一期一会/KILL Them ALL!
【用語】
『青龍』:地球人に対する異世界人の呼び名。国際連合旗を見て「青地に白抜きでかたどった《星をのみほす龍の意匠》」と認識されたために生まれた呼称らしい。
『科学技術』:異世界ではすべて魔法として理解されている。ゆえに地球人は全て魔法使いとして見られる。
『魔法』:異世界の赤い目をした人間が使う奇跡の力。本人の眼に入る範囲で、物理的心理的な影響を生み出す。遠距離の破壊、伝達、遠隔視、読心、無生物に簡単な動作を命じる、などいろいろな力が使える。
ミルグラム実験、スタンフォード監獄実験、ホーソン実験、ローゼンタール実験・・・・・様々な人体実験が繰り返された時代がある。
これらの心理学実験が、今日の社会心理学、そのすべてであるといっていい。以後は人道的な理由で実験ができなくなってしまい、過去の実験成果をもてあそぶことしかできない。
つまり、上記実験こそが科学的に意味がある。
そして、それらはみな、簡単明瞭な一つの結果を現した。
・・・・・・・・人が抱く自画像に一致しないがゆえに、なかったことにされている鏡像。
「人はだれしもアウシュビッツの看守になれる」
苦痛も脅迫も洗脳もない。
特別な薬剤、特殊な技術、特異な状況は必要ない。
すでに身の回りにありふれている、平凡で穏健な方法を組み合わせるだけ。
それだけのこと。
誰もが疑問を持たない。
あるいは喜んで、率先して。
・・・・・・・・・・・・・・昨日までの隣人をガス室に放り込める。
それは人間の暗黒面を象徴する事例として語られる。
しかしどうだろう?
人格が虚像にすぎず、良心が方便にすぎず、倫理がその場しのぎに過ぎない。
であれば、こうは考えられないだろうか。
誰もがたやすくアイヒマンになれるのならば?
誰をもたやすくマザー・テレサにできるのではないか??
悪魔が創れるならば、聖者も王者も創れるだろう。
たかが人間だ。
平凡で単純な方法で。
手順さえ整えればいい。
科学的に矛盾があるだろうか?
アイヒマンが、その生真面目さと勤勉さと世渡りの才能で、難民キャンプを生み出して運営している世界。
それが理論的に実現できるのだ。
《国際連合安全保障理事会非公式会合における『プランC』基礎理論資料より》
【太守領辺境/廃神殿の中/入り口わき】
「ほらね」
俺に話しかけながら、視線は逸らさない元カノ。俺も、弾倉差し替えをブラインドで出来るほど銃になれていない。
BAM!BAM!!BAM!!!BAM!!!!BAM!!!!!BAM!!!!!!BAM!!!!!!!BAM!!!!!!!!
元カノにガバメントを渡しながら俺も納得。
「確かにな」
4人の野盗が倒れた。
BBBBBBBAM!!!!!!!
「キーアイテムは」
元カノにガバメントを渡しながら振り返ると、5人が倒れた。サブマシンガン並みの手動連射。キーってか、アンラッキー?
「緑の野戦服」
BBBBBBBAM!!!!!!!
8人が沈む。
「銃に銃声」
入り口脇から飛び出したヤツら。
お!殺る気だ。
「黒髪黒瞳」
刀に鉈、槍、まっすぐに走ってくる。
BBBBBBBAM!!!!!!!BBBBBBBAM!!!!!!!
十人位が廊下に積もった。
「しめて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「27」
【太守領辺境/廃神殿前の草原】
あたしが水袋を投げる。
女二人は、あたしを見て、互いを見て、そして、あたしが指差した方から飲んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水も与えられなかったのね。
轟音が遠ざかり初めてる。
神殿入り口に死体24、これからの死体3人分、の山を築いた青龍の貴族に青龍の女将軍。
先に進んだみたい。
姿が壁に隠れてすぐに竜殺しの音が始まり、途切れなかったのに、今は足音だけ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――そして、静寂。
「みなさーん」
は?
高く響く声。
青龍の女将軍?
「これから皆さんをすべて殺しまーす」
はぁ。
「1人も生かしておかずに、一人残らず殺します」
えーと。
「だから」
なに?
