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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十九章「帰郷作戦」

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To die, to sleep/死と夜からは逃れられない。

【用語】


『昼夜』

:生きる時間と死ぬ時間。電気を使わなければ判ります。現代以外を舞台(フィクション)にした、あらゆるフィクション(舞台)がコスプレ・パーティーに観えてしまいますが。蝋燭百万本なんか役に立たない。城一つ燃やしても、揺れる焔で何が観えるものか。蛍の光に窓の雪は宵闇を知らぬからこそ生まれた妄想。電気照明を暗めに満たした空間でなら、ランプも行灯も役にたつ。なお蛍の光の(Auld Lang )原曲(Syne)には当然、こんな珍妙な歌詞はない。当然、歌詞が付けられた当時は電気照明が普及していた時代。


北邦の春。


日の出は午前四時過ぎ。

日の入りは午後七時前。


後二時間。

前二時間。

明け方と夕暮れ。


薄暗い間に出来るのは、夜の準備だけ。

――――――――――ロスタイム。


活動出来るのは午前六時から午後五時まで。

もちろん、10時間は使えない。


やるべきことの準備時間。

やり漏らしが無いか確認時間。

・・・・・・・・・・各、1時間は必要だ。


電気照明が無い世界。

蝋燭?

行灯?

松明?

薄暗く揺れる仄かで、何が出来る。


読めない。

書けない。

操れない。

誰が誰だか当てずっぽう。


ガス灯が普及してなお、夜は何も

――――――――――何一つ出来ない。


しないのではない。

出来ないのだ。


お疑いの向きは全ての照明を使わず過ごして観ればいい。

――――――――――何も視えやしないが。


晩餐会?

晩とは夜じゃない。

遅い時間のこと。

午後いちではない、と考えればいい。


夜会?

近代以後に成り立った。

電気照明が使えたからだ。


夜食?

闇の中で料理など出来ない。

昼間用意して置いてギリギリ。

手元口元も見えず、どうしろと。


夕食は皆、避ける。

非常事態なら仕方ないが。


夕方に何か始めたら、夜の前に終わらないかもしれない。

朝まで維持する備えが出来ねば、台無しに為りかねない。

それはまだマシな方で夜中に対処が生じるかもしれない。


闇の中で動けば死ぬ。


死なない範囲では何も出来ない。

毎晩命を賭けたくはないだろう。

日が暮れた後、夜は死んでいる。


夜、昼間の疲れを癒して酒盛り?

夜、仕事から解放されデート?

夜、やり残した仕事を片付ける?

夜、夜盗を警戒して寝ずの番?


――――――――――あり得ない――――――――――


夜活動出来るのは暗視装置付き特殊部隊並みのレアケース。

そんなものに備えるなら金や蔵の構造を固めて置くへきだ。

ましてや、現代先進国のように朝起きられず夜更かしとか。


―――――――――ファンタスティック―――――――――


朝起きられなければ死んでいる。

夜寝られなければ死んでいる。


中世の人々にとって昼間のみが生なのだから。




【異世界大陸北東部/帝邦辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】


五月の陽光が街を充たす。

既に昼過ぎ。

作戦可能時間は後4時間。


思わぬ時間を費やした、と言うべきか。


怪しい彼女が船から降りるまで。

港で不審船扱いされて陽が昇る。


むしろ早かったのか?


怪しい彼女が舟から上陸した後。

拉致されて速やかに宿舎割当て。


1日かけずに済んだ。


昼前に街へ向かうことが出来た。

両替に案内人と、準備万端とか。


もう1日かかるところ。


そこまでは良かったのだけれど。

河で溺れて掬われ介抱される刻。


すっかり時間を取られた。


これから服屋に征くというのに!

まだ湯浴みしていないというのに!

河の水は湯で流した、とはいえども!


・・・・・・・・・・温泉が豊富な領地とは聴いていた。

河の近くに源泉があり、いつでも使えるなんて。


いつも湯浴みに備えさせていた。

怪しい彼女の氏族と暮らした日常。


正確には湯が常備されていた、だけれど。

それを湯浴みに多様していた怪しい彼女。


莫大な燃料を費やし。

常に使用人を割当て。

大量の水を用意して。


そんな必要も無く誰でも、お湯が使える。

それな此処は、怪しい彼女にも住み易い。


此処、太守領では、()()()()()()、と言い回す。


他の邦では、有り得ない。

北邦に置いては尚のこと。

温かさは暖かさより贅沢。


暖かければ、生きられる。

温かければ良く生きられる。


暖かな邦で温かい温泉に浸かって暮らすのが良い。

でも寒い北邦だからこそ温かさが映えるとも思う。


怪しい彼女は一層、確信を深めた。

・・・・・・・・・・それはそれ。


北邦の致命的なところ。

日が短いということ。

昼間と人生はイコール。

まさに致命的だろう。


怪しい彼女は南から来た。

いや、何処から来ても同じこと。

太守領は、異世界惑星、可住域の北端。


異世界で一番、昼間が短い地域。

当然、そのことは知っている。

帝国領なら年単位の記録が公開。


旅人の様に土地の者に確かめなくて良い。

だからといって確かめなかった訳がない。

旅人扱いされる為、とかそれはともかく。


移動時間を含めれば、実働時間は2時間余り。

――――――――――これで服を選べる訳がない!


