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星斬りの剣士  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章 魔法使い狩り

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七十話

「投降して下さい」

「仮に僕が投降したとして。それで、貴族が一人残らず自決してくれるというなら喜んで投降しよう。だが、そうでないなら応じる理由はないよ」


 決定的な拒絶をアムセスが突き付ける。

 そこに妥協はなく、意見が揺らぐ余地というものは何処にも見当たらない。


「というより、僕がその申し出を何故受けると思った? 騎士団長サマが帰還したから? 騒ぎを聞きつけた子飼いの魔法使いが程なく駆け付けるから? あぁ、確かに。王都にて集めた魔法使い達と、〝魔法使い狩り〟だけが僕の戦力だったならば、それは確かに勝ち目のない戦いだったかもしれない」


 しかし、それは違うアムセスは言う。

 もし、本気でそう思ってるならば、その頭はめでたいと言う他ないと。


 アムセスは以前、何かを変える為には純粋な力が必要と口にした俺の答えを当然のように肯定した。純粋な力と、多大な犠牲。

 それが必要であると。


 そんな彼が果たして、王都で集められる程度の戦力で本当に何もかもを変えられると考えるだろうか。


 ————答えは、否。


「けど、忘れないで欲しいな。僕の能力は、〝精神操作(インペリウム)〟だ。それこそ、作ろうと思えば〝軍隊〟だって作り上げられる」


 直後、地響きが届く。

 明確なまでに地面は揺らぎ、嘶きといった鳴き声が彼方此方で聞こえてくる。


「〝認識阻害〟」


 それは誰の声だったか。

 場に居合わせたうちの一人がポツリと呟く。


「……混乱を作るために、洗脳済みの魔物共を〝認識阻害〟で隠してやがったのか」


 聞こえてくる鳴き声。

 その全てが、随分と遠く思えるものであった。


 だが、その中に翼を持った魔物もおり、頭上に広がる空にそのシルエットが次々と現れてゆく。


「い、や……というより、てめえ、この王都全てを潰す気か……ッ!?」


 その数、数百は下らない。

 圧倒的な声量。気配。


 それが、王都そのものを壊し、呑み込めるに値するものだと判断をし、悲鳴に近い怒号を漏らした。


「言ったじゃないか。何かを変えるには、犠牲が必要であると。だから、これでも巻き込みたくない人にはちゃんと言ってたんだよ? 王都から出て行け(、、、、)とね」


 かつて〝魔法使い狩り〟から投げかけられたあの言葉は、〝魔法使い狩り〟の餌食となるから。

 という理由ではなく、単に王都を滅ぼすつもりだから出て行けという意味合いであったらしい。


「あの貴族共が目を逸らせなくなる程の犠牲だ。だったら、街一つ。それも、王都レベルじゃなければ意味がない」


 街一つ滅ぼして漸く、犠牲と呼べる。

 それで漸く、こちらの本気度が腐った貴族共に伝わるのだとアムセスは言い放つ。


「……あんた、ここで死ぬ気か」


 〝精神操作(インペリウム)〟と呼んでいた魔法を一気に行使したからだろう。

 その代償であると言うように、アムセスの身体には目に見える異変がありありと俺の視界にまで映り込む。

 揺るぎない覚悟を湛える瞳から、赤色の雫が頰を伝って滴り落ちる。


「そうとも言えるし、そうでないとも言える。ただ、それに近い覚悟は持ってると思ってくれていいよ。その為の、六年だったしね」


 こうして貴族を滅ぼす為に、六年の歳月を掛けたのだとアムセスは言う。

 全てはこの瞬間の為。

 だとすれば、この自分の身を滅ぼすような行動にも幾分か納得がいく。


 豺狼のごとく鈍い光を放つ瞳は、不退転の覚悟を示しているようにしか見えない。


「それに、僕から見れば、ユリウス君も大して変わらないように見えるけどね。既にもう、ボロボロじゃん」


 幽鬼を思わせる顔色になりながらも、傷があちこちに見え隠れする俺自身の身体をアムセスが指摘。


 そんなコンディションで、これらを相手に出来るのかい。


 嘲笑うように、彼は告げる。

 事実、際限などないと思わせる物量で魔物の気配は濃く、大きくなってゆく。


 国でも滅ぼす気だったのか。

 つい、そんな感想を抱いてしまう程の大群であった。


「……万全の状態じゃなきゃ戦えない。そんな言い訳を漏らしたら笑われるだろ。冗談キツイって抱腹絶倒だ。何より、傷を負うだけの価値はあった」


 ————故に、同情される覚えはない。


 後方で顔を顰めるゼノアを尻目で一瞥しながら、俺は言う。


「まぁ、確かに。怪我を言い訳にするのは三流だね。たとえどんな状況下。どんな不測の事態に見舞われようと、そこで結果を出すのが一流」


 故に受け入れよう。

