三者三様

本件は医師法に違反し薬事法に違反する。考慮する余地がないのは明白である

《厚生労働省中央社会保険医療協議会》

本件は将来的な課題であり検証を必要とするが喫緊の課題ではない。

《公益社団法人日本医師会/日本歯科医師会/日本薬剤師会》

本件は既に導入済みであり議論検証実証は大いに歓迎する。

《世界保健機関：Ｗｏｒｌｄ Ｈｅａｌｔｈ Ｏｒｇａｎｉｚａｔｉｏｎ》

【太守領辺境村の集落に続く農道上/青龍の貴族の後】

『ガンホー！』

耳に響く命令は、青龍の女将軍。青龍の土龍が二頭、林を突っ切り、あたしたちがいる道の両脇を走り抜ける。

青龍の土竜は、長身の人くらいの高さ、子供二人分くらいの幅、大人二人でも余る長さを持つ。轟音をあげ硬い外皮と重量で何もかも踏みつぶす。

※参考；ＨＭＭＷＶ

全長４．８４ｍ

全幅２．１６ｍ

全高１．８７ｍ

重量２．３４ｔ

+武装弾薬兵員

土竜は四角い体で横滑りに大地を踏みしめて駆け抜けた。

枯れ野に沈んだ野盗、その呻きが消える。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご丁寧に全員踏み潰した。

