ホビットという兵器。
【登場人物/一人称】
『あたし』
地球側呼称《エルフっ子/エルフっ娘》
現地側呼称《ねえ様》
256歳/女性
:異世界人。エルフ。『あの娘』の保護者。シスターズの姉貴分。ロングストレートなシルバーブロンドに緑の瞳、白い肌。長身(数値不明)。革を主体とした騎士服にブーツに剣が常備。現代日本のファッションを試すことが多い、が、自爆する。でも一人を魅せるために挑戦は続いている。
自白剤は事実を明らかに出来る訳じゃありません。
――――――――――嘘を吐かせないだけです。
嘘でなければ真実ですか?
――――――――――当人にとっては、ね。
本人が認めているんだからいいじゃないか、とか。
――――――――――それでいいのは本人だけ。
事実を掴めないと、勝てないんですから。
・・・・・・・・・・勝った勝ったと言い張ることだけは出来ますが。
見た。
聞いた。
知ってる。
・・・・・・・・・・なんて曖昧なこと。
観せたり聴かせたり知らせるなんてことは、誰にだって出来ますから。
自白剤に出来るのは、当人が何を認識しているか、それだけを知ること。
――――――――――やっとスタートに立てるだけ。
既に確かめた事実確認以上の尋問なんて、自白を捏造しか出来ませんよ。
・・・・・・・・・・スタート地点を自主的に創るとか。
思考力が無い無能しかやりませんね。
有罪率99%の自称司法機関とか。
それで安全を確信しちゃえる家畜とか。
それと同じ例をあげましょうか?
――――――――――ソビエト連邦、スターリニズム期。
かの大粛清期間中くらい、安全な国♪︎
先進国一般の数字を差し引けば冤罪率が出ます。
まあ冤罪による犯罪抑止効果はありますけど。
「犯人は捕まった」
ことにしておけば、事実より抑止効果が得られます。
職業的犯罪者でなければ自首のつもりで出頭しそう。
まあ捜査能力の無さを知っていれば自首扱いですが。
自首、であったとしても、出頭扱いされて御仕舞い。
それでも捕まるよりは良かった、と思える訳ですね。
そもそも捕まえるような能力が無い相手とも知らず。
「お上の、お慈悲」
ん?
自首は犯罪発覚/犯人特定前。
出頭は犯罪発覚/犯人特定後。
ぜ~んぶ、捜査機関の胸先三寸
・・・・・・・・・・自分らの正しさを誇示したいんですから、どちらになるか当たり前。
まあどうせ捜査能力が無いから、自白させない限り何も出来やしないんですけどね。
それが当たり前だと信じ込んでいるから、昭和の名刑事なんか冤罪確定率五割です。
一般的先進国なら告発された上で、そいつが関わった全ての事件がやり直しですが。
もちろん、非先進国では、そうなりませんでした。
素人犯罪者の献身的協力で保たれる社会秩序なんて、職業犯罪者の定着やら幾多の冤罪を差し引いても価値がありますよ?
なにもしなくても手に入りますもの。
・・・・・・・・・・戦争では、そうはいかないんですけどね。
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
怪しい彼女は高みの見物。
まあ、黒旗団のドワーフより、背は高い。
ドワーフの後ろに続く、エルフや青龍と同じ位。
エルフはドワーフに続いているつもりはあるまいが。
むしろそれと気が付いたらドワーフたちと徒競走が始まりかねない。
・・・・・・・・・・いやいや、高さ高さ高み。
路上に伏せている市井の民は言うまでもなく。
だが僅差の高みに居る者たちも、また少なくはない。
怪しい彼女のエスコート役の両替商人も立ったまま。
其処彼処の富裕層や、その御付きもそのまま。
もちろん命以外を由り多く持てる階層の方が、身の安全には敏感なのだが。
一方は反射的に伏せて固まる。
一方は判断してから、そのまま。
それは情報量の差なのだろう。
何が危険で何が安全か。
事例を聞くからアタリが付く。
判っているとは、そういうこてと。
富裕層の御付きもそれ。
側に付くから、耳にも挟む。
決して解っている訳ではない。
だから怪しい彼女は、ホビットに笑顔を向けた。
人の子供にしか観えないホビット。
歳を経て老衰してなおそう観える。
体格に見合った非力と素早い動き。
しかし成熟する速度は人と変わらない小さな大人。
この辺りはエルフやハーフエルフと同じ。
男性なら20歳前後。
女性なら15歳前後。
多少ならば個人差はあり。
成熟期に成長が留まるエルフやハーフエルフ。
ホビットは10歳前後で成長が留まる。
だいだい二次性徴を迎えると同時に、か。
それなら種族として、余り支障はない。
小人が巨人になれないなんて、嘆く訳もなく。
エルフやハーフエルフが若さの象徴なら。
ホビットは、幼さの象徴と見なされる。
まあ、異世界人類から見て、のことだが。
そしてもちろん、成熟は続く。
経験を積み。
知識を学び。
技術を得る。
しかも肉体に合わせる様に情緒は子供。
体は子供。
心は大人。
一見子供。
ある種の業種に向いた、最高の種族だ。
インテリジェンス。
防諜。
諜報。
人を相手の荒事以外。
いや、技術を学べば不意を打ち易いから、荒事向きか。
何処に居てもおかしくない。
――――――――――下働きに迷子に遊びと理屈は付く。
何処に居ても怪しまれない。
――――――――――人が居るなら子供だって居る
誰からも警戒されない。
――――――――――弱いことこそ優れた特技。
まったく。
小さい。
貧弱。
侮られる。
怪しい彼女には、望んで得られぬ、最高の兵器。
(女ごときと扱って貰えないのは、何故?)
