貴方にも私にもできること

殺人者が見たいって？

なら７番街を歩くといい。別に８番街でもキャナルストリートでもいいんだがね。

両手の指で足りないほど行き来してるだろうな。半世紀前なら、君の国でもありふれていただろう。

ああ、もちろん、見分けがつかないさ。

殺したことがある。

殺しを見たことがある。

そもそも戦場を知らない。

私のような実戦経験者でもわからない。

それで困ったこともないが。

違いがあったら教えてほしいね。だから、だれでもいいんじゃないかな。

―――――――――戦前の会話―――――――――――

※地名はニューヨーク市

【太守領辺境/廃神殿前の草原】

青龍の貴族はドワーフ刀を突き立てた。

「ここから先は」

金糸が風に流れた。あの娘の髪。

「大人の世界だ」

――――――――――青龍の言うソレは、

　　　　　　　あたしたちが知らないナニか――――――――――

「知るな」

青龍の貴族、その表情。激しい感情。

「知れば」

憤怒？悲嘆？憎悪？敵意？どれでもあり、どれでもない。

「慣れてしまう」

青龍の貴族は振り返り、大人の世界に向かう。あの娘は泣きながら、立ち尽くした。青龍の腕の中で護られながら、拒絶された衝撃。それは涙にしかならなかった。

あたしは・・・・・・・・・・・卿が、視線で告げる。あの娘を任せて、と。

【太守領辺境/廃神殿前の草原/正面から裏に向かう外周】

俺は大股で、走っていると見られないように、駆け足に近い早歩き。

元カノは視線を斜め下４５°固定で早歩きに近い駆け足。

まあ、いいだろう。

神殿の片付けが終わったら、魔女っ子たちが定位置、俺の周りに着いた。

いつものこといつものこと。

捕らえた野盗たちを、強化樹脂で数人まとめて数珠繋ぎ。穏やかに実質脅迫。死体集め、進行形死体運び、墓穴掘りに尋問に面通しをやらせた。

そのあたりは元カノがやってくれて感謝している。

そして最終的解決にとりかかる、から、俺を呼びに来た元カノ。

もっとももっとも、当然だ。

やりたくないが、俺以外に投げられないコンチクショー。

そして困った事に、俺を抱き枕状態にする魔女っ子。ニートに出世したら、抱き枕で余生を送っても良いかもしれない。

だが、今は困る。

国連軍のお仕事、とりわけ適当に出来ないマレな奴、しかも子供には見せられない作業が待っている。

元カノあたりは、理解させてもいいんじゃないかと言う。

バカ言うな。

現実を知るのは大人になってから。

子供は夢を観るのがお仕事

・・・・・・・・・・・・・・・違う・・・・・・・・・・・・・・・

役割だ。

でないとできない。

失望できず、怒れない。

子供が現実を受け入れたら、この世の終わりだ。

大人になるときに怒り、そして選んで欲しい。

諦めるのか、ぶち壊すか、創り出すか。

俺は大人だから、子供に身勝手を押し付けるのである。

だから、シスターズとＣｏｌｏｒｆｕｌを隔離する、したい。

のだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Ｃｏｌｏｒｆｕｌは従順（これはコレで対策が必要だ）、お嬢は聞き分け、エルフっ子は魔女っ子を説得してくれたが、とうの魔女っ子だけがまあ、なかなか、聞き分けてくれず。

