判らぬから問うなら問うても解らない。
【用語】
『ローマ街道』
:ローマ帝国ある限りローマ街道あり。ローマ街道ある限りローマ帝国あり。帝政樹立と共に建設された巨大インフラストラクチャー。帝国内を縦横無尽に廻る物と人、なにより情報のソフトウェア/ハードウェア。「奴らはローマ帝国の支配を受けられなかった野蛮人」とローマ文明こそが人間の条件となり、属州民こそが「我々はローマに征服された文明人」と敗北に胸を張るようになった仕掛。ローマ街道の範囲でこそ我こそローマと自覚出来た。
故に中世暗黒時代モンゴル帝国人が発見した野蛮人たちは、ローマ街道(の残骸)沿いを盗賊野盜山賊の巣窟にしており残骸ですら欧州最高の道路を通行不能にしていたそうな。そら必死にラテン語を暗記しても文明の廃墟に巣くうネズミ扱いされますわな。
治癒魔法の遠隔行使は順調です。
原則的には治癒魔法使いと患者を通信回線で結ぶだけ。
異世界大陸内部間での接続はもちろん。
異世界大陸北東部作戦拠点から日本列島の指定施設へ。
既存の治癒魔法は魔法使い独自に対応可能。
最新医学知識を魔法で行使させるのは、サポート次第。
これは異世界種族とのコミュニケーション能力が必要です。
現代先進国のローカル・ルールを宇宙法則だと思い込む世間知らず。
つまりは手持ち技術者や学者の大半が使い物になりません。
少なからず使い物にならない理由を飲み込めない連中もいるくらい。
先ず文化人類学の講義から進めていますが。
――――――――――国際協力事業と同じ悩みです。
まったく、議員の仰る通り。
・・・・・・・・・・どちらがどちらを同化するやら。
《国際連合安全保障理事会/同化政策検証委員会記録より抜粋》
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
金、銀、銅。
銅だって金属。
金属は重い。
貴金属は更に重い。
異世界の金銀胴やら鉄などの鉱物は、不思議なことに日本列島上の物と変わらない様だった
――――――――――千年ばかり研究したら違いが判るかもしれない。
その辺りも日本列島が列島内で自給自足していく理由。
元素崩壊の違いで反物質になりました、はとても困る。
何が起きるか判らない。
それが無いと言う理由が無いのが魔法の存在。
地球の法則が全て通じる。
異世界の法則も同じこと。
実際、日本列島内での魔法行使が成功してる。
意外に知られていないが、あらゆる物質は崩壊の途中。
比較的安定した限られた時期に素材扱いしているだけ。
反物質など想定可能範囲。
その件は千年以内に結論の予定、その前にクリスマスまでに終わらせる地球人類の予定。
それに関わるマメ知識。
帝国圏内では通貨の信用度が高かった。
帝国が半壊した後も評価に変化なし。
貴金属含有率は変わらないからだ。
しかも帝国通貨は耐久性を維持できるギリギリまで貴金属の比率を上げている。
流石に純金純銀は、硬度や対磨耗性が低すぎて流通する通貨では実用的でない。
だが記念貨幣ではなく普段使いの通貨が品位こそ帝国である、魔法使いが主張。
不換通貨発行で通貨供給量を制御した江戸時代まで達していないのは中世準拠。
莫大な鉱産資源を生産するドワーフか居るからこそ出来る本位貨幣の管理成功。
まあ軍票という不換紙幣により通貨操作をし、戦時経済統制で市場の失敗を潰せた面もある。
無ければ、僅か70年余りでの世界征服がモンゴル帝国並みの分裂崩壊を生んだのだろうが。
世界征服成功後の帝国は唯一国家の信用を土台に兌換を不換に両替する必要があっただろう。
結局モンゴル帝国は専売化した塩など資源兌換通貨しか考え付かなかった。
だから世界征服しても世界経済を創ることが出来ず、武力統一で終わった。
分断される以前に最初から別々の経済圏のまま最後まで居続けてしまった。
だからハン邦の共同体に戻り、土着化して、帝国では無くなって何も不自由を感じなかった。
ある段階で帝国の規模に合わせた統一通貨を創るならば、ハードウェアではなくソフトウェアに因らねばならなかったのに。
そうすれば自給自足でこと足りた各邦を、世界市場の旨みに沈めることが出来る。
誰もが世界帝国の一部であることを必死になって求めることになっていただろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・世界市場を巡る壮絶な殺し合いになるか。
葵の御紋が入れてあれば石でも瓦でも構わない
――――――――――勘定奉行の言葉。
彼が、そう喝破したのはモンゴル帝国崩壊から三百年後。
異世界帝国は、そうならなかった。
そのタイミングで、ちょうど日本が転移して来る。
そのせいで帝国通貨の信用だけが維持されたまま。
当の帝国が、一瞬で半壊し滅びようかという勢い。
もし帝国が半世紀かけて通貨統制に失敗していれば?
