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星斬りの剣士  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章 魔法使い狩り

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六十四話

* * * *


「……リューザスにも、困ったものですね。貴方の参戦を拒んでいる人間に、戦い方を教えろ、などと言うだなんて」


 場所は移り、騎士団が管理する修練場にて。


 亜麻色の髪を揺らしながら、ゼノアは俺の姿を見据えながらそう口にする。

 結局、戦いたい故にリューザスの申し出を受けるしかなかった俺と、戦わせたくないが為に何度目か分からない説得を行おうとするゼノアが相対する状況に見舞われるのは最早必然とも言えた。


「一つ、いいですか」


 手にする剣の具合を確かめながら、ゼノアは言葉を続ける。

 その質問は、〝心読(ドクトゥス)〟と呼ばれる魔法に恵まれたゼノアがあえて言葉に変えて問い掛ける必要があるものなのか。

 そんな疑問を抱く俺に、


「どうして貴方は、自分のその在り方に一点の曇りもないのですか」


 心底不思議そうな声音が届いた。


 ……ああ、なるほど。

 そういう事か。


「夢に魅るのは分かります。それを目指すのも分かります。でも、死んでしまったらそれで終わりなんですよ……? その理想すら抱けなくなるんですよ……? 無謀であると、蛮勇であるとも理解をしている。なのにどうして、死に向かうのです。いえ、向かえるのですか。それが正しい道であると信じて疑わないのですか。一切の躊躇いすらなくそんな生き方をする事が出来るのですか————?」


 それは、切実な訴えであった。

 ゼノア・アルメリダが〝心読(ドクトゥス)〟と呼ばれる心を読む魔法に恵まれたからこそ、理解が出来ないのだろう。


 俺の行動理由と、動機。

 その全ての答えを、ゼノアは既に得ているのだろう。だからこそ、理解しているから理解出来ないという奇妙な事実が出来上がる。


 心が読める故の疑問。


 痛みを知らない訳じゃない。

 喪失を知らない訳じゃない。

 奇跡が己の味方をしているなんて幻想を抱いているわけでもない。


 その上で、死と隣り合わせの生き方を自らの意志で掴み取り、その全てに対して一切の躊躇いなく生き抜いている。抱いた憧憬にどうにか追いついてみせようと己の持ち得る全てを捧げ、徹底的に何もかもを使い潰す気でいる。ただ一つ、己の憧れに手を届かせるために。


「オリヴァーに復讐心を抱いているのであれば……まだ納得が出来ました。彼を止めてくれと懇願されているのなら、それもまた同様に。持ち得る正義感が、彼の暴走を許さなかった。それも良いでしょう。彼と同じような人間をかつて目の当たりにし、それ故の同情心に駆られた。そんな理由でも、私はまだ納得が出来た」


 次々と挙げられる理由の数々。

 それら全てが、真面な理由であった。


 そして、それであったならば、まだ私も素直に力を貸すことが出来た。

 そんな言葉すら幻聴された。


 事実そうなのだろう。

 悲痛に歪む表情が、言葉はなくともそうありありと物語っていた。


「……ですが、貴方はそれらの理由、どれ一つにすら当てはまらない。貴方の人生は、貴方のものです。故に、貴方がどのような犠牲を払い、どのような結果を求めようと私に口を出す権利はない。……ですが、これは私達の不始末です」


 故に、やはり俺を関わらせるわけにはいかないと。


 復讐に堕ちたわけでもなく、その生き方しか許されていないわけでもなく、致命的な何かに縛られているわけでもなく、ただ、憧れたからという理由一つで。


 それがどうしようもなく分からない。

 それ故に、彼女は俺に問いを投げかけたのだろう。それ故に、徹底的に拒絶の意思を貫くのだろう。


 しかしだ。

 しかしである。


 ゼノアに真っ当な理由があったとして、それを俺が理解していたとして。


 一体それが、如何だっていうのだろうか。


「やはり、貴方を関わらせるわけには————」

「『星斬り』に憧れて、あの場所に並び立ちたいと心から思って、目指そうと誓った。その中で『星斬り』を成すと決めた。俺の行動理由の全ては、それゆえに。だから、それ以上でも、それ以下でもないんだ」


 心の底から、なりたいと憧れて。

 心の底から、成したいと思ってしまった。



 ゆえに、理屈ではない。



 たとえどれだけの犠牲を払う事になったとしても。己の生を、そのせいで断ち切られる羽目になったとしても、関係がなかった。


 既にもう一度、彼女にそう語っているのに。

 心の中を読む事が出来るゼノアならば、それがまごう事なき真実であると知っているだろうに。


 なのにこうして問い掛ける理由は、どうしても俺を関わらせたくないからなのか。


 ……きっと、俺がこのままだと力及ばずで殺される可能性が極めて高いから、止めようとしてくれているんだろうなって理解が出来て、僅かに顔が綻ぶ。そしてその善意を知って尚、彼女の言葉に首肯しようと思う意思が微塵も湧き上がってこない己の業の深さに苦笑した。


