第八話 説得成功
第八話 説得成功
サイド 大川 京太朗
結論から言おう。自分は中学卒業後、高校に通いながら冒険者となる事を両親に認めてもらえた。
あの電話の後、何故か市役所から県庁の人に話がまわったらしく、その人から説明を受ける事に。
その際に、『未成年の方が登録する場合は保護者への説明を経て、納得いただいてからとなっております』と言われてしまった。
当然、親の了承を得られていない自分は焦ったわけだが、あちらから『よろしければ説明に伺わせて頂きます』、と。
正直『なんで?』とは思ったが、県の人なら変な事もしないだろうと、両親に話したうえでお願いした。
まあ、当たり前ながら二人には滅茶苦茶叱られたけど。特に父さんの再就職に関しては言えないから、なんでそんな事をと理由を問い正されたのに『冒険者になりたくって』と返したのが火に油だったかもしれない。
先方が異様なフットワークでこっちに来る事が決まっちゃっていたので、二人も渋々対応する事に。
非常に気まずい空気の中、やってきた県庁の人の話しを聞く事となった。申し訳なさそうにしながらも、両親は僕が冒険者登録する事を断る気だったと思う。
「――と、いうわけですので、決して冒険者だから命の危険があるというわけではございません」
「は、はぁ」
だが、会話の席についた段階で勝負は決まっていたのかもしれない。いや別に勝敗とかないけども。
県のダンジョン対策課という所で働いているらしい、『東郷美代吉』というエリート然としたスーツ姿の男性。眼鏡をキラリとさせながら、にこやかにハキハキと、しかし耳に心地よい語り口で気づけば親子三人揃って彼の話しに頷いていた。
魔法や異能の類ではない。純粋な話術である。
「それと、お父様の御職業についてなのですが……」
「そ、それは」
「『ご子息を思って』、『その安全を近くで見守る為に』冒険者組合で――」
更には。こちらからまだ頼んでいないのに例のコネ入社についても話しを進めてくれていた。
それも、流れからして父さんに息子のコネでと思わせず、なおかつ『自分の方が止むなく事務員になる』という形となる様に。
なんなら傍で話しを聞いていた僕でさえ一瞬、『父さんに悪いなぁ。無理に就職してもらうなんて』と思ったぐらいである。あの噂について事前に調べていなければ、気づかなかったかもしれない。
父さんに罪悪感を抱かせないフォロー力……すげぇ。
そんなこんなで、両親とも不承不承ながらも僕が冒険者となる事を認めてくれた。更に、今度父さんは冒険者組合の就職面接に行く事にもなったのである。
結果だけ見ると、僕が願った通りに運んでいた。だが、それは全て東郷さんのおかげである。感謝しなければ。
柔和な笑みを浮かべる彼を見送り、親子三人揃ってため息をつく。聞きやすくはあったが、それはそれとしてなんか疲れた。終始圧倒されっぱなしで、自分達の様な小市民には縁遠い人物に思えてならなかったのだ。
……あの人、本当に県庁の職員さんなのかな。
何故か、一瞬だけそんな疑問が浮かぶ。いや、なんの根拠もないし、名刺にだってそう書いてあった。そもそも市役所から『県庁の職員さん』と紹介された人だし、疑う理由などないのだが。
はてと首を傾げるも、そんな疑問を口にする余裕はない。
母さんのお説教第二ラウンドが始まる。やっぱ勝手に色々話進めたのはまずかったか。まあ、お説教の内容はほぼ冒険者になる自分への心配事だったのだけど……。
覚醒者の利点として、正座してもそこまで足が痺れないんだなという事が発見された。
* * *
『と、言うわけなんだよ』
『お前人に散々冒険者になるなんて馬鹿だと言っておいて』
『せめて一報よこせやこのモブ顔』
『それはすまないと思っているけどモブ顔は関係ないだろう。というかお前らだってモブじゃん』
『なんだぁ、てめぇ……』
『のるな、老け顔!』
『なるほど、両方とも俺の敵か』
友人二人とそんなメールのやり取りをしていく。
『まあ、俺らも冒険者になるし。講習会とか一緒に行くべ』
『遂に冒険者か……触手が待ち遠しいな』
『気が早えよ。いやそもそも触手は確定じゃねえよ』
『諦めなければいつか触手への夢は叶う。僕はそう信じている』
……本当に大丈夫か魚山君。君そこまでアレな奴だっけ?
