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完全侵略マニュアル/あなたの為の侵略戦争  作者: C
第十九章「帰郷作戦」

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857/1003

寒い土地から帰って来た女。

【用語】


『撰銭令』

:粗悪で何の価値もない鐚銭を無理矢理にも流通させるために権力をもって若さ、もとい「良貨を撰ぶことを禁止する」こと。そうは言っても要らない物は要らないのであり、魅力が最初から無い者は避けられるのは()()()()()同じこと。仕方がないから皆が欲しがる良貨と誰もが忌避する悪貨の交換を強要し、交換比率を定めたりしたが何が起きなかったのか御察し。闇ドル買いの如く公定レートと実勢レートは駆け離れて追いつけない。金券屋を一巡りすれば日本円より高い円が溢れてます、ここ数年。そうなれば良貨は闇経済に吸収され公に出回るのは悪貨ばかり……もはや闇経済の方が実体経済で公の方は書類上のファンタジー。これをグレシャムの法則と言います。あ、これソビエト(スターリニズム)経済のパターンだ。政府の要請に従って貧乏になるか間抜けを嗤って豊かに暮らすか。年金で暮らせなかった年金生活者とノーメンクラトゥーラ。マスクを付けるか付けないか。道徳倫理禁忌を公定レートに例えれば、実勢レートがどうなっているのか推してしるべし。

……アムネスティが売春公認へ転じた理由。



「軍隊も無しに平和を護れるというならば、その方法を、教えてください」


(含み笑いをしながら)


今は無き巨大掲示板の要領で応えれば、斯くありましょうか?


「軍隊が平和を護った実例があるならば教えてください」


質問に質問で返すな?

いや、まったく。


(眉間を抑える)


これが口喧嘩の作法だそうで。

論破と呼ばれています。


(肩を竦める)


では、答えます。


平和を護る、極、基本的方法。


(聴衆を見回す)


経済交流です。

売り買いすること。


(人差し指をあげた)


権益を護ると称する押売じゃありませんよ?


(肩を大袈裟に竦める)


例えばアメリカとソビエト。

なぜ代理戦争しかしなかったのでしょうか?

はい、答え。


(帽子から取り出すジェスチャー)


アメリカの小麦でソビエトが食っていたからです。

支払いはソビエトの資源や政治的譲歩ですね。

もちろんアメリカの小麦農家はソビエトを支えて生活していた。


(拍手のジェスチャー)


いやいや。

両国がホットラインを設ける訳ですよ。

偶発戦争で飢え死にしたりさせたりする訳にはいかないじゃないですか。

お互いの命がかかっていれば、言われなくてもしないものです。


(両腕を組んで盛んに頷く)


ああ、なんでも「米軍が駐留していたから日本は平和だった」んだそうですよ。


(人差し指を口に当て内緒のジェスチャー)


まあ、答えは義務教育の教科書に載ってます。

なんでしたら適当な本で一次二次の世界大戦を調べてみましょう。


(両腕を拡げてアピール)


「戦争は何故おこったのか」

実例が載ってます。

面白いですよ。


ああ、そういえば「軍隊が平和を護った」実例についても()()()()()()()()


何処かに実例が紹介されている、のかも知れませんが寡聞にして読んだことがありません。


(含み笑い)


さて。

話を元にもどしましょう。


事実と証を立てられなければ、それは「間違い」ということですよね。

事実を証明できたのならば、それは正しいことになります。


ならば?

これは大変な問題です!


(中空を拳で叩く)


義務教育は何一つ身に付かなくても修了出来てしまうんです!


