愚者の前進

臆病ゆえに裏切れず。

愚かさゆえに見きれずに。

鈍さのあまり突きすすむ。

それとなってはならねども。

あれをかつがずおれやせぬ。

ともに死にたくなかれども。

さきに死ぬのはたえられぬ。

おいて死ぬのはつらけれど。

おってこられて追いかえす。

わがきみわがぬしわがあるじ。

おおきみよのきみほしのぬし。

いずこへいかねどきたりしは。

みなをくらうていきなされ。

―――――――――――――――異世界大陸東北部のわらべ歌

《国際連合教育科学文化機関：ＵＮＥＳＣＯ/異世界大陸収集資料館所蔵》

【太守領辺境村の集落に続く農道上/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺は集落の入り口で、黒旗団の動きを待っていた。

はてさて、あの集落はどっちらでしょうか？

野盗の拠点。

野盗の獲物。

とりあえず囲んで、孤立させ、さて、そこからだね。

「ん？」

集落の中から走り出る人影。おお！ついにコミュニケーションが！

「んっだ！コラー！」

おお！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・またか。

山刀と鉈とトゲトゲを付けた棍棒を持つ三人。ここはチンピラの産地か！命惜しくないんか

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・銃声なんかわからんか。

車両もあそこからは見えないしな。

この様子じゃ仲間が死んだ事に気がついてないな。

枯れ野に沈み、轢かれてシミになったしな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・慣れてる自分が怖い。

悲鳴。

元カノが捕虜、ってか、捕まえた野盗を蹴り倒した。

三人が激昂。

俺は思い出し、ガバメントの弾倉交換。

元カノが三人に手を振り、にこやかに嗤いながら、連中に歩み寄った。一応、中身を知らなきゃ、可愛い女で通る、元カノに笑いかけられ、野盗は困惑顔。

・・・・・・・・・・・連中には何が見えてるやら。

俺ばかり睨んでるな。

その女は危険だぞ～。

「殺すな」

「ん」

銃声。

脚の甲を撃ち抜かれた二人が転がり、山刀を持っていた男は棒立ち。

そのまま脚をはらわれた。

悲鳴。

地を付した男の両手の平を、元カノの軍靴が踏み抜いたのだ。

【太守領辺境村の集落に続く農道上/青龍の貴族の後】

あたしは全く動きがない集落に、苛立たしく視線を走らせた。

常識で考えて、急ぐはずだ。

軍隊に喧嘩を売り、包囲されたのだから。最初こそ、あたしたちはそれらしくみせなかったから仕方ない。でも、この段階で気がつかない筈がない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あたしの耳に怯えた声が聞こえる。

