いっぱいしゃべるキミが好き♪

『臨床試験』

人体実験の別称。人の精神と肉体に任意の影響を与えようとする施策、とりわけ化学的手法は最終的に人体への投与を行わない限り効果を判断できない。

人体とはまるで違う生物への試験を繰り返し、危険性の確認が済むと、隔離廃棄可能な人間を選別し実験を行う。

これにより生存限界と効用限界を測定し、安全係数を規定する。

一部の犠牲により総体としての利益を図る、社会的動物である人間にしかなしえない発想である

・・・・・・・・・・・・・・・・という誤解がある。

「犠牲を払うことで、成果を得る」

という奴隷の道徳があるが、さにあらず。

犠牲になる者が、利益を受けとる社会の一員でなければならない。

そんな必然性が、どこにあるのだろうか？

すでに国連軍が実践している異世界人に対する様々な薬物投与を、純軍事目的に絞る理由があるだろうか？

《日本経済団体連合会/植民地省設立準備委員会/薬事部会会合議事録より》

【太守領辺境村/集落外周/仮設テント/軍政・黒旗団混成部隊/ゲストハウス（天幕）】

「お・ね・が・い♪」

あたしはマメシバ卿に命じられた。まあ、卿には命じている意識はないだろうけど。

「このお茶を、さりげなく出してほしいんですよ。お客様に。カップの形で飲んでいただきたい人が決まってますから」

給仕の仕事を見下す輩もいるけれど、あたしはこだわらない。

あら？

――――――――――――――――――――いい香り。

緑色の薄い飲み物。

「あ！のんじゃだめですよ？？ごめんなさいごめんなさい」

のみません！！

と言い返しそうになって、機先を制されてしまう。マメシバ卿は相手次第で簡単に頭を下げるのよね。商人たちを叱咤し、ドワーフに号令し、あたしにはお願い。

何が基準なのかしら。

お茶を出す相手は三人。

お茶会の主人は青龍の女将軍。

お茶会の客は村人。

長、壮年の農夫、同じ年頃の農婦。

あたしが入っていくと、村人たちは愛想笑いを浮かべながらガチガチ。

でもまあ、マシね。あたしたちの世界でもいそうな、いかにもな将軍でドワーフたちを叱咤している青龍の女将軍の方が。

青龍の貴族を前にしたら、凍り付いてしまうかもしれない。

あたしは村人たちに気づかれることもなく、それぞれに指定された器を手に取りやすい場所に置いた。

マメシバ卿と一緒に少し離れた場所へ。

「わたしが出したら、飲んでくれませんよね～」

青龍、マメシバ卿にお茶を出されたら、卒倒してしまうかもね。

「言っておきますけれど、危険な量じゃないですからね。わたしが見てますし」

？？

あたしにはあの三人がどうなろうと関係ないけれど。

話好きのマメシバ卿。

少し離れた場所から、魔法を使って三人を見ている。あたしを足止めしながら、雑談？解説？

「村長さん、村長さんを嫌いなオジサン、村長さんが好きなオバサン」

青龍の貴族が村長を立たせたとき、マメシバ卿は村人たちの間を歩き回っていた。水晶玉を持ちながら。

「魔法って、本当に便利♪」

水晶玉が青龍の魔法でつながる先は、港街の黒旗団、そこにいる大陸の魔法使い。彼らが村長に集まった、村人たちの感情を読み取る。

その後さらに選別して、青龍の目的に最善な者を選び出す。同じ世界（村）の、異なる視点から、野盗に占領されていた時の村人たちの動き浮き彫りにする。

―――――――――――野盗に通じる敵を炙り出すために――――――――――

「飲んだ♪」

青龍の水鏡の中、女将軍に勧められるままに、三人の客がお茶を飲み干した。

「ありがとうございました」

あたしの役目は終わりらしい。必要ならお茶を追加する役目だったのかしら。

「あ、なるべく、司令官閣下には言わないでくださいね？」

！

青龍の貴族への、反乱？？？

「大切にしてる貴女に自白剤投与の手伝いをさせたなんて知られたら、すごーく、機嫌が悪くなると思うんですよ」

！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！

・・・・・・・・・・・・・・・・た、た、た、た！！！！！！！！！

「・・・・そ、そういう、いうこと言わないで、くれませんか！！！！」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あたしがそう言えた時には、マメシバ卿はお茶会に戻った後だった。