生まれ変わったら抱き枕になるから、とでも言えば良かったのか。

そこに現れるＮｏｔ Ａｉｒ Ｒｅａｄｅｒ元カノ。

揉めてる事に気がつかないで、じゃれついてきた。

俺の膝元にいた魔女っ子に気がつかなかった。

俺の（元カノが贈って、まあ、くれた？）ドワーフ刀を投げ渡してくれやがった。

鞘無し抜き身、刀剣スキルなしの俺に！

魔女っ子がほぼ同じ位置にいるのに！！

刺さらなかったけどね！！！

ギリギリで柄をつかんだけどね！！！

姿勢を崩したときは殺したかと思った！！！！

俺はついに速やかに元カノに追いついた。

逃げんなコラ。

「ひょめんっはぁぁひぃつつならひ」

（ごめんってば！二度とやらない！！！！）

とりあえず、ほっぺたがどこまで伸びるか確認出来た。涙目の元カノに、悪気がないのが、さらに腹が立つ。

冗談や喧嘩で生き死にするのが当たり前な黒旗団。鋭利な日本刀、鞘無しドワーフメイドを投げたのは、元カノの日常的振る舞いだったのだろう。

アブねーよ！！！！！！！！！！

魔女っ子に刺さったらどーする！！！！！！！！！！

たいせつなことなので再度言いました！！！！！！！！

正座して頭を下げてきた。さすがに失敗は自覚している。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・失敗って認識レベルなのが頭痛い。

「刀は敵以外に投げません」

・・・・・・・・・・・・・・・投げ渡された刀を、受けられなかったのは、まあ、俺のせいだしな。

元カノも、魔女っ子が怪我をするかと思って、顔面蒼白だったし・・・・・・・髪が少し斬れただけ

――――――――――――――――――――また腹が立ってきたが、落ち着こう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、変更。

「受け取れない相手には緊急事態以外武器を投げません」

で交渉妥結。ついでに、ドワーフに鞘を頼む事になった。最初からあつらえろよ。

誰が使うにせよ！

「手入れし難いじゃん」

日常的に使わないから、俺は。ってか、お前は毎日なんか（名は秘す）斬ってんのか。

休暇配置中、ここに来てからは、斬ってないよな？

「休みの間は試し斬りだけよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにやら意味が通じていない元カノへの説明は後回し。

俺たちは神殿内部の確認をドワーフ達に任せ、裏に回った。

【太守領辺境/廃神殿前の草原/正面側】

神殿の正面、青龍の貴族達に解放された女子供が集められた。

あたしたちが乗って来た青龍の土竜が神殿正面に止められた。

戦闘用と輸送用が二頭ずつ。

戦闘用に乗って来た、あたしたち。

輸送用で連れて来た、最初の村の人たち。

マメシバ卿にいろいろ教わった村娘に農婦。

村の長と大人たち。

長達は神殿と村々を結ぶ道へ。

野盗から解放された村々の女たちは４３人。うち、子供は８人。

村娘たちは神殿正面で、食事や水を配り、横たわる場所をしつらえて村々の女たちを休ませた。

魔法の道具を持ってその間を回るＣｏｌｏｒｆｕｌたち。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌはいつの間にか、青龍の基本的な治癒魔法を学んでいた。港街で、あたしや青龍の貴族が隔離された時に、マメシバ卿にいろいろ教えられたみたいね。

その技術を生かして解放されたばかりの皆を、手当てしていく。

あたしたちの世界じゃ、薬方使いは街にしかいない。

医者は大都市。

医者に治癒魔法使いを常備しているのは帝国軍ぐらい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みんな、器用ね。Ｃｏｌｏｒｆｕｌは街の薬方使いより、腕がいいわ。

マメシバ卿みたいに、複数の治癒魔法を組み合わせて見る間に傷を癒やしたりは出来ない。でも長い目で見れば、青龍の治癒魔法だけでも効果は大きい。

あたしはＣｏｌｏｒｆｕｌの周りを注視。

近づけばハーフエルフと判るから。

解放された者、介抱する者。

今のところ、ハーフエルフへの侮蔑や嫌悪感を出す女はいない、か。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌがまとうのは、あからさまに異質な青龍の装束。みな慣れない作業に夢中になっている事で、卑屈にならず堂々と振る舞っている。

