前史/次は失敗しません。
【登場人物/三人称】
地球側呼称《合衆国大統領》
現地側呼称《青龍の大元帥》
?歳/女性
:駐日大使、国連大使兼任。
女性初の合衆国軍統合参謀本部議長で次期大統領候補と目されていたが、祖父以来の縁がある日本へ大使として赴任。その際に家族も連れてきている。
異世界転移後、緊急時の継承順位に従い大統領に就任し在日米軍並び領域の軍を掌握。在日合衆国市民の統率者となる。
代々続く軍人の家系。
娘は文民(弁護士)になったが、孫娘は軍務(空軍F-16パイロット/三沢基地所属)についている。
普段から合衆国陸軍将官の礼服を身にまとう。
「国を護る」とは「恥ずかしい」ことだ。
無能の告白。
愚鈍の証明。
犠牲の罪過。
やられたらやりかえす?
殺られたら終わりだろう。
殺られる前に殺るべきだ。
殺る力が無いなら戦るな。
畢竟、軍備とは戦争の為にある。
何時。
何処で。
どうやって。
誰から殺す?
何を得るか?
戦争の損益分岐点。
平和との収支比較。
そう。
平和の為の戦争など有り得ない。
利益の為の戦争と利益の為の平和があり、どちらが得か得だったのかの比較を続け次回は次回もしくじらないようにすれば善い。
戦争は儲かる。
――――――――――さもなくば失敗だ。
平和は儲かる。
――――――――――さもなくば失敗だ。
名誉は勝利が生む。
逆はない!
勝利無くば憐憫だ。
兵士と同盟国兵士。
貴様らに護れなぞと命じない。
Memorial Dayなぞ要らん。
誰かの盾になれ
・・・・・・・・・・なぞと命じる穀潰しではない。
司令官として命ず。
護るほどに暇なら殺せ!
市民と同盟国諸兄。
貴殿らに護られる危険はない。
慰霊碑慰霊祭なぞもう要らん。
仇などとらない
・・・・・・・・・・敵の卑怯を罵る無能ではない。
指導者として命ず。
我々が造る平和を楽しみたまえ。
今回こそ勝つ!
《合衆国新大統領による異世界転移後初の一般教書演説より抜粋》
【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺領/低要度・高危険度領/斥候周回処/???】
青龍は海の利用を許した。
異世界側から観て、おかしな話ではない。
私有財産の遥か以前に共同体の財産は成立した。
現代でさえ漁業権なる摩訶不思議な物があるくらい。
日本の場合は江戸時代発祥。
海は公儀、徳川家の領地とする。
管理は代官や各藩へ委託とする。
利用と管理実務は領民へ委ねる。
必要に応じて収穫を納めさせる。
異世界もだいたいこの考え。
ただ海の通行権まで支配されたのは、史上初。
戦の最中に立ち入り近寄りを禁じることはある。
だが全く戦いが起きていないのだから違うだろう。
ましてや貢納も賦役もなし。
と言うより、問われもしない。
漁獲物は相場で買い上げ。
船も港も即金で雇い上げ。
特段なにも問われずに、下賜された航海許可印章。
特段の説明はないが、青龍が気に留めない範囲。
それは異世界の船乗り全てに知らされた。
既存の海路なら沈められない。
海路を外れてしまえば仕方ない。
遭難することは必ずあること。
それが怖い船乗り船主はいない。
それは船主たちが確かめた。
船長を交えて青龍の海龍使いへ。
ここまでは舟と同じこと。
青龍が許すのはここまで。
そこから先は領民の問題。
船は海だけを視る訳にはいかない。
船の目的は、ほぼ全て交易にある。
船を出した先がどうなっているのか。
海路の先が無ければ交易にならない。
港が無ければ補給も整備も積み降ろしも出来ない。
港街が無ければ港自体を維持することが出来ない。
畑、鉱山、工房、街道、内陸の街々は、在るのか。
そも、港に運び込まれるだけの生産物があるのか。
そもそも、商人が居なければ取引のしようがない。
だから大半の船は港に待機していた。