制止する声は、なし。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ。

降伏しなければ、攻撃されて当たり前なのに。青龍がノンビリしているのは、強いから。

帝国の竜騎士ならとっくに村を焼いている。

【太守領辺境村の集落に続く農道上/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

「どっする～」

戦場じゃないから、ダレる元カノ。俺が決定すんだよな。軍政・黒旗団混成部隊の名門上の指揮官だから。

配置は完了。

してしまったから、次のステップに移行できる。

移行しないといけない。

集落を囲む柵に、農道にそった出入り口。両方ふさいだ。

ドワーフ６名が柵に正対。柵から２００ｍ程度離れ、互いに視認出来る距離を取っている。

Ｍ-１３４ミニガンの発砲音。

「試射」

と元カノ。

「落としたからね」

車から落ちた、ってか飛び降りたドワーフが背負っていたミニガン。小型バルカン砲だけに、銃ってより機械だからな。

あの程度の衝撃なら許容範囲だろうが、念のため、か。

極短く、１２回。

一人二丁？

「使うのは一つ。大抵は」

制圧力より持続力。まあ、単身騎馬隊を壊滅させる為に二丁連射したやつがいましたが。さすがに、普段はやらんか。

一応撃てる状態で、ひとつはそばに置いておくらしい。

突撃する時は、弾帯を外して置いておく。

発信器付きだから、回収は簡単だ。

ミニガンと弾帯でミニタンクだかミニ弾薬庫になったドワーフ達。

連中が柵の外から外周を囲み、集落の出入り口を塞ぐのがＨＭＭＷＶ。

Ｍ-２重機関銃。Ｍｋ．１９自動擲弾銃。

あくまでも戦場ではないから、ＨＭＭＷＶの屋根まで４０ｍｍ擲弾を山盛り。ドワーフ達は、奇襲を警戒して包囲網の更に外周にも視線を走らせながら、集落を見ている。

哨戒気球に偵察ユニット、後方の指揮車両の支援からすれば、目視警戒は不要だが。戦場の癖なんだろう。連中なら集落内部に千人いても、殲滅に３０分かかるまい。

敵兵が一人、いる、かもしれない。

ならば街ごと数万の市民ごと殺し尽くす。

確認する必要はない。

それが――――――――――――――――――――――――――――――俺たち、国連軍。

交戦規定上は、問題ない、んだよな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気分がね。

だが、どうする。

帯に短しタスキに長し。

皆殺しには十分だが、選別には足りない。

集落は野盗の巣かもしれない。

そうじゃなくても、非戦闘員の中に野盗やシンパが混じっているかもしれない。

集落は単に襲われていただけかもしれない。

そして、今殺して捕まえたやつらで野盗は打ち止めかもしれない。

敵がいる？いない？

「ウチらがやるから、どっちでもいーよ」

ここが問題だよな。

港街の魔法使いならば住民の感情を読み取れる。自白剤の処方箋は、多種多様な検証が繰り返されて確立している。

それで敵味方を識別？大人だけみても百人近く。自白剤はもちろん、魔法だって手間暇かけて接近して時間をかけないと意味がない。

接近すれば近代兵器の優位はない。ドワーフがいくら堅くても、不死身じゃない。

遠くから皆殺しなら、安全だ。

だが、命じるのが俺でも手を汚すのは元カノだ。

集落に乗り込んで野盗を識別するなら犠牲を最小化できる、かもしれない。

死ぬのは、危険を犯すのは、元カノとドワーフたちだ。

しかも、いずれにしたって、子供たちが見てる。

捕虜の死にぞこないから聞き出すか？

無理・・・・・・・即時正直に答えが得られるならいいが。

保護した女性から・・・・・・・・・できっか！！

時間をかけて様子見？

長くかけるには、包囲する人数が不足。

増援の当てはない。

曹長以下、軍政部隊は敢えて距離を置かせている。

Ｃｏｌｏｒｆｕｌやアムネスティの民間人護衛があるから、これ以上の戦力は出せない。

選抜歩兵の佐藤と芝を抽出したのも、あちらが手薄で、かなり心配だ。

神父は肝が座っているし、この距離なら護衛艦や太守府からヘリの支援も望めるが。戦力分散もいいところだ。

太守府への帰還ついでの農村巡察。だから、民間人同行で移動。だから、戦闘部隊と現地代表だけで巡察作戦。

これもよーく、考えると、目標がまとまってない。

うん。

最初の作戦構想が間違ってたんだな。

俺の。

戦力も作戦目的も絞り込めてない。

反省しよう。

後で。

今。

どうするか。

【太守領辺境村の集落に続く農道上/青龍の貴族の後】

あたしの耳に響く、怯えに戸惑い。

集落の中は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメね。

大陸中央なら、とっくに村人全員が集まり平伏している。食糧も女も差し出して、生き残る為に振る舞う。それが戦争になれた、一般的な諸国、民の常識。

この邦の連中は、侵略軍に出会った経験が、ない。

十年前は、国の頭が斬り落とされ、村々への布告は参事会が行った。その後の徴税や赤目収集、残党狩りも参事会が間に入っていた。

村人は、自分たちで判断した事がない。

命令されないと、わからない。

集落の中からは・・・・・・・・脅したり、命じたり、武器を構えたり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・野盗らしき音がしない。

