君臨すれども関知せず/Rex regnat et non gubernat.
【用語】
『保険』
:紀元前より続く公営ギャンブル。ことの成否に対して賭ける。当人は大きく失敗に張り、他人は小さく成功に張る。失敗すれば大きくリターンを独り占め。成功すれば大勢に小さなリターン。確率論は間抜けな素人を騙す飾りであり保険とはま~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ったく関係がない……大数の法則って現実に存在し得ない理論モデルなんですが数学ほど詐欺師が好きな物は無いわけで。ギャンブルなので最終的に胴元だけが利益を得て参加者は一人残らず損をする。保険料以上に保険金を得ようとか最終的な差し引きに時間を掛けて考えてみよう。競馬で家を建てるみたいに夢があると思います。そのファンタジーを換金するのが商売の基本。保険料と言う投げ銭で保険金の魅せ札を購入して利息に匹敵する当座を確保出来ればこれはもう資産と言い張ってもいいのではないだろうか恒常的に掛け捨てを繰り返せば常に資産として計上できるので債権化出来たりする。個人が保険金に担保設定して借金したりするのも同じですね。
つまり、保険自体では絶対に利益は出ないけれど使い方次第で幾らにも出来ますよ、という点が公営ギャンブルの公営たる由縁。
いえギャンブルで家を建てるみたいなものなんですけどね?
独占欲や嫉妬って、解りますか?
「わかる!わかるわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
ならば二股以上はやめませんか?
「そこまでしてあげる気にはならないな~~~~~~~~~~~~~」
判っているだけじゃないですか!
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度領/斥候周回処/???】
怪しい彼女が独り怪しまれる前。
怪しまれる理由になった乗船。
怪しい時期外れの来訪に上乗せ。
怪しまれる理由を増やしてる。
その船が一隻だったこと。
怪しい独航船。
船は単独で航海しない。
たまにある未踏海域の探検船ばかりじゃない。
同じ航路を同じ時期に往き来する定期船も。
情勢変化や予定変更のチャーター船すら。
編成の最初から船団を組むことは多い。
船主は複数の船を持つのが一般的。
船は建造取得の段階から目的が決まっている。
ある荷物をある航路で運ぶと決めてから入手。
持ち船は固まって動く。
分ける場合も数隻単位。
リスクヘッジの観点からシンジケートを組む時もある。
その場合、複数商会の船が単隻ずつ複数航路に別れる。
各航路で同一シンジケートで船団を組んで航路に出る。
でなければ調整し合って船団を組む。
景気変動によるキャンセル。
天候不順による輸送停滞。
海難事故による代換輸送。
船とスケジュールをバラ売りせざるを得ない。
それでも独航は避ける。
近い時期に往き来する船や船団。
スケジュール調整し易い相手を探しだす。
性能や規模が近い船、その船団。
互いに脚を引っ張り合わない相手が基本。
海上交易路の真ん中なら、見つからないことはない。
時間の問題なら時間をかけるだけのこと。
よほどのことが無ければ独航はしない。
それは自殺行為だからだ。
独り旅をしないのと同じ。
もちろん船団を組んでも嵐は起こるだろう。
不注意は防げばいい。
それは一隻でやること。
不幸は防げない。
それに対するのが船団。
不幸が起きた時に助け合う余地を創る。
船の破損。
資材物資の汚損。
漂流や漂着。
予想外のことが起こるのは予測の内。
補修作業に必要な資材に人。
失われた食糧や水など必需品。
僚船が居れば融通しあえる。
一隻で備えれば?