【太守領辺境村/集落外周/仮設テント/軍政・黒旗団混成部隊指揮所】

俺の任務には関係あるが、職務にはあまり関係がないと思いたいアレコレ。

自白剤には様々な薬剤がある。などという無駄知識を教えてくれるのは、マメシバ三尉だ。まあ、知らなくていいんだけどね？

Ｃ言語なんか知らなくても、電源いれてアイコン操作するだけで必要な機能が動けばいいよね？

自白剤の様々な薬剤は大別して二つの薬効があるそうだ。そんな事を聴かされてる理由は、つまり、専門家は話したがりだから。

少なくともマメシバ三尉は、そうだ。

医者として野戦医療の腕が確かなマメシバ軍医は、自白剤の専門家でもあった。

まあ、あれだよ？楽しそうに知識をひけらかすところは、嫌いじゃない。女、ってより、女の子っぽいマメシバ三尉の場合、ドヤ顔も微笑ましい。

でまあ、自白剤の薬効。

脳の一部、専門的には違うらしいが、俺にあわせるとそんな感じの部位、を刺激する。

敏感にするか、鈍麻させるか。

敏感にさせれば痛みや恐怖に弱くなる。

鈍麻させれば自制や警戒が緩くなる。

前者ならひどく怯えて、隠す偽る余裕もなく何もかも話す。

後者ならえらく気を抜き、気楽気ままに何もかも話す。

特定の薬効を実現する処方箋。

どの物質をどの程度配合しどの程度の時間と間隔で投与すると、どの程度の体重の男女に、どんな効果が表れるか。

個体差を解消し同じ結果を得るためには、体温、発汗、声の抑揚などなどにどの程度注意を払うべきか。反応に対しどのような薬剤を投じるべきか投じないべきか。

見切りをつける基準は何か。

地球上での資料だけではなく、異世界各種族、とりわけ人類の近縁たる異世界人類用は、完全に整っている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・開戦前から整えて、日々進化しているのだから、あたりまえだ。

――――――――――――――――――――――――――――――ナゼカナーフシギダナー！

そう！

変わりダネとしては感覚を失わせる薬。感覚を増幅する薬。これらを組み合わせるとあら不思議！２＋２＝５と確信できるとか何とか

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、女の子との会話じゃねーぞ、これ。

【太守領辺境村/集落外周柵入り口付近/仮設テント/軍政・黒旗団混成部隊指揮所】

「騎士殿！」

あたしは無視出来なかった。目の前で跪かれたからね。しかも、少し離れた場所から、村娘が見ているわ。マメシバ卿が治療した娘、ね。

心配そう？

「お願い致します」

深々と首をたれる青年、というより、体格がいい少年。村の長を、じじいよばわりした子。

騎士、殿、ね。

「自分は父祖代々王家に忠義を誓い・・・・（聞き流し）・・・・・・

・・・・十年前までこの土地の領主を陛下より拝命しておりました・・・・（聞き流し）

・・・・・武勇にうたわれし・・・・（聞き流し）・・・の子にございます。このような無様な姿で拝謁を願いますことを・・・・・（聞き流し）・・・・・・・・・仕官させていただきたく・・・（聞き流し）

・・・・・・・・お口添えいただけますように願いあげます！！！されば我が」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・長い。

あたしは途中で打ち切った。

「伝えてもいい」

聞き流していたけど、大意はわかったから。あたしの返事に

「騎士殿！ありがたい！」

立ち上がった少年の、脚をはらう。

あたしより体格が良い、体は出来ている。それだけ。容易く平衡を崩した。地に付して、両手をつく。反撃どころか、身構えて守ることさえできない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・儀礼としての武術、のようなモノ、か。