 故に纏めて潰そう。

 それを出来るだけの準備を、僕はしてきたから。


「ただ、一つ、聞かせてくれよ」


 魔物の鳴き声。羽ばたく音。足音。

 生理的嫌悪を催す様々な音が耳朶を掠める中、普段通りの調子でアムセスが問うてくる。


「僕は、君のような人間を救おうとしてるんだぞ? それは、理解してるのかい?」

「救おう、だぁ?」

「悪いが、貴族の犬には聞いてない。僕は、そこのユリウス君に聞いてるんだ」


 封殺。


 理解に苦しむ言葉に、反射的に反応するリューザスであったが、続く言葉をアムセスは紡がせない。

 威嚇のように、頭上に浮かぶ魔物の一体が、怒りを表すように炎を纏ったブレスを吐き散らかす。

 それが警告なのだと知り、リューザスは奥歯を噛み締めながら、鋭い舌打ちを漏らした。


「確かに、恨みはある。憎しみもある。殺意も、憤怒も、負の感情は全て僕の中にある。だけどこれでも、第二の僕を出したくないという想いだってあるんだよ」


 これが自己中心的な行動である事に、否定はしない。それでも、未来を憂いての行動でもあるのだと彼は言う。

 同じ過ちを繰り返させる訳にはいかないと。


「うん。そうなんだろうね」


 そこに嘘はないと思った。

 何より、貴族に対して激情するアムセスの反応は、演技にしては熱が篭りすぎている。

 きっと、事実なのだろう。

 だから俺は、至極当然であるように肯定する。


「確かに、理念としては正しいのだと思う。俺の掲げている考えより、それは比較するまでもなく立派なものだと思う」


 その真偽。腹の内は、兎も角。


 ————強くなりたい。


 その一つの理由の為に、全てを犠牲にしようとしている俺よりはずっと。


「だけど、俺は誰かに救って欲しいと願った覚えはないし、あんたを信用する理由だって生憎持ち合わせてない。俺は、ゼノアさんのような魔法を持ってる訳じゃないしね」


 持ち合わせの魔法はただ一つ。

 星を斬り裂く為に必要不可欠である得物、ただ一つ。


 気に食わない光景は、全て斬り裂いてでも前へ進めと言わんばかりの魔法が一つ。


 そして俺は、手にする剣の切っ先をアムセスに向けた。


「……なんで分からない?」


 不思議だった。

 どれだけ言葉を重ねても、説得に応じない事は最早明白だろうに、それでもこれが最後といって、説得にどうにか応じさせようとするアムセスの意図が。

 そして、彼が顔を顰める理由が。


 犠牲を是とするアムセスならば、斬り殺して前へ進む行為こそが何よりも正しいと既に是認しているだろうに。


「その先には、踏み躙られる未来しか待ち受けていないというのに……!! 現に、君のような立場だった僕は、こうして苦しんだ」


 理解する。

 彼が俺にこうも幾度となく諭す理由は、俺の立場に親近感があったからであると。

 葛藤が滲み出すその叫びは、正しく心が張り上げる絶叫にも思えた。


 そして、理解し合えないならば、殺す他ないと怒る瞳が俺に告げてくる。


「でも、それはアムセスさんの話だろ。間違っても、俺はそうはならない。そうなる予定はないよ。あんたと俺とでは、生きる理由が違うから」


 だから俺は、その怒りに対する答えを口にする。


「もし俺が、その立場に見舞われたならば、全てを敵に回してでも斬り殺す。たとえそれが、貴族であれ、なんであれ」


 そこに例外はない。

 だからこそ、聞かずにはいられない。


「誰もが高潔である必要はないと思う。話し合いで済めば一番良いんだろうけど、何かを変える為には、必要ならば殺す事もあると思う。怒りに身を任せることもあると思う。きっと、アムセスさんのその行動も、間違ってないのだと思う」


 肯定する。

 かつての追体験によって培われたこの時代にそぐわない独特の価値観でもって、肯定する。


 年齢に合っていないからか。

 過激過ぎたからか。


 側にいたリューザス達が驚いていたが、関係ない。


「ただ、否定はしないけど、同調もしない。というか、気付いているの? アムセスさん。そもそもあんたのその行為、あんたが忌み嫌う貴族と何が違うんだ?」

「———ッ。君、に、何が分かる?」


 息を呑む音が響いた。

 転瞬、般若を思わせる表情が向けられる。


「何も。でも、少なくとも、理不尽に何かを奪われる事を否定するならば、必要犠牲は貴族だけにしておくべきだったと思う。素直に、暗殺を敢行してれば良かった。静かに、気に食わない貴族だけを殺し回っていればよかった」


 それが一番正しい答え。

 じゃあ、それをしなかった理由とは?


 自分だけ理不尽に奪われたのに、奪われていない人間がいる事。その者達が幸せである事実に対する怒り?

 王都という場所を盾に取らなければ倒せない強敵がいたから?

 王都に在住している貴族に縁がある、貴族に対して、奪われる事への絶望を容赦なく叩きつけたかったから?


