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星斬りの剣士  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章 魔法使い狩り

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五十三話

「……話は何となく理解した。でも、さ。じゃあどうして、そいつは魔法使いを殺し回ってるの?」


 殺す理由はどこにも無いじゃないかと、俺はリレアの話の中に潜んでいた矛盾を指摘する。

 すると、彼女はほんの僅かに悲しそうな表情を浮かべ、口を真一文字に引き結ぶ。

 そして数秒ほどの沈黙を経て、


「……きっとその理由は、彼が口にしていたように〝復讐〟の為であり————」


 リレアは答えを口にする。


「——————今の騎士団長を、殺す為じゃないかしら」



* * * *



 ————〝魔法使い狩り(あの男)〟は王都の魔法使いに恨みがあると言っていたけど、きっとそれは嘘。恐らくは、彼が恨みを持っているのは五年前の騎士団に何らかの関わりを持っていた魔法使い、である気がするのよね。


 それは、リレアの言葉。


 これまで〝魔法使い狩り〟に殺された魔法使い達全員が、騎士団になんらかの関わりを持っていた事実を踏まえた上で口にされた発言であった。


「……邪魔をするなら殺すぞ、か」


 反芻する。

 俺に向けられて告げられた言葉を今一度、繰り返す。


 けれど、それを再認識して尚、俺は「強くなる為に強き者と戦いたい」などというセリフを吐くのだろう。


「ま、それが〝魔法使い狩り(あんた)〟の悲願であるのならば、その言葉は至極当然だね」


 しかし、俺は嬉々としてその邪魔をする。

 何故ならば、俺にとって〝真っ当な〟理由があるから。それに、懸念(・・)も、副団長であるゼノアのお陰で解消された。


 ただ、ああしてリレアと話すうち、新たな疑問が生まれた。故に、俺はここにいる(・・・・・・・)。その疑問を解消する為に、夜半にもかかわらず、ひとり宿を抜け出してもう一度、騎士団の詰所の前へとやって来てしまっていた。


 そして、視界に映り込むひとつの人影。


 夕方の時とは別人の見張り役がそこにはいた。

 けれど、見張りをするその人物を俺は知っている。


「————もう一つだけ、聞きたいことがあるんです」


 夜の帳が下り、シン、と静まり返る王都の夜。

 声を張り上げるまでもなく、俺のその声は辺りによく響き渡った。


 やがてやって来るクスリと笑う声。

 そして、数秒経て紡がれた言葉は、何故か俺の発言に対する是非ではなく、全く関係のない〝語り〟であった。


「その昔、バミューダという正義感の強い人間がいました。あの人は、心の底から誰もの幸せな日常を求めて、そして、理不尽な不幸を何より嫌っていた」


 ……理解する。

 俺の目の前で佇む人物————〝心読(ドクトゥス)〟と呼ばれる魔法を持つ、ゼノア・アルメリダは、俺が問いたかった疑問を知った上で、語ってくれているのだと。


「猪突猛進、とも言いますがね。ただ、その正義感は綺麗なものでした。何よりも綺麗で輝いていて、どこまでも純粋でした」


 変な言い方をすれば、彼は愛されていたのだと彼女は言う。己が掲げる綺麗な理想に向かってひた走るその行為が、誰もの幸せを願うものであったから彼は愛されていたと。


「ですが、いくらその行為と願望が正しいものであろうと、全てを正しいようにと正せるほど、この世界は綺麗なものばかりではありませんし、優しくもありません」


 どれだけ切望しようと、どれだけ血を吐く程渇望しようと、残酷で無比な現実はその理想を当然のように打ち砕いてくる。

 何故ならば、それが理不尽であるから。


「誰もが誰も、誰かの幸せを願っているわけではない。誰かの不幸を望む人間なんて、この世にはごまんといます。故に、彼のような人間は特に、人の悪意につけ込まれやすかった」


 感情の込められた言葉の数々に、気づけば俺はすっかり聞き入ってしまっていた。


「……今の騎士団に、何故魔法使いがいないのか、お教えいたしましょうか。決して責任をとって辞めていったから、などではありませんよ。理由は、単純明快です。所属していた多くの魔法使い達は、国のトップに立つ貴族らに失望し、辞めていったからです」


 夜闇に覆われた視界の中。

 詰所から照らされる微かな光によって薄らと見えたゼノアの表情からは、少しだけ怒りの色が見えた。


「五年前は、王位継承権の騒動が活発に行われていました。そのせいで当時の国王陛下直属の組織であるこの騎士団も悪意に晒されたんです。国王陛下が組織したこの騎士団が不祥事を起こせば、国王陛下が推していた第二王子の勢いも減るだろう。どうにも、そんな考えから始まった策略だったらしいんですけどね」


 政争についてはよく分からないが……彼女の話から察するに、騎士団の人間が嵌められたのだという事は、すぐに分かった。


「私達の騎士団が、政争に利用されたのです。誰もが失望し、辞めていくのは当然の帰結でしょう? 治安を、市民を守る為の組織すらも、己らの利益の為に利用して無関係の人間を多く殺した。……そんな者らを守る価値が何処にありますか?」


 言葉は止まらない。

 堰を切ったように、ゼノアの感情が溢れ出す。


「……そのせいで、瀕死の重体に見舞われながらも、助けられなかった事を悔やみ続けた果てに、バミューダは独りで自刃しました。……それを、都合が良いからと責任を取って処刑した事にしよう。なんて上から言われて……もう何が何だか分からなくなりましたよ」


