第九話 冒険者講習
第九話 冒険者講習
サイド 大川 京太朗
「終わったな……」
「終わったね……」
「受験結果が?」
「いい加減殴るぞおい」
「ケツを出せ。タイキックの時間だ……!」
「ジョーク。イッツアジョーク。落ち着け筋肉馬鹿ども」
魚山君に、熊井君と二人殺意を送る。その冗談はシャレにならんのだ。
三月。あと一カ月で『神代回帰』から二年が過ぎようとしている頃、自分達にも環境の変化というやつがやってくるわけで。
要は、高校受験が終わり、春休みとなったわけだ。
現在地は普段暮らしている場所から駅を三つほど跨いだ、かなりの田舎。見渡す限り山と畑、田んぼしかない。今はバス待ちである。なお、一時間に一本しかない。
「いいじゃん無事に終わったんだから」
「黙れ。長く苦しい戦いから解放された俺達にもっと、こう、配慮しろ」
「受験はもう嫌だ……二度としたくない」
「大学受験」
「「ああああああああ」」
耳を塞いで声を上げる。やめてくれ、魚山君。その言葉は心を抉る。
「まあ、それより先に冒険者免許の試験だけど」
「そっちは大丈夫だろ、たぶん」
「合格率九割越えだしねぇ」
『冒険者免許』
一週間の講習と、試験官同伴でのダンジョン探索。これらを終えた十五歳以上の覚醒者に与えられる免許である。
なお、受講料は一人一万五千円。ついでに免許の発行で二千円。初年度はいいけど『冒険者税』とかいう新しい法律により年一万円と、聞いた時はちょっと白目をむきそうになった。こっちは学生やねん。
お年玉貯金を切り崩す事となった。冒険者になると決めたのは自分自身だし、両親も納得はしたがそれはそれとして反対って空気。自分で出すしかないのである。
冒険者の稼ぎでどうにかなんのかなぁ……。
ダンジョンに潜るにも色々と手続きや必要なお金というものがある。その辺はこの冒険者講習で学ばなければならなかった。
* * *
自分達以外にも十人ほど乗ったバスに揺られて到着した、『冒険者講習所』。二階建ての結構大き目な建物で、奥には運動場みたいなのも見える。ただし、周辺に田んぼすらなくなっているが。
二年前ならこんなもの税金で建てたら総スカン間違いなしである。なんなら今でも苦情を入れる人がいるとか。
各県に最低一つは作られているが、どこも田舎に建てられるという。やっぱ土地の値段とかあったのだろうか。
既に到着していた人達もいたようで、合計すると二十人ぐらいだろうか?正確には数えていないけど。
受付を通り、案内された教室みたいな所で思い思いに席へとついていく。三十人は入れそうな所だったから、意外とスペースはあった。
ここにいる人は皆、覚醒者であり冒険者志望なのか……。
「あっ」
軽く見回すと、髭もじゃな男性を見かける。それだけなら特に不思議な事はないのだが、その人はかなり小柄なのに肩幅がすごかった。だが一番特徴的なのは、髪の隙間から見える尖った耳だろう。
ドワーフ。生で見るのは初めてだ。
『亜人』
覚醒者の中でも数が少なく、滅多に見かける事はない。その内約は大きくわけて『エルフ』『ドワーフ』『獣人』の三種。その中にも色々とあるらしいけど、割愛。
それぞれの特徴は、正直ラノベとかそのまんまなイメージだ。エルフは、たしか覚醒時に容姿が変わるんだっけかな?もの凄い美形になるという噂は聞いた事がある。ドワーフよりも耳が細長いとも。
あの人も見た目年齢五十過ぎていそうだけど、実年齢は自分達とあまり変わらない可能性もある。正直、エルフとドワーフは見た目で年齢がわかりづらい。
っと、あまりジロジロ見るのは失礼か。そう思って視線を引きはがしたところで、教官が入ってきた。
「えー、初めまして。まず初めにこの冒険者講習を受講してくれた事を――」
そんな感じ始まった冒険者講習だったが……結構疲れた。
体力試験の類は、全然苦ではなかった。むしろ楽しくすらあったかもしれない。誰も彼も、普段は力をセーブしている。それを気にせず走り回れるのは、かなり気分がいい。
講習所に用意されたグランドで、それぞれ魔装に着替えて走った。見た目は仮装パーティーか何かみたいだったのが、少し印象的である。
問題は、筆記方面。
モンスターやダンジョンについての話は、ゲームやアニメの知識が使えて苦ではなかったのだが、税金とか法律とかの方が……。
曰く、本来ならあり得ないスピードで作られた冒険者制度は、一部『猟師』さん達の法制度を流用しているらしい。パクリとも言う。
ダンジョンには、大まかにだがランク分けがされている。基準は当然内部にいるモンスターの強さだ。
で、ダンジョンでモンスターを倒した場合の報酬は、Eランクダンジョンで一体につき300円。そこからランクが一つ上がるごとに100円加算されていく。例外はあるが、Aランクダンジョンのモンスターで700円となる。『+』表記のあるダンジョンは各モンスターに追加で50円だとか。
……安くね?