『エルフよ』

ドワーフどもの一人。土竜の手綱を握っている。

『ちゃんと挽き潰せたかの？』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・野盗たち？

『それよ、それ』

あたしに訊くな！！！

そんなこと！！！！！！！

【太守領辺境村の集落に続く農道上/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

「殺っちゃった」

じゃねーよ。殺る前に俺に言え。舌だしても、可愛く

「あ゛」

ないこともない、元カノ。

ドリフトまでキメるドワーフのドライビング。凄いな、おい。

元カノはニコニコ度アップ。自慢げで誇らしげで誉められたそうだ。

野盗たちを跳ね飛ばさず、的確に紅葉卸し。うん、唐辛子じゃないけどね。赤いけどね。ＨＭＭＷＶを操縦するドワーフってのも、なんか、なじんでるよね。

車体についている赤い色はお前らが洗車しろよ？

まあ、良いんだけどさ。

武器を持って国連軍部隊の周りを囲むなんざ、敵対行動。軍政下、裁判（軍法会議）があろうがなかろうが、死刑。

軍法会議の判事は監察官、つまり神父。俺には情状酌量や減刑の権限がない。

キノドクダネー。

あるいは特殊な風習かもしれない。雑多な武器を持って来訪者を取り囲む。わざわざ、前に出てきて道を塞ぐ。あからさまに虐待された女性を道端に突き倒す。

――――――――――――――――――――ねーよ！！！！！！！！！！

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいや、偏見は避けよう。文化人類学の基本。

『色眼鏡をかけるなら、バラ色で』

偏見は無くせない。ならば好意的な偏見を抱こう。

ってこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと。

そう。

彼ら、既に肥料になる過程をふみつつある、そんな連中、いや彼らが、我々を歓迎し友好関係を結ぼうとした。

それが世紀末アウトローな形をとった、とか。

無いとは言わない。

なにしろ日本列島が異世界に転移したくらいだ。何があってもおかしくは、ない。

俺たちに想像出来ない文化風習？ならばそれを今、武力で否定したわけだが。国連軍は現地の習俗習慣に対する介入を、否定であれ肯定であれ、禁止している。

違反者は

『平和に対する罪』

『人道に対する罪』

両方、刑罰は一つしかない。

ならば俺たちが死刑？

なわけもない。

現地不介入を定めた国連決議には、軍事参謀委員会が補則をつけている。

『作戦上の必要は全てに優先する』

そういうこと。

キノドクダッタネー。

結果、作戦上の都合で殲滅した相手に敵意が無かったら？誤解だったら？

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――絶滅させる。

誤解した俺たちが、誤解された相手を。

誤認を誘発させる文化は作戦上の障害であるがゆえに。

「よーし！支援要請、対地ミサイルだ！」

叫ぶ元カノ。

やめい！村が消える！護衛艦のミサイルじゃクレーターになるだろ！

【太守領辺境村の集落に続く農道上/青龍の貴族の後】

あたしは一応、警戒。あの娘が手を握り、マメシバ卿が手当て。

「ちょっとだけ、我慢です」

マメシバ卿は、女の頷きを確かめて、丁寧にその傷口を拭った。

女の表情と、傷や痣を同時に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・見てる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・の？

痛がり過ぎないように、加減しながら、傷を清めていく。

汚れを除き、傷口を抑え、周りの部分、筋や骨を見て触る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・凄い速さ。