 ……確かに、この話が本当であるならば、リレアの言う通り、悲劇だろう。

 紛れもなくこれは残酷な悲劇だ。


「バミューダの弟が私達を恨む理由も分かります。なにせ、公式的な発表では、色々と脚色されて私達がバミューダに死を迫った事になっていますから」


 あくまで、上の貴族の腐った部分は一切、曝け出す事なく、下の者に責任やら、汚い部分は全部押し付けているのだと。


「ですからもう一度、改めて言いましょうか。これは、私達の問題なんです。どうか、手を引いては頂けませんか」


 そして、俺はこれまでの語りを踏まえた上であえて言い淀んだ。

 やがて、口を開いて



「————なら尚更、イヤなこった」



 ぶわりと一気に汗腺が開いてしまうほどの殺意が俺に向けられる。

 まさか、彼女は俺がお涙頂戴な話をしたからと、頷くとでも思ったのだろうか。


 だとすれば、本心を読む能力たるあんたのその魔法は、とんだパチモノだと嘲笑わなければならなくなる。


「貴女のその瞳、何処かで見た事があると思ってたんだけど、やっと思い出した」


 それは夢でよく見ていた瞳。

 『星斬り』の夢にて出てきていた人間達が、よく浮かべていた瞳であった。

 そして、そんな馬鹿げた思考回路を持つ人間に、敬語はいらないかと判断して俺は普段の調子で言葉を並べ立てる事にしていた。


「それは、何らかの目的の為に死を許容した奴らとソックリな瞳だ」


 図星だったのか。

 ゼノアはその発言に対して少しだけ驚いていた。


「俺には政争だとか、そんな事を言われたところで何にもわかんない。でも、それは正道ではない気がする。どうしてか、それは分かるんだ。それに、貴女は良い人だ。それも、分かる」


 なにせ、フィオレの友人だ。

 悪い人でない事はよく分かる。


「貴女達が、罪滅ぼしの為か、はたまた、ある貴族への復讐の為、件の〝魔法使い狩り〟の能力である〝蒐集家(コレクター)〟を使って貴女達なりに復讐を遂げようとでも考えてるのか、それは俺の知った事ではないけれど」


 たった一つしかない人生。

 誰に託すことも、出来ないその命をどう使うかなんてそれは勿論、当人の自由だとも。


 ただ、ひとつ。言わせて貰いたい。


「貴女が知ってるように、理不尽ってやつはそこら中に転がってるもんだ」

「……何が言いたいんですか」

「たとえあの〝魔法使い狩り〟が多くの魔法使いの能力を取り込んだところで、所詮はただ能力を取り込んだだけの器用貧乏でしかないって言いたいんだよ。そんなんじゃ、本物の理不尽(・・・・・・)には遠く及ばない。そして俺が本物の理不尽になる為には、蹴散らせるようになってなきゃいけない壁でもある」


 特に、俺の目指す先である『星斬り』の男のような存在ならばきっと、それがどうしたと言って蟻を踏み潰すが如く当たり前のように斬り伏せた事だろう。


「……本物」

「そうだよ。王国内で言えば、田舎育ちの俺でも知る勇名————〝王剣〟ゼノーヴァ・クズネツォワとかじゃないかな。……まぁ、それはいいや。ただ、魔法を多く扱えるだけで頂に辿り着けるほどその場所は易しくないと思うけどね、俺はさ」


 だから、たとえ仇であるとして元騎士団のメンツや恨みのある貴族を殺したところでいつかは誰かに殺される運命にあると思うなと俺は指摘する。


 そして、ここからは————建前。


「それに、勝手な我儘で騎士団という存在を壊されでもしたら、力を持たない弱者は特に困るんだよ。それは分かってる? 無法者が溢れれば、それこそ更に無関係の人間は死ぬ。正義感溢れていた死者へ負い目があるのなら、何が何でもそこは貫くべきだと思うけど。それが何よりの罪滅ぼしだと思うけど」


 俺の語る言葉のなんと重みのない事か。

 本来、俺がそんな言葉を吐く輩ではないと、俺自身が誰よりも知っているから。その正論が、剣を振るための建前でしかないと知っているから、どうしようもなく安っぽく感じてしまう。


「……貴方には、この気持ちが分からないでしょうね」

「ああ、分からない。何より分かりたくもない。だから俺は、俺なりに否定させて貰う事にした」


 騎士団が動かなかった理由。

 それは過去への負い目と、騎士団という存在がどうあるべきか。果たしてそのどちらを優先するべきなのか。その踏ん切りが付かなかったからなのかもしれない。

 ゼノアの表情からは、その葛藤の欠片が見えた。


 ……だがしかし、関係ない(・・・・)

 俺にはそんな事情は一切関係がない。

 何故ならば、真っ当な理由を既に得てしまっているから。


 騎士団がなくなれば無法者が溢れる。

 すると、俺達だけに留まらず、故郷である村にすら影響が出るだろう。それは、ダメだから。



 さぁ、クソッタレた想いを吐こう。

 吐き散らかそう。

 どこまでも。理不尽に。不条理に。俺らしく、紡いでしまえ————その一言を。


「やっぱり俺は、〝魔法使い狩り(あいつ)〟を『星斬り』に到る為の、糧にさせて貰う」


 『星斬り』に到る為、俺は〝魔法使い狩り(あいつ)〟の障害となろう。

 なにせ理不尽とは、そこら中に転がっているものだろうが。

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