それどころか、相談する声すらしない。

息を潜め、互いを伺う身じろぎの音。

たぶん、この村は野盗の獲物。拠点ではない、はず。だから、危険はあっても、敵はいないだろう。

あたしの力なら、何とでもなる。

あの娘は青龍の貴族が保護してくれる。

だから、あたしが乗り込んで――――――――――え

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・！！！！！！！！！！

【太守領辺境村の集落の入り口/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺は、集落に入った。

入り口付近は、ちょっとした広場。

結局、誰かが村人だか、野盗の残党だかに呼びかけないといけない。

元カノは外で、全体の指揮。

ドワーフは現状、敵性拠点扱いとなる集落の包囲。

佐藤と芝はシスターズの護衛。

・・・・・・・・・・・・・・・はいはい、いらない子ですよ、俺は。

戦力として価値がなく、いてもいなくても構わず、積極的安全策を取る勇気もない俺が、イヤイヤシブシブ仕方なく、前進。

チッ。

神父を連れてくるべきだった。

落ち着いて集落を見回すと、やはり、中世なんだな～と実感。

建物は、みな木造。

小屋ってレベル。

統一感はなく、切り貼り建て増し組み合わせ、って感じだ。

壁はそれなりの重量感。厚みは有りそうだね。集落の奥には家っぽい物が見える。村長さんの家とかかな？街の建物に、かろうじて、コンセプトが似てる感じか。

っても、俺の比較対象はこの邦の首府と最大の貿易港の建物。見劣りするのも無理もない。

いやいや、日本の俺のアパートも、あんなもんだったかな。素手で破壊できそうな安普請だったし。不幸な大陸暮らしで住居環境だけはよかったから、調子に乗ってるかな俺？

いかんいかん。

帰国後に困るぞ。

百畳敷き当たり前なんて感覚になってはまずい。

王城に戻ったら、物置を探そう。

もしもーし。

あんまり虐殺したことがない、良い・・・・・・・悪い国連軍じゃないですよ？？

１２日間で３３人殺しましたけど、あと４人殺しますけど、あれ？

一日３人？？

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リテイク。

え？

聞こえるわけないよね。

うん、聴こえなくてよかった。

いや、いきなり大声はね？

よその家、村を訪ねる時は失礼じゃないかな、と。

シナリオライターが必要だ。

見回しても誰もいないが、生活感はある。集落自体が、一応防衛拠点だけに、それほど広くはないし、建物も密集している。

・・・・・・・・・・・・・・・・だから物音も聴こえる。

隠れてますよね。

うーん、野盗の拠点、って感じじゃないな。

でも隠れたまま・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか、まだ、中で人質じゃないだろーな？

さてさて、なんて呼びかけようかな？

『ヤガモった？』

なんじゃそりゃ？

偵察ユニットには集中スキャンを命じたが。もちろん、人のいる場所くらいしかわからない。赤外線や対人レーダーには壁の向こうの人間が敵意を持ってるかなんてわからない。

ついでに武装も判らない。

『むかーしムカシ、矢を刺したカモがネギをショッテ』

黙れ神父。えらく準備のいい鴨だが、実在するわけねーだろ。

アムネスティのオネーチャン達を守ってろ。

『てますよ～！』

『かっこいい』

『濡れた』

『あの娘たちの後でいいよ？』

『そだね～ドリンク付けちゃう！』

ここ二週間近く、ちびっこ２４時間監視され中の身に、大変、本能に響くお声が響きましたが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、神父。