自分の記憶では、地域差はあるけど鹿一頭で5000円から3万円ぐらい貰えるんじゃないっけ?一応、講習会に申し込む前にその辺調べたんだけど。
冒険者としての収入が20万円以上になった時、モンスターを倒して得た報酬は確定申告をする場合だと『雑所得』に含まれるとかなんとか。探索に使った道具などを経費として算出したい場合、レシートか領収書を取っておくよう注意しろだとか。教官が言っていく。
確定申告ってなんだよ……この前中学の卒業式終えた奴にわかるかそんなもん……。
青色とか白色とかなんだよと、友人達と疑問符を浮かべながらも授業は続いた。教官の人も巻きでやっている気がする。帰ったら父さんに聞こ……。
とにかくノートと配られた冊子に書き込んでいく。ノリは学校の授業に近い。
また、ダンジョンに入る際は冒険者免許の提示が必要であり、その際に入場料として300円かかるとか。そして、狩猟税も冒険者にはかかるらしい。第一種冒険者免許がどうたらこうたら。だいたい年11,000円ぐらい。
……高くね?
冒険者免許を持つ事で、魔装や異能を使ってのモンスターの討伐。およびダンジョンの探索権利が発生し、魔装を展開しても銃刀法に引っかからない。ただし、ダンジョン内のみ。
自分の身が危険な状況にあると判断し場合以外の、ダンジョンでない場所で魔装や異能を使って戦闘行為を行った場合、一カ月以上五年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられるとか。この辺、猟銃での銃刀法違反に近いそうな。当然、それによって壊した物や怪我させた人への賠償や罰は別である。
なお、異能を使って作成した『アイテム』や『武器防具』の販売については別の税金がかかるらしい。
……やばい。脳がパンクしそう。あぁ~、受験で詰め込んだもんが全部流れ落ちていく~。
ただ、気になった情報もある。
それは、モンスターのドロップアイテムやダンジョン内にある宝箱等から得られた物についての買い取りについて。
え、あんの?ドロップアイテムや宝箱。という段階の驚きである。だってダンジョン内の映像って全然出回らないし。
基本的に、ダンジョンに潜った後は内部で撮った映像は報酬の計算もあるので『ダンジョンストア』――ダンジョンを囲う様に作られた複合施設に提出され、録画データを持ち帰れない。
ただ、データの持ち帰りは今年の四月。つまり自分達が冒険者デビューする頃からOKになるらしい。まあ、そこは今どうでもいいとして。
曰く、ドロップアイテムは魔力の塊であるモンスターの残滓。中途半端に実体化した部分だそうだ。基本的にモンスターは倒されたら消滅するが、何かしらの物品を残す場合も少ないがあるらしい。
次に、『宝箱』と呼ばれる物。形状や大きさは様々だが、端的に言うと『ダンジョンが用意した罠』であるそうだ。
ダンジョンには人の流れ出た悪意が集積される、という一面がある。その発露がモンスターだけではなく、トラップとしても出るらしい。
大半の宝箱には鉱物やドロップアイテムに類する物が入っている。が、偶に『ミミック』というヤドカリみたいなモンスターが入っていて待ち構えているそうだ。
このモンスターは毒針などの攻撃手段を持っており、非常に危険であるから注意が必要との事。
なお、ダンジョンで入手したドロップアイテムや宝箱からの物品は『拾得物』扱いで、土地の所有者。つまりダンジョンを管理する政府自治体のみと取引可能。その場合は状態に応じて五%から二十%の報労金が出るとか。
また、拾得物扱いなので勝手に持ち帰ったり、政府自治体以外と取引した場合は罰則がつく。悪質性があると判断された場合、刑事罰に処される可能性もあるとか。
……しょっぱくね?
