何故ベストを尽くしたのか?/Why not the best?
【用語】
『Why not the best?』
:「いいからやれ」の意。原子炉炉心溶融事故(国際原子力事象評価尺度レベル5)の最中、合衆国海軍少将が部下の大尉に告げた命令。部下は高レベル放射線に突入し全身のガンと一生戦いました。アトミック・ソルジャーかな?少将は部下を一人前にしたと胸を張り、部下はその教育に感謝してます、いやマジで。その部下は退役後、貧困層向け公共住宅からスタートして成功と挫折を繰り返しながら同業者の最高齢存命者として穏やかな老後を送っているあたり、少将の薫陶宜しきを得て暴走原子炉炉心溶融中に突撃できるなら何だって克服できる。マーベル・ヒーローの可能性があります。
背中をみて、背後をみるな。
人柄を疑う勿れ。
能力を疑うべし。
忠誠を試すべからず。
技能を験すべし。
探すべきは裏切り者に非ず。
探すべきは無能者なり。
罰する要なし、楽にすべし。
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度区域/斥候周回囲/???】
怪しい船から運ばれてきた船客。
岸壁まで真っ直ぐに到着。
桟橋は船専用。
小回りが利かない帆船を埠頭に着けたら座礁する。
風を操る腕次第という面はあるが賭けたりしない。
基準標準というものは最底辺に準拠させるものだ。
それが異世界帝国のスタンダード。
桟橋ならば海岸線からかなり先まで延ばせる。
異世界商船の最大サイズならこれで間に合う。
船橋に近い構造で接舷の衝撃を逃がしやすい。
魔法や奇跡がある世界で何故なのか?
キチンと壊れるから船体を傷めることもない。
壊れやすいからこそ壊さなくて済む物理法則。
後は艀と桟橋を総動員して荷揚げ荷降ろしだ。
もちろん今日は違う。
桟橋は一つ残らず稼働中。
稼働率で言えば200%
予備も全て動かしていた。
その上に交換資材ごと新しい桟橋を造っていたのだが。
運ぶ荷物は何一つなかった。
一週間以内に届くであろう貨客。
タイミングも数もバラバラ。
その陸揚げ演習を繰り返し繰り返し。
桟橋それ自体の移動を重ねる。
補修復旧を模した組立分解。
その全てが動線を意識してる。
実際の荷揚げ時、全てがバラバラに起こるからだ。
何が起きるか判らない。
いつ起きるか判らない。
起きることだけ判ってる。
今、走り回る重石だけ乗せた艀。
今、存在しない仮定の商船たち。
それらを邪魔せずされないように。
ご領主様の物である十万人の人間。
十万人を最短期間で揚陸するため。
諾否も問われぬ一方的な契約。
やれるからやれ。
問われない。
選べない。
告げられただけ。
費用も何もかも必要な事物は全て、ご領主様が持つ。
青龍に訊けること。
これからの天候。
他の港の状況。
決済の確認。
知りたいこと全部。
違約金は全員の命と港街全て。
――――――――――地上から消される。
可能なことは、出来ること。
そう疑わない青龍。
言い訳は出来ない。
全てを与えられてしまった。
皆が一人残らず抵当に入っている。
・・・・・・・・・・賠償など出来ないが。
帝国の労役者送迎計画も利益はあった。
海上輸送も労役の一部。
報酬は無かったが経費は出た。
経費に利益を乗せるのは許される。
青龍の領民帰郷計画は商取引の体裁だ。
選択肢は無いが全てを雇って買う形。
数年分の利潤を一度に稼げるだろう。
ましてや海上交易再開の端緒を開く。
再び金の流れを手に出来る
――――――――――青龍の奢りで。
これで文字通り命賭けでなければ
・・・・・・・・・・・・賭けられたのは宛にもならないこれからではない。
