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星斬りの剣士  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章 星斬りの憧憬

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三十八話

 ————どうか上手くいってくれよ。


 内心で密かにそんな事を考えながらも走らせる白刃。円弧を描く剣線。

 そして、ソレは完成する。


 皎皎たる望月より尚、眩い輝きを放つ————それこそ、星のような輝きを伴った軌跡が十数と虚空に奔った。


「—————」


 生まれる一瞬の空白。

 水を打ったような静寂が本当に一瞬。

 秒を幾つかに分割したうちの一ほどの時間でしかなかったが、それでも確かに場は驚愕に包まれた。そして程なくあがるは


「が、ァっ————」


 鼓膜を殴り付ける大声量。

 痛苦に塗れた醜い絶叫が辺りに響き渡る。


 迫り、降り注ぐ星光。

 その速さは最早、瞬きをする暇さえ与えない。


「……はは……ははははははは……!!!」


 身体を支配するは筆舌に尽くし難い高揚感。

 ここぞとばかりに俺は笑う。縦横無尽に逃さんとばかりに剣を振るい、軌跡を描く。

 描いて、描いて、斬り裂いて。


 抑え付けていた感情の箍に罅を入れながら、馬鹿みたいに笑って、無心で剣を振るう事で漸く————痛みを限定的に無視する事が出来た。


 一顧だにせず、堅牢な外殻を食い破り、殺到を続ける星光。そしてそれは上限知らずに未だ膨れ上がっていた。


 自身の状態を確認。しかし関係ない。

 何かが軋む音。

 何処からともなく垂れ流れる鮮血。

 全身を奔り抜ける突き刺すような痛み。


 しかし、関係がなかった。


「—————!!!」


 呻き声が聞こえた。

 転瞬、憎悪のような憤怒のような。

 どす黒い感情を湛える〝ジャバウォック〟の瞳の色が変わるのが分かった。


 直後、星光に所々貫かれながらも、〝ジャバウォック〟は己の翼を広げ、はためかせる。


 —————これはま、ずぃッ。


 しかし、そうは思えど、〝星降る夜に(ナグルファル)〟を調整する事は不可能。

 がむしゃらに撃ち放つだけの俺に、翼を狙うなんて行為は出来る筈がなかった。


「————っ、たく、これはオレの奢りだッ!! 受け取りやがれ————っ!!! 〝刺し貫く黒剣グラディエーダ〟!!!」


 唐突に声が聞こえる。

 それは、シヴァの叫び声であった。


 言うが早いか、大地と天から黒い刃が突として出現。そしてそれは〝ジャバウォック〟の翼へと一直線に向かって行き。


「く、は、見事に釣られやがったよ!! なぁっ、あんた今、オレを警戒したな?」


 〝ジャバウォック〟へ向けて明らかにそれと分かる嘲弄を顔に貼り付けて、シヴァはここぞとばかりに盛大にせせら笑う。

 最後の逃げるタイミングを自分で潰しやがったよと、その嘲りはどこまでも轟いた。


「ここで逃げるなんて野暮な真似はよせよ、なぁ————〝四方覆う剣群(グラディエーダ)〟ァァア!!」


 シヴァの本当の狙いはその一撃。

 翼を狙った一撃に〝ジャバウォック〟が躊躇いを見せ、迎撃の構えを取ったその一瞬を狙って展開されるは————四方覆う黒剣の大群。

 まるで取り囲みでもするように〝ジャバウォック〟の頭上、そしてその左右を俺とフィオレ、そしてシヴァすらも巻き込んで囲い尽くす。


「っ、て、何してんの!? キミッ!?」

「覚悟決めろ〝屍姫〟!!! ここまでダメージを与えちまったんなら時間稼ぎはまず無理だ!!! 倒し切るしかねえよ! いいから手ぇ貸せ〝屍姫〟!!」

「〝屍姫〟、〝屍姫〟ってああああああもう!!! そう呼ぶなって言ったでしょうが、うるさいんだよ!!! それに、そんな事わたしも分かってる!!」