そんなこんなで、筆記の方は進んでいく。なんともまあ、冒険者という浪漫しかなさそうな名前のわりに、夢のない話である。
ちなみにだが、去年の冒険者。つまり第一期の冒険者の年収は約110万円と教えてもらった。
……夢が、ねぇなぁ。
* * *
そんな浪漫とかけ離れた講習を受ける事一週間。地味に交通費が痛いと思いながらも、どうにか最終日を迎える事が出来た。
筆記の方は六日目で終了している。内容は詰め込んできた量のわりに簡単なものだったので、問題ない。
試験の本番は、ここからと言える。
「予定表にある通り、本日は実際にダンジョンへと潜って頂きます」
教官の言葉に、室内がざわりと少しだけ騒がしくなる。
待ちに待った……とまでは言うわけではないが、遂に初ダンジョン。良くも悪くもテンションが上がる。
予定表には、初回という事で比較的危険度の低いダンジョン……教官曰く『Eランクダンジョン』で実施するとか。
そんなこんなで移動するのだが、向かう先は外ではなく地下。まさかと思っていると、この冒険者講習所の地下にダンジョンへの入口があったのである。
……この施設の周りに人気がない理由、今わかった。人気を『なくした』んだ。
「では、前衛後衛にわかれて二人一組でダンジョン探索をして頂きます。試験官が一人つきますので、ご安心ください」
「「「っ!?」」」
教官の言葉に、自分達三人の間で一瞬だけ火花が散る。
『二人組つくって』
何度この言葉に煮え湯を飲まされたか。もはや呪詛の類と言っていい。それも、最低最悪の凶悪さをもった特級の災厄。
弾かれたように、三人で向かい合う。
「あ、よく考えたら僕選ぶ側じゃん。緊張して損した」
「魚山君、君は僕と熊井君どっちが大事なんだ!」
「そうよ、ハッキリしてよ!」
「二股なんて許さないわ!」
「あ、そういうノリ?」
昼ドラ風にふざけているが、ちょっとだけマジである。
だって、これであぶれたら知らない人と初ダンジョンだよ?試験官もいるからってさ、気まずいじゃん。絶っっっっっ対に気まずいじゃん。
自慢ではないが自分は人見知りな方である。連携どころかまともにコミュニケーションとれる自信もないぜ!!
「どうやら……こいつで決着をつけるしかないようだな」
「本気か、熊井君……!!」
「え、もうそういう感じ?僕の意志は?」
熊井君が拳を見せてくる。
それしか、ないのか……!話し合いで解決する手段は、とれないのと言うのなら……!
お互い、同時に拳を出す。
「じゃんけん!」
なにぃ!?『最初は』を抜くだとぉ!?
その一瞬の動揺。それが、勝敗をわけたかもしれない。
「そんな……!負けた……!?」
「ああ……これが『結果』だ……」
「無駄に意味あり気な空気だすね。いいぞもっとやれ」
自分の拳は、しかし熊井君がかざす掌を前に敗北する。
畜生……!畜生……!!
「げははは!じゃあこいつは俺が貰って行くぜぇ!」
「男同士で攫われるお姫様ポジはきついわ」
「黙れモブ眼鏡。貴様がお姫様役とか百年早いわ」
「そうだモブ眼鏡。謝れ。全国のお姫様になりたい子供たちに謝れ」
「なんで僕責められてんの?つうか君らがモブ言うな特にモブ太朗」
そんなこんなで、なんかお米様抱っこ(誤字にあらず)されていった魚山君を見送り、他の人に声をかけようと見回す。
わぁ……もう皆さん組み終わってらっしゃるぅ……。
「えー、誰ともペアがいない人はこちらに。前衛後衛で偶数になるよう調整してあるので、余る事はありませんから」
教官の言葉に、とぼとぼと身を小さくしながら歩いていく。くっ……レイラを頭数にいれちゃダメですかね……!?
そうして自分とペアになったのは、むすっとした様子の若い女性。たぶん、歳はそう離れていないと思う。ただこっちの顔をみた瞬間小さく舌打ちするのは止めてほしい。そんなだから余るんだぞ?あ、僕もかぁ……。
いかにもギャルって感じの人だ。関りのない人種だし、接し方もわからない。緊張しながら『よろしくお願いします』と言ったら、『……はい』と滅茶苦茶嫌そうに答えられた。
泣きそう。
「では、五組ずつダンジョンに入っていきますので、待機組は別室にて他冒険者が持ち帰った記録映像を――」
そんな感じで最初のダンジョン探索が、始まった。
……どうしよう、まだダンジョンに入ってすらいないのに帰りたいんだけど。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.冒険者、もしかして儲からない様にできてる?
A.海外のスカウトマン
「そうしないと後々勧誘しづらいじゃん」
そのお友達
「そうだそうだ」
普通の官僚
「予算がたりねーんだよぉおおおお!?」
Q.それにしてもやばくない、この制度
A.有川臨時総理
「ご安心ください。私に考えがあります」