 もしかすれば、この中に正解があるかもしれない。心を読めるゼノアあたりならば、もうその理由を知っているのやもしれない。


「結局、それは正義なんかじゃない。それは、俺となんら変わらない自己満だよ」


 低俗であると言う気はないけど、誰もが褒め称えるような高尚な理念とは思えなかった。

 だからこそ、誰もが賛同すると思ったら大違いであると言う他なくて。


「……君は、余程に殺されたいらしい」


 ————話は終わり。


 どちらも、妥協して片方の意見に同調する気がない以上、力で以て跳ね除けるしか道はない。

 ハラは決まったのか。

 心なし、圧搾された殺意がアムセスの身体から立ち上っているようにも見える。


「これは、正義だよ。何一つ違わない粛清であり、天罰なんだ」

「……神にでもなったつもりですか」

「罰する存在が現れないのならば、僕は神とでも名乗ってやるさ」


 ゼノアの言葉にアムセスは答え、そして一際大きな破壊音が周囲一帯に轟いた。


「リューザス!!」

「分かってるっての!!」


 ゼノアの叫びにリューザスが応じる。

 リューザスの魔法の能力は、転移。


 故に、その一言でゼノアが己をここから転移させろと訴え掛けている事は俺にも分かった。

 王都に住む人間の避難、取り囲むように出現した魔物の大群。それらを考えた時、ここにこれだけの戦力が集っている事はあまりに拙いと。

 しかし。


「僕が、それをさせるとでも?」


 遮るように、アムセスが手を振るう。

 直後、虚ろな瞳で立ち尽くしていた魔法師の数名がリューザスとゼノアに向かって殺到。

 加えて、空に滞空する魔物の数体が鋭利な牙を覗かせ、今にもブレスを放つ準備をしていた。


「させないのなら、無理矢理にでもさせるまで」


 そこに、俺が割り込む。


 だが、その行動は予想出来ていたと言うようにアムセスまでもが参戦。

 そして、再度の衝突。


 先程までのアレは随分と手加減をしていたのか。比べ物にならない程の膂力によって放たれた一撃に、俺は顔を顰める。

 肩ごと外れそうな一撃。

 その衝突に、びり、と余波が大気へと伝播する。


「〝纏い〟の借りを此処で返すよ」


 続け様、二度、三度と打ち合い、どちらともなく弾かれた直後、俺はそのまま身体を旋回。


 望月より尚、眩い輝きで以て撃ち放たれるは星斬りの御技。

 降り注げ、星光————〝星降る夜に(ナグルファル)〟。


「ナイスだ坊主!!」


 生まれる一瞬の間隙。

 それを突いて、リューザスの能力によってゼノアの姿が掻き消える。

 恐らくは、一瞬にして溢れかえった魔物の対処にあたるのだろう。


 だが、俺がどうにか対処出来たのは肉薄していた魔法使いと、アムセスまで。

 ブレスの準備をしていた魔物の対処までは間に合わなくて。


 迫る灼熱の息吹。

 既に放たれていたそれを、どうにか刃を虚空に滑らせ、対処出来ないものかと考えた瞬間。


「————〝侵されざる聖域(セイクリッド)〟————!!!」


 割り込んだその声に応じるように、俺達を囲うように、透明な結界がドームを形成するように展開。

 それは放たれていたブレスと衝突し、バリン、と砕ける音だけを残して相殺するように霧散した。


「あたしだって、もう、あの時みたいに何も出来ない訳じゃないんだから」


 聞こえてくるソフィアの声。

 言葉ではそう言っているが、唇からは喘鳴が途切れ途切れに響く。


 多少の無理をしているのだろう。

 でも、だけどいつの間にこんな事を。

 そもそも、ソフィアの適性は治癒の魔法じゃなかったのか。


 そう思う俺の疑問を見透かしてか。

 サプライズが成功したと喜ぶように、リレアが面白おかしそうに答えてくれる。


「治癒は、魔法の一部の能力よ。だから、ソフィアちゃんの魔法の本質は寧ろこっち」


 ようやく、リレアがソフィアをこの場に連れてきた理由が分かった。

 ソフィアと決して仲の悪くないリレアが、危険であろう場所に連れ回す理由。


 それを容認出来るだけの能力が、ソフィアにも備わっていたから。


「あたしは、ユリウスとは理由が違うけど、でも、この街の事は好き。何より、死んで欲しくない人だっていっぱいいる。だから、あたしも貴方を此処で止めます」


 俺とは比べ物にならない程の綺麗な理由。

 とはいえ、決して羨ましいとは思わないし、自分の理由の方が素敵で仕方がないと思うけど、ただ、自分の業の深さに少しだけ苦笑いする。


「魔法使いが四人か。いいじゃねえの。戦力としちゃあ申し分ねえ」


 リューザスも、ソフィアの事を測りかねていたのだろう。だから、戦力になると分かった今、喜色に口角をつり上げる。


「んじゃま、理由はバラッバラだが、ここは協力と行こうじゃねえか。なあ、坊主に嬢ちゃんら」

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