それが周りの女たちに戸惑いを生み、あたしが一番心配していた事を防いでいた。

青龍の騎士は相変わらず、あたしたち以外に銃を向けたまま――――――――――助けたそばから、皆殺しにされたら、ナニがなんだか判らないもの。

【太守領辺境/廃神殿前の草原/裏側】

「男６３名、女１０名」

俺が数えるまでも無かった。神殿裏手に座らされた連中、つまり、まだ生きてる野盗。元カノが殺した奴と合わせたら？マメシバ三尉がカウント。

「総数１３１名、うち逃亡農民は７０名余りでした」

そう、でした、だ。

最初の村で殺させた１４名。ここで今、殺させた４４名。

屋内でなければ、１０名殺せば降伏したろう。見通しが効かないから、野盗たちは仲間が殺されている事が実感できず、なかなか降伏しなかった。もちろん、包囲されてることにも気がつかない。

銃声、つまり元カノ（おまけの俺）から逃げ出して、裏口から脱出。

ドワーフキャッチャーの中へ。

暴打、電撃、催涙液。

一人残らず、確保。

野盗の生き残りは最初に捕まえた連中を含めて７３名。

帝国時代の逃亡農民、野盗のオリジナルメンバーの大半が死んだ。帝国時代の恐怖、犯罪者は竜の生き餌。それが染み付いているから、必死に抵抗したのだ。

俺も元カノも、手間暇かけてまで生け捕るつもりは無かったし。

――――――――――では今、生き残っている、俺の目の前でうなだれている連中は、まあ、半分以上は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・野盗に襲われた村の、転向者だ。

野盗が村々を荒らし始めて、１ヶ月以上。

人間は恐怖に同化する――――――――――なんぞと抜かしたのはだれだったか。

まさしくその通り。

襲われる側から、襲う側に。

恐怖に怯えるより、恐怖そのものへ。

――――――――――教科書通り、意外性のない結末。

まあ、選択肢は無いわな。

襲われ続けたく無ければどうするか。

遅かれ早かれこうなる。

野盗に加わる？野盗に報復する？

本質的には同じこと。

殺される側から殺す側に。奪われるから奪う側に。

――――――――――恐怖への同化――――――――――

こんな出会いで残念だ。

自分が、こんな目に遭わなかった事に感謝しよう。

神様仏様誰でも良いが。

「ＯＫ！！！！！！！！！！お布施喜捨免罪符各種クレジットカード受付中！！！！！！！！！！懺悔ナサ～～～～～～～～～～イＣｏｍｅ Ｏｎ！Ｃｏｍｅ Ｏｎ！」

やかましい！！！！！！！！！！

【太守領辺境/廃神殿前の草原/正面側】

マメシバ卿は、行ったり来たり。

あたしたちがいる神殿正面と青龍の貴族がいる裏手。

時々、解放された女を連れて行く。

ドワーフに連行させないのは、怯えさせない配慮ね。

マメシバ卿は繊細な気遣いをするひと。そして連れられた女は、意識を失って帰ってくる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・耳を澄まさなくても魔法で尋問していると判る。

それは気にしないことにして、あたしはあの娘たちを見守った。

これから始まることを、知ってしまうのはあとでいい。

あたしも青龍の貴族と同じ教育方針。

【太守領辺境/廃神殿前の草原/仮設救護所】

わたしは、マメシバ卿に教わった通りにしました。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌさんたちと、ご主人様が救った皆さんを回ります。いえ手当ては橙さんたちが、わたしは何も出来ないんですが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・役には、たっている、みたい。

「みんな、貴女を見ると安心するんですよね」

マメシバ卿も不思議そう。

青龍のみなさんにも、わからない事がある

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その方が不思議でした。

でも、その後に続いた言葉が、みなさんらしくて♪

「そりゃありますよ？まだまだこれからです」

本当に、前向き、ううん、違いますね。

青龍、青龍の世界は前を向いてるんじゃない。進んでるんです。前に前に。

ご主人様も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ、曇りましたね？笑顔笑顔」

！！！！！！！！！！

「いーこと教えてあげましょう」

？？

「前に進む時、後ろに置いて行く事はあります」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。

「でも、捨てて行ったりはしないんですよ♪」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それじゃ、キリがない、というか、際限がありませんよね。