 ————本音を言うと一人で倒してやりたかった。


 けれど、既に感覚のない右腕。

 怒りに心なし全身を赤く紅潮させ、憤怒に身を震わせる〝ジャバウォック〟。

 流石に、無理があるかもしれないと思わざるを得なくもあった。


 だから、今は受け入れる事にした。

 何より、それら全てに対していらぬ世話と言えるだけの技量は今の俺に備わっていない。


 そして気づけば、


「…………」


 己の右腕は力なく剣を取りこぼし、だらりと垂れていた。右腕の至る場所から悲鳴が上がっており、何らかの治療を施さない限り、こちらの腕は最早使い物にならないと断定出来た。


 そして、息が詰まる。

 右腕から伝う激痛のせいで全身が痺れ、硬直。

 激烈な痛みは脳を焼き、ほんの一瞬だけ、思い通りに身体が動いてくれなかった。


「…………はっ」


 〝ジャバウォック〟の憎悪の矛先は俺一人。

 散々に貫き穿たれ、痛々しい断面覗かせる巌の如き巨大な図体。抵抗の姿勢は一切揺らがず、明らかに重傷を負っている筈であるのに、闘志の炎は未だ衰えず。


 程なく俺へと襲い来るは、複数の鋼鉄の尾による突き。迫るその速度はここにきて最速。

 右の腕は役立たず。

 身体もまともに機能していない。


 ……後先考え無さすぎた。


 そう後悔しながら重力に逆らわず、下降する俺は目蓋を閉じる。

 無防備の死に体。


 だけど、予感があった。

 何とかなる気がするという、勘としか言い表しようのない予感が。


 そして、なされるがままに身体を宙に放り出した俺を————鋼鉄の尾が刺し貫く瞬間はいつまで経ってもやっては来ず、


「……無茶し過ぎだから」


 代わりに、呆れの声が鼓膜を揺らすと共に、背中に若干の衝撃が伝わる。


 気付いた時にはフィオレが使役する魔物の背に乗せられており、どうやら俺は間一髪のところで彼女が助けてくれたのだと理解をして、口角を曲げた。


「さあっ!! 今度はオレの番だ!!! ユリウスばっかり追いかけてんじゃねえ!!! オレにも付き合えよ!! なぁ、なぁ、なぁ……なぁぁああぁぁあ!!!!」


 咆哮。

 それは〝ジャバウォック〟に勝るとも劣らない叫び声であった。


 どうせ近づけないからと割り切っているのか、シヴァは大仰に手を広げながら注目を集めんと馬鹿みたいに喉を震わせる。

 そういえばアイツも〝ジャバウォック〟の相手をしたかったんだよなあと思いながら周囲の様子を横目で確認。


 上空、左右。

 加えて、シヴァの周囲を埋め尽くす程の漆黒が浮かんでおり、その規格外ぶりに思わず人間技じゃないとドン引きしてしまう。——ただ。


 むくりと上体を起こし、俺はフィオレへと焦点を合わせた。


「分かってるとは思うけど、その腕、間違いなく折れてると思うよ。まだ戦い足りないのかも知れないけど、流石に剣が握れないんじゃどうしようもないでしょ」


 一部とはいえ外殻を破壊し、相当なダメージを与えた。十分、キミは良くやった。

 だから、後はわたしとあの赤髪男に任せてと俺の内心を見透かしてか、フィオレが言う。

 けれども、俺はその言葉に返事する事なく、己の身体に無言で視線を落とした。


「ん」


 痺れは薄れている。

 やはり、あの硬直は一時的なものであったかと思いながらも、ひっきりなしにやって来る痛みに表情をあからさまに歪めた。


 いくら鍛錬などで腕をボキボキと折ってきたとはいえ、痛いものは痛い。

 痛みに鈍くなるだなんて特技は勿論、持っていないので堪え忍ぶ事くらいしか出来ないのだ。


 ただそれでも、それら全てに対して強引にでも背を向けられてしまう理由があった。

 故に。


「あの。俺、あんまり人には言ってない特技があるんですけどね」


 面白おかしそうに笑いながら、俺は言う。

 特技というには些かおかしく感じる部分もあったけれど、俺にとってはそのお陰でこの状態でも尚、剣を振るう(・・・・・)事が出来るのだから、紛れもなくソレは特技である。