「いいですよー」

？

マメシバ卿は手のひらにのせた水晶玉をかざし、呼びかけた。

『┼⇔∀♪†∝∵лн│┃』

魔法！！

女の傷口がみるみるうちに、塞がっていく。

『∃∇∵‡¶ж┨∠∩≡∫』

今度は痣が！！！血色を取り戻し皮膚が再生し、腫れがひいた。

「痛いところ、ありますか？」

信じられないように、自分を見回す女。怯えが浮かび、それでもマメシバ卿が女に微笑んだ。怯えが戸惑いに変わる。

あの娘が女の顔を覗き込んだ。

「だいじょうぶ」

女は、あの娘の目を見つめたまま、泣きだした。声を上げて、大粒の涙をこぼして。

『メンタルケアは、魔法でも薬でも無理ですね』

魔法で切り替えて、喉の振動だけで、あたしに囁くマメシバ卿。

あの娘に、そして患者に聴こえないように。

【太守領辺境村の集落に続く農道上/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

俺がＢＧＭ代わりに聴くマメシバ・マジック。いやまあ、準備が終わるまで、ね。相変わらずやることないし。

骨伝導マイクってのは便利だ。

慣れれば声に出さずに通話できる。慣れないと口の中でモガモガ言っている状態になるから、マヌケだが。

「あたしの腕を繋げた時は、もっとすごかったよ？」

自慢気な元カノ。

「見た？」

戦場で帝国の魔法騎士、前黒旗団団長の黒騎士と元カノが一騎打ち。

４５ＡＣＰ弾で頭を撃ち抜かれた黒騎士と、腕をってか、その前の段階で、装甲車ごと腕を切り落とされていた元カノ。

切り落とされた腕を繋いだ多世界混合医療。

今もネットに治療映像は公開中。腕の神経組織が見る間に再生する様。それは、医学に関わるすべての地球人を狂乱させた。

医学生が一目見たさに国連軍に志願し、与党連合には『多世界医療推進議員連盟』が設立され、ＴＶ新聞は官庁の意向で黙殺。

え？

プラウダでも人民日報でもないのに、官庁がなぜ出てくるって？従わなくても罰せられるわけじゃないのに？？

そりゃ簡単。

日本の自称報道機関は調査能力がないからだ。取材とは官庁と役所が税金と権力で集めた情報を分けてもらうこと。

タダで、恵んでもらっている、といった方がいいか。

乞食がご主人様に逆らえるわけがない。

逆らうと、記者クラブから追い出され、記者会見（情報の配給場所）に出入り禁止となる。

従っていれば、コストや経費なしに事件事故政策統計記事論調まで下げ渡していただける。

水は低きに流れる。自然自然。

無能なんじゃない。必要がない機能（取材能力）が自然に退化したのである！！

だから常日頃、皆で親しく付き合い歓談する。発表する側と検証する側が互いに経費でおごりおごられ酒席を共にするなど日常茶飯事で、普通にそれが記事にされたりする。

例えていえば、検事と裁判官と弁護士が実の仲が良い兄弟だったら。あなたはどんな立場であれ運命を託す気になるだろうか。

追求する側とされる側が、肩を組んで酒を飲んでも、誰も隠そうとは思わない。

誰も疑問にすら思わない。

それが明治以降の日本である。

近代民主国家らしいよ？？

信頼関係を創るのは当たり前だよね？？？

公務員倫理規程は誰も記事にしないけれど。

なにしろ

『職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等差別的取扱いをしてはならず』

とか書いてあるから、報道しちゃまずいよね？

しかも、この関係はまさにＷｉｎ－Ｗｉｎ。両者は決して損をしない。リスクも負わない。コストも負担しない。

報じられた内容に間違いがあっても責任は問われない。

『○○の発表によれば』と書いているのだから、報道企業は間違っていない。

裏付けをとらずに報道した責任はない。『裏付けをとった』とは書いていないから、嘘はついてない。

もちろん、間違った発表をした官庁役所官僚役人を追及したりはしない。

責任をとるのは議員や大臣や知事など、投票で選ばれた政治家の役割だからだ。

教訓。

奴隷が必要なら、与えればいい。

罰も脅しも必要ない。

鞭でたたくより、蜜で溺れさせる方が効率的。

与え続ければ依存する。依存すれば逆らわない。逆らわないどころか懸命に蜜を献上するようになる。

野蛮なファシズム独裁国家にはまねできない文明的で洗練された手法！！！

粛清も秘密警察も強制収容所もいらない！！！

隣の国に教えてあげたくなるね？

ならない？？

というわけで、俺たちが気にするのは、まず国連、次に国会、最後に世間。

「肝心なとこが、わかってないんだよね～～～～」

したり顔はイラッとするが、元カノが言う意味はわかる。ってか

「現地住民への医療は許可されたのか？」

そう言えば。

アレルギーや薬効耐性、体内物質に共生微生物への影響、などなど。問題点を予測するとキリがない。だから、地球医療の現地住民への適用は制限中。

「ハナコの管理下にある場合は、無制限」

軍事参謀委員会、いや、安保理は理解しているらしい。検証（実験）するにせよ、施術者に経験と勘が必要であり、なにより患者と医者の信頼関係が必須であると。

であれば適任者は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハナコ？

ほほー。

いつもマメシバ呼ばわりして三尉が『ハナコ』って呼ばれたがっているのを無視してるくせに。

「マメシバに言ったら、監禁するよ？」

こえー！

殺すって言われるより怖いわ！

【太守領辺境村の集落に続く農道上/青龍の貴族の後】

あたしは、やっと判った。

水晶玉の向こうには、黒旗団の治癒魔法使いがいるのだ。港街の奴隷市場、貴賓館の本陣に。得意な分野ごとに、何人かいるかもしれない。

こことあそこを、あたしたちがつけているのと同じ装身具・・・・・水晶玉でつないでいる。

治癒魔法でも、いろいろある。

傷を塞いだり、体の中を見通したり。

マメシバ卿は人体の造りに詳しい。

肉の付き方、筋の走り方、関節の動きに骨の構造。血の流れに流す道の動き。

青龍の魔法。

あたしたちの魔法。

マメシバ卿の知識。

青龍は時と距離を操るのが得意。

あたしたちの世界は、塞いだり癒やしたりが得意。

先代の黒騎士に、腕を落とされた青龍の女将軍。

戦場でその腕を付けなおしたのが、マメシバ卿。

そして、卿の必死の嘆願に協力したのが、黒旗団の魔法使いたち。

マメシバ卿が傷の構造を見てとる。

マメシバ卿が判断する。

腕の、傷口の、どこを治しどこを塞ぐか？溢れる血と体液を、何処からどこまで戻して、循環させるのか？

魔法使いがマメシバ卿に従う。

治し、塞ぎ、操り、繋ぎ、やり直す。

そして、青龍の女将軍は、腕を取り戻した。１０日と待たずに、今まで通りに使えるほどに。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・途中で何度か、切って付けて、開いて塞いでを繰り返したらしいけど。

