幕間:生態考古学/単なる惑星の歴史。
【用語】
『国際連合人間居住計画』
:1978年創設の人間居住委員会を前身とし2002年に創設された国際連合憲章第57条に基づく国際連合機関。目的は
国際連合による人類居住空間の拡大整備。異世界転移後、国際連合再編成と同時に再建された機関の一つ。異世界転移と同時に昔からあったと各国政府関係者が口を揃えて証言する何かではない。国際連合機関なので国際連合加盟国への勧告のみを行う。UNESCOの様に国際連合憲章第57条、第63条に基づく専門機関とは違う。国際連合機関と国際連合専門機関の違いは、前者が国際連合の下部組織なのに対し、後者は連携した別組織であること。前者は国際連合の為に活動し、後者は国際連合以外の為にも活動出来る。異世界転移後UNESCOに軍事力が与えられた理由。国際連合人間居住計画の場合、軍事力が必要ならば国連軍が直接行使する。
優れた者は地獄でも生き伸びられる?
地獄で生き延びる為に優れたのですよ。
生きる為それだけに。
可哀想な人たちです。
優れているとは殺されないこと。
誰かに与えられた温室の外では、ね。
「実力」等と言う自称とは違います。
そも実力は定義不可能。
実力至上など自負と実践の落差に耐えかねた精神失調症です。
誰にも何だか解らない「実力」を至上と見なせると思い付くあたり、絶対者への帰依を説く新興宗教。
筆記試験の数字とも違いますよ。
むしろ実用性皆無のパズルが得意なら、無駄にリソースを割いた分だけ点数が低い者より基盤となる知識や経験が不足している証。
無能を証明するのがテスト点数。
まあ、誰かを評価する責任を負いたくない責任者が主観を排した客観的な評価の為に行うゴッコあそび。
どう転んでも殺されない場所で、自分の命に関わらない些事に、他者より先んじていると自負して、己だけにて満たされていられたら幸せでしょうに。
我々には許されない贅沢です。
死刑台の順番待ちをさせられている身には、ね。
せめて後ろに周りたいモノ。
続けていれば寿命が来ます。
――――――――――さて――――――――――
人間は三種類あります。
コーカソイド。
モンゴロイド。
ネグロイド。
この内、コーカソイドとネグロイドは、同じ目的で創られて、ほぼ同じ構造を持つ存在です。
体格が大きい。
腕脚が長い。
俊敏で剛健。
何故か?
危険を回避する為に俊敏。
危険から逃れる為に剛健。
危害に耐え易い大きな体。
原因は?
必要資源は遠い処にしかなく。
常に貧しい環境を移動し続け。
それが永続的に続いた結果です。
生殖能力は高いからこそ僅かに生き残ってきた、地球人類の中では少数派。
永続的に殺され続けていたからです。
あらゆる環境に殺されてきた。
大別2パターンのバリエーション。
色の濃淡は、太陽の照射不足か過剰。
いずれかのまさに致命的な問題に拠る。
では3つ目のバリエーションは?
本題ではありませんが、それが異世界に居ないことで異世界に何が起こらずに済んだのか判ります。
モンゴロイド。
コーカソイドやネグロイドの逆を考えればよろしい。
豊かな環境が、最初からありつづけたこと。
それが存在の条件。
近くに必要資源があるから腕を伸ばす必要が無い。
資源は再生産され移動の必要が無いから脚が短い。
長い腕脚。
重心移動が容易な腰高。
栄養を貯める脂肪層も筋腱の発達も殺される以上に増える為の生殖力の高さも、モンゴロイドには必要が無い。
回避すべき危険は稀で、餓えて彷徨い続ける必要もなく、瞬発力も持久力も使い途がなく、概ね生きられる。
それが日常、当たり前。
人類の多数派を占め続けているのは優れているからではなく、優れる必要が無いほどに生活する環境が豊かで、餓えず争わず殺されなかったから。
必要の無いスペックを持つ自然物はおりません。
そしてしばしば環境はスペックを凌駕している。
コーカソイド。
ネグロイド。
モンゴロイド。
これを更に2つに分ける。
どれほど機能を持っても尚、殺され続けた。
どれほど機能が無くても足りない事はない。
まさに自然状態。
フルスペックは最前線にしかない。
それと同じこと。
フルスペックでさえ生き残れない。
そういうものです。
さて、異世界では、どれが選ばれたのか。
此処にはコーカソイドしか、見かけません。
種族的特徴?
ご心配なく。
倫理や道徳とは違います。
動物の構造は物理法則に拠ります。
例えば道徳や倫理の如く、人殺しが善行であり悪行になり付けた傍から忘れられる条件に依る、等々、好みに合わせたりは出来ません。
やろうとすれば出来る前に殺されるだけです。
動物の構造とは環境の一部であり、その揺らぎの範囲における例外しかありません。
リンゴは樹から落ちる。
太陽は東から昇る。
人は必ず殺されて死ぬ。
そこから判ります。
異世界コーカソイドの意味。
異世界の惑星史。
自然状態が安定したのは最近千年くらいでしょう。
白い肌は日照不足を意味します。
黒い肌なら真逆ですが。
つまり氷河期が千から数万年以上は続いた訳です。
この星におけるコーカソイドの分布の範囲からみて惑星規模で、です。
本来、星の片側は常に昼間であり夏です。
夜や冬が惑星全体に及んだ、となれば。
大気圏上層部に莫大な粉塵が回遊していた、となる。
リンゴが樹から落ちるなら、粉塵も地上に降下します。
粉塵が降下し終わっても氷河期は維持されます。
陽光の回復は気温の上昇を意味しません。
急速な気温低下は、漸進的より多くの氷雪を生み出し、氷雪は陽光を宇宙に反射して更に気温を低下させ、それを維持します。
冬は晴れの日の方が寒い、というわけです。
場合に因っては地表に生じる陽光の照射と反射により寒冷下での陽灼けに耐える為、ネグロイドが生き残る可能性もありますが、異世界では、そうはならなかった、と。
その意味は?
――――――――――長期間、空を粉塵が覆い続けた。
降下まで数千年かかる量が瞬間的に巻き上げられた。
ま、無いです。
――――――――――自然現象ならば。
大陸規模の火山活動なら粉塵の随時補充も可能と考えますが。
デカン高原ほどのマグマ噴出を想定しなければなりません。
それがあったら痕跡を目視確認出来ますが、見当たらない。
小惑星の衝突ならば、本体と破片の散弾降下で惑星全面に渡って大気圏外に届くほど、瞬間的に粉塵を巻き上げられますが。
しかしボーリング調査の結果、惑星中心か小惑星や隕石にしか存在しないイリジウム層は全く発見されていない。
それ以外なら?
我々に出来ることは誰にでも出来る。
それだけです。
より少ない量でより長く大気圏上層部に滞留できるのは、自然物を灼いた刻にはありません。
ならば地形に影響しない表層で。
より広い範囲に分散して。
炎上し易い人工物を。
瞬時同時に灼く。
その粉塵には、僅かばかりで多くの異世界人が含まれるていることでしょう。
何が起こされたかわかりますよね。
二度あることは、三度ある。
いやいや、一度でも出来れば何度でも出来ます。
可能なら行なわれるように。
意志あるところに、道は開ける。
起こしてしまった者の手法。
それがどんな道であれ
・・・・・・・・・・開いてしまった、もう遅い。
地球より大勢の可哀相な人たち。
そこに我々が着いてしまった。
後は?
進むか。
止まるか。
止める。
―――――――我々が備えるべきことです―――――――
《国際連合人間居住計画の国際連合総会報告より抜粋》