・・・・・・・・・・普段の態度が実力相応だからです。
有能ならば承認欲求が生じない。
なぜ生じるかは触れないであげて。
そっとしたまま、お医者さんへGO!
だから目敏く見出だした。
軽んじられ。
無視されて。
当てにされない。
そんなホビットが内心に隠しているニヤニヤ面。
・・・・・・・・・・偏見が過ぎませんかね。
皆が気づく前に通りに駆け込んだ。
駆け込んだのに駆け去りはしない。
周りを観まわし道を確かめる様子。
なのに視線が必ず人の顔を通った。
お使いの小僧なら見知った道を行くだろう。
道を確かめたいならランドマークは建物だ。
怪しい彼女と眼が合ったが逸らさなかった。
普通の人間は他人と眼が合うのを嫌うもの。
むしろ、観ていた、観たかったのか?
もちろん怪しい彼女の碧眼は美しい。
だが、それに惹かれるのは男だから。
子供が美しい女を観たがる訳がない。
だから人間ではない、と視てとれた。
――――――――――ましてや人間をや。
美人は、こういうところが得。
美女でなければ気付けたかどうか。
美しさへの訓練は無理がある。
種族の壁、と言うやつ。
人間が異常に執着するエルフの美しさ。
エルフ同士では、平凡な容姿だったりする。
エルフレベルで非凡な者が人に執着したり。
その差が異種族からは、観えやしない。
世界一美しいエルフ。
美しいエルフに産まれただけのエルフ。
他種族からはハーフエルフとの見分けすら怪しい。
美しさは機能美なので、同系統の動物には通じる。
だが生理的な高機能安定が美しいエルフとなれば。
ある青龍への異常な執着が自我となる残念エルフ。
彼女にとっては自称唯一のアドバンテージが無力。
誤差の範囲か個性の違い。
・・・・・・・・・・何処かの王城にいるエルフっ娘は、自分と他のエルフ女を区別しかされていないんじゃないかと、日々ウジウジ悶々と悩んでおり、エルフ愛好家にしか判らないランキングをなんとか伝えて貰えないかと言い出せない。
エルフ愛好家を身内に持つ怪しい彼女なら、その夢を叶えてあげられるのだろうが。
ある意味、ホビットに気が付けたのも、異種族への目利きゆえ。
だからホビットが下げている黒いアクセサリーにも気が付いた。
特異な黒は光の反射がまったく無いということ。
吸い込んだ光を何処に送っているのやら、だ。
それはまるで、青龍が狙いを付ける刻のように。
空から視てる。
――――――――――偵察気球が。
遠くから視てる。
――――――――――57mm砲の照準が。
下から覗いている。
――――――――――ホビットが、付けた眼が。
眼を視れば判る。
――――――――――ナニモノなのかなど当たり前に。
青龍は群衆の中から赤い瞳を一目で見出だす。
だから帝国魔法使いは顔を伏せてフードを被る。
街を行く人々が、しばしばそうしている様に。
だから足元をホビットが駆け抜ける。
黒旗団、青龍。
現れる前。
現れた後。
皆の瞳がどう変わるのか。
変わらない者がいるのか。
それを記録しているのだ。
青龍は過去の事物を再現できるというが
――――――――――そんなことをせずとも、今、観える。
不意に。
必ず。
事前に。
知られずに瞳を覗き込まれる訳だ。
それと気付かぬ間に。
なるほど、なるほど。
港街から耳や目が消えていく訳だ。
黒旗団の進路上だけではあるまい。
ホビットだけでなく。
怪しい彼女の様に価値がなければ配慮されはしない。
創り換えられたか。
破壊されたか。
どうでもいいのか。
何も知らないのだから、何かを知られることはない。
それなら、それだけ。
長い手足を充てにすることはない。
必要なものは目の前に在る。
目の前だけで必要を満たす。
戦場の常識は血肉に等しい。
消された者たちは、役に立った。
あるいは聞いて見るよりも、だ。
どのように、が判ったのだから。
偵察や斥候は、帰って来ないことも、立派な結果。
皆が見付かる
――――――――――敵の索敵能力の把握。
皆が未帰還。
――――――――――敵の作戦能力の把握。
だからしばしば、見付けた偵察や斥候は、見逃される。
そのほうが、相手に与える情報が少なく済むからだ。
青龍が、それを思い付けぬ訳でも、あるまいが。
利害得失ではないか。
損得なんぞは、怪しい彼女の勘定。
青龍らしい、とは思う。
温存したまま聴かせて観せて、とはしない。
圧倒的な力があればこそ。
敵を操る、駆け引きの必要性を感じ無い、という訳だ。
ならば、なぜ潰すのか。
――――――――――青龍、邦を支配する青龍の貴族、その嗜好。
それが目障り耳障り。
――――――――――だろう、と配下の青龍や他の者達が考えた。
気が付いていないかもしれないが。
気が付く前に始末し気付かせない。
―――――――貴族には、よくあること―――――――