最低、半世紀はかかるのだから、不測の可能性だらけ。
そうなれば異世界は貨幣経済を失って世界交易が消滅。
惑星規模でおきたかもしれない。
・・・・・・・・・・地球は欧州史上の暗黒時代。
予定された経済的カタストロフィを防ぐだけなら。
絶対的な信用通貨を相対的な国家から斬り離す。
それは国家を即死させないと成り立たない。
統治圏の激変で人為的な操作が不可能になった帝国貨幣。
帝国経済の過半を占める大陸沿岸部は帝国統治外。
帝国通貨の大半は大陸沿岸部に蓄えられている。
帝国通貨の最大管理者は管理する気がない侵略者。
だから証券も通貨基準で額面がつけられたまま。
これは青龍が新通貨でも発行しない限り変わるまい。
青龍が率先して帝国通貨を使っているのだが。
――――――――――国家が滅びても残る信用通貨。
故にこそ帝国通貨は物理的に重かった。
・・・・・・・・・・だから保たれて持たれない。
普通に生活するだけでさえ持ち歩きはキツイ。
旅をすることを考えたら、とても持ち歩けない。
街商人なら取引先の商会に預ける。
商会ならば両替商に決裁まで一任。
旅商人なら両替商から証券を買う。
証券のまま取引の支払いに当てる。
現金に換えて小口の取引に当てる。
小口の証券に換えても良いだろう。
手形。
額面の支払保証。
債権。
額面の返済保証。
証書。
額面の交換保証。
それら証券は実質的には不換紙幣に等しい。
それら自体には価値がない。
本位通貨ならば素材それ自体に価値がある。
鋳潰せば相応の価値になる。
貴金属を使って造るからだ。
その含有率を量るのは容易。
毎回量る手間隙は要らない。
発行元を信じる、のならば。
逆もまた言えることになる。
通貨を信じられないなら発行元も同じこと。
つまりは国家や君主や組織や個人、要は体制。
偽金造りは体制に対する代表的な反逆方法。
反逆されたら反逆出来ると気付かれてしまう。
対テロリズム並みに起こされたら、負け。
――――――――――反逆扱い出来なきゃ体制ではない。
通貨発行権は強者の独占物。
権力と通貨は、イコールだ。
体制が在る限り揺るがない。
複数の通貨があるなら体制は終わっている。
・・・・・・・・・・始まってすらいないかもしれない。
兌換通貨が不換紙幣に切り替わると、体制と通貨の同一性は極限に達した。
国家崩壊の前と後には必ず擬制通貨が流通し、経済が表と裏に別たれる。
合衆国のクレジット。
西欧のユーロ。
日本のポイント。
だが、国家以前から通貨だけで、商業は成り立たない。
そも貿易交易商業は体制成立前か崩壊以後も続くもの。
国家それ以前から在る価値の保証が国家ではないだけ。
ちょうど異世界は中世準拠だ。
国家なぞ成立以前の世界。
これから国家が生まれるやら。
世界帝国が国家と言えるか微妙な時代。
モンゴル帝国が同時代の欧州諸族にどう思われたやら。
帝国が原住民の群れと思ったのは確か。
だから、だろう。
国家、らしきものは信用保証の一角、に過ぎない。
商取引では昔も今も、この先も証券が多用される。
仮に通貨を単位としてはいても保証するのは商人。
故に証券保有のリスクは当事者が負担。
証券は誰かが価値との交換を保証する。
保証する商人の信用度とリスクは連動。
書いてある通りに交換できるか。
交換出来るとしたら何時までか。
何時までならば、それは何時か。
交換比率が下がるならどの位か。
もちろん保証商人の商圏では高い信用。
知られていない邦では、信用されない。
なんならプレミアが付くかもしれない。
むしろ紙くずになることこそ有り得る。
両替は証券を売買すること。
通貨だって証券の一種だろう。
某かの価値を誰かが保証する。
証券そのままでは使い難い場合。
一枚の価値が大きすぎて取引に釣り合わないとか。
一般に知られていない保証元で信用されないとか。
一枚の価値が小さすぎ取引先に信用されないとか。
使い易い通貨や貴金属、滞在先で知られた証券と交換する。
逆に両替商人は使い辛い訳あり証券を保有する。
そのためにこそ手数料でリスクヘッジしておく。
手数料は、利益だけではなく保険ともなるもの。
一般に知られていない証券の信用度が生死を分ける。
身代を賭けるというのは、そういうことだ。
紙くずになるリスク。
プレミアが付くメリット。
転売し易いパフォーマンス。
保有してし続けるコスト。
ラッキーにアンラッキー。
それが判れば差額で利益を上げられる。
それが両替の直接的な利益となる。
それにプレミアが付くなら黙っている。
基本的にサービス対価とリスクヘッジで割引。
優良証券なら5~10%引かれるのが相場。
取引先との関係や大両替商なら市況を加味。
先ずは手数料で儲け、プレミアはオマケだ。
なのにこの局面で、一見の怪しい彼女を顧客へと逆指名して、様子の知れない他邦の商人商会の証券を、額面ままの引受。
怪しい彼女が受けた、のか受けられたオファー。
言い換えれば「手数料は要りません」ということ。
両替業の利益を放棄する、と両替商人が言い出した。
怪しい彼女が乗れば手数料分の目減りを防げる。
有料な両替のサービスを、無料で使えるということ。
商品を仕入れ値で売り買いしたら、商いは成り立たない。
怪しい商人は当たり前の態度。
待ち伏せする辺り怪しさを隠す気すらない。
かといって説明してくれたりはしないが。
怪しい両替商人からの怪しい取引の申し出。
怪しい同士ではあるがジャンル違いて判らない。
怪しい彼女は当たり前の態度。
もちろん黙ったまま。
自分が知らないことを他人に質問したりはしない。
知っているなら信用性チェックの為に尋ねるが。
知らないことなら応えが正しいか判らない。
知らないことを問うのは信頼出来る相手にだけ。
どんな話であれ正誤なら判る。
辻褄が合うなら正しい。
辻褄が合わないなら間違い。
解りはしないが判るだけ。
それで済むのは自陣の中に居る刻だけだ。




