思い通りにはならないが、考えた通りにはなる。
【用語】
『相互確証破壊』
:核抑止力思想の一つ。「恐怖の均衡」とも言う。互いを絶滅させるだけの核攻撃/報復能力を持つことで平和共存を実現出来るという思想。あくまでも思想なので間違っている。単に核が禁じ手になるだけで通常兵器戦争の抑止力には全くならない。米ソ間の平和がコレで成り立った、という御伽噺があるが理論的に可笑しい。そもそも米ソに限らず先進国同士の戦争が無くなったのは戦争から利益が得られないからであり二度の世界大戦で検証済み。正しく「恐怖の均衡」を成立させるのであれば、互いにではなく第三者から一蓮托生に扱ってもらわないと成立しない。とある誰かが殺されると世界が滅びるならば、どうする?という話。
青龍の貴族を殺す。
それは難しく無いだろう。
実際に殺されかけた、くらいだ。
それは誰もが知っている。
皆が観ていたから。
占領初日。
都市を滅ぼしかけた。
青龍の貴族を狙う暗殺者が潜んでいたのだ。
※第9話〈トリガー〉より。
それは一蹴されたが。
青龍の貴族が爪を振るうなど尋常ではない。
挑まれた刻か女の為。
暗殺だと思わず挑まれたと勘違いしたのか。
返り討ちにした死体を丁寧に扱っていたし。
青龍の貴族の周りがそれで収まる訳がない。
青龍の騎士らの怒り。
よりにも因って青龍を欺こうとした直後に。
幸い、怒らなかった。
殺されかけた青龍だけが気にしてなかった。
誰もが、逆らえない。
当事者としてではなく支配者の決めたこと。
暗殺未遂は無視する。
青龍の貴族を欺こうとしたことだけに対処。
※第10話〈冬の日。春の日。〉より。
無かったことにする。
それはそれでオカシイが、もっとオカシイ。
優先すべきが、違う。
殺されかけたことなど全く気にしていない。
背を晒す。
――――――――――刺せば死ぬと認めて尚。
独り歩き。
――――――――――数には敵わぬと笑いながら。
護れと命ず。
・・・・・・・・・・自分の女たちを、それだけを。
彼らは身を護ることに関心を向けていない。
それは観ているだけで判る。
傍らのエルフがどれほど怒っていることか!
剣の達人であれ本人がアレでは守り甲斐がない。
「自分が殺されても替わりは幾らでも居る」
・・・・・・・・・・だから「殺すことの無意味」に気が付かせたいのだとか。
いつか誰かが殺しに来ると笑いながら
――――――――――冗談ではない。
その結果、青龍の貴族、その女たちの命は護られる。
・・・・・・・・・・それで済むとは思わないが。
だが、それを知ることは、出来まい
――――――――――太守領に誰も居なくなれば。
だから、だ。
我々が必死に青龍の貴族を護る訳。
青龍の施策が皆に有用だからじゃない。
施策は全て青龍が不要な様に出来てる。
青龍無しの邦造りが青龍の貴族が方針。
更なる施策が欲しい、ばかりじゃない。
我々が今日に殺されない為の必要。
一人一人の明日の為なら、誰の命も惜しくはない。
《国際連合統治軍占領政策評価作業部会/被占領下住民意識調査サンプルより》
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
服を売るなら服屋。
そう呼んでも良いのだろう。
服も売るが正確か。
ある程度のコーディネートならば、現代地球先進国の服屋でもやっている。
異世界では、より本格的で持続的なコーディネートを服屋がやっているが。
服飾が使い捨ての消耗品ではなく、循環する社会資本になっているせいだ。
買って。
売って。
誰の物だか判らない。
着て。
着せて。
誰のセンスでもない。
産業化する前、しない世界の売り物。
それはドレスではなくファッション。
ハードウェアではなくソフトウェア。
余剰生産力が無く売るだけの生産物が無いとも言うが。
産業で在るなら物を売る必要がある。
物であるなら売り続ける必要がある。
それは売り棄て、ってことに、なる。
棄てないと造れないなら何故に造り続けるって話だが。
フランス人なら食事と服とアクセサリーが産業化するなど赦せんとか言ってるけど。
フランス人がそれ言うのかと反駁する向きもあるが、そもそもプレタポルテは服じゃない。
フランス人とは文化であるを求めて死ぬまで止まない動物に与えるペット服なので。
フランス人の前で着ると相手が嗤いを堪えるのに死ぬほど苦しむので視覚兵器になります。
フランス人の真似をしているかどうか判別することが出来る辺り宗門改めの踏み絵。
思えば輸出品とは自前で使わない物ばかりだよね。
兵器とか。
穀物とか。
ファッションとか。
そんな未来の可能性を知らずに済んでいる異世界。
地球先進国の習俗を聴いても首を傾げるくらいに。
国際連合異文化不干渉原則に万歳三唱は不要です。
お陰で彼らの名誉が保たれているのだから。
いつか来た道を避ける道を習うとなれば恥。
破局を避けるよう努力したら可能性を認めること。
努力しなければそうなってたんだね、と言われよう。
だからと言って恥を恐れて恥に成る、のは最悪だ。
とはいえ異世界で服飾が産業化する可能性は、無い。
そもそも例外だらけの現代地球先進国でも例外なんだから。
善かれ悪しかれ放置したらジャック・ポットを当てました。
・・・・・・・・・・ナイナイ。
確率論こそ何の根拠にもならないが再現性は無い。
ましてや悪い見本も異世界転移。
好いとこ獲りしているだけで中成功くらいは固い。
駄目な見本ばかりを取捨選択して見倣った明治もありますが。
それこそ例外、バッド・ビート。
教養層を根絶やしにしたポル・ポトか文化大革命か明治維新。
そんな悪い例外にしか起きない。
・・・・・・・・・・結構、起きてる?
