知らないことは幸いである/ Alice's Adventures under Ground.
【用語】
『地下の国のアリス』
:「不思議の国のアリス」の原題。まあ確かにウサギの穴から地下に潜っているから間違ってない。Under
Groundなどと聴くとファンタジーとは別に御伽噺的ではない残酷さに溢れた或意味ファンタジーな物語を思い浮かべそうになってしまうが。とはいえ「不思議な国のアリス」の方が適切な訳になる「不思議の国のアリス」だが元々児童向けを装ったパロディオマージュ満載の英語圏教養人にしか解らない多重構造で現代に至ってやっと元ネタが判明するような作品なので可笑しくはないな!
人殺しは目的ではありません。
手段です。
《国際連合安全保障理事会席上/軍事参謀委員会所属陸上自衛隊三佐の言葉》
【異世界大陸東南部/国際連合軍大規模集積地「出島1」/竜の巣/青龍の水飛竜横下/若い参事】
僕は待ち、聞き耳を立てたまま。
流石は僕の妹、巧く間を空けた。
話すのはそちら、と伝え続ける。
沈黙は便利だ。
話させることが出来る。
与えずに得られること。
なにより話さないで済む。
妹には感じ採れないことが多い。
知ってることは解る。
船団のことは知ってる。
港街のことは知ってる。
青龍の貴族が統治下に居る。
知らないから判る。
船のことは知らない。
港のことは知らない。
青龍の煙獣を味わってない。
「それはそれは」
妹が皆の話を受け流して観せ付ける。
――――――――――先を質す為に。
大港湾都市を襲った青龍。
住民の半分が喰われた。
港は、ほとんど無傷。
それは良かったそれからどーした。
・・・・・・・・・・あの痛みを知らぬ強み。
大陸最大の港湾都市。
大洋に面した良港。
二つの大都市。
内陸部まで繋がる内海の出口。
そこを南北から挟む位置にある。
広い内海越しに幾つかの邦を挟むほどに離れていながら、対岸二つの港は古くから共存し、故に倍以上に栄える。
帝国勃興以前から、いや、以前の方が栄えていた。
古くから在り、これからも新しくなる港湾都市だ。
各々が都市と呼べる規模。
各々に住まうは十万人余。
各々の半分が殺されたか。
合計十万人ばかり。
船が港が街が壊れなかったのが奇跡に思える。
奇跡を起こせる巫女神官が死に絶えて十年程。
王国二つ三つ分の全軍に匹敵する人数がなあ。
大都市一つ二つどころか邦一つ壊せるに足る。
文字通り、死ぬ気で死ぬまで暴れた、挙げ句。
当の十万人を海に沈めるだけで終わりました。
そんな都合が善すぎること、青龍にとって、を僅か一晩で手間暇かけずに当事者たちを追いたてるだけで為し遂げ、いや遂げるまでもなく終わらせる。
煙獣に舐められたら、考えることなんか出来ない。
残り香だけしか知らないが。
最中で味わったバカ女から聞いている。
さんざん愚痴られた訳だが。
珍しく聞き流せない話。
・・・・・・・・・・だから話す話す話す話す。
つまりあの、煙獣の舌は誰をも駆り立てる。
しかも始末は水だけでいい。
ただし煙獣が去るまではどうにもならない。
虐殺には色々な殺り方がある。
燃やす。
埋める。
沈める。
そこまで行くのにどれだけ手間暇がかかるものか!
脅す。
宥める。
騙す。
人手だけで殺す数の一割は必要だ。
あの煙獣に幾らかかるかは、知らない。
青龍の貴族は召喚でき騎士十人ほどで使役。
ご領主様は余り殺さない為に使ってる。
死ぬほどの苦痛で殺さない。
死ぬほどの苦痛で死に逐う。
出来るだけ殺さずに躾る。
出来るだけ殺して従える。
如何様にも。
これが最初ではなかろう。
これで最後でもなかろう。
これだけでもないだろう。
後に、先に、幾つの手口を持っているのか持ち出すのか。
海に関心が無い帝国。
海の向こうに土地が無いと知るや、大陸深奥への遠征を決めた。
そんな帝国でも海産の豊かさは知るし、交易の利は重要視する。
だから一軍を置き海軍まで設えて選び抜かれた太守をも置いた。
帝国支配層に沿岸部出身者は少なからず軽んじてはいなかった。
海岸沿いに異変が生じると、陸海の戦力を臨戦態勢にした位に。
訳が判らないことに対処出来るというのは、帝国が誇って善い。
まあ、飛竜が征けない果てに、青龍が居たのだが。
でまあ、帝国軍主力は安定した沿岸部に居なかった。
まあ全軍、ほぼが内陸へ向かって行く最中だった。
なにかが勘に触ったのか知らんが青龍が殺って来た。
結果が全て、など素人の戯言。
張らなければ当たらない。
目算があれば賭けには非ず。
投機ではなく立派な投資。
それで全てを擦ったとしても。
知らない身には有難い知見。
知ってる振りでは感謝は後。
知りたいことは、その先だ。
史書を書いている暇人が聴いたら喜ぶな。
好事家という輩だ。
輩には友人も多い。
後で話してやろう。
妹のような堅物には言えたもんじゃない。
土産話も合わせて仕入れ。
商いの為にも必要な元手。
その後に何が起きたのか。
我らは関心を共有出来ている。
僕。
妹。
こちらが僕ら。
危機感は共有出来ていないが。
それに加えて、僕らが加わってなのか、大港湾都市の大氏族当主の方々と僕ら。
それらが我ら。
僕らの都合から視ても居なくなられたら困る方々。