「かかってきなさい」
轟音・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また始まった。
【太守領辺境/廃神殿の中/外周通路】
「FPSより楽だな」
「腕が痛むけどね~」
一人称視点のシューティングゲーム(First Person Shooter)は、付き合ってた時によく遊んでいた。
その当時はもちろん、痛くないし腕も疲れない・・・・・元カノの鍛え上げられた腕でなら、だが。
神殿に入って最初に出くわしたのは、あくび混じりの野盗だった。
まさに、はっ?って顔のまま、5秒で一人一人順番に、4人射殺。額と胸を撃ち抜いて即死させる。
元カノにしては慎重に狙ってるのだろう。
俺には無造作に撃ってるようにしか見えないが。
兵隊は相手を即死させようとなんかしない。戦闘不能になればいい。つまり一発当てればいいのだから。そこは人質救出が絡む特殊部隊や、民間人への二次被害を気にする警察とは違う。
ただ、最初の俺たちはセオリーを守らずに即死させていた。
悲鳴をあげさせない為。
出来るだけこちらにおびき寄せ、野盗を逃がさないため。
まあ、俺のせいだけどね。
包囲が完成する前に突入する羽目になっちゃたから。
幸いに元カノの狙いは当たった。轟音にだけ気がついた野盗が無造作に飛び出してくるのを、連射、連射。
国際連合軍アンケート!!
銃声を聴いた異世界人は何を連想するか?
単純に音だけ聴くと、雷だと思われるのが一番多い。
場所にもよるが、金具の崩落音や銅鑼と思われる時もある。
だが、二番目は、なんだかわからずビックリする、だ。
意外に魔法を連想しない。
魔法自体が一般的ではないからだ。
特に、これだけ轟音がでる種類の魔法はとくにレアだとか。
国連軍唯一の魔法部隊を持つ、元カノのレクチャーは続いた。
略奪品に浮かれた野盗たち。
最初の銃声一発を、自然現象かと思ったのだろう。だから、ゆっくり、のんびり、向かってきた。おそらくは天気を見る程度の気分で。
次の5人は異常を感じたのだろう。異常な、現象を。緊張感は持っても、敵襲とは思わない。なにがなんだか判らずに、とりあえず音源を確かめに出てきた。
次々と。
そして17人を射的同然に片付けたところで、野盗たちは気がついた。訳がわからないなりに、襲われている、と。
まあその時には、神殿通路が射殺体でいっぱいだったからね。硝煙は判らずとも、血の匂いで気がつくか。
野盗たちが武器を構えて来たあたりで、元カノは射殺から撃つに変更。
撃ち倒す。
まさに倒す、だ。
腹か胸に一弾喰らわせれば十分。戦闘力を奪い、ほうっておけば死ぬ。神殿入り口が死体で埋まったところで、俺たちは前進。
野盗の死体は心理的バリケード。
まあ、実際に歩きにくいけどね。
あの入り口からは出られないだろう。
仲間の死体を見れば逃げ出して、別な出入り口にまわるに違いない。
エルフっ子たちがいるのは神殿正面。
いや、森の中で開けた草原の真ん中に神殿があるから、表裏不明だが。
仮称正面側に野盗が出て行かなければ十分。
他の出入り口はドワーフ達が塞いだ、とマメシバ三尉が確認。塞ぐ前の撃ち漏らしもなし、とやっぱりマメシバ三尉が偵察ユニットの記録を確認。
野盗は桶の中の鯉。
良かった良かった。
まあ仮に勇気ある野盗が正面に回っても、エルフっ子には届かない。レコンの狙撃手が正面側を管制している。
指揮系統違うから、確認出来ないけどね。
1km先の狙撃ポイントから、わざわざ対物ライフル担いで移動はすまい。銃も12.7mm弾も重いから。
この作戦中は移動しないだろう。
後は俺たちが神殿を一巡りするだけ。
【太守領辺境/廃神殿前の草原】
あたしが神殿に聴き耳をたてていると、あの娘たち、みんなが森からでてきた。マメシバ卿が頷いて、青龍の騎士が神殿入り口と正面全体を監視できる位置に立つ。
Colorfulはオレンジ色の背嚢を運んで来る。マメシバ卿の、治癒に使う魔法具。
龍の貴族に渡した銃の代わりに、ドワーフ刀を傍らに刺すマメシバ卿。
卿は剣より短槍かナイフが得意よね。
「見張りはお願いしますね」
あたしに一礼しながら、チラリと視線を交わす、あたしたち。
あたしが改めて見張る、ソレを確認したマメシバ卿が、地面で震える女二人にゆっくりと近づいた。
まだ、敵味方は不明。
【太守領辺境/廃神殿の中/内郭】
君、撃つ人。
俺、詰める人。
何故かというと屋内銃撃戦はむずかしいからだ。
「跳弾で死ぬだけよ」
