天網恢々/貴方の心が赦さない。
【用語】
『港街』
:太守領で二番目に大きな都市。旧王国時代以前から続く異世界大陸海上交易路への結節点。ここから大量の穀物が輸出され大陸各地の産物や貴金属が輸入されてくる。邦中の穀物集積地であり河川交通の中心である太守府に次ぐ要地。その為、参事会に従いながらも従属はしない商業主権を持つ。その現れが参事会指導部の一角を為す船主代表であり、参事会から送り込まれた港街参事会であり、地下経済を仕切る盗賊ギルド。
まだ人間は介在しない。
味方規定システムが認知。
殺すべきか否か。
顔識別システムが抽出。
すぐに殺るべきか。
虹彩認証システムが識別。
先に殺るへきか。
赤い瞳は最優先割り当て対象。
火器管制システムの脅威判定を駆け登る。
12.7mm自動機関砲十字砲火の焦点
FH70三基の弾種別時差着弾効力範囲。
赤い瞳の周りに火線を引く。
標的の反応をスクリーニング。
周辺の動態をスクリーニング。
規定の対応をスクリーニング。
まだ人間は介在しない。
事前に設定されたカテゴリー。
事前に設定されたリアクション。
事前に設定されたアクション。
まだ人間は介在しない。
認識ではなく認知。
思考ではなく検索。
判断ではなく反応。
もう人間が介在する必要はない。
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
この街の人々は慣れさせられた。
太守領港街。
街は東西に分けられる。
内海でもなく大河でもない。
流れの揺蕩わぬ、大きな川。
西の山に代表される内陸山脈群。
そこから流れ出た山水が河を成す。
暖流と寒波の衝突が生む水蒸気。
海で生まれ陸に向かい山脈へ落ちる
落ちた水は凍って地層に溜まる。
水は凍ると体積が減り貯めやすい。
一番熱い暖流に因り生じた暖かい空気。
溜まりに貯まった氷は夏に溶けだす。
一気に大量の水が、一シーズンに。
途中に在るのは王城がある太守府。
海への河口に出来たのが港街。
その真ん中を流れる河。
河は港街や太守府など河沿いの街都市だけではなく、太守領それ自体を東西に別つ。
水流は大陸の東に拡がる大洋へ、ではなく、その手前の湾内へと勢いよく流れ込む。
河口の東岸西岸は河口湾内に面して、ともに港。
流れが速く水量も多い河。
河と言えども海より狭い。
支流に放たれるのは僅か。
絞られた水圧は間口の広い河口で、やっと解放。
一番水圧がかかる刻。
時間辺りの最大水量。
河口は一番速い流れ。
人が魔法無しに往なせるのは、判っているから。
河の流れが変わらぬ訳。
河の浚渫無しに一定。
激しい流れが一点一時期に集中するから。
河に流された物も解放。
河口には溜まらない。
大半の堆積物は港外周まで押し出される。
それが良港を生んだ。
河水と海水の圧力均衡線。
その手前に積み上がる堆積物。
半円形に整えられ続ける港の外周環礁。
それは自然の防波堤。
海中の潮汐。
海上の波頭。
それらを内外で割つ。
湾外は激しく。
湾内は穏やか。
礁は外洋に削られ、河に積み増される。
港の内側は深くない。
外洋の潮流から隔離された海。
風に揺れる位の海水。
均された遠浅の海湾が広がる。
浚渫する必要もない。
其所を行き交うのは中世の船。
きっと数万トンの輸送船には向かない。
百年後には足りなくなろうか。
せいぜいクラス千トン程度の帆船。
接岸までを前提とした強襲揚陸艦。
このくらいまでなら、十分だ。
湾内、海上は船に相応しくなっている。
もちろん船は水上で完結しやしない。
山程ある天然の良港が使われぬ理由。
荷揚げし荷積みするまでが航海です。
故に何よりも大切なのは湾よりも港だ。
河口付近の堆積層から成る土地。
護岸構造が重ねられている場所。
その内側が倉庫や造船所となる。
地球でも異世界でも少ない穀倉地帯に港。
そこまでが、港街の港湾地帯。
そこから内陸に向かうと市街地。
そして問題が持ち込まれた処。
河で南北に分けられている港街の北側。
南側は都市参事会や富裕層の居住地。
北側は市場や上流階級以下の居住地。
北の邦では、南側の土地が好まれる。
熱量を食糧以外からも得るために。
南北いずれも西から東へ、海から陸へ。
海に近付くと人に土地の価値が下がる。
異世界種族の大半が陸棲動物だからだ。
水棲知性体は陸の遠近を気にしないが。
大気圏は不安定。
水圏は安定。
地圏は強固。
多世界は研究中。
安定から不安定に向かう波及効果。
だから影響の度合いが違いすぎるのだろう。
だから余り関わりが強くないと言えるのだが。
だから水圏からの干渉は、また後程の御話。
都市を囲む壁は内陸側。
つまりは街の西側の端。
そこから先は港街の外。
だが陸から攻められなければ、ただの仕切りでしかない。
そして有史以来、陸から誰にも攻められたことがない。
港街にとって、市壁は不動産の境界標識に過ぎない。
港街の南側では富裕層は西端に館を構える。
参事会やギルドの会所は南側の東寄りから。
港湾地区の近く、衛兵の宿舎と併せて配置。
多くの船主や商会も併せ港街の中心を成す。
港街を別つ南北、河の岸。
南北共に工房と河舟の渡場。
内陸に向かう河船は港で運用。
港街の北側で言えば、上流階級はやはり西寄りに住む。