だから続々と船が出航していった。
船主が。
船主たちが。
個別に。
共同で。
既知の海路へ選抜された船と人を送り出す。
少数精鋭で行われる交易路の確認再建事業。
既知の航路を辿り港や街の物理的存在を確認。
入港か上陸して港や街の情勢を含め機能確認。
大陸東部沿岸一帯でおこなわれていること。
海運の再開はまだまだ先だが準備は進んでいる。
船が海路を行き交い初めているなら異邦の船も来る。
そもそも主要海路の北端にある港街なのだから。
であれば、彼女の怪しさ、三分一は消えたが。
ではなかったので、怪しい彼女は100%疑われた。
彼女の、いや、彼女が降りてきた怪しい船。
それはとても目立つ。
縦帆三本マストの帆船。
地球で言えばスクーナー。
沿岸航海のみの異世界では、ありふれた型。
地球と等しい惑星。
春から夏に向かう季節。
北へ向かう風と潮。
陸の形に乱される気候。
風潮が強まる季節。
乱され度合いも相応に。
全体の周期はある。
大洋と違い変数が多い。
風は山に潮は岸に。
強弱変化に幅が大きい。
だからスクーナー型なのだろう。
逆風を含めて風を往なし易い縦帆。
舵を含めた操作性で小回りが利く。
必須運用人数が少ない故の生残性。
海難事故を防ぎ易く、ダメージコントロールがし易い。
だからこそ大陸沿岸部一帯で広く使われている。
怪しい彼女の船も年季が入っているのがわかる。
乗員の練度が高く対応力も高い。
船の減価償却が進み損切り可能。
半ば探索探検染みた任務に最適。
まあ、この状況なら、誰もが思い付く選択。
それこそ誰もが疑わない理由。
そんな船それ自体が怪しい理由。
ここ太守領の特異性。
青龍が船を全て借り上げた。
全船雇われた。
残った港をなにもかも使う。
無傷の船団。
残りの水夫。
生きてる人足。
海運商の伝手と経験。
港湾機能の全てが総動員中。
太守領港街の船は全て南へ向けて出航が終わり。
何がナニやら解らない内に船主海商たちが動員。
それだけならそれだけだった。
それだけではない理由。
青龍自体が参加する大交易。
邪魔な領民の強制帰邦。
同時に海上交易を再開する。
沿岸部流通の回復の為。
大陸沿岸部領民の生活維持。
放って置いて良い様に。
戦争の邪魔をさせたくない。
皆殺しにするより楽だ。
その心積もりは民にも判る。
魔法で結ばれた青龍たち。
その青龍に支配される大陸。
少なくとも沿岸の港全て。
全てが半月ほどで連動した。
青龍の命令で青龍勢力下の港、つまり異世界大陸沿岸部の商港の全てに輸送された、太守領港街の有力者。
通商海路で一通り名の通った者ばかり。
個々に得意な伝手が有る異邦へと送る。
その移動させられ速度は帆船の比ではない。
彼らは青龍の注文を盾に各地を巡らされる。
青龍が都市ごと破砕する所業を知られている地域。
誰もが熱心に青龍統治下の邦の情勢を訊く。
結果として太守領港街の状況は伝えられた。
通商路の確認の為にリスクとコストをかける異邦の商人。
既に知られた北端の太守領の港街までは行く必要がない。
だから異邦から船は来なかった。
それがここ一週間ほどの出来事。
だから港街に船は一隻もいない。
そこに一隻だけ入港して来た船。
怪しい彼女が乗っていた。
それが真昼の幽霊船や宝船じゃなくても目立つ。
異世界には幽霊や神様の概念は無いのだけれど。
もちろん目立たないように近づけはしなかっただろう。
船が出払っていても、太守領港街の港は機能していた。
見張りと言うより見守り。
警戒と言うより誘導。
高台にも沖合いにも配置。
誰も気を抜くことが出来ないくらいに臨戦態勢。
むしろ莫大な貨物の荷降ろしに備え全員訓練中。
農民十万人を速やかに揚陸しなければならない。
生かしたままで港に揚げて街に入れ村に引渡す。
食わせて飲ませて排泄させて歩かせ走らせ脅す。