船が生き残る資材で、船が一杯。
だだ生還するだけなら陸で飢え死にする。
それは遠回しの自殺でしかない。
生きてこそ、とは目的と手段の転倒だ。
船の生残性を無視して商品積載。
ギャンブラーと取引するのは金貸しだけ。
賭けを繰り返せば、必ず負ける。
船団ならば全滅することは、まず無い。
経験。
経歴。
知見。
消息が判る仕組みを前提とした保険金。
人の値段を決めるモノ。
金持ちが欲しい物。
金よりめ金を造れる者。
船乗りだけでも回収出来れば次がある。
故に船主は船と一緒に船乗りも掬う。
――――――――――救ったりはしないが。
船乗り。
船。
積み荷。
保険が効かないのは船乗りだけだ。
船が沈まぬ様に船団を組む。
船が沈む様に船団を組む。
落ちてる者を拾うから船が持てる。
嵐の直後に全力航海は出来ない。
洋上。
遭難直後。
同海域に僚船。
救助されることすら期待出来る。
船団を組めば最後の消息までは船主に伝わる。
それは速やかな保険支払いになり船主を救う。
その保険金から遭難者に賞金が懸かるのが通例。
船主のポケットマネーで上乗せするのはマナー。
航路上以外で遭難するのは探検船団だけ。
わざわざ捜索したりはしないが探される。
船が遭難すれば沿岸部の人里に手配書。
漂着すれば見つかることは少なくない。
生きているかどうかは別として。
異世界海運は外洋航海ではなく、沿岸航海。
潮や風の流れが強くて変化し易いのが特徴。
海流や風を避けるポイントは多い。
特定の海域に複数の船が往来する。
船が沈んだ直後の海域。
風避けの無人島辺り。
見張りの目が行くものだ。
それで助かった船乗りも、それなりにいる。
当てがあれば、やる気も起き易い。
船主がなにもせずとも、船乗りは相身互い。
すぐに広まる。
――――――――――広める情報があればこそ。
だから船は船団を組む。
遭難しないために。
救助されるために。
最期を知らせるために。
普通なら。
――――――――――普通でないなら?
つまりはそれがガレー船の懸念。
怪しい彼女が乗っているとバレる前の怪しい船。
ガレー船は港街の参事会が雇う商会の一つの所属。
スクーナー側にもそれは察しが付いているだろう。
まあガレーもスクーナーも地球人類の呼び方だが。
ガレー船の見張り。
港の見張り。
鏡の反射で連絡し合っている。
このスクーナー以外の船は観えていない。
結果としてか意図してかの独航船。
船体は小綺麗で、嵐に会った様子はない。
――――――――――なら、わざとだ。
助け合うことが出来ない船。
船主に敵視される者たち。
船乗りに忌避される者。
保険など有り得ない連中。
海賊が一番有り得る。
なら海賊船としよう。
港街側のガレー船。
港に近付くスクーナー。
あくまでも怪しいという段階。
海賊船だから悪い、訳がない。
ガレー船は船主や船乗りの側に立たない。
港街が雇い主なら自分の利益の次はそれ。
海賊が襲うのは航海中の船だ。
海賊は港を襲ったりはしない。
陸上には海上と桁違いに人が居る。
港街なら尚のこと。
海賊慣れした船員。
荒くれ揃いの人足。
連中を束ねるギルドと手下。
街自体の衛兵も出てくる可能性がある。
これを襲うなら軍が必要だ。
それはもう戦であり海賊の範疇外の話。
勝負負にならなきゃやる奴らはいない。
一人なら馬鹿をやっても集団なら別だ。
ここでも働く真理は、自力救済。
日本語を知ってるつもりなアレが鳴いてる自己責任とは意味が違うというか意味の有り無しが違う。
これが組織だと一人ですらやらない馬鹿を強行した挙げ句に責任転嫁しながらも途中で止められない責任問題がこわいから
――――――――――なんてことが普通によくある真っ最中。
地球人類史上で言えば組織の概念が生じてからの話なので唐代末から19世紀までかなりバラバラなのだが異世界はそれ以前
・・・・・・・・賊と言われるレベルなら、理性が働く。
普段なら。
さらに海賊も船なので港が要る。
