六十一話
* * * *
「————で、一体君は僕に何の用なのかな。どうせ、その様子を見る限り、討伐に交ぜてくれってわけじゃあないんだろう?」
翌朝。
曙光が照らしつける朝早くに、俺が一人で向かった先は王都の中心部に位置する冒険者ギルド。
受付らしき人間に、アムセスという人間はいるかと尋ねた直後、隅に設えられた椅子に腰掛けていると教えて貰った俺はすぐさま彼の下へと歩み寄っていた。
「以前お会いした時、自分の能力を予知系統と、そう仰ってましたよね」
「あー……そういえばそんな事も君に話してたっけ。でも、それで? それが一体どうしたのかな」
「その能力で、〝魔法使い狩り〟の男の位置を割り出して頂きたい」
俺がそう話を持ち掛けると、アムセスの片眉が僅かに跳ねる。どうやら彼にとって予想外の申し出であったらしい。
「……ふぅん。〝魔法使い狩り〟の男の位置を、ね。確かに、君の言う通り、僕ならば彼の位置であれば予知し、割り出す事だって出来るよ。だけど、僕が君の為に骨を折る理由が何処にあるかな。まるでメリットがない」
「……貴方は〝魔法使い狩り〟の男に対抗する為に人を集めたと言っていた。であるならば、〝魔法使い狩り〟の男を倒そうと試みる俺の存在は願ってもないものでは?」
それがあんたにとってのメリットじゃないのかと。そう訴えかけるも、小さく鼻で笑い、続け様、苦笑いのような表情をアムセスは俺に向けてきた。
「君が本当に〝魔法使い狩り〟の男を倒せるのであれば、確かにそれはメリットだ。でも、君はその傷だらけの状態で挑むつもりなんだろう? そんな様子じゃ、万が一にも勝ち目なんてものは見出せないね。能力を奪われるのがオチだ。最悪、彼の居場所を割り出した僕が命を狙われる可能性だって出てくる」
メリットどころか、デメリットだらけだ。だからその提案には応じられない。
そう口にするアムセスの言葉はどこまでも正論であった。
……昨夜負った傷については大方、ソフィアに治して貰ったとはいえ、完全に回復しているわけではない。あくまで、症状を和らげて貰っただけ。
それをいとも容易く看破され、俺は閉口する。
「ま、察するに君は昨夜、〝魔法使い狩り〟に叩きのめされたってとこなのかな。それだけこっ酷くやられてるんだ。やり返しをしたくなる気持ちは分からないでもない。だから————」
勿体ぶった様子で話し出すアムセスであったが、話さないというのであれば俺が彼に拘る理由はなかった。元々、駄目元でやってきたんだ。
ダメならダメでまた考えればいいだけの話。
それに、アムセスのような能力を持つ人間がいないと決まったわけではない。
そう己の中で結論付け、彼の元から去ろうとして。
「あぁっ、待った待った! 僕からは確かに教える気はないけど、なにも、全部を教えないとは言ってないから! だからそんなに結論を急がないでくれよ」
「……それはどういう」
「僕もあんな〝魔法使い狩り〟から恨みを買いたくはなくてね。だから、代替案って事で、君には〝魔法使い狩り〟の男の所在を知ってるであろう人間を教えてあげるよ」
勿論、僕じゃない人を、ね。
と言って意味ありげに彼は含み笑いする。
「だけどもう既に分かってはいるだろうけれど、ただでは教えてあげられない。でも安心してよ。前に君を誘った討伐に参加しろってわけじゃあない。ただ一つ、僕からの質問に答えてくれればいい。たったそれだけさ。破格だろう?」
「……分かった」
俺は首肯する。
元より、〝魔法使い狩り〟の居場所が知れるのであれば、俺にとっては他がどうなろうと、それで良かった。だから、その破格という申し出に応じる事にした。
「もし、この国を変えられるとすれば、それは一体なんだと思う?」
……どんな質問が来るのかと思えば、とんでもなくスケールのデカイ話であった。俺のような奴であればそれこそ、今まで一度も悩んだことのないような質問。
話の脈絡なんてものは勿論、ガン無視であった。
「この腐った貴族社会を変えられるとすれば、それは一体、どんな要素だろう」
「……教養があまりないもので」
「そんな事はどうでもいいよ。思ったまま、ありのままの答えを聞かせてくれれば僕はそれで」
そう言われ、黙考。
すると程なく、どうしてか、ある人物の顔が俺の頭の中に浮かび上がった。
それは、〝星斬り〟の男の姿だった。
そして、それが俺の答えなのだろう。
