六十三話
書籍が一月十五日に発売されることとなりましたっ!!
書影は目次下等に載せてます!
予約等も始まってるのでもし良かったらお手に取ってみて下さいっ!!
* * * *
アムセスと別れ、ギルドを後にした俺が向かった先は騎士団の詰所。
ただ、今日はやけにシン、と静まり返っていた。
「……また、お前か」
呆れ混じりに声を掛けてきたのは、初めて訪れた際に「ここは子供がくる場所じゃない」と一蹴してくれた騎士の人間だった。
でも、副団長であるゼノア・アルメリダが俺を通していた場面を実際に見ていたからだろう。
「……副団長に用か?」
今回は追い返される事もなく、ゼノアに用があるのかと問い掛けられる事になっていた。
「ううん。今日は違う。今日は別の人に用があるんだ。リューザスって名前のゴツいおっさん、知らない?」
無精髭生やしてて、40代くらいの。
俺がそう口にすると、何らかの心当たりがあったのか。
騎士の男は微かに眉を顰めて考え込む。
その様子は、どう答えればいいのかと、言葉を探しあぐねているようにも見えた。
やがて、
「……その情報、どこで知った?」
あまり知られたくない情報だったのか。
俺の身長に合わせて男は屈み、小声で問い返してくる。
やはりと言うべきか。
どうにも、昨夜出会ったリューザスは騎士団の詰所にいるらしい。
ゼノアと面識があるような物言いだからダメ元で来てみたけれど、運が良かった。
「昨日の夜、偶々一緒にいたんだけど、その時に〝魔法使い狩り〟に絡まれちゃってさ。聞き忘れてた事があったから聞きに来たんだけど、リューザスさんがいるならここ、通して貰えない?」
「…………」
ここは騎士団の詰所。
何の理由もなしに部外者を通すわけにはいかないのだろう。しかし、俺はゼノアから中へ一度は招き入れられている人間。
であるならば、通しても問題はないのでないか。それらの考えがせめぎ合っているのだろう。
「……〝魔法使い狩り〟の情報提供、という事で通してやる。副団長達は前に案内してやった場所にいる筈だ。流石に覚えてるよな?」
「もちろん」
じゃあいい。通れ。
そう言葉を締めくくられ、ポリポリと頭を掻きながらも騎士の男は中へ通してくれた。
「————で、やって来たってか」
中にはリューザスとゼノアと、見慣れない人間が数人ほどいた。
でもゼノアを除いた全員が騎士服を身に纏っていない事から彼らは元騎士団の人間なのだろうって自己解釈しながら、向けられたリューザスの言葉に俺は首肯した。
「一応、何しにやってきたのか聞いてやるよ」
「〝魔法使い狩り〟の居場所が知りたい」
「……だよ、な。坊主なら、そう言うよな」
どこかのタイミングで俺が訪ねて来ると予想していたのか。
呆れながらもリューザスは笑っていた。
「そら、見たことか。オレの言った通り坊主はやって来ただろう? なあ、ゼノアの嬢ちゃん。だからやっぱり、この坊主も交ぜよう。放っておいたら何しでかすか分からねえ上、餓鬼だがこいつは歴とした〝戦力〟だ。二つに分ける以上、人は多いに越したことはねえ」
リューザスがゼノアに向けて言葉を紡ぐ。
二つに分ける、とは一体何なのだろうか。
話を聞く限り、彼らは彼らで何かをしようとしているみたいだけれど、話が見えてこなかった。
「オレらは〝魔法使い狩り〟に魔法を掛けた奴を見つけ出した上で、〝魔法使い狩り〟、いや、バミューダの弟であるオリヴァーを止めなきゃならねえ。だから、ここにいる面子を二つに分けて事にあたるつもりだった」
事情を何も知らない俺に分かるように、リューザスが説明してくれる。
その間にも、「……本気ですか?」と言わんばかりに、責めるような視線をゼノアが向けてきたが、リューザスはそれを一顧だにしない。
「オリヴァーの能力は〝蒐集家〟。だから、オリヴァーを止める役は出来る限り、最小の人数で当たらなきゃならねえ」
最悪、失敗したとしても傷を浅くする為に。
加えて、精神系の能力を持った魔法使いであれば、間違いなく手駒は多くいる筈だ。
オリヴァーばかりに数は割けられねえ。
と、リューザスは言う。