可能性を賭けるならば商人には得意なこと。
現物をやり取りするならば小商人の日常だ。
今日明日の命。
――――――――――商いに最も向いてなかろう。
胸の肉1ポンドを抵当に入れるなど劇作家にしか思い付かない。
観客が商いを知る商人職人だからこそファンタジーを楽しめた。
それがファンタジーで無いとなれば品性などでは遊べはしない。
王侯貴族に騎士などから芝居が下品と蔑まれたのも已矣哉。
敵で無ければ拷問すら受けられない。
奴隷を鞭で打ってくれたりはしない。
無能を一々選別するほど暇じゃない。
やれることをやれないならばやらないということ。
反逆者は街ごと邦ごと皆殺し。
自分はやってるなんて通じない。
青龍は一人一人なぞ観る気がない。
皆に伝えさせた決定は皆のモノ。
実行しないなら不要な物。
―――――――――生きることを許して貰えなくなる。
ただでさえ必要とされていない。
青龍にとっての領民たち。
税も要らない。
労役も邪魔。
助けてはやる。
要らないが目障りではない。
その程度でしかない。
初めて必要とされたかに観えるが、報酬は望むママ。
――――――――――捧げる間もなく与えられる。
奪われないことによる恐怖。
・・・・・・・・・・シスターズなら頷くだろう。
太守領領民の一般心理。
莫大な利益を得るか。
全員で殺されるのか。
だから皆が必死になる。
生殺与奪に意味を感じられない弱者
――――――――――皆殺しにされない不思議。
ベストを尽くさない奴は裏切り者じゃない。
自分を殺そうとしているテロリストた。
皆の為ではなく自分が今、生きる為に。
埠頭の炊き出し係まで、命賭けである。
ベストを尽くしていると証明すること。
港の其処彼処で吊るされてる死体の意味だ。
味方以外は全部敵
――――――――――上に倣うは下の嗜み。
だから彼らは敵なのだろう。
船客は丁寧に岸壁に降ろされた。
敵に対する扱いまでも青龍。
愚か者は、即、殺されるのだが。
生きてる敵には価値がある。
上に倣うは下の嗜み
・・・・・・・・・・豚は肥らせてから喰え。
そして豚を捌く役にベストを尽くす者たちもいる。
船乗りたちは獲物を運ぶ。
運んだ舟を遠ざける。
海上に逃れられない様に。
後は水上から見張る。
与えられた役目の先へ向かう者。
敵は生け捕り。
疑われただけで。
愚者は瞬殺。
疑われたならば。
そう思われた者から吊るされる。
だから。
伝える。
伝わる。
知らなかったでは済まない。
港街の要所々。
都市の参事会。
宿屋に両替商。
口入屋に服屋。
故買屋密売人。
河舟や馬車屋。
通りの誘導役。
外壁の見張り。
城壁門の監視。
出来ることを、出来るだけ。
港街の中に生け捕った豚を見極める為に。
そうした領民を上から観ている青龍に魅せる為に。
自分は生きる許可に相応しいと示す為に。
そんな中の観客なのか俳優なのか。
港で唯一の船客たち。
船客は皆、服を着ていた。
服として仕立てられた物を。
雑多な余り布を巻いた者はいない。
総人口の10%未満ということだ。
仕立て直しは当然として、カスタムメイドもちらほら。
総人口の5%未満辺りということ。
長旅。
初地。
船旅。
荷物を軽くする前提の着たきり衣装。
儀礼用の礼服は当地で買えば良い。
商人が向かう先には必ず人がいる。
商品を運ばないレベルの商人たち。
売り買いした品は運送業が運ぶ物。
移動中だけの装備に特化している。
要所々を補強して隠しを増設。
装具は外套で自然に覆って隠した。
ゲーム中にカードを晒さない。
小さな雑嚢を背負うが貴重品は肌着の中。