「…………。素直に、引き下がってはくれないんですよね?」


 最終確認のようなものだった。

 しかし、その問いに対する俺の答えは変わらず揺るぎないと半ば諦めてしまっているのだろう。

 その声音からは、諦念の感情が誰にでも一目で分かるくらいに見え隠れしていた。


 お前では力不足だから、引き下がれ。

 これは私達の問題だ。


 けれど、俺という人間はそんな真っ当な言葉に殊勝に頷くような人間ではなかった。


「それは、もちろん」


 言葉を返した直後。

 ————唐突に、ぞわりと首筋が怖気立った。


「……ッ、へ、え」


 そして即座に理解する。

 その出どころは、目の前の女性からであると。


 何が何でも此処で殺す。

 そんな殺意孕んだ強烈な意思が容赦なく俺に、無言で叩き付けられる。


「……では、リューザスには申し訳ありませんが、貴方は私が此処で力尽くで止めさせて頂きます」

「はハ……いいね、俺はこういう空気の方が好きだよ」


 ————〝刀剣創造(クリエイト)〟————。


 一瞬で場に広がった剣呑とした雰囲気に耐え切れず、無言で魔法を行使。剣を創造。


 リューザスからは教えて貰えと言われたが、誰かに手取り足取り教えて貰って学ぶ。

 なんて事は正直、出来る自信がなかった。


 それをするくらいなら、実践形式で勝手に自分で学べ。そんなやり方の方が百倍俺好みであった。故に、破顔せずにはいられない。


 この展開は、俺にお誂え向きだと思ったから。

 とはいえ、リューザスはこうなると分かっていて、ゼノアを巻き込んだのかもしれない。

 訳知り顔で終始笑んでいたし、多分その可能性は極めて高い。



 一応、坊主の希望は叶えてやったが、見て盗む前にゼノアに倒されるようであるのなら……それはもう知らねえわな。



 そんな軽口が聞こえたような気がして、つい、創造した剣の柄を強く握りしめてしまう。


 どうにかして部外者の俺を関わらせまいとするゼノアと、〝纏い〟を扱えないと話にすらならないという条件を付けられた俺であったからこそ、どうあっても避けられない戦闘。


 決戦前に体力の無駄な消費をするのは如何なものかと一瞬、思いはしたが、仲間内で行動がバラバラになるよりマシと考えたのだろう。

 であるならば、この状況にも頷ける。


 そして、己の限界を超えてひたすら強くなりたいと願う俺にとってこの展開は寧ろ望むところでもあった。


「……骨の一、二本はご勘弁下さい」

「気にしないでいいよ。そのくらいなら慣れてる(、、、、)しね」

「そうですか」


 全身から、何としてでも止めてみせる。

 という意思が溢れ出ており、それが敵意となって容赦なく俺へと突き刺さり続ける。


「…………」


 その中で閉口したまま、手にする剣をゼノアが構えてゆく。

 俺のような最適解を求め続けている我流の剣とは異なるものであると一目で分かる、洗練された構えだった。


 ————座敷剣術。


 あまりの綺麗さ故に、そんな言葉が脳裏を過ぎるも、強引にその考えを振り払う。

 気を抜けば一瞬でやられる。


 本能的に抱いたその感覚は、恐らく勘違いでもなく、まごう事なき真実。

 虫の知らせのようなものだ。


 やがて、場に降りた水を打ったような静寂を破るように。

 先の予感が正しかったのだと証明するように。


 ゼノアの剣————ではなく、足を注視していた俺の視界から次の瞬間、彼女の姿が掻き消えた。


 それは、目にも留まらぬ速さ。


 まるで瞬間移動でもしたかのように、瞬きをする一秒を十等分した内の一つ程度の間隙を突いて、ゼノアはそれなりに空いていた俺との間合いを詰めていた。

 その移動技術こそが、リューザスが〝纏い〟と呼んでいたものであり、時折俺も使える不思議なチカラ。


「…………な、」


 幾ら事前知識があったとはいえ、実際にそれを目の当たりにし、驚愕に思わず声が漏れた。

 でも、それでもと振り上げられていた剣を防ぐべく、手にする剣を合わせんと即座に振り上げようとして、


「読めてますよ、その行動は」


 自然体で構えていた剣を振り上げた事で生まれた隙へと、的確に精密な脚撃が突き刺さる。


「ぐッ、」


 ミシリ、と華奢な体つきに似合わない重い一撃に、骨が軋む音が頭にまで響く。


 すんでのところで身体を引き、威力を殺しはしたが、真面に食らえば下手すれば致命傷にすら発展する。そんな一撃であった。


 ……そして、「読めてますよ」という一言のお陰で、思い出す。


 ゼノア・アルメリダの魔法の能力は〝心読(ドクトゥス)〟。

 心が読めるという事はつまり、起こす行動全て見透かされていると考えた上で対応しなければ、裏をかかれるだけ。


「……なる、ほどね。力尽くで止めるって発言は、冗談でも何でもないってか」

「……冗談なわけがありますか……!! 今回の一件、無関係な人間を巻き込むわけにはいかないんですよ……ッ」

「でもそれはあんたらの都合だ。俺には関係ないね」

「ええ。ですから、力尽くで止めさせていただきます。貴方を私達の不始末のせいで死なせるわけにはいきませんから」

「俺が殺される前提で話を進められるのは、仕方がないとはいえ、中々に気に食わない、ねえッ!?」


 体勢を立て直しながら、力強く地面を踏みしめる。


「でも、心を読めるあんたを倒した時、俺は心を読まれて尚、倒せない剣士になってるって事だ。だったら、〝認識阻害〟なんて反則な魔法使いが相手でも、もっとうまく戦えるようになってる筈……!!」


 攻略法は既に見えている。

 心を読まれているのであれば、心を読み、そして対処する。

 その順序を踏む時間すら許さない速度を身に付ければいい。その答えこそが、〝纏い〟だ。


 何よりその速さは、星を斬る上でも役に立ちそうだ。だから、折角のこの機会。

 何としてでも〝纏い〟を己のものにしておかなければならなかった。


「〝魔法使い狩り〟を倒す為にも、あんたを超える為にも、リューザスの言う通り、盗ませて貰うよその技————!!!」

「それが出来るのでしたら、ご勝手にどうぞ」


 金属同士が重なり合う衝突音が叫び声に続くように、二度、三度と響き始める。

 そしてその音は、上限知らずに膨らんでいった。

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