「ブイ」

――――――――――――――――――――青龍さんは、欲張り。

素敵な素敵な、欲張りです。

「貴女も欲しがっちゃいなさいな！」

ハイ！！！！！！！！！！

【太守領辺境/廃神殿前の草原/正面】

（しばらく気がつかせないでね♪）

あたしに囁くマメシバ卿。

あの娘たちに、ね。それは良いけど。

神殿は森の中央。村々に向かう道は裏手にある。まあ、実際はあっちが正面。あたしたちが森を突っ切り、裏側から攻め込んだのだけど。

まあ裏表は青龍が決めること。

青龍が決めた神殿裏手に、村々から人が集まり始めていた。

【太守領辺境/廃神殿前の草原/裏側/特設軍事裁判】

俺に合図するマメシバ三尉。

チェック完了。

手のひらサイズの通信端末。その先は港街、黒旗団臨時指揮所、の読心魔術にたけた魔法使いたち。生残野盗の尋問はとっくだが、三々五々に集まって来た周辺村落代表者も確認。

――――――――――――――――――――問題なし。

村から神殿まで４５分。神殿制圧に３０分。面通しに安全性チェックが終わった今は昼。野盗やらなんやらも薬効が切れ始めている。

村々のみなさんも到着。

地元の商人が協力してくれたおかげだね。口を利いてくれたお嬢に感謝。あとで希望を訊かないと。

地元の皆さん。

やや、いや、かなり緊張してますね。まあ、派遣前訓練を思い出すな。

あれは豚の臓物だった。

濃厚な血と肉、硝煙の香り。

原型があるし、一見は臓物よりマシなんだが・・・・・・キツイか。俺だって最初は飯ものどを通らなかった。

慣れてしまえば、あーこれ覚えあるわ、だけ。

だが、１００年以上内戦もなく、帝国時代もせいぜい一桁程度の死体しかみていない村人。恐怖が恐怖で止まった、平和な村々。

野盗に乱暴され陵辱されても、死体は片手の指で間に合う範囲。

４０以上の死体は厳しいか。

三桁となれば、天変地異扱いになるな。

村々の代表者、１４６名。

長たる老人に、壮年の男たち。

物理的には十分な力がある。精神的には死にそうな顔色。

７３名の野盗を背に、村人たちに向き立つ俺。

背後はミニガンやＡＫ４７Ｊ、ハルバードを構えるドワーフ。

俺の左は元カノ。

右は国際連合軍事法廷判事、つまり神父。

「開廷！」

神父の声が響いた。

左から、元カノが進み出る。

ドワーフたちは元カノの合図で槍を村人たちの前に並べた。村人たち、いや、野盗たちの視線が、俺に集まる。

―――――――――――――――――――――――――――――なぜ俺？

元カノは構わない。村人に向きながら、野盗たちを指差した。

「コイツ等が、わかるな」

村人たちは頷いた。

蒼白ながら野盗達を睨む。

奪い、犯し、傷つけ、殺し、裏切った敵。

特に憎々しい眼差しは、野盗に寝返った、元村人に向けられていた。

元カノが、艶のある視線を送る。

「殺したい？」

ざわめき。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殺せ！

殺せ！！

殺せ！！！

殺せ！！！！

皆さん、腕を突き上げ叫ぶ。

たいへん正直でよろしい。強面だったかもしれない野盗たちは、怯えて失神している者もいる。手足を拘束された奴らなど、恐ろしくない。

「よし！」

怒声が元カノの一言で収まった。俺じゃ絶対に真似できない、将軍、いや、武将の貫禄。

「殺ってよし」

その指先が、村人たちの足元、並ぶ槍を指した。

「殺しなよ♪」