汝、敵なりや/Ｍｉｒａｎｄａ ｗａｒｎｉｎｇ

Ｙｏｕ ｈａｖｅ ｔｈｅ ｒｉｇｈｔ ｔｏ ｒｅｍａｉｎ ｓｉｌｅｎｔ．

あなたには黙秘権があります。

Ａｎｙｔｈｉｎｇ ｙｏｕ ｓａｙ ｃａｎ ａｎｄ ｗｉｌｌ ｂｅ ｕｓｅｄ ａｇａｉｎｓｔ ｙｏｕ ｉｎ ａ ｃｏｕｒｔ ｏｆ ｌａｗ．

この通告を聴いて以後、あなた発言は裁判で証拠として採用される可能性があります。

Ｙｏｕ ｈａｖｅ ｔｈｅ ｒｉｇｈｔ ｔｏ ｈａｖｅ ａｎ ａｔｔｏｒｎｅｙ ｐｒｅｓｅｎｔ ｄｕｒｉｎｇ ｑｕｅｓｔｉｏｎｉｎｇ．

あなたは取り調べにおいて弁護士の立ち合いを求めることができます。

Ｉｆ ｙｏｕ ｃａｎｎｏｔ ａｆｆｏｒｄ ａｎ ａｔｔｏｒｎｅｙ， ｏｎｅ ｗｉｌｌ ｂｅ ｐｒｏｖｉｄｅｄ ｆｏｒ ｙｏｕ．

あなたが弁護士を呼べない場合は、あなたに弁護士を提供します。

※日本以外の先進国では、同種の通告がなされないと裁判において検察側が不利になる。

法の判断を仰ぐのが法廷なのだから、違法行為が責められるのである。

※日本以外の先進国では、裁判に負けると検察官はキャリアに傷がつき、左遷や辞職もある。

だから手順が守られていないと起訴自体がなされないことがよくある。

※日本以外の先進国では、手順が守られていないことが原因で該当治安当局捜査員はペナルティを受ける。

職務遂行が不可能/困難になるのだから当たり前である。

《基本的人権を守り法治主義をとる先進国で一般的な被疑者への権利告知の例文》

【太守領辺境村/集落の外/軍政黒旗団混成部隊陣地】

「Ｒｅｐｅａｔ ａｆｔｅｒ ＭＥ！！サン！ハイ！」

「「ベンゴシサ～～～～～～～～ン」」

俺は脱力感を立て直す。捕まえて尋問前の野盗に何を叫ばせているのか空に向けて。

「ＯＫ！ＯＫ！Ｃｏｍｐｌｅｔｅ！！Ｍｉｒａｎｄａ ｗａｒｎｉｎｇ！！Ｆｉｎｉｓｈ！！！！焼きゴテをモテーイ！」

やめんか！！

俺が慌てる謎陣地、国連軍の陣地と言えばそれらしいが、集落から離れた村の中である。

・集落に叫び声が聞こえない距離

・農業用水路から水が汲める

・吊るしやすい木と燃料にしやすい枝を拾いやすい林の中

まさにマニュアル通りの条件で選定された、尋問、ってか、拷問スペース。なお、屋根も壁もない。別に要らない。

枝からつるされているのは野盗の生き残り。なお、足はついている。まだ。

「弁護士を呼んでいいいってのはそういう話じゃねーだろ！！」

「ＪａｐａｎｅｓｅルールＯＫ？」

「ウチじゃ黙秘権なんて知らせないし弁護士のことなんか教えねーよ！」

藪蛇である。

「ＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」

爆笑神父。

大げさに肩をすくめるところはコントである。

「ガイジン舐めるイクナイ。Ｍｉｒａｎｄａ ｗａｒｎｉｎｇなしじゃ裁判にナリマセーン！Ｎｏｔギルティ！！」

・・・・・・・・・・・・・・・・えーと。

検察側の証人が一人残らず検察官の主張を否定して、証拠が無くなり、被告は自供すらしていない裁判で普通に有罪判決が出る国なんですが、日本は。

※実話。何も問題はないらしいが、根拠は不明

「ンナコトなったら検察官は左遷辞職、po po（警官）もペナルティ！ＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと。