「その名で呼ぶな」

あたしに剣を突きつけられて、真っ青になる少年。

「問うな、語るな、考えるな」

人形のように頷いた。

「お赦しください！騎士様！」

少年を助ける為に村娘が必死に平伏した。

「様、も、禁止」

いつ以来、かしらね。こんなのは。

【太守領辺境村/集落外周/仮設テント/軍政・黒旗団混成部隊指揮所】

俺は現状をパソコンに入力していた。

いや、まあ、報告書とか、書類仕事じゃない。考えをまとめるついでに、個人的な記録をこしらえていただけだ。

考えを文章におこすのは、自分の考えを理解する為に有効だよ？

経験が無ければお試しあれ。

で、概況だが。

尋問開始３０分で野盗の概況判明。

ナイフも焼きゴテも、吊し上げ（物理）も水責めも要りませんでした。

自白剤？

なんですか、それ。

いやまあ、時間に余裕があるから、使うけどね。焼きゴテ、じゃなくて自白剤。

決して予算消化の為に備品を消費したい訳じゃない。１００ケース以上余っているが、関係ない。うちのメディックも、軍政部隊配属だけに自白剤処方は慣れてる。だから決して練度維持を狙っているわけでもない。

検証が必要だからだ。

協力的だからこそ、偏りがあるハズだ。尋問役への迎合は、敵情把握に致命的な危険要素。

「人間は恐怖に迎合する」

と完全尋問マニュアル（軍事参謀委員会編纂）にも書いてある。

そもそも、たかだか犯罪者。

目的意識も無く、手当たり次第に暴れていた連中。

仲間をかばう、恐怖に耐える、自分の今後を考える、って発想がない。

初めて見る黒髪黒瞳、神父に至っては肌も。コーカソイド類似人種しかいない異世界（大陸東側）では、俺たちの姿自体が恐怖だ。

例えて言えば、縛り上げられた野盗からみて俺たちに尋問されるのは、グレイ型宇宙人に誘拐されキャトルミューティレーションされた気分？

捕まえた野盗四人。

意識無意識に口裏を合わせぬように、一人一人別々に分ける。

尋問者も野盗も双方ともに、別の証言の影響を受けないよう、同時に尋問開始。

ドワーフたちが尋問役。

俺、神父、佐藤、芝の地球人は背景として時々姿を見せる。

現地住民には訳のわからんミランダ警告、まあ魔法翻訳で意味は伝わったのはエルフっ子確認済み、で「話したくないときは話さなくていい」と言われてなお、しゃべるしゃべる。

だから後で薬剤により感情を潰し、端的に問いただし二重チェック。

薬効前後を比較すれば、必要条件が満たせるだろう。

だが、俺は今のところ、前情報だけで考える。

たぶん修正する必要はないだろう。

野盗の総数は１００に届かず。

まあ、この村を襲った連中（１８人）とほぼ同程度の集団が拠点から四方に派遣されている、ということだ。

一グループ２０人前後なら８０人くらいか。

拠点には略奪品が溜め込まれ、野盗の古参幹部１０人ほどが残っている。

合計９０人程度。

野盗全員のリーダーはいない。古参と新参で経験や腕力、子分の数で幹部、的なポジションが生まれている。

幹部の合議、というか、なあなあの呼吸で、方針が決まるらしい。

ただし、略奪行の方向以外決めた事はない、とか。今のところ最大の決断は、今の拠点を定めたこと。

そして今日まで一日二日程度で行き来出来る範囲の村を襲い終わった、と。野盗たちは今度の略奪行の後、次にどうするか考えるつもりだったと言う。

四方に散った略奪行がまた拠点に帰るのは、明日。

皆、仲間に獲物を食い散らされないように、早く帰る。朝、それぞれの略奪先を出発して昼には集まることになるようだ。

まあ、地勢に暗く装備に乏しい連中が夜間行軍なんてありえないからね。

俺たちなら野盗の拠点まで、この村からＨＭＭＷＶで一時間。偵察ユニットは１０分かからなかった。既に野盗の証言を基に偵察ユニットがその拠点を特定。

間違いない事を捕らえた野盗に映像で確認させている。

まあ、偵察ユニットの映像には、拠点でくつろぐ野盗の姿そのものが映っているけどね。周辺から孤立した建物の周りで、粗雑な武装を投げ出して、怯える女を威嚇して酒盛り

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・典型的だね。

哨戒気球の広範囲解析も、俺たちがいるエリア全体で武装した集団を確認している。確認された野盗拠点から馬車で半日程度の距離に、移動中ないし集落を略奪中の集団が四つ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・間違いないね。