と元カノに止められた。実際、派遣前訓練でも言われたな~。屋内なら銃剣の方がマシだって。素人(?)の俺はともかく、元カノみたいなプロフェッショナルも、屋内で小銃は避けたいらしい。
特に脆い現代建築じゃなく、石造りレンガ造りの異世界。
この神殿みたいに大理石っぽい場所はなおさら。
かくして元カノは常に銃一丁ガバメント。
俺はガバメント三丁と両腕に2つ手提げ袋。背中には弾倉が詰まったリュック。
元カノが撃ち終わると、俺が新しいガバメントを渡す。
渡されたガバメントから空の弾倉を手提げ袋に落とし、フル装填の弾倉をさして、初弾を込めて、元カノに渡す。
流れ作業。
まあ本来は二人組みの交互前進、出来れば二人二組で挑む作戦だしね。
相手が犯罪者ごときで、元カノが前後左右上下に目が届くワンマンアーミーだから出来ること。
俺は後方支援ってより、補給係り。
右腕には空弾倉回収用、左腕には交換用弾倉が詰まった手提げ袋。
元カノ連射時はガバメントのジャグリング状態。最大28連射。こうなるとトンプソン(同じ45APCを使うサブマシンガン)が欲しくなる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「弾の無駄」
ならない?
【太守領辺境/廃神殿前の草原】
「こらこら」
あたしは思わず見た。青龍の魔法薬で痛みも緊張感も無くした女達。彼女たちから話を聞いていたマメシバ卿が誰かに話しかけている。ここではない誰かと話すのは、青龍の日常だけど。
話を中断して、外した面貌を覗き込んで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神殿の裏手が映ってる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水鏡の魔法が仕込んであるのね。
あたしたちを守りながら、離れたドワーフの指揮を執り、手伝う妹たちに気を使い、凌辱された村娘の手当てをする。
・・・・・・・・どんなに優秀なのかしら?あるいは、貧乏くじ???
ドワーフ達も半透明な面貌を与えられていた。なら騎士たちのそれも同じ。青龍は皆で見聞きするものを共有できるわけか。
「すたんなっくるを使いなさい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神殿の裏手から逃げ出した野盗を捕まえるドワーフ。
青龍から与えられた雷の魔法を使わずに、脚を蹴り潰した、のね。
「罰として二人分穴掘り!!喜ばないの!!!」
青龍は野盗をなるべく生け捕りにする、事にしたみたい。最初は殺してたのに。
「イチイにタイイが腹立ち混じりに殺りすぎちゃってますからね」
油断。うっかり表情にでてた、あたしに説明するマメシバ卿。
「油圧ショベルを持ってくるのは大変なんですから」
??????????
【太守領辺境/廃神殿の中/内郭奥】
俺と元カノ。そばを進む二人以外は敵、と味方以外。同士撃ちの心配がないのは、気楽だな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、無理してます。
攻撃して来る奴は野盗だ!
武器を持った奴は野盗だ!!
怪我をしていない奴は野盗だ!!!
剣、槍、鉈、斧、ここにはないが、弓。
中世の武器はみな、大きな動作が必要だ。振り上げる、突き出す、なぐ、持ち上げて、弦を引く。銃のように身を隠したままでは戦えない。
弓ならまだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と思うかもしれないが、身を隠して狙いを定めるなんぞ不可能だ。
いや、射界を局限し隠し部屋的な場所をしつらえたら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありえねー。
元々が、弓矢なんか大量装備一斉発射の、面制圧兵器だしね。
ボウガンも、現代社会なら趣味で造れる。だが、中世ではそもそも工作器具が普及していない。考える必要はなさそうだ。考
えちゃったけどね。
【太守領辺境/廃神殿前の草原/入り口付近、風の通り道】
あたしは気が気じゃない。
青龍の貴族、いつもの。
例によって身を晒して、野盗とそれ以外を見分けているみたい。
耳を澄ませば聴こえる野盗の吶喊。
『あ、きた』
『敵だな』
BAM!BAM!BAM!
『あ、逃げた』
『剣を捨てたな』
BAM!