手形や有価証券なら奪われ難い。
刺す斬る一つで汚損するからだ。
血塗れの証書は誰にも使えない。
換金出来るのは大商人だからだ。
体面が大金になるから門前払い。
使えない物を狙う馬鹿は少ない。
狙われなければ、お互いの利益。
殺し合いはおろか怪我もしない。
だから肌身近くに仕舞って置く。
だから捨て金は外しやすい処へ。
外し易い指輪に目立つ輝石の類。
ちょっとしたトラブルの解消用。
物盗りに投げる囮か役人へ贈物。
目に付くから要求しやすいのだ。
求めて応じれば仲良くなるもの。
挨拶に贈り物は不変のマナーだ。
目立つ金貨を撒くのもよくやる。
仲良くなりたくない貧乏人相手。
拾い合い奪い合い殺し合い。
貧乏人には両替出来ない。
故買屋が銅貨で買い取るか。
いずれも持ち主にもどる。
街の顔役から戻って来れば、手間賃として銀貨を与える。
見知らぬ街で伝手を造る時の、よくある一般的なやり方。
斯くして平和的に過ごせるだろう。
決まっているから狙われる行商よりも。
得体が知れないことで主導を盗る。
見知らぬ土地へのプロフェッショナル
もちろん非武装の旅人などいない。
一度も使わないのが一般的ではあるが。
野宿遭難に備えたキャンプグッズ。
そして一応は護身用にも使える想定だ。
まあ金と口先で片付けるのが商人。
寝泊まりやイザコザは、なんとかなる。
今その最中での一番人気。
あからさまな。
あからさまにしていいのか。
あきらかな。
フルオーダーメイドがいた。
所謂、特権階級。
女が二人も居たのは珍しい。
階級にではなく。
普通はいない旅人の中の女。
人数じゃなくて。
旅行は男がするものだ。
旅行とは娯楽ではない。
旅行は生還を期する物。
旅行で死ぬと納得する。
一昔前、水杯を交わして旅に出る、その感覚。
性の禁忌が無い異世界。
女だからと狙われない。
女だからと値は付かない。
三つのことはイコールだ。
だが技術は全て中世準拠の世界。
移動は基本的に人力。
馬車や船舟も人体に負担。
それを支えるのは筋力と骨格。
耐えれば重態。
耐えねば死ぬ。
人が故郷を離れぬ理由。
行商ならば短い固定ルート。
邦を越えたりはしない出来ない。
それをするだけの価値があるからこそ、行う。
戦争。
外交。
交易。
探検。
やる方も、やらせる方も、リスクを背負う。
莫大なコストがそもそも費やされる。
費用負担。
機会利益。
信用関係。
それは成否を問わずに費えて消える。
中でも経験豊富で知識のある人命。
役割の向き不向き。
経験と実績。
その上に旅の技術。
数限りある。
それすら小さなコストに過ぎない。
だがリスクを最小化する、一番、大事な部分でもある。
だから旅行と言われるような長距離移動に女は使わない。
悪目立ちしたのは女としては標準的旅装のせいではない。
交易どころか交易路再開がかかる時期に旅する女だから。
しかも二人。
一つの一行に女が二人。
一人分のコストが同じなら男にする。
だから瞳が観えるまでは怪しまれた。
そんな視線を愉しむ眼。
怪しい彼女と彼女の内、最初から悪目立ちしていた方。
舟を降りると剣を受けとる。
剣である。
短くないほう。
普通に目立つ。
隠す気がない。
普通観せない。
隠せば怪しい。
観せれば怖い。
だから観せず。
外套越に示す。
隠してないと。
殺す道具は、無視されない。
他人から。
そも性別だって外套を纏えば相当に隠せたハズだが。
革鎧は体型に合わせる。
凹凸が激しければ目立つ。
視線や関心を愉しむタイプ。
美しい女であれば珍しいことではなく寧ろ自然だか。
刻と場合を弁えない。
いや弁えてるのか。
一番、目立つ瞬間を。