その前に多数の船を入港出航させねばならない。
元々、港街を拠点にしている船ばかりじゃない。
勝手を知らずに南から集められる船々の大群だ。
聖都で積んだ領民を降ろし太守領の小麦を積む。
船長士官以下出来るだけ交代させずに強行する。
だが船員全員に無理強いすれば船が機能すまい。
船を洗い補修し水と糧食を積み船員も入換える。
航海は必ず予定通りにはならない、絶対に、だ。
全ての計画は在るが七割がアドリブとなってる。
想像が付かない混乱が起きるとだけ想像が付く。
最初の船団か船かが戻って来るまで10日以内。
――――――――――やれ――――――――――
そう命じられ全ての船が出払ってから、ずっと港中が演習を繰り返している。
人足たちは仮想の領民積み降ろし。
艀と漕ぎ舟は仮定の船を目指し港内を往復。
誘導を担う快速船、ガレー船のような物、が港外を走り回る。
遅滞が生じれば大陸中、港街の大陸は沿岸部だけだが、に恥を晒す。
それだけでも信用問題となり商いが立ち居か無くなるだろう。
だが商いを心配する者は居ない。
心配する余裕が無いからだ。
港も街も帰って来た領民も同じ。
恥をかく間もなく殺される。
遅滞が生じることは間違いない。
殺されない範囲が判らない。
青龍が気に留めない範囲が目標。
それが何処までか解らない。
だが、間違いなく正解は、ある。
生き残れた者だけにわかる。
だから答えに向けて努めて休む。
耐えられない者は吊るした。
命じた当の、ご領主様が飛龍から観降ろしている最中も、誰もが畏れて気に留めない。
それが正しい。
だから殺されてない。
それが港街の日常となった。
――――――――――そこに一隻の船がやって来て、怪しい彼女も乗っていた。
怪しい船。
・・・・・・・・・・最初からそれである。
それこそ一週間か10日後であれば気にも留められなかった。
見知らぬ船で港が埋まり大混乱が起きていただろうからだ。
だが今この時だからこそ港中から注目されることになった。
なんでわざわざこのタイミングで
――――――――――そう感じた者が、地球人類にも異世界種族にも、何人か居たが少数派。
皆が一目視て、視線を逸らす。
・・・・・・・・大半の者たちは、自分の役目ではなく、別役が対応すると知っている。
誰が。
どうする。
どうできる。
それと判れば無視するくらいには、現実的な異世界種族。
余計な気を散らせば青龍の気に障ることをに為るだろう。
巻き添えで殺されることを畏れる周囲の皆から殺される。
だから役を担った者たちは必死に考えた。
役割が必死なのではなく、評価が必死。
ご領主様に懈怠を断じられて殺される前に不興を畏れた皆に吊るされ埋められて居なかったことにされる。
役割自体は慣れている
――――――――――あの船は何か?
平凡な船種。
だから目立つ。
見知らぬ紋章。
識別帳を視ずとも判る。
その船が掲げるのは信号旗のみ。
我は誰の敵でも味方でもない。
そう主張していることにはなる。
当事者の言い分など参考にしかならないが。
視て。
調べ。
訊く。
その為に沖合いで演習していた船が向かう。
向かわない、という手段もあったが。
水先案内無しに港に入れるかどうか。
それを視るより早めに抑えるらしい。
港が空であるだけに選ぶほどに航路もない。
昼間の海風。
海から陸へ。
縦帆で制御。
船脚を落としてガレー船を迎えいれる構え。
だが留まりはしない。
怪しい船も怪しんでいる。
臨戦態勢ということ。
ますます怪しい。
出迎えるガレー船は港の船。
港の仕事を請け負う商会。
商会の紋章より港の紋章。
港街を訪れ知らぬ訳がない。
――――――――――海賊か?――――――――――
少なからぬ者が疑った。
そして、青龍の感覚を、皆が感じている。
―――――――――味方以外は殺す―――――――――




