眼の「付け/着け」「所/処」。
【用語】
『ジーンズ』
:ソビエト連邦内で犯罪組織を支えた密売品。退廃した合衆国文化の象徴であり反革命的とかなんとか。麻薬、売春、禁酒法時代のアルコールと並ぶ禁止されたから値が付いた物の代表格。フルシチョフ時代に普及しブレジネフ時代に高騰しゴルバチョフ時代に暴落した。つまりデタントが進むとジーンズの値が下がり犯罪組織の資金源が断たれてしまう。だから世界大戦前夜が一番な辺り、麻薬や売春の取締が厳しいとマフィアが大喜びするのと構図は同じ。さすがに麻薬撲滅運動や風俗規制団体に資金援助するみたいにガチガチの共産主義者を支援したりはしていないはず……だよね?
国際連合の作戦領域には様々な眼がある。
哨戒気球。
・高度3000m程度から100m程度。
・個々の機能範囲を重複して配置。
・低速移動可能で主に太陽光発電で稼働。
・人工衛星が無くなった異世界で測位情報提供や通信中継機能を担う。
・光学的赤外線的電波的な索敵機能も付属。
偵察ユニット。
・要はラジコン、バッテリー稼働。
・標準的に全長1m前後、全幅2m前後。
・幾らかバリエーションは在るが基本的にオプション交換で変化に対応。
・最高高度1000m想定。
・部隊単位で配備され、自動手動が選べる。
・四機1ユニットで一機は呼び。
・ユニット利用数の制限無し。
・自動稼働中は任務や範囲が必ず重複するように設定。
歩兵プロテクター/車載カメラ。
・半球型カメラ/マイク兼用
・通信/記録兼用。
・上記二段に特化しており情報処理は行わない。
・後方日本列島や前線指揮通信車などからフィードバックする指揮通信/火器管制システムの端末。
・歩兵(普通科)隊員用プロテクターの頭部バイザーと連動。
・両肩部分にもカメラとマイク在り
前線配備の索敵システムや部隊が捉えたデータ。
数値は、そのまま送信される。
取捨選択も加工もされない膨大なデジタル信号。
日本列島か異世界大規模拠点。
判定は専門施設専門組織の自動システムで行う。
味方以外を識別して脅威判定。
前線部隊はリアルタイムでフィードバック受信。
列島全体のシステムリソース。
経済停止中の遊休基幹システムがフル稼動する。
世界有数の産業基盤の使い途。
十数万の兵士たちをサポートを受けられる所以。
此処までが認知。
其処からが認識。
撃つ?
壊す?
捕える?
選択肢は全てが事前に組んだアルゴリズムに由る。
実行は各級指揮権限者による決定が必要となる。
各部隊や隊員の上官の上位者は常に待機している。
直接の指揮権限を何時でも即座に覆せるように。
太守領港街。
国際連合統治軍管理地域。
その中の国際連合軍駐屯地。
現地時間の昼前にはアラートが鳴り、国際連合軍事参謀委員会から二人以上の参謀がアクセス。
太守領港街港湾地区桟橋に上がった瞳に注目した。
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回範囲/???】
怪しい彼女は御付きの老爺から剣を受け取った。
怪しい彼女は堂々と魅せ衒らかす。
商人の武具扱いとしては異常だか。
その物を観たら納得せざるを得ない。
宝剣、と言われる種類だろうか。
あるいは真似た飾剣の類いかも。
王侯貴族の儀式や象徴に使われる宝剣。
これは裕福な騎士や富豪が持つ刻もある。
それを真似た権威付けや単なる鑑賞用の飾剣。
これは資産やコレクションアイテムに近い。
共通するのは実戦に用いないこと。
人は斬れるが売る方が役に立つ。
だから観て解るくらいに輝いている。
灯火や松明にも映えるがやはり陽射し。
海上すぐの桟橋の上。
遮る物とてない陽光。
他の船客が注目する所。
皆が皆、目利きでなくとも商人。
自分の眼にどう映るか。
それだけ判れば十分だ。
それなら同等の商人にも、そう観える。
売り込みは鑑定結果より第一印象。
だから軽く見立てて、眼を逸らす。
価値が在りそうだから余り見ない。
買い付ける前までに視れば値が上がるじゃないか?
――――――――――つまりは商人の手が届く範囲。
一見すれば飾剣。
要所々に宝玉を嵌めてある。
隙間は黄金で埋め彫金で細工。
柄は金属の青銅状。
鞘は木製の黒檀か。
飾り彫りに沈金で彩りを集める。
グリップを利かせる為でもある。
周りの船乗りは不躾。
船乗りは一般的に戦士を兼任。
警備役のガレー船乗りほどではないが。
艀の舟漕ぎ舟頭は異邦人の出迎え役。
習俗習慣言葉も違う船客を捌く。
しかも丸腰、素手喧嘩上等。
・・・・・・・・・・足場が悪い船上では徒手空拳。
艀は小さく、操作は手間だ。
余計な武具を積めば定員が減る。
余計な武具を付けたら動きが鈍る。
多いトラブルは拳で制圧。
――――――――――なら怪しい彼女の怪しい飾剣は?