「実は、両利きなんです」

「……それが何?」

「いや、だから、右が折れても左で振るえるって話なんですけど」


 チャンスは一度きりだった。

 右腕でケリをつけるチャンスは、確かに一度きりだった。


 やがて俺は無手となっていた左手に意識を向け、胸中にて〝刀剣創造(クリエイト)〟と一言。

 握り締める無骨なひと振りの剣。

 そして俺は、嗤っていた(・・・・・)


「…………」


 そんな俺に対し、返ってきたのは無言の呆れ顔。正気か、こいつ。みたいな。

 真底理解出来ないと言わんばかりの表情であった。



 俺は、記憶の中に存在するあの男と比べるとやはり凡人でしかないから、多少の痛みくらいは当然として受け入れなければまともに前にすら進める筈がないのだ。


 そして、強敵を己の手で打ち倒すたび、己が憧れに近付きつつあるのだと確かな達成感を抱くことが出来る。それが、堪らなく嬉しいのだ。

 抱いた目的の前では多少の痛みなど、比べ物にすらなりはしない。


「なんてったって、〝ジャバウォック(アレ)〟は俺の獲物ですから」


 シヴァであろうと譲る気はこれっぽっちもない。俺の手で息の根を止めて、糧とする。

 そう、俺が決めたから————。


「だからそろそろ、あの喧しい口を閉じさせないとね」


 宣言と共に身体を再度、宙に投げ出した。

 あー、もう好きにしろよと、耳朶を掠めるフィオレの投げやりな言葉に苦笑いを向けながら、もう一度だけ駆け上がる。


「おい!!! あんたはもう戦えねえだろうが!! オレに任せてすっこんでろユリウス!!!」

「えぇ、シヴァはなぁに言ってんだか」


 頬が痙攣する。その発言が面白おかし過ぎて、笑む事をやめられない。


「片腕が折れたくらいで何言ってるの? まだ後左手が残ってる」


 戦えないって言うのは、両腕が折れて、出血多量で立てなくなって、這いつくばるしかなくなって漸く、戦えないと言えるというのに。

 たとえ胸を大剣で抉られようとも、立てるのなら、それはまだ戦える範疇。

 出血多量で視界が歪んでいても、剣を握る事が出来るのならば、それはまだ戦える範疇なのだ。


「早い者勝ちの獲物争奪戦は、まだ終わってないんだけど?」

「っ、く、はっ、ははははっ!! はははははははははは!!!! いいぜ、いいぜ。そう言う事なら止めねえ!! 好き勝手やれよ!! だが、オレも好きにさせて貰うがな!!!」


 弾けたような笑い声を轟かせながら、シヴァは左の手を掲げた。連動するように、俺達を囲っていた漆黒の剣全てが〝ジャバウォック〟に切っ先を向けた。


 既に〝ジャバウォック〟を覆う外殻の大半は傷付きひしゃげてしまい、無防備な断面を晒してしまっている。

 そんな中、これだけの剣が殺到した暁には、最早考えるまでもなかった。


 続くように、俺も剣を掲げる。

 放つのはこれで二度目。

 だからきっと、さっきよりも少しくらいは上手くやれるような、そんな気がした。


 時間はもう、掛けてはいられない。


「撃ち墜とせ————」

「とっととくたばれ————」


 言葉が重なる。

 そして、僅かに先んじて迎撃を試みる〝ジャバウォック〟の顎門が俺へと向けられた。

 鼓膜を揺らす聞き覚えのある甲高い音。

 それは何かを撃ち放つ際に幾度となく耳にしてきた音であった。


 ……迎撃のつもりなのだろう。

 しかしならば、それすら斬り裂くまで。


 軌道に変更はなく、持ち得る全てを手にする剣に注ぎ込む。


「————〝星降る夜に(ナグルファル)〟————ッ!!!」

「————〝刺し貫く黒剣(グラディエーダ)〟————ッ!!!」

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