無罪確定冤罪連発の検察官が、一切責任を負わずに、検察最高の出世頭である特捜部長になる日本をどう説明したものか？

※実話。その後、某政治家の起訴に失敗して左遷。自殺者続出の拷問、もとい、厳しい取り調べの果てに冤罪判定が連発されたことについては何も（以下略）

「Ｍｉｒａｎｄａ ｗａｒｎｉｎｇの類似品がない近代国家Ｎｏｔｈｉｎｇ！！」

胸を張るガイジン。

いや、あるよ。

日本にもあるよ。

刑事訴訟法に似た様な意味に読み取れなくもない規定があり、はっきりきっぱり明確に『被疑者に告げなくてはならない』と書いてある。

「デショー？？？」

訳知り顔の神父。解ってない。絶対にわかってない。中途半端に日本に通じていやがって、どうでもいいことしか知らない。

まあ、普通一般の現代法治国家から来た人間には想像もできない、わな。

告げなくてはならない、が告げられない。

誰も責任を負わないし、違法が裁判で問題にもされない。

無罪判決がでれば、責任を負って左遷されるのはその裁判官。

大統領選挙の不正投票疑惑が起きたとき、キューバはアメリカに

『選挙監視団を送ろうか？』

とコメントした。

なら、うちには何を送ってくれるかな。

米軍が日米地位協定を絶対に改訂しない理由。

怖いから。

法が守られないのではなく。

法に不備があるのでもない。

違法合法、それ以前の問題。

明治以降、法の概念が、存在したことがない世界が、恐ろしくて恐ろしくてたまらないからだ。

無法地帯なら、米軍は恐れない。得意だと言っている。

・・・・・・・・それそもそも軍隊の仕事じゃないし、徒労と犬死以下を量産してるだけだけどね。

犯罪地帯なら、米軍は恐れない。準備万端だと言っている。

・・・・・・・・本来の仕事を放り出して、無意味なテロ対策で無意味に死ぬのが兵隊さんのお仕事。

無政府地帯なら、米軍は恐れない。法秩序を創るのは得意だと言っている。

（以下略）

だが、そもそも法律の概念がなかったら。

いや、むしろそれに気がついていなかったら。

法の概念を理解している気分でその実まったく触れたことすらない異世界。

文明世界を構成する法則が通用してないことに気がついていない異世界。

人類社会でソレが異常視されていることを知らされていない異世界。

日本という異世界。

だから協定は一言一句変更しない。

たとえ運用で譲っても決して変えない。

合衆国にとって明文化された言葉こそが真実だからだ。

まさに、言葉は神なりき。

「Ｉｎ ｔｈｅ ｂｅｇｉｎｎｉｎｇ ｗａｓ ｔｈｅ Ｗｏｒｄ， ａｎｄ ｔｈｅ Ｗｏｒｄ ｗａｓ ｗｉｔｈ Ｇｏｄ， ａｎｄ ｔｈｅ Ｗｏｒｄ ｗａｓ Ｇｏｄ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 」

「いいから、拷問の前に尋問終わらせろ！！」

【太守領辺境村/集落中央】

あたしは集落の中。マメシバ卿と一緒。青龍の貴族は集落の外へ。あたしは妹たちを引き留める役。青龍の騎士二人が、あたしたちの護衛

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――というより、見張り、か。

あたしたちが青龍の貴族について行き、集落に入ったこと、土壇場で飛び出したこと。命をさらしたこと

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怒って、る

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わよね。

青龍の怒りとは違う、彼、青龍の貴族、それ自身の怒り。

結果は悪くない、と、認めてくれているけれど。

なにも言わなかったからわかる

――――――――――――――――――――あたしたちに二度と同じことをさせない。

そうきたか。

・・・・・・・・・・・・・・まあ、そうよね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次はどうやって出し抜こうかしら。