だから客の武具には目をむける。
視線を注ぐのは、先ず剣身。
もちろん鞘に納められているが。
その剣身は逸っていた。
船剣という奴だろう。
船上の主戦兵器は槍と剣。
一人で両方を使う。
船縁では
――――――――――槍。
乗り込むまで。
乗り込まれるまで。
槍といっても手槍か銛だが。
船内では
――――――――――剣。
備品だらけの 揺れる甲板上。
上下左右に狭く勝手の知れぬ船内。
片刃の短い剣は船乗り専用。
片刃は剣身を肩に担ぐ為。
走りながら味方や船材に引っかけぬよう。
その剣身は逸っている。
超接近戦ではリーチに意味がない。
かえって取り回しが悪くなるだけ。
全体を短くまとめて扱い易くする。
ただ短くすると切れ味が落ちてしまう。
刃の摩擦で肉や骨を断つ仕組み。
振り回せない船内戦では切れ味が命だ。
だから剣身を逸らして刃渡りを確保。
斬り付け動作のスナップで斬り落とす。
斬り結ぶ際も動作より剣身の逸り。
相手の切先を身動き最小で押し逸らす。
だから船乗りたちは、そう観た。
怪しい彼女の剣は、そういうもの。
つまりは船上で使い易い剣を船客が持っていた。
つまりは船上の治安を船客が信用していなかった。
さもありなん。
馴染み馴染まれた定期船ではないのだ。
さて如何様。
用心深い商人は居ようが戦い慣れとは?
――――――――――そこまで視れば、気が付く。
船乗りの一部。
一番の荒事好き。
(逸りが甘くて使えやしない)
怪しい彼女の怪しい剣。
船乗りの曲剣より長かった。
つまりは曲がってはいてもそれほどではない。
リーチが長いから船内や船上では不利だろう。
例えば艀の上で抜けば、すぐに懐に入られる。
そも、懐近くに船乗りがいる小舟はもちろん。
船の上、最大限開けた甲板上でも帆柱だらけ。
肩に担ぐように振りかざせない時点でダメだ。
なら、怪しい彼女の怪しい飾剣は、なんの為にある?
船乗りたちは思った。
――――――――――趣味嗜好。
代々伝わる宝剣なら、あんな変わった形はしない。
儀式や儀礼には形式があるからだ。
観客に違和感を与えない様にしなければならない。
飾剣なら最近になって造らせた物だろう。
なによりデザインが珍し、斬新だ。
そして武具兵器に置いて失敗とは斬新さ。
それは異世界でも変わらない。
それでも繰り返されるのだが。
それが技術者のダメなところ。
あ~あ、やっちゃたんたろうな~
・・・・・・・・・・でも飾りなら良いか。
そんな船上用に設えてまったく無駄じゃないにしろ失敗したと憐れまれてる剣を上陸後に持ち出させた怪しい彼女。
剣帯に佩くまではスムーズ。
微妙に逸った拵えを調整中。
慣れない形では感覚が狂う。
そこから見下ろし、観せて、矯めつ眇めつポージング。
魅せ慣れてる。
良く視ている。
隠す気がない。
剣に集まっていた注目が物腰に移る前に肢体へと惹く。
だが観せびらかしてもいない。
自分のことしか観ていない。
特権階級はこんなんばかりだ。
周りには男ばかりなので、肢体を確かめる役に最適だ。
特権階級に他人こそ鏡に等しい。
自分を自分で観る為にいる。
二つの眼だけで一人は視えない。
だから視て観せて魅せてる。
日本列島に良くある悲劇はない。
魅せる相手が居らず。
観る使用人も居らず。
自らの眼には届かず。
店員からは言い難い。
お客様の肌で露出するのはテロリズムです
・・・・・・・・誰か背中が煤けてるって教えてあげて。
怪しい彼女に、今、美しい肌の露出は顔と掌くらいだが。
自分が気に入ったスタイルをキメる為には使用人を常用。
とは言え一発で仕上げた姿の完璧さを確かめているだけ。
同じように船着き場に溜まる船客たち。
彼らは海から陸へウォーミングアップの為。
彼女は美貌と新しい装束を魅せ衒らかす為。
そして彼らは魅力的な女を眺める為にこそ。
とはいえ長くは続かない。
既に昼過ぎだ。
活動限界は日暮れ。
夜は動けない。
電気照明以前の一般法則。
松明。
燭台。
月光。
そんなものに頼って出来ることなどない。
怪我をせずとも死ぬかもしれず。
物を壊さずに済めば上等だろう。
何か為し遂げれば偶然に過ぎぬ。
しかも見知った住居の一室の中ではない。
ここ太守領には青龍の明かりがあるが。
太守府は王城前にもサーチライトあり。
照らされる広場は場所の取り合いだが。
旅人には関係が無い。
常と異なる旅先のこと。
再訪者にしても久しぶり。
青銅が世を覆した直後。
見知った相手が、まだ居るとも限らぬ。
宿を確かめるのか探すのか。
とにかく早めに動く必要がある。
さもなくば見知らぬ土地で野宿かも。
港街の参事会を訪ねれば紹介はされる。
それは伝手が無いいう意味だ。
参事会の表の話は皆に伝わる。
それは弱みを晒すようなモノ。
孤立した余所者はカモになる。
それは商いの上で宜しくない。
孤立してないフリなら出来る。
必要なのは早さ。
動き出すまで。
不必要なのは速さ。
動きだしてから。
船客を降ろした艀は、ゆっくりと離岸。
船客たちもゆっくりと動き出す。
スピードはパワー。
・・・・・・・・・・だから、ゆっくりと、急がずに。
怪しい彼女、たちは動かない。
――――――――――スピードはパワーだから、だ。
出迎えられるのは、慣れている。