(カメラ目線)


《東京都渋谷区・代々木神園町・神南二丁目/代々木公園反戦平和運動スピーチ》




【異世界大陸北東部/帝国辺境領/回復予定領/割譲可能領/作戦周辺地方/低要度・高危険度/斥候周回点/???】


彼女は怪しかった。


慣れれば過去形。

今は現在進行形。


彼女は怪しまれる。


その行動が。

その格好が。

その連れが。


皆の注目を集めてしまう。


「ボク♪︎可愛いから♪︎♪︎♪︎」


まあ、そうなのだが。

周囲の忠告に対する常の応え。


女盛りの十代後半(肉体的最盛期)

ただ独り彷徨いても眼を惹く。


異世界の基準は現代地球の非先進国(地球人類の大半)

内心が知れた当事者(老醜)の強弁は考慮されない。

非科学的な宗教と同様に禁忌もなし。

人為的に値を上げる為に収穫を(すて)はしない。


悪貨は良貨を駆逐する。

良貨があっては値が付かない。

悪貨の為に良貨を駆逐。


鐚銭を手に取らせる為に行う撰銭令。

麻薬を高額商品たらしめる麻薬取締。

老醜を売るために若さを廃棄させる。


必要に拠らない生産に置いてはよく在ること。

先進たらしめる訳ではないが、先進国特有の制度。


性の禁忌(出荷制限)

学校制度(ゴミ箱)

児童保護(間引き)


神も仏も迷信一般が存在しない異世界に縁がない。

放任ならば盛りとされるのは自然条件に由る。


人為的に介入出来ない話だけではない。

介入し螺曲げる(ねじまげる)向きもあるが。

それはさておき。


優れた土台(自然条件)にこそ載せられる成長過程。

基礎条件に上乗せし得る成果。

それこそが真髄。


自然が限界を極めている最中の最高値。


鍛えられ過ぎない肢体。

暮らし向き相応の肌艶。


母から受け継いだ髪。

父から受け継いだ瞳。


氏族(血族)による品種改良。

美形同士が結ばれる。


健康で素直ではない子。

合目的交配の繰り返し。


とはいえ貴族なら、そうだろう。

途中で没落しなければ、だが。


氏族(血族)は地位と財産を持つ。

地位と財産を護るための血族(氏族)か。

護るべき物の為に優秀な者を求める。


優れた力を持つ者は概ね美しい。

女であれ男であれ異性を惹き付ける。


距離の近さは関係の深さ。

交配する可能性が飛躍的に高まる。


肉体的な美醜(特徴)は遺伝する。

自然に富裕層の容姿は整っていく。


ましてやここ七十年余り。

世界を支配していた帝国の在り方。


動物の品種改良が大好き。

文字通り、ありとあらゆる動物の。


取り分け数が多い人間種。

サンプル数が多い為に資料も多い。


トライアル&エラーの数。

それは失敗作以上の成功作を生む。


帝国は特に秘密にしない。

実行できる者が実行するのは当然。


ましてや誰もが望んでる。

見聞きできる範囲、世界のすべて。


複数の組み合わせで受胎。

可能性は試し終われば経路となす。


繰り返し繰り返し、反復。

繰り返しさえすれば誰でも出来る。


鳥でも牛でも馬でも人も。

異世界では人成らざる者も、だが。


地球のような因習はない。

豊かさが美しさと強さを生むなら。


地球以上の成果があった。

肉体的に秀でれば後は多世界共通。


豊かさが可能にする教育。

豊かさが生み出す見倣うべき所作。


豊かさに強いられる姿勢。

豊かであるために必要な起居振舞。


それは人格以前に身に染みる。

誰が視ても判るくらいに。


表情仕草一つで美しいから可愛いまで自由自在。

可愛い、を選択しているのは周囲の期待の為か。

基盤の好さは無限のバリエーションを生み出す。


ただその階層で在るだけでコレ。

選ぶ余地のない、在る姿。


上に立つ者の在り方は選ばれる。

支配される者による期待(選択)


それを体現している彼女の容姿。

支配するために、在る姿。


当たり前なほどには整っている。

その中で悪目立ちする程度。

そして庶民の間で過ごすつもり。


支配させる者たちは支配する者を受け入れない(崇め奉る)