……片鱗はあった気がするわ。なんだ、平常運転か。ならよし。
『けど県庁から説明にきたってマジ?うちはそんなんなかったけど』
『僕の場合、市役所の説明会に親と行った感じだったな。いや、別に市役所と県庁でどっちが上とかないけど。それにしてもわざわざ向こうから?』
『そうなん?なんか電話したらすぐに県庁まで話がまわったぽいんだけど』
てっきり国が冒険者組合を管理しているから、そういう関係で県が対応しているのかと思ったが。
『京太朗マークされてんじゃね?不審者として』
『一理ある』
『ねえよ。こんな品行方正な優等生を捕まえてなに言っとんじゃい』
ふざけて返すも、目を付けられているという点ではもしかしてと思った。
あくまでネット上の噂の域を出ないけど、日本の覚醒者のステータス平均は『C』の人がほとんどとか。熊井君と魚山君のステータスも、方向性は違うものの平均したら『C』だった気がする。
その点、自分は平均『B+』。更にはレア異能である『守護精霊』も持っている。この異能、実質一人で二人分の戦力みたいなものだ。
……まあ、固有異能に関しては『すっごい自己再生能力』的な感じで、市役所へ覚醒者と登録する時に嘘ついたけど。なんなら家族や友人にも似た様な感じで誤魔化している。
バレるかと冷や冷やしたが、万が一鑑定系の魔法使いがいても僕のステータスを看破するのは困難だとレイラが言っていた。それを信じるとしよう。
とにかく。白銀の林檎を差っ引いても、特別扱いされているかもしれないわけか。優越感がある反面、なんとなくちょっと怖い。
『とにかく、高校行くようになったら一緒に冒険者やろうな』
『同じ高校に受かったらな』
『おい馬鹿やめろ』
『頼むから縁起の悪い事を言うな。怖いから』
大丈夫だよね?行けるよね?
やっべぇそう言われると滅茶苦茶不安になる。冒険者になると決めたが、それだけで食っていけると思えないのだ。学歴、大事。
それほど頭のいい高校を目指しているわけではないけど、馬鹿な高校でもない。僕の学力だと妥当な所と進路指導の先生も言っていた。ただし、受験まで真面目に勉強したら、という前提で。
ふっ……この震えは武者震いだ。そう自分に言い聞かせる。やだ、ちょっと吐きそう。
熊井君と二人魚山君にひたすら『大丈夫と言って』メールを連打する。ちくしょう、一人だけ成績いいからって!それでも三人の中ではって注釈つくくせに!
そんなこんなでスマホを置き、いざ勉強へ……の、前に。
説明し、了承を得なければならない人物がもう一人いる。
「レイラ」
「はい!なんでしょうか?」
目の前に椅子を持って来て、対面する様にベッドへと座る。すると、椅子にちょこんと座った状態でレイラが現れた。
揃えられた美脚と、ミニスカとニーソの絶対領域へと視線が行きそうになるが堪える。今から真面目な話をするのだ。
ニコニコと笑う彼女に、一呼吸おいてから口を開く。
「冒険者に、なる事にしたんだ」
「はい。存じております」
「相談せずに決めてごめん。頭の中一杯一杯で、そこまで気がまわってなかった」
自分でも予想外なほど、気が滅入っていたらしい。冒険者への恐怖と憧れに、父さんの失職。そして受験勉強。
ちょっと、キャパを超えていた。
「いえいえ。最終決定権は主様にあります。私は主様の生存と健康に最大限尽力しますが、その人生を決めるのは主様ですから」
「ありがとう……反対は、しないの?」
「はい!悪くない判断だと思います」
ニコニコと、彼女の笑みは変わらない。
「ダンジョンに潜るからと言って、互角の相手と戦うわけではありませんから。格下の相手を選ぶ事ができ、比較的安全な状態で戦闘経験を積むことは回り回って生存力の向上につながります!」
そんな事、東郷さんも両親に言っていたっけ。曰く、もはや現代日本で一切ダンジョンの危険がない場所は存在しないと。だからこそ、多少なりともモンスターに慣れるのはご子息の為になるとかなんとか。
ついでに言うと、今は偏見の眼を向けられがちな覚醒者や冒険者も、時が経てば受け入れられ、むしろ就活の際に有利になるはずとも言っていた気がする。
「経済的な安定を得つつ、戦闘経験を積む事が出来る。私に反対する理由はございません」
「よかった……あっ、戦闘の事だけど。レイラをダンジョンではあんまり呼ばないから、安心して?」
「―――」
ほっと胸をなでおろし、それと一緒に自分の手を見下ろす。このタイミングで冒険者になる事を反対されないか、不安だったのだ。
肩の荷がおりた気がして、脱力する。
「勝手に冒険者になる事を決めちゃったし、せめて、君をできるだけ危険に晒さない様にする。僕が死んだら、守護精霊も一緒にってなるかもしれないけど。それでも――」
仲のいい少女を、危険な目に合わせたくない。打ち込みだってずっと続けているんだし、自分だってやれるところを見せたい。
青い感情と、単純な見栄。それ故の考えだった。
