似て非なるもの。
【用語】
『魔法』:異世界の赤い目をした人間が使う奇跡の力。遠距離の破壊、伝達、遠隔視、読心などが使える。魔法使いを帝国では組織的に養成しており、貴族に準ずるものとして扱われる。ただし帝国の合理主義を極めても赤い瞳の出生管理は出来なかった。
『奇跡』:異世界の赤い目をした人間が使う魔法の力。気候や海流、地殻の把握、それに対する干渉が行える物と考えられる。帝国以前は赤い目の赤子が集められる神殿から魔法使いが輩出されていた。
『わたし』
地球側呼称《魔女っ子/魔女っ娘/幼女/ちびっ娘》
現地側呼称《あの娘》
10歳/女性
:異世界人。赤い目をした魔法使い。太守府現地代表。ロングストレートのブロンドに赤い瞳、白い肌。身長は130cm以下。主に魔法使いローブを着る。お嬢やマメシバの着せ替え人形にされることが多い。
女は四十代が一番イイです!
「あら♪︎三十代と五十代の前では別なことを言いそうね?」
最高は常に目の前に居ます!
「なら十代半ばの女が目の前に居ると?」
飴玉をあげたくなりますよ!
《世界保健機関多世界多種族交配試験担当としての質疑》
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
「「はじめまして」」
互いに合わせた。
目と鼻の先に居る。
間違い無く初見。
別にフリではないだろう。
相手が、そう言っている。
怪しい彼女も覚えにない。
だから互いに名乗りなし。
真名を知られると魔術的に呪術的にどーだこーだのファンタジー要素など魔法がある異世界にもない。
もちろん地球の歴史に置いてもそんな要素が生み出されたのはライトファンタジー由来なのたが。
何処から誰が思い付いたのやら?
・・・・・・・・・・情報求む!
さておき名乗らぬ理由ならば、異世界と地球人類史に共通の理由がある。
氏名とは、聴こえて来るもの。
自分で名乗ることに意味はない。
アダ名に役名ではなく名前。
それを持つのは特権階級。
必要とされ呼ばれる者。
ならば聴こえて来て当たり前。
必要とする者たちは多い。
必要とされる者は少ない。
そんな例外だけに名前が要る。
異世界全人口の一割以下。
それとて名乗るは氏の名前だ。
ただの一人に名など無い。
そこに意味が無いからだ。
親しい仲なら見れば判るだろう。
親しくないなら見分けは要らぬ。
親しいことが必要なら特徴呼び。
必要とされる役割名。
課長、社長、先輩で足りる。
外見によるアダ名。
オッパイ、いぃんちょ、ゴスロリ様。
個人名を必須にしている地球は先進国でも、実態はこんなものだろう。
名が態を表すのは、態に合わせて名付けるから。
現代、或いは、先進以前。
名とは生きていくうちに付いた。
産まれて無名。
せいぜい記号。
竹千代。
聡明丸。
八郎などなど。
名のある氏族の幼名は皆、同じ。
経た歴史。
重ねた人脈。
その刻の評価。
そこから名が呼ばれ次々変わる。
人は変わるものだから。
合わせて変えねば意味が無い。
固有名詞から判ることなど少ないもの。
個人名から判ることなら無いに等しい。
何者でも無かった頃に適当に付けた記号の一つ。
何処かの誰かの思い込み。
社会的には無意味な錯覚。
なんなら、い・ろ・は・に・ほ・へ・A・B・Cで不都合があるだろうか?
王様などはルイ1号から16号まであっても支障がなかった訳だが。
事実としてそう。
地球の歴史上、人一人に付けられた名前。
「アントニウスさん家の息子の大きい方」
はい、一人用の名前じゃなかったですね。
呼ぶ方にとっては氏族名が必要で、それ以外は意味が無いから名付けない。
当たり前。
比類なき功績を挙げたりすれば、アフリカヌスとか呼ばれます。
その一人がその一人でしか有り得ない。
これ程に個性的な呼ばれ方はまたとない。
・・・・・・・・・・キラキラネームで嗤われるしかない人もいるんですよ!
能力や功績に応じて名字を付けられる時代。
名前は忘れられない。
何一つ引き継がず何もしなくても名乗れる。
名前は覚えられない。
「みんなマリアにヨシアにペドロ」
実生活で必要ない|《先例名》物を強いられたら適当になる。
当たり前。
明治維新とやらで、みんなが同じ名字にしたようなモン。
ゴッコ遊びに頭を捻るほど皆さん暇を持て余していない。
暇で暇で仕方なく子どもの名前で遊ぶのは世紀末。
児童虐待の激増期と一致してるのがなんとも。
つまりそういうこと。
他人にとって、他人の個性になど何の意味があるのだか。
社会にとって、集団に属さない個人など居ないに等しい。
他者に呼ばせるための記号が他人から無意味なのだから。
その辺りの事情は異世界でも同じ。
何かを為し遂げられるまで生きたりもしない。
何か為す前に個々の名前を付ける意味はない。
何かを成し遂げれば皆が名付けてくるだろう。
だから誰も自分に名前を付けない。
とはいえもちろん名前はある。
氏族名、商会名、組合名。
付随する役名やアダ名。
他人に意味を持つという意味で、まさに名前。
それは追々、知られるだろう。
それをどう知られるかは腕次第。
それはさておき怪しい彼女を包囲。
出迎え。
それは自ら動いて出ることか?
自らは止まり迎えることなのか?