俺を魅せてくれたあの圧倒的過ぎる力こそが俺にとっての答えなのだろう。
「————純粋な力、だと思います」
「……へえ? 面白い。続けてよ」
「何もかもを黙らせる事が出来る圧倒的な力。今の社会ってやつに限らず、何かを変える為には力が必要不可欠。俺は、そう思いますがね」
勿論、力を追い求めている俺であるけれど、そんなものには興味がない。
ただ、アムセスにとっては俺のその答えが納得のいくものであったのか。
口に弧を描き、噛み合っていた歯を浮かせる。
「ああ、そうだとも。この腐り切った貴族社会を変えるには、君の言う通り、純粋な力を用いる事以外にはあり得ない。具体的に言うとすれば、それは魔法の存在だろうね」
魔法使いは強力過ぎる存在だ。
それは、俺が一番身をもって知っている。
「だから、魔法使い達が決起すれば、恐らく……いや、間違いなく世界は変わる。血筋や、権力がゴミに変わる時代がやって来る。何らかのきっかけさえあれば、必ずね」
……結局、アムセスは俺に一体何を言いたいのだろうか。
「ただ、今はまだ、逆らってはいけないという固定観念が根強く残ってる。だけど、もし、己らの刃が、権力社会に胡座をかいて好き放題している貴族にも届くと世界中の魔法使い達が知った時、世界は変わる。君も、そうは思わない?」
……成る程。
そう言うという事は、きっとアムセスは貴族に恨みを抱いているのだろう。
そして、俺の知ったことではないが、彼は現状を変えたいと願っているのだろう。
しかし、何故か引っ掛かりを覚えた。
アムセスの言葉に、筆舌に尽くし難い違和感が感じられた。
そのせいか。
無意識のうちに眉間に皺を刻んでしまっていた俺であったけれど、それも刹那。
「なーんて言ってた友人がいてねえ? ちょっと不可解で頭の中に痼として残ってたから君の意見も聞きたかったんだよね。あぁ、勿論他意はないよ」
続け様にやってきた彼の毒気を抜かれた発言に、それはただの勘違いであったかと俺は考えを改める。
「いやぁ、でも力かあ。君ぐらいの年齢の子だったら話し合いだとか言いそうな気がしたんだけど、人畜無害そうな顔して過激な思想を持ってるんだね。いや、僕は好きだよ。そういう、現実をちゃんと見えてる人間の言葉は凄く好きだとも」
アムセスは俺の回答に満足してくれたのか。
うんうんと満足げに頷いた後、
「それで、〝魔法使い狩り〟の男の居場所、だったっけ」
「……ああ」
話が戻る。
「だったら、〝魔法使い狩り〟を飛ばした張本人に聞くといいよ。リューザスならば間違いなく知ってるさ。見た目はただのオヤジだけど、ああ見えて頭はよく回る。きっと今頃、何処かに誘い込む用意でもしてるんじゃないかな」
「————」
空白の思考。
どうしてあんたが、リューザスが転移の魔法を使って〝魔法使い狩り〟を飛ばした事を知っている。
そう尋ねてやりたかった。
しかし、頭の中が煩雑としていてすぐには上手く言葉が出てこない。
「君が討伐に参加するっていうならば、今、君が抱いている疑問についてはすぐに解消されるだろうね」
つまり、彼の近くにいる魔法使いの能力のお陰である、という事なのだろう。
「ちなみに、討伐は明後日の予定なんだけども、改めてどうかな。気が変わったりはしてない?」
「……討伐に参加する気はありません」
〝魔法使い狩り〟の男と戦おうとしているというのに、そんな事に労力を使っている場合ではなかった。だから、逡巡なく断りを入れる。
「そっ、か。それは残念だ」
どうして、俺に何度も勧誘するのか。
それは分からず終い。
俺が言うのもなんだが、既に大人数の魔法使いが参加するのだから、俺やリレアがいてもいなくても変わらないだろうに、何故彼はそうまでして拘るのだろうか。
一抹の懸念が残っていたけれど、俺はアムセスに背を向け、彼の下から離れる事にした。
「本当に、残念だよユリウス君」
去り際に聞こえてきたその言葉にはどうしてか、憐れみの感情が込められていたような。
そんな気がした。
久々の更新ですみませんっ!
恐らくちょこちょこ更新し始めます…!
また、今作、星斬りの剣士のコミカライズが決まり、今現在企画が進行しております。続報があり次第また後書きを使わさせていただく予定です。
それと!
新作もちょこちょこと書いてるのでもし良ければ是非…!!リンクは下にも貼ってありますっ!