「意見具申。その提案に反対します」
「え?」
酷く、淡々とした機械音声じみた声に思わず顔を上げる。
そこには、『人形の様に感情が抜け落ちたレイラの顔があった』。
「へ、え?」
「私の生存は主様の生存が大前提となっております。本体の死亡は私の死亡と同義であり、この身は貴方の為に存在しているのです」
「それ、は」
蒼と金の双眸。最近見慣れてきたその瞳に、しかし気圧される。
「ダンジョンを始め、戦闘が予測される状況では私を出して頂かねば主様の生存率に不要な低下を招きます。この体はたとえ死んでも、本体である主様が生きておられれば時間経過による復活が可能です。出さない理由がございません」
「れ、レイラ?」
「決定権は主様にあります。しかし、私を戦闘に参加させないという提案は先の理由により間違っていると意見させて頂きます」
そこまで言い切って、レイラが口を閉じてじっとこちらを見てくる。
だが、その顔は無表情のまま。普段……ずっと、いつどんな時でも笑顔かその派生みたいな顔だった彼女とは思えない。
「主様。御再考を」
「わ、わかった。ダンジョンでも、よろしく、お願いします……」
「はい!お任せください!」
ぱっと、レイラの顔に笑顔が浮かぶ。
いつもの様に華やかに。いつもの様に美しく。いつもの様にこちらを安心させる。
そんな、笑み。
「この身に変えても主様をお守りします。それが『守護精霊』です。それこそが私の存在理由です。心身ともに、御身の生存と健康を最優先とし行動させて頂きます!」
柔らかそうな胸に手を当て、彼女がそう宣言してくる。
いつの間にか、自分は大して広くもないベッドに尻を擦り付けて後退りしていた。
「主様?どこか御気分が悪いのですか?」
「あ、いや。そんなことは、ない、よ」
守護精霊って、なんなんだろう。
ふと、そんな事が頭に浮かんでいた。
「何か不安な事がありましたらなんなりとお申し付けください。私は貴方を守護するものなのですから」
そう言って、笑顔のまま彼女は僕に近づくと胸に顔を抱いてくる。
ふにんと柔らかい感触。服越しながら顔全体をつつみ込む彼女の豊満な胸の中で、こう思った。
エロ可愛いから、いっか!!!!
悲しきかな。男子中学生ってこんなもんだと思うのだ。決して自分だけ単純なわけではない。
先の疑問は自分に必要なものだろうか?いや、ない。重要なのは自分を好いてくれる巨乳美少女である。そもそも他人の心理とかそうそうわかるもんじゃないし?心配してくれているならいいかなって。
「ま、また後日に、お願いします!」
「はい!わかりました!」
とにかく、今は家に両親がいるからと理性を保たせた。
おっぱいは偉大なり。
* * *
サイド 東郷 美代吉
「はい……はい……無事、大川京太朗の勧誘に成功しました。まさか向こうから志願してくるとは思っていませんでしたが。やはり父親の失職が関係しているかと」
宿泊しているビジネスホテル。盗聴盗撮がない事を十分に確認した後、上司へと報告する。
「ええ。事前の調査通り、普通の少年でしたよ。家庭環境も特筆する事はなさそうです」
ネクタイを緩めながら、電話越しに報告を続ける。
いやぁ……かなり緊張した。
『県庁職員、東郷美代吉――公安職員、西園寺康夫』
相手が普通の一般人の感性をしているとは、既に調べてあった。それでも『人型の戦術兵器』と対面すると言うのは、嫌な圧迫感を覚える。
警官として訓練は積んでいるし、偽名を名乗る様になってからいくつもの修羅場は越えてきたつもりだ。それでも、生物としての規格が違うと肌で感じた。
それでも、普通に会話して交渉ができるのだから素晴らしい。偶に、自分を漫画の主人公か魔王と勘違いして全ての要求を通してこようとするか、そもそも話し合いすらできない輩だって覚醒者にはいる。強力な異能を持っている者ほど、特に。
そういった者達を、少しでもダンジョンへと送り込む。それが今の自分の仕事だ。全ては国家の為に。
「はい。では、これで」
通話を終え、ため息を一つ。
「変わっちまったなぁ、世の中」
天井を見上げ、呟く。
明日もまた、別の若者をダンジョンへと導かないといけないのだ。日本の為、そこに住む一億二千万人の為に。それに含まれるべき一般人達を、大のための小として迷宮に送り込む。
そんな若者たちを値踏みする海外勢力と、それに胡麻をするお偉いさん方が甘い蜜をすする世の中。その輪の中に、自分も入っている。
……我ながらいやな大人になっちまったよ、まったく。
タバコでも吸いたい気分だが、堪える。今の時代は喫煙者というだけで『仕事』がやりづらくなった。喫煙所で吸っていても、臭いだけで目を引いてしまう。
その事に、小さく苦笑した。
「いやな時代になったもんだ」
こっちの方は、素直に世の中のせいにできたから。
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