次は、泣いて許しを請うべき？

ん？

あの娘たちが、そっと囁いてくる。

なに？

「足元におすがりしましょう！」

「身を投げ出すべきではありませんこと？」

そのあたりは、女同士、ゆっくりじっくり、相談ね。

【太守領辺境村/集落外周柵入り口付近/軍政黒旗団混成部隊指揮所/ＨＭＭＷＶ車内】

俺は部隊を再編成した。

今までは一つの部隊、一つの作戦。

目的は太守府への移動と威力偵察。

まあ、このあたり、作戦目的も部隊編成も曖昧だったんだが。

だから、薄氷を踏む羽目になった。

――――――――――――――――――――反省。

はい！終わり。

よって、部隊は二分割。

一つは戦闘部隊

俺、神父、元カノ以下黒旗団。実質的指揮官は元カノだな。

作戦は敵性武装集団殲滅。実行期間は流動的。

二つ目は輸送部隊。

曹長に指揮を任せ軍政部隊残余で編成。

作戦はアムネスティを護衛して、最短距離で太守府に移動。

単純に車を走らせれば、今日中につくが、そうもいかない。車両通行による街道住民のパニックを防ぐ必要があるからだ。

その為に、太守府参事会と港街の頭目にお願い。

出発地と目的地、両端から手配。

明日までに、進路上の街々に先触れを配置する。

『ならば祭りにいたしましょう』

とは頭目の提案。

その発想は無かった。行軍進軍としか考えなかったからな。いっそイベント扱いなら、違和感が昼寝するかもしれない。

「お祭りも地球人も非日常ですから」

許可と一任。アムネスティガールズだけは、先にチヌークで運び、地面を行くのは施設装備のみ。

「作戦内容、というより、司令官と現地代表のアレコレを中継する、という条件でご納得いただけました」

なんだそりゃ。

現地代表って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔女っ子か。

アレコレってドレコレ？

――――――――――――――――――――いやいや、なぜ警護対象のアムネスティガールズに、条件闘争をされないといけないのか？

「閣下は人魚さんにも条件をつけてお願いしてるじゃないですか」

それな。いやいや、でもほら、野良人魚には出来ないし。

「批判している訳ではありません」

まあ、傍観者だもんな。

「カタリベです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キミもチヌークで先に行っててくんない？

【太守領辺境村/集落中央】

青龍の貴族は集落を出た。

あたしたちには、集落、というより護衛と一緒にいるように命じて。

やっぱり、彼、青龍の貴族は君臨するモノだ。彼方から睥睨し見上げられる。青龍自体が持つ特質、それを、人の形をした結晶に仕上げたような。

ただし、村をでる前に、村人にも命令。

青龍は、多くの場合、民に命じたりしない。参事や頭目、民の上に立つ者に伝える。

何も言わずに、皆が察して走り回る事が多いけど。

村の長に見切りをつけたのね。

青龍の貴族はその時、自分の傍らに村の長を座らせた。

否応なく、村人たち全員の視線が集まる。

青龍の貴族がドワーフ刀を地に刺した。

刀身を目の前に突き立てられた長。

村人全員が顔を上げたまま硬直、長は白目を剥き失神。

村人たちは、目を見開いたまま、瞬きもできない。

青龍の貴族は淡々と、呼んだ。

それは低く熱く、大きくはないが、腹の底に響く声。

「動ける者」

村人全員が反射的に立とうとする。よろける者はしゃがみ、立てない者は首を垂れた。彼の意を受けた青龍の女将軍が命じた。

「男は外で死体捨て、女子供は立てない奴のめんどうをみな」

―――――――――――――間―――――――――――――

「始め！！！！！！！！！！」

村人たちが大意を理解した瞬間、マメシバ卿が号令。

青龍の女将軍は、野盗をドワーフに束ねさせて集落を出た。

そして誰の死体を片付けるのか、訳も判らず集落を飛び出した村の男たち。門前のドワーフに怒鳴られ、野盗の死体を片付ける。

死体、っていうより、残骸。砕けひしゃげた骨肉塊だけに、恐怖より驚愕。一カ所にまとめたら、青龍の火炎魔法で焼き捨てる。

女子供はマメシバ卿をチラチラと見ながら、怪我人病人を広場に集めて運んだ。

マメシバ卿が治療した村娘が一番落ち着いているほうね。まあ、青龍の側で落ち着ける人は、あまりいないけど。

みな、まずは食事を用意し始めた。

怪我人は娘が多い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり。

あたしは、妹たちを引き留めて、手伝わせない。

見るべきじゃない。

マメシバ卿に治療された娘が、卿に縋るような目を向けてきた。

青龍と大陸の、二つの魔法をまとめてみせたマメシバ卿の魔法治療。瞬く間に全員を治してしまえるでしょうね。

マメシバ卿は、にっこり、無視。

――――１度しか救えないなら、助けない方がマシ――――――

青龍の役人が叫んだ嘆き。

「チッチッチッ」

マメシバ卿が、あたしたちを見た。

「一度だけ助けるくらいなら、皆殺しにしましょう」

あたし、あの娘、妹分が凍りついた。青龍の、苛烈なまでに真摯な、理性。

