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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十九章「帰郷作戦」

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主を白痴にする奴隷/Which is which?

【用語】


『支配』

:する側からされる側に働く強制力。すると大衆は支配されているのかしているのか。奴隷と主はどちらがどちらなのか。家畜は飼われているのか奉仕されているのか。食肉牛は人間に用意させた環境で一番楽に種を存続させているのではないか。

他方の存在を必要としているのであれば、その存在を守らなければならない。ならばどちらがどちらを支配しているとも言えるので主とは主観に過ぎない。


「だから男を台所にいれちゃダメなんです!兵站(衣食住)を握ることで支配下に置く(独り占めにする)んです!え?それだけの価値がないなら男ってカテゴリーじゃないですから」

――――――――――マメシバ・ドクトリンより。


赤龍(帝国)は領民を喰らう。

青龍は住民を殺す。


赤龍(帝国)は喰らうために領民を支配する(家畜を飼う)

弾圧する。

恫喝する。

恐れさせる。

虐殺しても、生かしては置く。


喰らい続ける為には滅ぼす訳にはいかないと互いに解り合ってあえる。



青龍が領民を支配する(獣を躾る)のは邪魔だから。

排除する。

破壊する。

畏れられる。

皆殺しにして、遺さぬ様に。


邪魔にならない限り生きていても構われないと住民たちは期待している。


帝国は領民を支配しているのか?

亡くして成り立たないのに。


青龍は住民を支配していないか?

皆が必死に従って(生き延びて)いるのに。


《異世界の好事家(学者)が執筆中の論文より》




【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】


「両替の御用命に応えます」


台無しである。



奴隷市場から外出した怪しい彼女の一行三人。


三人とも徒歩。

足腰は鍛えられている。

疲れも無視出来る程度。

実務に虚栄は必要ない。


侍る青龍の奴隷たちは、馬車を奨め無かった。


解っているということ。

それを知ら示している。


解っていると判らせる。

怪しい彼女たちの姿勢。


知っているだけの邦へ来たばかりの旅人。

彼や彼女が、その邦で活動する前に必要なこと。


それならば疑われない。

見知らぬ人と話し。

見知らぬ場所に出入り。


相手や周りに訝しがられても怪しまれはしない。


ああそうか、となる。

ならばこそ、となるかも。

となれば、手助けに困らない。


それはナニかと言えば?