補給や補修に休養。
盗品故買に情報交換。
大きな港は紛れ込む余地がある。
歓迎しない柄の悪い客。
駆除する価値が無い敵。
紛れ込まない海賊ならば、危険。
大抵は邪魔という程度。
それは排除されるだけ。
海賊が目立つ港に寄りたい商人はいない。
外聞に障れば商いに忌避される。
それは海賊にも判ることだ。
だから目立つな静かにしていろ。
結局、港にとっての海賊は客でしかない。
逆に言えば、海賊の立ち位置となる。
海賊は船乗りの敵。
船乗りは港の取引先。
海賊は港を襲えない。
味方の敵は敵に非ず。
味方でないだけだ。
普段なら。
――――――――――今はどうか。
太守領港街の状況は広く知られている。
伝聞で、だ。
暫くの間だけ港が空であること。
元々が豊かな交易港であること。
つまり、は。
出入りする船の見聞きが無くなった分、港の哨戒能力は落ちた。
出入りする船がいないから岸壁から港外まで航路は、がら空き。
出入りする船に乗っていた船員の分、港を守る戦力が激減した。
そして普段なら多くの船に遮られる岸壁の倉庫には、大量の物質が滞納されている。
前太守の資産であった貴金属に証書。
それが青龍の資産と理解出来る海賊が居るのかどうか。
大陸沿岸部南方で高騰している穀物。
船上の海賊には、既に暴落開始と聴こえているのやら。
青龍の海上封鎖で海賊船も閉じ込められた。
確たる母港を持たない海賊たち。
金とコネが尽きれば出航するしかない。
相当数が帰って来なかった。
確たる見通しが立たない日々。
山賊に鞍替えする者も多かった。
そして青龍の出航許可章は、各地の港に泊まる船、全てに等しく与えられた。
海賊船は除外すべき
・・・・・・・・・・思った者もいたが言えなかった。
そもそも決定から入った青龍の許可章。
領民の都合など最初から考慮されない。
税にも労役にも権益にも関心の無い支配者。
そもそも青龍が区別しているのだろうか。
山賊。
海賊。
農民。
商人。
他、善悪強弱種族所属に過去未来。
――――――――――誰にも自信がなかった。
それなら安全策。
支配者が見分ける気がない。
それが前提となる。
海賊。
商船。
港の中。
つまり港街のガレー船他と一蓮托生。
どちらも港の領民と観なされる。
青龍に逆らわせてはならない。
その可能性は少ないが、ゼロでなければ危険は同じ。
いっそ何かする前に沈めた方が穏便だろうが。
それを繰り返せば海上交易が萎縮しかねない。
港街と船主たちの利益は、まあ、置くとして。
青龍が交易再開を目論んでいる。
――――――――――命じられなくとも、観てとれる。
ならばそれこそは最期の手段。
最善を尽くせば殺されない。
かもしれないし違うかもだが。
青龍の目的に沿うしかない。
一人一人か殺されぬようにする。
・・・・・・・・・それが港街や船主たちの利益と一致。
スクーナーは海賊かもしれないが補給に立ち寄っただけかもしれない。
食い詰めて手隙の港の倉庫を狙ったかもしれないが一目で無謀を悟ったろう。
ならばスクーナーは海賊ではなく危険な企みも無かったことにしよう。
それが事実なら手間がかからない。
それを事実にするなら手間をかける。
その日その刻に港を仕切った者たちは、そう考えた。
――――――――――鏡の信号が飛び交う。
スクーナーに向かったガレー船団には戦闘禁止と包囲しての停船強制。
他のガレー船には外海よりに警戒線と阻止線を兼ねたライン構築。
港街全体を覆う十万人揚陸輸送演習には他一切の変更無しを念押し。
港街には黒旗団、青龍の出城が居るが。
今に至るも何もしようとしてはいない。
青龍に隠すことはないが伝える必要も、また無い。
元より観られて知られている。
青龍は無駄が嫌いだ。
領民のことは領民の間で片付けさせるのが、流儀。
助言は有力者を経由してくる。
青龍は罰のみが直接。
いずれにせよ同じ。
殺されない間は正しい。
生きるなら正解だ。
それは、許されること。