『おい、後で殺るんだろ』
『つい』
BAM!
『後ろから狙うとは感心だ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめてくれないかしら。
イライラしながら、見張りの役目を果たす。
「やっぱりか~野盗になっちゃたんだ~」
マメシバ卿の尋問は続いた。
【太守領辺境/廃神殿の中/奥】
野盗は飛び出してくると、俺たちにまっすぐに突っ込んでくる。
殺る気があってよろしい。
元カノはガバメントを両手で構えて、腕を伸ばし、体の力を半分いれた。
BAM!
「帝国兵なら身を隠すわよ」
胸を撃たれ血を吐きながら痙攣する野盗。
その野盗の部屋から飛び出したのはドレスをまとった女二人。
逃げるに任せる。
「帝国正規兵士なら物陰から隙を狙うわ」
発射の衝撃を全身で流す元カノ。実際、暴徒狩りの最中にあったらしい。混乱して襲いかかってくる暴徒を盾と隠れ蓑にする帝国の密偵。
接近して毒刃のナイフで一突き!
――――――――――――――――――――――――――――――プロテクターで防がれ、そのまま射殺。
「一番、危ないのが黒い瞳に反応するやつ」
帝国兵にとって国連軍、地球人のアイコンは野戦服に銃声。
ほとんどの帝国兵は日本人に出会った事がない。
俺たち地球人に出会えば生きて帰れない。
だが、帝国兵は訓練に従う。教えられた対処方法通りに動こうとする。うまくいくとは限らない。だが、納得も理解もなく、命じられたままに動ける優秀な兵士。
その集団が帝国軍だ。
今も地球人に出くわした場合の対処方法を、考え続けているのだろう。
そして訓練にフィードバックし続ける。
国連軍の情報を伝達したのは僅かな生き残り、ってより、最期まで戦場に残った魔法使いたち。
死を覚悟した騎士兵士たちが国連軍に挑む。形を変えて次々と。それを見て、最期まで帝国軍魔法使いが後方に伝える。
最期の独りになって、国連軍に射殺されるまで攻撃魔法をバラまいて、自分の最期を中継する。
結果、彼らの最期を黙々と収集分析した帝国軍は着々と対抗策を積み上げている。
――――――――――――――――――――――――――――――すごいけど、やだなぁ。
帝国正規軍は銃声に耳を澄まし、空を注視して、緑の野戦服を見れば伏せ、物陰から迂回し、最精鋭熟練兵士は黒髪黒瞳を恐れる。
――――――――――僅かに2ヶ月。
出会ってすぐにサヨウナラ。
国連軍は帝国兵に出会ったら、皆殺しにする。
いずれ必ず訪れる、彼らが俺たちを凌駕する日。
その日を遅らせる為に。
そう努めてなお、刻一刻と迫り来る音が聴こえてくるのだが。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしタイムスリップしてモンゴル帝国と戦ったら、こんな感じかも、な。
元カノと俺は、部屋をひとつひとつ改め始めた。
【太守領辺境/廃神殿前の草原/入り口付近、風の通り道】
あたしは耳を塞ぎたくなった。
青龍の貴族、その冷ややかな声。
『なにをしている』
すすり泣く子供が震え息をのむ。慈悲を請う男女の声。
『お楽しみの最中ごめんね~』
轟音。
さっきまでとは違い、絶叫と苦鳴が絞り出される。
舌打ちと打撃音。
・・・・・・・・静かになった。
子供を引きずり出す音。青龍の貴族、ぶっきらぼうな声。
『あっちから、出ろ。エルフがいる』
青龍の女将軍の、初めて聴く、優しい声。
『ゆっくり、行きなさい』
小さな足音。
【太守領辺境/廃神殿の中/中央、野盗の獲物集積所】
BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!
上手に衝撃を逃がす柔らかな元カノの挙動。ガバメントの反動はかなり強い。ハンドキヤノンなんて愛称は伊達じゃない。
「痛みはひどいか」
元カノは笑う。
ニンマリ、としか表現出来ない笑い方。
「揉んでくれる?」
「ざっけんな」
別にいいが、最初から応じるとつけあがる。
「おっ○いを」
イヤだとは言いたくないが、あえて言う。
だが断る!!!!!!!!!!
「つれなーい」
子供が見てないからって調子にのるな!!!!!!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気分は治ったがな。