日の入りからスケジュールを立てねば死ぬ。


五時には就寝準備完了、これ必須。

四時には宿所に戻って準備にかかる。

三時には混雑を見込んで移動開始。


最も手間暇がかかる炊事などを宿所の者に任せてなお、これだ。

市井の者たちだって、その辺りは委託するのが常ではあるが。


近所で専任を決めるのも良いだろう。

近所で仕事と家事を交代するのも良いだろう。

両立なんぞと一人で不効率な自殺行為はしないだろう。


怪しい彼女は、なにもかも専任に一任する。

自分でやるのは自分にしか出来ないこと。

それがとても多いから一任してるとも言う。


権力。

財力。

魔法使い。

昼間の長さは、皇帝陛下ですら、伸ばせない。

――――――――――まあ陛下なら、マジックアイテムで灯りをつけるが。


明るくする魔法は在る。

明るく出来る魔法使いは居る。

明るくし続ける魔力もあるだろう。


だが持続的に魔力を使い続けるのは疲れる。

魔法使いを交代させるより、効率的な方法。

マジックアイテムに魔力を込めさせて使う。


――――――――――それが出来るアイテムは、極少ない。

だから皇帝の様に時間が足りない者には与えられる。

・・・・・・・・・・怪しい彼女は皇帝ではない。


だから青龍の魔法を何としても手に入れたい。

別に怪しい彼女だけの欲望ではないけれど。

青龍が作業で照明を付けると住民が集まる位。


とはいえ、今、昼間は手に入らない。

・・・・・・・・・・話し掛けてきた青龍の貴族にねだったら、なんとかなりそうな感触があったが、なんかやらない方が良い(余計子ども扱いされる)気がした。


ここは普段とおりに進むべき。

――――――――――監視されているなら、なおのこと。


選べないなら、選ぶまい。

時間の全てを投じて、選ばない。

なにもかも費やせば、選ばないで済む。


服屋の前。


怪しい彼女の前。

怪しい彼女の執事が馬車を降りる。

両替商人が続く。

怪しい彼女をエスコートする両替商人。

怪しい彼女の魔女は最後。


誰の配下であれ使用人が先んじて場を確かめる。

街でのホストが遠来のゲストを迎えるのは当然。

ゲストである怪しい彼女は、迎えられてあげる。

魔法使いは貴族扱いなので序列から外れて動く。

この場合は、怪しい彼女を支援する為の最後尾。


徒歩で馬車をエスコートしていた馭者の助手たちは、留まる前に停車位置の周りを囲んで周りを視ている。


元々、港街は荒っぽい。

素性知れずの流れ者も多い。


巧く馴染めず食い詰める者も、少なくはない。

それが富裕層が住む南岸に入り込むことは無い。


今は南岸街区と他地区の出入りが自由化されている。

南岸街区が物資集積地で物流の円滑化を優先したからだ。

市の衛兵たちは、集積物資の警備にまわされている。


当然、市街の警備は手薄になった。

それをカバーするのが氏族の私兵。


街頭ごとに近在の家同士が共同警邏。


富裕層は移動の際に付き人を増やした。

身を守る為ではなく、威圧するためだ。


名望家が武装した家人と共に街を行く。

何かあればその名前と武力で抑え込む。


だから両替商人の付き人たちも、それ。


おもに主を守っているのではない。

通りの警邏と服屋、店舗街の警邏。


取り分け北岸から移転したばかりの店は注意。

南岸街区での繋がりが薄く勝手が判らない。

家人や用心棒同士の連携も、すぐには無理だ。


だから客が、これ見よがしにデモンストレーション。


犯罪に限らない。

商い上の揉め事も防げる。

鎮圧仲裁役がいつ現れるか判らない。


もちろん富裕層にとっては、余計なこと。

だが、仕方がない。

揉め事を起こすな。

そう命じられてる。

ご領主様から、だ。

失う物が最も多い富裕層が真っ先に従う。


従わない様に観えれば、巻き添えを恐れた同じ富裕層()()()に殺されるのだし。


そんな事情は知らない、怪しい彼女。

周りを警戒するのは、見慣れた光景。

怪しい彼女は余り街中にいないから。


護られるべきこちら(怪しい彼女)を視ないなんて、なんて行き届いた訓練を受けているのでしょう!


・・・・・・・・・・違う、そうじゃない。

けれど別に支障はない。


執事が馭者にチップを渡す。

――――――――――人数分。


ホスト(両替商人)用意(要員)ゲスト(怪しい彼女)が讃えるのはマナー。

讃えるとは言葉ではない階級。


言葉ならば、より多くの金銭を稼ぐのに使う。

なら金を渡した方が安いのだ。


だからこそ、同じ階級の間では、感謝の言葉が重んじられたりもするのだが。

――――――――――此処に同じ階級の者は、いない。


怪しい彼女は車寄せから服屋に向かう。


服屋の扉は常に開かれている。

馬車で乗り付ける者ばかりではないから。


怪しい彼女が扉を潜ると馬車は走り出した。

邸宅以外の店舗には、駐車場は余り無い。

あっても客用ではなく商品搬入搬出用。


地元で商会を構える両替商人。

服屋の常連とは言い難い。


服は買うのではなく仕立てる。

だが商人として知られている。


だから他の客や、その紹介者が目礼。

一見の客もそれに習う。


そして店主が出てくる刻には、決まっていた。


「10日分、選びなさい」


店主にして仕立て屋の見習いは、深く一礼。


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