地球人類史全体的には、例外だからセーフ。
弾みや惰性を恐れ心に傷を負うのなら無視が賢明。
そんな地球先進国人類の優しさに包まれている異世界。
怪しい彼女が聴いたら、凄く納得しそうではある。
青龍は命より価値観を重んじるのだな、と。
そんな怪しい彼女が手に入れた観光、なのか判らぬ、港街ガイド。
目的地が決まれば、其処に至るナビゲーションが必要になる。
商人としての都合のまま顧客サービスと公共の福祉を謀れる相手。
常識的で他人より目端の利く両替商人。
無理からぬことだろう。
余計なことを観せぬよう。
何を観せぬか覚らせない。
無理の無い自然な選択。
其処に編み込んだ戦争行動。
怪しい彼女に、そんなことが可能か。
怪しい彼女が選んだ当たり前。
怪しい彼女が向かう先。
歩いて着く先、目指す先
――――――――――謀って着く先、目指す的。
両替の次は服の調達。
なんて自然な旅の手順。
それが港街の視察になる。
――――――――――両替商人も覚れまい。
どうかな♪︎
どうかな♪︎♪︎
・・・・・・・・・・怪しい彼女の期待。
結果として街を巡る道。
服屋へ行くなら河を渡らなければならない。
南岸の港湾付近が市場。
怪しい彼女が居る場所。
奴隷市場の門前は港街の北岸にあるからだ。
そこがスタート地点だ。
昔は良かった、一ヶ月半ほど前のこと。
元々、北岸に服屋が無かった訳ではない。
むしろ服市場の中心こそ北岸だったくらい。
南岸は従来、特権階級の邸宅街。
多いのは勢威を示す館と広い道。
港街を支配する施設は港に在る。
大商いは港で決まり、南岸で御披露目園遊会。
商人たちが集まる参事会。
盗賊ギルドの本部となる船。
船主たちが暮らす豪華船。
衛兵や港湾警備の傭兵詰所。
必然、北岸には小商いが集まることになった。
人足や職人、いわゆる市民の日用品。
小金を持った者の数なら、圧倒的。
合計すれば莫大な資金が小分け済。
資本が少なくても商売がし易い、いや此所でしか出来ないしようが無い。
それを目当てに開かれ続ける市場。
市場を目指す品物を集める問屋街。
そのおこぼれを求めるスラム街まで。
肝心の服市場も、そこに在った。
理由は簡単だろう。
小商人が集まるからだ。
南岸の特権階級は服を買わない。
当座か当面の服を欲する小商人。
特権階級に魅せる為の服飾一式。
眼に付き易い南岸で買いたくはない。
特権階級に仕える使用人や奴隷たち。
その眼は市井に届くモノ。
それは主の耳に届くモノ。
服でアピールする前に、値札を観られては叶わない。
だから小商人は南岸で服を買う。
特に服だけは北岸を絶対避ける。
服屋の服市場も、北岸に決まり。
そして様々な品が集まる一角を為す。
服を供給する側も集まり易いもの。
互いの在庫を組み合わせ易いから。
此処までは何処の街でも起こりがち。
港街特有の事情としては、上流階級が北岸に住んでいたこと。
特権階級を成すのは?
交易商人。
両替商人。
小麦商人。
つまりは?
数少ない穀倉地帯。
更に少ない海路上。
嵩張る貴重品を大量に低コストで出荷出来る、奇跡的配置。
それが莫大な富を太守領にもたらす。
それは全てが港街の上下左右を通る。
そして生まれた、数多くの上流階級。
異世界大陸の一般例。
総人口の一割未満が商人。
その半分が富裕層。
富裕層の下層を上流階級と呼ぶ。
太守領では違う。
莫大な富を独占仕切れない特権階級。
富は溢れて職人たちへ流れた。
交易に必須な船から始まり。
金の代わりとなる美術品。
邸宅や庭園自体をすら。
工房主。
工房長。
職人頭。
造園家。
大工に家具。
特別な職人たち。
更に画家彫刻家その他。
彼らが服屋へ服を供給する様になる。
一般人が実用性から服を求めないように。
商人もコミュニケーション・ツールとしてだけ服を求める。
そこまで特権階級も小商人も同じことだ。
だが、商人以外の富裕層のなぜ。
職人たちは特に、必要が無い。
服で行うコミュニケーション。
なのに、服を買うことが多い。
彼らは不必要へと金を費やした。
それは遊び心だけで仕立てられた服。
そこに加わる仕立屋が趣味で仕立てた服。
それ以前の明確な意図がある道具とは違う。
それ以後にあるかもしれない製品とは違う。
そこに在り得る作品と呼べるだろう、服。
それこそ異世界最初の不合理たる服。
或いは中世、この時期の此処にだけ、ファッションが成立したのかもしれないが。
それが壊されるのに半日かかった。
――――――――――長いのやら短いのやら。