どちらがどちらを出て迎えるのやら。
怪しい彼女を見下ろす彼女。
いや、童女。
歳の頃は十かそこら。
階級柄、社交界デビュー以前。
その準備が始まる頃。
怪しい彼女より五歳は若い。
いや、幼い。
身長は怪しい彼女の 真下。
怪しい彼女が165cm程度。
見下ろす童女は140cm無い。
本来、頭一つ分見下ろす形。
そんな童女が見下ろしている。
立場の問題ではなく格の差でもない。
怪しい彼女は、そう判断した。
なにしろ童女は輿に乗っているのだから。
・・・・・・・・・・乗せられてる感は、ない。
輿。
要は台座。
人を乗せ人が支えて進む乗り物。
元々、貴人用の移動手段。
馬車は長距離。
輿は短距離。
馬車の入れない足場。
歩くには遠い目的地。
そんな処に向かう刻に使う。
つまりは埠頭から桟橋まで。
輿を支えるのは屈強な男たち。
左右と後ろに並ぶのも同類だ。
輿の前に立つ娘たちは十代半。
目の前の一行だけで足腰の強さが判る。
ましてや左右対岸桟橋には男たちばかり。
華奢で小柄な童女の細い脚では追い付けまい。
童女に合わせて待っていたら包囲出来ない。
怪しい彼女たちに逃げられるかもしれない。
まあ、逃げる気はなかった怪しい彼女。
待ってあげたら弛緩してしまうとは、思う。
その辺りの配慮に、いつか感謝してあげよう。
そしてつまりは騎馬の運用を想定していない。
童女を子馬に乗せても良かったはず。
だが騎馬民族以外には奇抜な発想。
騎乗が特殊技能になるのが異世界一般。
地球は先進国感覚で運転技術に近い。
非先進国では免許制度など形骸化していたのだが。
機械と違って操作方法が固定されていない騎馬。
そのリスクは自動車のそれとは比較になるまい。
だが富裕層なら乗馬くらいは一般教養。
だが童女に乗馬させようとは思わない。
ならば騎乗の誰かが童女を乗せても良いが。
舟橋を連ねた桟橋の足場は、やや不安定。
人足ならば荷に潰される前に海へ跳び込む。
貴人は怪我を避ければ済むものではない。
大事を取った、と言うより、その発想は無かったか。
あくまでも、童女が中枢で前線の要。
だから先頭中央に持って来ざるを得なかった。
その要所に騎馬を配することがない。
ならば、と考えた、怪しい彼女。
投石器は帝国の模倣ではない。
だから、と考えた、怪しい彼女。
自分たち向けの装備ではない。
ならば、と考えた、怪しい彼女。
出迎えは、待ち伏せではない。
であれば、と考えた怪しい彼女。
カードが増えることは楽しい。
とはいえ、と考えた怪しい彼女。
どちらにせよ構えに隙がない。
左右は桟橋から海へ逃げられないように牽制。
海中に潜られたら矢より石の方が利く。
打撃が弱まっても矢の様に無力ではない。
深度、晴れ、昼間なら海底まで丸視え。
投石を集められたら、浮かぶか沈むか。
普通なら、ば。
――――――――――海上に逃れても後が続かない。
怪しい彼女たち。
歓迎する集団。
どちらも舟までは用意していない。
だが港で顔が利くなら、舟や艀を用意させるだろう。
当然、怪しい彼女たちは顔が利かない、から怪しい。
あちらが用意するのに時間は僅か。
艀や小舟なら辺りを行き交っている。
怪しい彼女たちを運んだ艀も集団を観て、すぐ逃げた。
驚いてはいなかったから認めている。
慕われているわけでは無いにしろ協力は、するだろう。
なにしろ荒事に慣れているだろう集団だ。
或いは衛兵よりも恐れられているかも。
殴られたら痛そうだと思わないか?
・・・・・・・・・・それは多世界共通語。
そんなこんな。
判り易い世界。
刻に余りなし。
異世界全体に広く知られた言い回し。
馬の背に揺られているなら、為すべきことは磨くこと。
だから、怪しい彼女は連れを紹介。
とはいえ名乗らせた訳ではないが。
単に挨拶を許しただけ。
怪しい彼女が主なら、挨拶を交わした童女と対等。
家人臣下が礼を示しても、許可が在れば可笑しくはない。
一歩下がったまま、一礼する老人。
年の頃、五十は越えているだろう。
男盛りが二十前後。
働き盛りが三十代。
四十五十は、お手伝い。
――――――――――異世界の言い回し。
そう考えれば、彼の老人は爺奴というところか。
年若い娘に御付きの娘と爺奴が一人ずつ。
・・・・・・・・・・ますます意味不明な旅人だ。
どう考えても商用には観えない。
ましてや交易寸断後の回復期。
探検に近い調査行にも不相応。
ますます怪しまれても気にしない。
怪しい彼女は、もう一人の連れに合図。
合図無しでも伝わるけれど、むしろ他人に向けて。
桟橋に集った面々。
左右の桟橋からでも観えやすい様に。
一歩進んでフードを降ろす。
年の頃、怪しい彼女と同じ十代後半。
異世界、いや地球の先進国以外の、女盛り。
なお二十代は熟女で働き盛り。
三十路以降は、お手伝いとされております。
だから一番、人目につく年代。
目立とうとするから珍しくもなし。
むしろ童女の方が珍しかろう。
手入れの行き届いた金髪は富裕層特有。
艶やかな肌質も上流階級ならでは。
物不足で不安定な船旅の不自由さ。
それに負けなかった辺り、元々の質もよいのだろう。
ローブから現れたバストショット。
骨格からくる造作の良さは、累代の積み重ねを示す。
だが、それを、誰も観ていない。
皆が視る。
血統にも環境にも依らない。
――――――――――赤い瞳――――――――――