「何より、優先順位で言えばオリヴァーより、精神系の魔法使いを捕らえる方が数段は上だ。オリヴァーは操られている側である以上、そっちを抑えてしまえば全てが片付くんだからな。だから、言っちまえばオリヴァーに対しては時間稼ぎをすりゃあいい」
ちょうど、昨日みたいな感じでな。
軽口でも叩くように、言葉が付け足された。
「つーわけで、オリヴァーの相手をオレがするって事で話が進んでたんだが……そこに坊主を組み込む。一人で突っ走って能力献上されるくれえなら、一緒に戦った方がまだマシだ」
昨日のやり取りで散々思い知らされたのだろう。俺という人間は、例え理路整然とした話であれ、一度決めてしまったが最後。
人の話なんてものは全く聞く気がないと。
だから、説得を放棄した上でのその提案は、最早清々しくもあった。
「で、どうするよ坊主」
「どうするって?」
「一人で戦って勝てる算段、どうせまだついてないんだろ」
図星であった。
ある程度の無茶を敢行する。
それはもう当然として、けれどそれでも勝てるビジョンというものが全く浮かばなかった。
————でも。
「それは、うん。だけど、俺はそれでも何とかするよ」
こんなところで立ち止まっているわけにはいかないから。だから、無理であろうとどうにかして目の前の壁をぶち壊すしかない。
〝無理〟を強引に捻じ曲げ、それを〝可能〟に正してこその〝星斬り〟であるから。
一度でもその名を掲げた以上は、貫かなくちゃいけない。故に、抜け抜けと言い放つ。
「……おいおい。よりにもよって倒す気かよ。坊主、今度こそ死ぬぞ?」
「死んで当たり前の先に存在する壁を越えるからこそ、意味がある。俺は、そう思うんだ」
〝ミナウラ〟に訪れた時。
確かそれは、フィオレ・アイルバークに対しても言った言葉であった気もした。
幾年経とうとも、不変の事実ってものは確かに存在する。これは、多くある中での一つ。
強くなる為には、代償が必要である。
それは時間であったり、痛みであったり、覚悟であったり、喪失であったり。
裏を返せば、それらが無ければ強くはなれない。だから、この考えってやつは何一つとしておかしくない。
自分に言い聞かせるように、心の中で言葉を反芻する。
「それに、一度は戦ってる。だから次は、もっと上手くやれる」
「……明らかに手を抜かれてた上、真面に戦えてたのは最後の一瞬だけだったっつーのに、その自信は何処からやって来るんだか」
————きっとそれは、憧れに対する絶対的な信頼、だと思う。
心の中で答えながら、俺はリューザスのその問いに対して笑って誤魔化した。
「せめて、〝纏い〟を自在に扱えねえと話にすらならねえだろうに」
「……〝纏い〟?」
ふと言われたリューザスの言葉に、俺は疑問符を浮かべる。
〝纏い〟とは、一体何なのだろうか。
「あん? 坊主が最後の方で使ってたやつだよ。一回だけ、オリヴァーの〝加速〟を上回った瞬間があったろ」
指摘をされて、ようやく気付く。
あの時は無我夢中で意識はしてなかったけれど、確かにそんな事もあった気がした。
「やっぱり、あれ無意識で使ってやがったか。……使える人間は、まだ両手で事足りる程度にしか見た事ねえが、オレはあれを〝纏い〟と呼んでる」
そういえば、リレアと手合わせした際にも何故か上手く使えて、驚かれていたような気がする。
〝星斬り〟の男に近付こうと鍛錬を繰り返す中で、時折意図しないタイミングで使えるようになっていたもの。
まるで足に羽根でも生えたと錯覚するほどに身体が軽くなるあれは、〝纏い〟と言うらしい。
「んで、ちょうどその使い手が一人、此処にいる」
そしてリューザスの視線が俺から外れ、向かった先は————ゼノアの下であった。
「オリヴァーの居場所は教えてやる。何なら、オレの魔法を使って案内してやってもいい。その代わり、条件が一つある。ゼノアから〝纏い〟の使い方を学べ。教えられるのが嫌なら見て盗むでもいい」
現状では、勝てないと。
だからせめてリューザスが〝纏い〟と呼ぶソレを扱えるようになる事が最低条件であると彼は言った。