マメシバ卿は、青龍とは思えないほどに気さくで馴染みやすい。髪と瞳が黒くなかったら、肌の色合いにすら気がつかず、あたしたちの側に立っているだろう。

それが誤っていると思い知らされる。

マメシバ卿は、青龍だ。

――――――――――――――――――――青龍だから、そこで終わらない。

卿は拳銃を持っているし、青龍の騎士も銃を構えたままだ。そして集落の外にて、内外を警戒中のドワーフは黒旗団。

マメシバ卿は青龍の女将軍、その腹心。ドワーフたちは、何でもするだろう。

マメシバ卿は、自分が治療した村娘を手招いた。

【太守領辺境村/集落外周柵入り口付近/軍政黒旗団混成部隊指揮所/ＨＭＭＷＶ車外】

俺は心の重荷とともにドワーフ刀をまた突き立てた。いや、やっぱり重いよこれ。まったく、さて、鞘がないのか、これ。

軍政官キャンプ講習が懐かしいな～役にたってるもんな。思い出す前に体が動くあたり、訓練は偉大なクソッタレ。

鬼教官は言いました。

情報には三種類ある。

嘘、誤解、偏見だ。

対処方法が三つある。

拷問、尋問、詰問だ。

これらは要素であり、必ず複合的に使用せよ。絶対に避けなければならない禁忌は三つしかない。

質問、要請、処刑。

問いは無知の告白である。

要請は指揮権の放棄だ。

そして死体は話さないし、話した事にも出来ない。

一番、注意すべきこと。

嘘は敵意を意味しない。

事実と異なる事を、意図的に伝達される。それが嘘であるならば、善意ないし好意によってさえ成立する。

自身の、自身と近しい相手の願望を伝えたがる文化。

互いにとって望ましくない事を言葉にしない文化。

対処不可能と推測される負の情報を提供する事、それこそが悪意の表明となる文化。

これらは地球に置いてさえ一般的類型だ。

軍事が科学の一ジャンルに過ぎない以上、文化的側面は排除されねばならない。

故に対象の善悪好悪を考慮する必要は、ない。

制限時間内に間違ったピースを集めて、事実の似姿を作るのだ。

――――――――――――――――――――それをムチャと思わない、俺の、躾られっぷりよ。人間、こうなりたくはないね。

【太守領辺境村/集落中央】

あたしが手をだしかねている間に、マメシバ卿は村娘に話しかける。村娘は喜びと困惑が半々かしら？叱咤されたように、村人たちに指示を飛ばす。

それに従う村の女たち。

マメシバ卿、青龍との会話が村娘に権威を与えている。

瞬く間に料理以外の鍋が集まり、まだマシな布地があつまる。ドワーフが、樽酒を持ち込んだ。村の女たちは戸惑うが、マメシバ卿に諭された村娘に言われ、酒を小分けする。

「煮沸消毒で包帯止血帯、蒸留酒で傷口を清潔にするだけで違うんですよ」

あたしの妹分たちは、マメシバ卿に話を聴きながら、感心していた。

「骨の位置を確認して固定・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

妹たちに加えて、動ける村娘たちが、おっかなびっくり聞きに来た。

マメシバ卿は、皆を見るともなしに、話を続ける。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだかんだで、さっき村人たちの中を歩いた間に、怪我や病気を把握してたのね。

誰に何をしたらいいか、村人の身の回りにある物、村人たちに出来る事で何が出来るか、雑談のフリをして話続けるマメシバ卿。

質問というより、合いの手を入れて、話しやすくするあの娘たち。

熱心に耳を傾け走り出す村の女たち。

前もそうだったわね・・・・・・・・・・・青龍は欲張り。

規律があり、理念があり、筋道を重んじる。だけど、それに縛られない、とらわれない、曲がらない。

好悪、美醜、倫理。

あたしたちと変わらないのに、何もかもどこまでも貫き通す。

なにを譲る必要がある？なにを我慢する必要がある？何か出来ないことがある？

妥協など青龍以外がすべきこと。

助けられないなら、助かるようにすればいい。

一度も助けずに、いつまでも助かるように。

助けが必要な連中を、助けを与える者たちへ。

創り換えたらいいじゃないですか。

マメシバ卿は、一通り怪我人病人への指示が終わるまで雑談を続けた。あたしたちにもわかる、これが青龍との付き合い方。

（もし敵でも、必要が無くなるまでは死んでほしくないですよね♪）

――――――――――あたしにだけ囁くのはやめて欲しい。

【参考】

刑事訴訟法第１９８条の２

取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意志に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない

和訳：ミランダ警告一番目に同じにみえる

刑事訴訟法第７７条

１、被告人に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない

２、被告人を勾留した後直ちに、前項に規定する事項の外、公訴事実の要旨を告げなければならない。

和訳：ミランダ警告２、３、４番目に同じにみえる

《昔から法治主義をとっていると主張している島嶼国家の法規定》