宿をとること。

そして両替。


一つは失敗した。

一つは失敗する。

怪しい彼女が失ったアドバンテージ。


中世基準の異世界。


分けても外洋航海が始まる前。

始まらないかもしれないが。

大洋の向こうに陸が見えない。


実際、見える範囲に無かった。

日本列島が転移するまでは。

寄港の先が無ければ補給不可。


水平線が丸いから、大地も海も丸いと知っている。

だからといって彼方を目指そうとは誰も思わない。

手持ちの船では沈まなくとも途中で力尽きるから。


その辺りを無視したコロンブスって凄い。

それが出来たのは大西洋だが。


とはいえ異世界大陸東沿岸が面する大洋。

その広さは太平洋に相当する。


惑星の大きさは観測と数学で計算できる。

帝国も空から目視観測してる。


日本列島転移前、異世界独自の一般常識。

東大洋に到達可能な陸地無し。


航続距離以内に陸地が無いと判っていた。

つまりは利用する価値がない。


魚類など海洋資源は沿岸部に集中してる。

大陸棚以遠は漁業に向かない。


だから誰も死にには行かない。

今は日本列島が現れているが。


だから誰も死にには行かない。

今となっては殺されるのだが。


国際連合海軍(第七艦隊)により海上海中航空封鎖中。

意図は問わず日本列島に接近したら皆殺し。


警告なし。

命令せず。

通知なし。


大洋に出られない理由が変わったたけだが。

それまでとこれからに違いはないだろう。


異世界の船は沿岸航海でこと足りる。

陸地が見える範囲で地形を辿る航海。

故に今も昔も船は昼間のみ航行する。


羅針盤や天測は海面海中潮流に無関係。


篝火程度では暗礁を見分けられない。

慣れた海なら勘で避けられはするが。

そんな危険を犯す理由は誰にもない。


航行距離が増える程に事故率が減れば別だが。


電気照明が無い世界。

昼間以外は動けない。

陸も海でも同じこと。


だから船も舟も、完全に明るくなってから、出港。


少しでも、暗くなる前に寄港。

必ずしも港に入りはしないが。


停泊可能な入江も使われてる。

航海時間は9~15時くらい。


日の出から朝方。

日の入りまで夕方。


その時間は出港と寄港のロスタイム。

万が一の為に余裕を取る時間。


不備が生じればロスタイム中に解消。

不備が無ければ不備に備える。


レギュラータイムには間に合わせる。

ギリギリまで動いたりしない。


夜、停泊するだけなら、まだいい。

主に港ではない入江の話だが。


寄港して貨客の積み降ろしがある場合。


午前中には港に着く予定を組む。

場合によっては着いてから待つ。


積み降ろしが翌日なんてザラだ。

とはいえそうはならなかったが。


怪しい彼女を乗せた、怪しい船。

スクーナーは午前中に寄港した。


港は、がら空き。


だからこそ目立つ。

不審船扱いで包囲。


物理的に寄港し易い。

人為的に寄港し難い。


差し引きゼロで、順当な結果となった訳だ。

そして怪しい彼女にはボーナスも付いた。


怪しすぎで支配者の一党から目を付けられる。

動き回れば一党かどうかもわかる。


今すぐには殺されない宿泊先の確保。

青龍を相手にするなら何処でも同じ。


その為に半日かかる手前を省くことが出来た。

お陰で午後一から街を散策できる。


同乗していた船客は今頃、宿の手配に追われているだろう。


大半、或いは全てが商人だ。

同業者なのかも。


やるべきことは変わらない。

夕方になる前に。


これまでの伝手を確かめて。

今の伝手に整え。


叶わなければ参事会に頼る。

普通は要らない。


取り引きさえ続いていれば。

いれば要らない。


なにもかも青龍が悪いのだ。

続きを繋ぎ直す。


交易再開に備える準備の山。

商いは大変だと。


さて、とりあえずの足場を得るのに、何日くらいかかるやら。

その一歩目に走る彼らを、何故か追い越してしまったのだが。

怪しまれたからこそ手に入るチャンスが如何に多いことかと。


怪しい彼女の感覚は機会と成果がイコールな民族の感性。


彼らは安定を好まない。

不安定をこそ求める。


判ることより解ること。

手綱を握るその感覚。


自らバランスを取っていればこそ安心出来るというもの。


留まって何が得られよう。

敵と獣は追って獲る。

獲物は待つ物に非ず。

変化を辿ればそこに在る。


疾走中の馬上で寝ていられるのは、こうした感覚ゆえに。


――――――――――だから、だ。

怪しい彼女は、してやられた。

・・・・・・・・・・愉しいことに。


相手は馬車。

衆人環視。

殺し難い。


生かして置く価値があるってこと、だけど。

・・・・・・・・・・役に立つこととは別に。


してやってきた輩に好意を抱く。

きっと血が滴る良い肝が採れる。

怪しい彼女を出し抜く、くらい。


いっそ豪奢な輿でも用意させれば良かった。

――――――――――目立たないために。


ありのままは絶対強者。