その話を聴いたとき。

てへっ！

って笑いながらごまかすマメシバ卿と、首根っこを掴む青龍の女将軍には、呆れた。

それに比べれば、目の前の女を治すくらい、児戯にも及ばないでしょうね。

あたしたちは今、治癒魔法使いを連れていない。

青龍の拠点に黒旗団の魔法使いたちがいる。

港街で何があった？あたしは振り返る。

青龍の女将軍は、使い魔を通して、魔法使いに帝国の密偵（おそらく）を爆殺させた。

青龍のおじいさんは、青龍の騎士達の眼を通して、魔法使いに市民の敵意を読みとらせた。

そして、今。

青龍のマメシバ卿は、手のひらの水晶玉を通して、はるか彼方の魔法使いに治癒の力をふるわせた。

ニコニコ笑うマメシバ卿。青龍、の、力。

ううん、力、そのものじゃないわね。

出来る、出来ない、じゃない。

同じ時、同じ材料を与えられて、違う答えを見る。

青龍は屈託なく、思いつく。

思った通りに振る舞い、その通りに命じる。

青龍の貴族はよく言う。

そもそもがたいしたことじゃない――――――――――本当にわかって、ない。

あたしたちにも千年経てば出来る――――――――――訳ないじゃない。

何が？って、屈託なく笑う青龍の貴族の、いつも変わらぬ笑顔を見て、あたしたち、あたしがどんな思いでいるか。

違って、異なって、ちがって、ことなって――――――――――追いかける事すら、かなわない。

【太守領辺境村の集落に続く農道上/軍政・黒旗団混成部隊本隊/先頭】

なんというか。

俺の視界に入った村、まあ農地を含めて村ならば、家々、ってか、小屋が並んでいるあそこは集落か。

まあ、便宜上、の呼び名。

農地を含む生活圏を村、人の住居が集まる場所を集落、と呼ぼう。

広い農地、その真ん中。柵に守られた居住地。広い農地に点在して家を設けたりはしない。その方が通勤、ってか、移動時間を節約出来るが、集団生活で就寝時の安全確保を優先している。

エルフっ子のレクチャーによれば、農村はだいだいこういうものらしい。

百～百数十人くらいが一村。

今でこそ神殿、ってか、神官はいなくなってしまった。だが、それでも地域の単位は神殿を中心とした十～十数村になるとか。

人口は千数百～二千オーバーってところか。

まあ、村を越えた人の行き来はまずない。かつては神殿の祭りがあったが、今は年貢を運ぶ時だけしか村をでない、と。目の前、の集落がこの地域の端っこにあたる。

柵は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボロいな。

集落の全周を囲っている。一応は。まあ、村々の防御は元々形だけ、らしい。この村だけじゃなく、邦全体で。

旧王国の時代、建国期はともかく後半１００年余りは平和で豊か。

たまにくる飢饉でも内乱が発生するほどではなく、地理的な孤立が幸いして戦争もなく。繁栄が治安を保証し、治安が繁栄を生む。

帝国に征服された時は？

空と南の密林を突破してきた、飛竜に土竜。一夜で王都が、王城が蹂躙された。王都だけが。

旧王国の騎士や兵は、領外との出入り口である港を守っていた。戦う前に敗北、四散。後は残党狩り。

まあ、正面から戦っても同じだっただろうが。

弓に槍、騎士に郎党。竜と魔法、軍と部隊。旧王国と帝国では数百年分の落差があったのだ。

だから、村人が集落に立て籠もる必要がない。

だから、柵は野生動物除けの意味しかない。

柵ではどうにもならない、巨大な竜その他がうろつく大陸で？

人の背丈ほどの柵が何になるのか？

心配無用。

でかい生き物には、ちんまい人間が餌に見えない。

まあ、そうだね。

十数ｍクラスの巨獣からみて、人間なんか餌に見えない。骨が多くて身が少ないからな。一度、喰えば味を覚える？

――――――――――――――――――――んなわけあるか。

食べればなおわかる。

食物としての価値がない、って。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・特殊な趣味がない、とは言わないが。