そこから東寄りは市場などの商業地区から労働者街。
東端港湾との境には貧民たちが押し込まれていた。
先月、全員吊るされたが。
青龍来訪に伴う暴動の発生。
それが何かと判る前に皆が逃げ出した。
逃げながら。
圧し退けて。
潰され圧死。
先を争い。
逃げ道を塞ぎ。
道を空けさせる。
必死になる自分を邪魔する相手を殺すのは正当防衛。
互いに怒り殺し合い絶望の余り逆らわない物を破壊。
ただ殺せば済む脱出に無関係な火災が連なった理由。
それが青龍の癇に障った、らしい。
そう感じた後で、殺されなかった。
それは正しいということだろう。
青龍の貴族、その命令。
「なんとかしろ」
第27話〈文明の衝突(非接触事故)〉
ただ現れただけで街を半壊させる支配者。
飛竜を連れて十数人で都市を落とす侵略者。
港街の沖合いに巨大な海竜を侍らし睥睨。
ほぼ口を開かない、滅多に無い青龍の貴族の命令が下る。
富裕層が住み上流階級が逃げ込んだ港街南岸。
船が脚留めされ船長や頭領が纏める港湾地区。
街の衛兵に氏族私兵、荷役労働者や武装した船乗りが集められ、とにかく殺した。
暴動が最大化した北岸を街区毎に分け。
一つ一つの区画へ順番に人を送り込む。
北側の街を西から東へ。
街の陸側出入り口から海へ。
塞ぐ為に船や舟が河へ。
街の南側とて恐慌状態。
青龍の海竜に近い港湾地区はもっと酷い。
たまたま序列が在った。
皆に更なる恐怖と目標を与え。
一人一人の腕肩に青い布を巻かせた上。
感じる前に走らせ追い立てた。
建物の間口を塞ぎ、街路に居る全員を殺し、建物ごと崩して、瓦礫と一緒に井戸や地下室を暴き、一人の見逃しもないように必死になって殺し続けた。
殺し終わったことを確かめた死体は、全て数えられるように砂浜に並べて、並べ終わった刻に青龍の大隼が始末。
その過程で貧民窟は一人一人丁寧に皆殺し。
・・・・・・・・・・それから一ヶ月。
上流階級は被害が少ない南岸へ避難。
富裕層の家族まで動員して都市機能の半分を維持。
税免除で生産労働が減った近在の農民を集め雇う。
港街の北半分を解体し更地にする為。
北岸全体が平地にされつつある。
新しい都市計画の為にリセット。
その為の費用は、ご領主様持ち。
それまでに住み着こうとして火炙りにされる者は日々減っていた。
数百人ばかりが何度か焼かれたので、物理的に居なくなったのだ。
周辺に限らないが農村部の武装化が進み、誰も何処にも行けない。
農民たちは見知らぬ者を殺す様に命じられて、そう実行している。
帝国崩壊から青龍進駐までの間に起きた野盗の跳梁跋扈の教訓だ。
だから今後も何かの問題となることはないだろう。
原因、そして問題そのものが殺し尽くされたからだ。
だが、北岸全体が空になった、訳ではない。
日々出入りしている作業労働者のことではなく。
其所に向かわせれる怪しい彼女たちのことでもない。
馬車が三台。
二頭立てキャリッジ相当。
キャリッジは荷馬車ではない乗用馬車を思い浮かべれば、だいたい合ってる。
一台目。
御者台には馭者が二人。
ゲスト。
怪しい彼女。
ホスト。
フレンズの童女。
二人は隣あって座席。
座席前には怪しい彼女の連れ。
魔女と執事。
二台目、三台目。
御者台に馭者と弓持ちが一人ずつ。
座席から扉を開き身を乗り出す。
愚連隊の剣持ちが五人ずつ。
騎馬が四頭、先行。
騎乗では戦えない槍持が四人。
槍騎兵は相応の技術が必要だ。
一朝一夕に用意できはしない。
中世では騎士と言えども騎馬では移動のみ、戦う時は下馬することが珍しくも無かった。
正確には乗馬兵。
騎士が戦車。
対して機械化歩兵。
そう考えると判りやすく、価値も量れる。
だから遊牧騎馬民族は機甲師団に相当すると言えば、恐ろしさも解ろうというもの。
当然、太守領の愚連隊には望むべくもない。
それでも乗馬出来るだけでも凄いのだが。
インフラストラクチャーの効果だろう。
旧王国時代ならば道、街路から街道までの整備が適当だった。
故に馬車や騎馬に寄り添って走る小者が必要だったのだが。
帝国時代以降に必要無くなった。
街路街道から農道里道まで整備する体制が整い尽くされている。
要は近隣都市街村落の最優先義務になったのだが。
税の減免免除は有り得ても、道の整備は懈怠出来ない。
それは街道整備に必要な人骨として道々に鋤き込まれていた。
もちろん帝国が駆逐されても、それを誰も変えたりはしない。
帝国を否定出来るのは帝国よりも強い者だけ。
地球人類こそ整備された道々を必要としている。
それが何で出来ているとか。
その懈怠を領民自身が罰すとか。
それをせなんだら、どうなるのか。
そんな現地の習慣に干渉したりはしない。
結果。
半月前に半壊した港街の壊れた半分。
北岸に入っても街路は整えられ続けられていた。
近隣の住民が誰もいなくても優先。
廃墟も何もかも撤去中だが、それはそれ。
青龍の命令ではないが意志として。
作業にあたる労働者たち。
作業を指揮させる御偉方。
命じられずとも道を整備。
命じもしないが道を確認。
蓄えるより造るより、流れしか視ない観えない遊牧民の性。
それが自然にしか感じない。
それは怪しい彼女だけではない。
それで道が凸凹なら皆が驚くだろう。
だから道は滑らかなのだが
・・・・・・・・・・一本道。




