKです。ただ、使い手を選ばずに使える物。銃タイプや推進力を出せる物が仕込まれた武器はアウト判定ですね。


Q.遠距離武器としてじゃなく、ただの斧として登録したら?

A.京太朗

「林檎とリーンフォースっていう爆弾持っているのにこれ以上のリスクはちょっと……」

相原

「普段使わなくても、いざって時に使ったらばれるし。そん時ツッコまれたら面倒な事になんぞ。というか俺が巻き込まれるじゃん。嫁がいんだぞこっちにも」


Q.ユマニテって今はどんな目で見られているの?

A.大まかにだとこんな感じですね。

一般非覚醒者

「言いたい事はわかるけど……」「大いに賛成だ」「いや流石に無理だろ」「興味ない」

一般冒険者

「何言ってんだこいつら」「無理だろ」「お前ら今更覚醒者不要論ってなんだよ」

矢島さん及び魔導装備研究部の人達

「はわ、はわわわわ……」


海外の人達

「とってもいいと思う!!!!!!」



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― 新着の感想 ―
彼らの話の半分以上は正しいし筋も通ってる。 そして実際に自衛隊の研究所で造られているDランク相当のパワードスーツやモンスターにダメージを与えられる魔力のこもった重火器もできつつある。 しかしこれら…
[一言] あー、いるいるこういう人!って感じですね。 あとがきの各グループの突っ込みもよくわかる。 金剛が普通の工業製品でもなければ一般人が覚醒者並に戦えるようになるものでもないという事実も、あっさ…
[一言] 覚醒者の数が足りないのが最大の問題なのだから小中学校の義務教育の授業の中に覚醒修行を組み込むのが1番の問題解決な気がします。9年間も修行すれば素質があれば覚醒するでしょ。 目指せ国民皆覚醒者…
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