通信網に民間人を接続させんな！！！！

『てれなくてもいいのに～』

『勇気あるよね！』

『濡れた』

な・ん・の・は・な・し・だ！

民間人！！

『おびえる村人をなだめるために丸腰』

『いける！！』

『がんば！！』

『村人だといいね？』

『ベト○ン？』

『ロリコン？いまさら？？』

『ＨＥＹ！！ＰＩＺＺＡプリーズ！コマンダーのツケ！』

ってか、観戦か！文字通りか！

『ＮＯＮＯＮＯＮＯ！Ａｒｒｏｗ！Ａｒｒｏｗ！チューイ一秒ｄｉｅ一生』

誤魔化すな！

弓兵なんかいねーよ！！

そんな可能性があったら俺こねーよ！！！

専任の弓兵、つまりは消耗品である弓矢を継続的に用意し、才覚が無きゃ無駄な訓練に勤しめる人。

実は、騎兵より高かったりする。

実際、まともな弓兵は射程１００ｍを超えて、威力も大きく、騎兵より強い。

だから中世では、民間に居るわけがない。

そんな負担に耐えられない。

猟師？

この時代の猟師なら、手製の粗雑な弓矢、素人。

経験を積んでも、１０ｍ先の静止目標に当たれば上等だ。

大抵の狩りは集団で行う。

囲みこんで獲物を静止させ、弓矢で弱らせ、槍か棍棒でトドメ。

狩猟騎馬民族のように全員で弓装備な種族もいる。それは広い広い草原という、弓でも使わなきゃ狩りができない上に、狩り必須の農耕に適さない場所にいたからだ。

この邦のように、肥沃な穀倉地帯ではありえない。

だから、集落の入り口から近い小屋、もの陰まで１０ｍ以上あれば余裕ヨユー。

俺が立っている場所は安全圏なのだ。

もし仮に、弓兵、例えば帝国のスパイさん的な、まともな装備付きのプロ、が潜んでいても大丈夫。

弓を射るためには大きな動作が必要になる。

物陰で隠れたままじゃ難しいし、俺はそれを見逃すほど間抜けじゃない。偵察ユニットもそこまで大きな動きなら見分ける。

・・・・・・・・・・神父、目を離してないだろうな？？？？？？？？？

『ボウガン？』

え゛

『ＤＩＹ手作りＯＫ！１０ｍキルゾーン！』

あれー？？？？？？？？？？

【太守領辺境村の集落に続く農道上/青龍の貴族の後】

走り出す前に、あたしは青龍の女将軍に肩をつかまれた。

「離せ」

「おーこわ」

「どういうつもり」

青龍の貴族の邪魔は出来ない。青龍に思惑があるなら、聞く。だから、あたしはかなり焦りながら、立ち止まる。

「あれで判る」

？

「敵がいるなら襲ってくる」

バカじゃないの！！

攻撃してくる奴は敵！！！

攻撃してこなければ住民！！！！！！

敵なら皆殺し。

住民なら降伏させる。

青龍の貴族が、自分を囮にして確かめる？？？？？？？？？？

「漢が命張るときに邪魔しない」

青龍の女将軍は、彼の判断を全く疑わない。

そうかも知れない。

青龍の貴族は強い。

腕の一振りで人体を砕き、掌で大剣を弾く。

しかも青龍の魔法、銃を、使い魔を、大隼を使役し騎士たちにかしづかれる。

それなのに。

銃をしまい、身一つで、見通しが効かない場所に入る。

強くても、あたしたちと同じ様に、死ぬくせに。

「殺したくないんでしょう」

不思議そうに頸を傾げた、青龍の女将軍。あたしの頭は真っ白になった。

「あの娘はそーいうの、嫌いでしょ。あんたは、あの娘に見せたくない、よね？」

あたしたちは、青龍の女将軍を振り払って走り出した。

相も変わらず、理屈は、理屈だけは、あっている。

一番、安全な方法は、降伏して来ない村を、青龍の魔法で遠くから消し飛ばす。それなら誰も危険がなく、誰も犠牲にならない。

そうしなかった理由。

あの娘が悲しむから。

――――――――――――――――――――人が死ぬことに。

あたしが望まないから。

――――――――――――――――――――――――――――――あの娘が悲しむことを。

貴男はそーいう人じゃないでしょう！傍若無人で無神経で大ざっぱで！！！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・青龍の貴族に訊けば、いつもの答えが返ってくる。

――――――――――死んでも問題ない。

代わりが来る。

敵は滅ぼす。

おまえたちの立場は保証してある。

―――――――――だから、気にするな。

ふざけないでよ！！！！！！！！！！

本気だから余計に腹が立つ！！！！！！！！！！

この世で一番！！！

生きてきて一番！！！！！

大っ嫌い！！！！！！！！！！