元カノに言わせれば「帝国兵なら偵察ユニットに気がついている」とか。野盗たちはまったく気がついた様子はない。

まあ、目の前にしてなお、銃を理解出来てないしな。

異世界最強の帝国兵士とは、比べるすべもない。

野盗たちは、元々、困窮した農民だったようだ。

村を襲った一団の頭は、帝国の支配が始まってから数年で村を棄てた。税が突然上がり、借金が返せなくなったからだ。

察するに、金を借りる際は豊かな収穫を前提にしていた。だがその後、支配者が帝国に替わる。収穫はすべて帝国に徴収され、借金を返しようが無くなったのだろう。

村から逃げ出して、太守領南側辺境森林に潜んでいたらしい。

野盗たちは概ね、似たり寄ったりの連中だ。

税の代わりに奴隷に売られ逃げ出した者。不作の時に納める税が足りず、竜に喰われた村から逃げ出した者。理由は判らないが村の半数が磔にされ、まあ見せしめを広めるためだろうが、解き放たれ逃げた者

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などなど。

国連のかき集めて整理した資料を見た限り、異世界の大陸を支配している帝国の感覚は遊牧民のそれだ。

草原を駆け抜けながら、生活する。収穫の季節になると農耕民族の村を訪れる。収穫された作物と女を馬車に積む。

男と子供は皆殺し。

肥沃な土地は捨てられない。何年、十何年かすればまた農耕民族が育っているから、またこよう。来年は、再来年は、別な村を収穫するだけ。

・・・・・・・地球上でも何百年と繰り返されたサイクル。

帝国を築き上げた竜の民。騎竜遊牧民は定住化しても、その感覚が抜けない。

「領民を治める」

というより

「領民を収穫する」

という発想。

それでも農耕民族が帝国支配体制に組み込まれ、騎竜遊牧民が定住した。だからこそ持続的収穫を見込んで、手入れもすれば守りもする。

支配下の民は「作物」扱いで済んでいるのだろう。

領民が逃げ出すのは相当に難しい。

労働力が減っても税は減らない。

だから、村は村人を逃がさない。村々の連帯感から、他の村も逃亡者を見かけたら捕まえる。元の村か、帝国官憲かに引き渡される。

でなければ飢え死にか犯罪者。

今は野盗なこいつらは、村を逃げ出して生き延びて、太守領の外の森林地帯に逃げ延びた、その点だけは幸運だった連中。

なのに戻って来るとはね。

逃亡農民は森林地帯で未開人さながらに、狩猟採集で暮らしていたらしい。

時折、帝国の巡察隊がやってくる。痕跡に気づかれたら森狩りで追われる。森の奥に逃げると獰猛な獣に追われる。獣相手に森の中では間違いなく殺られる。

人里を恐れる獣が近づかない、帝国に見つからない、ギリギリの境目で生きていくしかなかった。

常に人里を、帝国の巡察隊を警戒しながら。

そして、ここ二カ月。

いつも巡察隊を警戒していた逃亡農民は気がついた。毎週来ていた巡察隊が来ない、と。

――――――――――――――――――――――――――――――つまり俺たちが攻め込んだから、だな。

太守が俺たちに殺される前から、港の守りを固める為に騎士団が動員されたようだ。国連軍が海から侵攻してきたことから、自然な反応だろう。俺たちが帝国本隊しか追ってないとわかるわけがない。

しかも帝国軍は一気に敗走している。俺たちに備える太守は総力をつぎ込む。当然、辺境巡察は中止されたのだろう。

逃亡農民の何人かが、辺境の村々の様子をみる。帝国兵士が来ないから、村人たちも戸惑い、逃亡農民に手を出さない。

巡察隊が来なければ、引き渡す帝国の伝手を知らないからだ。

その様子を見た逃亡農民達は、二つに別れた。

人里に戻る。

このまま残る。

彼らには指導者がいるわけでもない。

なるべく人里に近づかないようにしている連中は森に残った。

元々、辺境の村々に盗みに入ったり、行商人を襲っていた連中が人里を目指した。

奴らがおっかなびっくり進む先。

帝国巡察隊が見当たらない。それに戸惑う村々。さらに襲っても奪っても、対抗する動きがない。勢いがつき、立派な野盗の出来上がり。

俺は野盗たちを偲んだ。

ほんの少しタイミングがズレていれば、襲う側と襲われる側は逆だっただろう。苦しいなりに、帝国支配体制で暮らす側だったかもしれない。

本当にツいてない連中だ。

最期が俺たちに出くわすとは。