貧乏人は金持ちを装う。

金持ちは物を持たない。


観せる姿の逆に扱えば、まず間違いない。


強さは弱さを。

博識は無知を。

無力は強さを。


ハッタリとギャンブルは逆に張るのが基本だ。


だから徒歩。

商人らしく。

装いを装う。


誰がどう観ても腹に一物がある平凡な商人だ。


だから驚くべきことではない。

ゆえに不機嫌を観せてもいい。


良く有ることでも面白くない。

怪しい彼女の好みに合わない。


訪ねられるより、訪ねる方が好きなのだが。


訪ねて来たのは両替商。

港街で商う中規模業者。


港街の商いは知らない。

話の内容から判ること。


奴隷市場の迎賓館を訪ねてきたのではない。


奴隷市場の出入り口。

港街側の門前で待機。

待ち伏せしても、なお斬られぬ身元が在る。


御者が一人に馬が一頭。

地球人類史上で言えばガブリオレ。

怪しい彼女の客は一人。


席は二つで幌が付く。

視線を遮り興味を惹かないタイプ。

街中であれば、だが。


従来、特別な顧客しか招かれない奴隷市場。

ましてや壊滅から瓦礫撤去中の港街北街区。

数千人と北街区を消し跳ばした新太守の館。


どちらにせよ同じか。


南街区を走る刻は、興味を惹かない、ありふれた馬車。

北街区に入ってからは瓦礫撤去の人足しか観ていない。


日々爪痕を視ている人々は観ないことにも慣れている。


爪痕を遺した青龍に観られていることにと言うべきか。

ましてや奴隷市場は青龍の拠点に出入りする、関係者。


何処でも。

何時でも。

視ている。

聴いている。


ただ気にとめないだけ。

気に触れば殺されない。

そうでなければ皆殺し。


街区ごと。

街ごと。

邦ごと。


そんな青龍のことなど、誰も言わない聴かれない。

誰に言われずとも。

何かを言おうとした酔漢が発する前に吊るされた。

誰と相談せずとも。

皆が、皆の命を守る為に、皆で殺して吊し上げる。


ならば何故、奴隷市場の迎賓館を訪ねないのか。

それはもちろん青龍以外から隠す為に工夫する。


青龍には隠しようがない。

青龍には感心がないこと。

青龍には領民がその程度。


だから恐れても逃げずに済む。


隠して無駄なら隠さない。

干渉が無いなら同じこと。


だとして、その周りには隠す。


周りに居るのは女か大商人。

彼らは青龍には逆らわない。


逆らわなければ気にされない。


つまり領民同士の奪い合いは自由放任。

だからこそ青龍の拠点以外で待ち伏せ。


そこは確実に怪しい彼女の眼に留まる。

そして青龍以外が見聞き出来ない場所。


もちろん聴けなくとも観えるだろうが。

大勢の目は初対面に相応しい舞台装置。


誰が、は隠せない。

ならば知られて疑われない。


いや、隠さない。

知られるから信憑性が増す。


何を、だけを隠す。

それを換金するのは容易だ。


だからこそ、目の前の商人は、港の桟橋から追って来たのだろう。

怪しい彼女が他の船客を出し抜く為に迎賓館から出てくるだろう。


そう踏んで、それに賭けた。

確かに、そこまでは当たり。

ただし儲けは、怪しい彼女次第。


両替は割引率との差額で稼ぐ。

取り扱うのは債権手形等、証券一般。

通貨が帝国で統一されている。

ゆえに証券同士や証券と現金を交換。


例えば債権の額面が金貨100枚なら。

現金にするときに金貨90枚なら。

金貨10枚が手数料という扱い。


客は金貨99枚を得る。

両替商人は額面100枚の債権を得る。


客は、そこで終わりだ。

両替商人はそこから。


債権が金貨90枚以上の値を保てば利益。

それを割るまで保有していれば損失。

場合によっては額面以上の値が付く。

そうなってから手放せば、大儲けとなる。


当然、両替商人がリスクを負う。


証券の信用度を予測する情報量が必須。

証券の値動きに逆らっても保有する資金力。

そも両替の手数料競争に勝たなくてはならない。


金と情報。


物量で全てが決まる業界。

大手も中堅も潰れる刻はあるが。

小が大に勝つことはない。


怪しい彼女は証券を持っているだろう。

商用に船まで使うのだから、当然のこと。


だが、その証券がまだ残っているかどうか。

待ち伏せ両替商人は所詮、待ち伏せただけ。


先手を打った童女は、港街の有力商会の当主。

奴隷商人は資本に不自由しない特別な商人。


迎賓館の青龍にとって金など賭けのチップだ。

既に奴隷市場で取引しているかもしれない。


支配者の賓客扱いとなれば、手数料も破格だろう。

手数料競争以前に両替が終わっている可能性もある。

・・・・・・・・・・そこはそれ。


無駄を恐れて商いは出来ない。

得られた金を喜ぶのが商人。

得られなかったと嘆くが金貸し。


その辺り、怪しい彼女には縁遠い。

そんな相手に中規模両替商が提案した取引。


「取り扱い証書は額面で引き受けます」


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