どうしようもない。

ただ場所にもよる。


富裕層と庶民が行き交う処なら。


元々落差が大きい。

凹凸が目立ち難い。


そんな場所は多くはないが在る。


導入としては佳し。

慣れるまでの仮宿。


先ずは馴染み方に慣れる所から。


よって行動と格好と連れを直せば目立たないと繰り返し言われているが、手遅れである。


彼女は船でやって来た。

それは可笑しくはない。


港街に船でやって来た、だけだ。


彼女は他の邦から来た。

港街で当たり前のこと。


この街は大航路が終点。

古くは王国時代からだ。


各国へ小麦を輸出する。

各国から特産品を輸入。


黒字分は貴金属や債権に換えられる。

各国が各邦へと変わっても、港街だ。

むしろ港街だけは他邦の者が出入る。


これが農村部なら余所者を許容しないだろう。


役割と利害関係が安定しているからだ。

希人()以外が在るだけで再編成が必要だ。


それが生むコスト。

それが生むメリット。

それが測れなければ、リスクでしかない。

そして初見では利害得失が視えやしない。


港街とは真逆。


港は船で成り立つ。

船は賭博そのもの。


魚がどれだけ獲れるのか?

小麦が幾らで売れるのか?


獲れ過ぎて値が付かない。

不渡り手形を掴まされる。

嵐、戦、海賊、反乱等々。

船が沈めばそれで終わり。


それでも潰れぬ大資本は、常に潰せる使い捨てに出来る、手札を継ぎ足し続けることで、資本足り得る。


伝手が無い余所者、歓迎。

(しがらみ)を持てない個人、歓迎。

縁も縁もない他者、歓迎。


そんな都合が良い連中とは、大抵、外部から現れる者だ。

――――――――――人はカード。


数が無ければ役が出来ない。

八百長以外の賭けは確率論。

数を張らねばアタリは無い。


港街は新顔が多ければ多いほど、豊かで在り豊かに成る。

――――――――――常であれば。


だから彼女が悪目立ち。

・・・・・・・・・・常ではなかったからだ。


彼女たちが船を降りる一ヶ月半前、内陸から港へ現れた。

――――――――――常を壊して。


二ヶ月半前に海から上がったソレ。


大洋の向う側。

何も無いはずの果てから至る者。

世界は覆った。


あらゆる船が帰って来なくなる。

海が塞がれた。

世界帝国が駆逐されてしまった。


何も判らない。


世界の港が切り離さてしまった。

二ヶ月半前だ。


強大な海龍が港沖合いに現れた。

一ヶ月半前だ。


港街は半壊し、住民も半減した。

同時に起きた。


港と船は無事だが市街地が全壊。

街が支える港。


船乗り。

人足。

船主。


船を出し入れ。

貨客を積み下ろし。

帳簿を付ける。


彼らだけでは港は動かない。


食べる。

眠る。

遊ぶ。


彼らの生活を支える人手が必要だ。

――――――――――壊れた。


これだけの被害を受ければ、港街が無くなっても可笑しくはなかった。


そもそも街が半壊する前から海運が途絶えている。


いや船を出しても帰ってこない。

たかだか一ヶ月のことではある。

人をすくませるには十分だろう。


過去百年の栄光より目の前の廃墟。

再開されるかも判らない海運の為に都市一つを復旧する?

先が見えないことによる信用収縮。


その上に降りかかった街の壊滅。


金回りは実質で判り難い。

破壊は形式だが解り易い。


誰もが身を竦めれば社会は死ぬ。


逃げず。

護らず。

争わず。


様子見(怯え)は、いずれ力尽きる暴動(ヒステリー)より恐ろしい。


単純で。

簡単で。

容易い。


様子見(逃避)だけなら死ぬまで、死んでも続けられる。


実例は多い。

戦火や災害で失われた都市機能を復旧する前に、都市自体を放棄する。

――――――――――()()ではなく()()か。


意図的に行われることは、まず無い。


目端が利く者から逃げる。

利権が在る者は逃げ遅れる。

行く先が無い者すら足掻ける。


誰独り()()とは為さず、右往左往。

自然発生的に進んでいく損切り。


それが何かを救わないにせよ、ある。


だからそうはならなかった。

意図的に行われなかった。


港街が致命傷を負わされている最中に、命じられていた。

―――――――――なんとかしろ―――――――――





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