エルフっ子いわく（すごーく、当たり前そうに）

『竜の巣穴に人やエルフが入っても無視される』

とか。

わかるわかる。

ゴキブリ一つで大騒ぎするのは人間だけ。例えば俺たち兵士が野宿しているとき、傍らをネズミが通ったからと言って、騒ぐわけがない。

わざわざ追いかけまわしたりもしない。

飢えればどうか？

そもそも巨大動物は餌を大量に必要とする。餌が少なくなれば、飢える前に移動する。餌になる動植物がいる場所に。

人間が開墾した土地には巨大動植物はいない。餌がないからこないのか、来ないから餌がないのか。野生の巨獣に出くわすなんて稀。

飢えた巨獣に人間が出くわすなんて、更にレアケース。

もちろん、通りすがりの巨獣って線はある。それこそ餌場を求めて移動中、とか。

その場合、どうするか？

避難、だそうだ。

エルフっ子いわく

『そのまま通した方が被害が少ない』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そりゃそうだ。

巨獣が家々や人々を虱潰しにする訳がない。

通り抜け巨獣なら、そもそも村に気がついてすらいない。

家一軒？

数軒潰されるかもしれないが、その程度。

だいたい、人も動物も歩きやすい場所を歩く。広々開墾された人里で、わざわざ村や街を踏んだりしない。

それでも諸般の事情があり、あれやこれやで向かって来たら？

一頭なら止められるかもしれない。

犠牲覚悟の軍隊なら。

出陣費用だけを考えても、村一つ再建したほうが安上がり。

だから、逃げる。

よってしかして、野生動物しか想定していない柵は適当になる。せいぜい人間サイズなら十分だからだ。

畜産農家なら脱柵防止に家畜保護の為に、けっこう丈夫な柵を作るらしいが

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大型の家畜はこの辺り、太守領の端っこにはいない。

人間の生活圏を出れば、巨獣の生活＼通行圏。

人間とは比較にならない餌適性・・・・・・でかくて肉がたくさんあって捕まえやすい・・・・・・・のある家畜は、巨獣を招いてしまう。

だから畜産農家は太守領中央にある。

主要街道や河のある辺りだ。

この辺り、つまり大陸全体でも辺境の太守領ｍ、のさらに辺境では、農耕馬でさえ稀だろう。

もちろん異世界の馬は、異世界の小麦と同じ。馬の、ような動物、なんだがね。小麦のような植物、人間のような現地住民、か。

【太守領辺境村の集落に続く農道上/青龍の貴族の後】

野盗に痛めつけられた女は、もう大丈夫。

あたしは青龍の魔法に集中する。耳を澄まさなくてもいろいろな音が流れ込んでくる。

青龍の貴族はなにも言わない。青龍の騎士、そして黒旗団のドワーフ達。短い、確認。青龍の女将軍が、時折、意味不明な号令。

それだけで、何が進んでいるか手に取るようにわかる。

畑も藪も林も何もかも踏み潰し、全力疾走する土龍。

機嫌よく、ガッハッハッと笑いながら、土龍から飛び降りるドワーフ。

土龍は集落を一周。

二カ所の門、にあたる場所に身を沈めた。

集落の周りは等間隔に、飛び降りたドワーフが居座る。囲んだまま、内と外に筒先を向けた。

包囲は黒旗団の担当か。

枯れ野原を抜けて、ゴーレムに跨った青龍の騎士が二人。

あたしたちのところに。

面貌をかぶったまま。だけど、サトー殿かシバ殿だろう。ゴーレムにまたがったまま、銃を構えてマメシバ卿の側には一人がつく。

もう一人が止まらずに、青龍の貴族のもとに向かう。

戦場の一角。ただ立っているだけで、目蓋を閉じていても。何もかもわかる。

あたしたちは、歩き出した。居るべき場所に。