同じ船に載せられて自分たちだけ逃げられるが難い。
乗ったのではなく、られるにしてもし難い立位置。
此処に集わされた、嫌ではないが否応なしに、青龍に連れて来られた。
同じ立場だと同じ様に考える。
商談相手に無知を隠すのが僕。
加害者相手に被害を言わぬ方々。
僕は知りたい知らねば困る。
方々は言わずと知られたい。
僕は知らないとは知られていない。
方々に。
方々は隠す気は無くとも言いたくない。
青龍へ。
最初から見物している青龍の女。
・・・・・・・・・・問題はこちら。
彼女が居なければ、方々の舌が廻るかな。
青龍相手に隠し事は無駄なんだけれども。
何時でも何処でも何も言わずとも、青龍には知られている。
何を言おうが思おうが、誰の気持ちも青龍は気に留めない。
何を考え何をしてしようとするのか、青龍は視ているだけ。
それを知らぬか、実感出来ぬか、そこが僕らと彼らの違い。
それはそれとして、更に知りたい。
僕らは所詮、辺境の氏族
妹は、その次期当主。
相対すは大陸随一の観客。
即興で好くやった。
――――――――――青龍が前で。
無垢を演じる妹。
辺境出身者が明け透けに無知を晒すが如く。
今後もそれらしく振る舞うようにしよう。
僕らが田舎者ってのは、役に立つな。
太守領では判らぬ利点。
「誰も青龍に殺されなくて良かった♪︎」
地元では通じないな。
判り易い笑顔。
それは演出。
問いかけ。
少し早い
・・・・・・・・・・先を糺すに換えるのは。
駄目押し。
駄目出し。
駄目直し。
解ってやるな
――――――――――背中で語る器用な妹。
僕の視線に合わせて身動ぎ。
僕を視る皆を視て察する。
僕に合わせていると示す為。
無駄なことを
・・・・・・・・・・皆にも誇示する兄妹序列。
急かすのは番頭の役。
当主は黙って鷹揚に。
例えば青龍の女の様。
背後にたまたま居るのが青龍の女と青龍の水飛竜
これに誤魔化されない。
ならば?
こちらも誤魔化せない。
用件にはいろう。
手を組みたい?
手は要らない?
手を斬りたい?
いつだってそう。
青龍、が要点。
青龍の女が観ているから。
青龍の女を視ているから。
青龍、が怖い。
何故か?
青龍と呼び捨てるが好し。
単に気にされないだけ。
そうと判らない大港湾都市有力氏族。
意味があるように観せる。
それが通じるってこと。
此処の青龍に何かされた?
太守領とは違う扱いだな。
青龍と領民との距離感。
此処ではかなり離れてる。
まるで青龍が領民の動きを気にするかの様。
おかしい。
僕らの知る青龍とは違う?
領民に興味は有る。
領民へ関心は無い。
邪魔にならなければ善い。
領民を統治しない。
領民が好きにしろ。
視てはいるから注意しろ。
これが青龍の貴族。
太守領の所有者だ。
他の青龍も似たような者。
青龍の貴族が騎士。
青龍の女将軍たち。
視知れる範囲でしかなかったのかな?
考えれば大陸中に青龍が押し寄せている。
違う青龍が異なる領民にどう対するのか。
好い機会。
青龍全体など知りようもないが。
此処は知り得る最大の青龍城塞。
その支配下に居る領民の有力者。
比較する。
青龍が闊歩する世界への漕ぎ出し方。
既に痛い目を観た皆々様。
知られてると思って知らない相手に教えてください。
僕が知る役。
妹は知らぬ役。
僕は、さも知っているように振る舞う。
それは当然、知らない振り。
知らない素振りは知るの意味。
隠して観せれば在る様に観える。
それが本当に知らない、とは思うまい。
嘘を吐かない正直な嘘。
嘘を吐いてますよ、と示す。
嘘を吐く振りの信用性。
隠して魅せれば価値が在る。
表すまでは疑われない。
値付けはさせてしてみせぬ。
したと思わせれば十分。
見せない限りは魅せられる。
僕が魅せる。
妹が観せる。
皆に伝わる。
――――――――――それだけ?――――――――――
伝えちゃいけない。
自ずから覚らせる。
巧い舞台のやり方。
金を盗る芝居とは真逆なのが商談。
観せることで先を質す。
青龍が連行した大港湾都市の富豪。
高台で煙獣の被害を受け無かった。
なのになぜ半数しか生き残れない。
たまたま十万ばかりの他人が殺された。
たかがそれだけ。
誰もそんなことくらいで畏れ入らない。
貴男。
貴女。
貴方。
ひとりひとりが何かされたのか。
いや、違う。
されかけた。
青龍にされたのなら生きて居る訳がない。
危なかった。
生きる喜び。
皆々様の知人はどうなりました?
何時。
何処。
いや、何をしたから、何をされたんですかね?
そう。
これまでの話。
皆さん無事で良かったですね♪︎
以上で終わり。
誰も殺されてない。
殺された誰かは他人だ。
皆々様には無関係。
後始末に苦労した?
腹立たしいな。
それだけだが。
いつものこと。
台風が来れば千や二千は死ぬ。
水死体を集めさせて始末する。
港から街路を片付け復旧して。
始末の手配は有力者。
持ち出しも少なくない。
今回は100倍程度。
出来る範囲なら良い経験。
だが程度の問題でしかない。
そりゃ不平不満は在るだろう。
相手は絶対強者青龍。
何も言えるわけがない。
なら聴かせればいい。
苦労話の形で陳情する。
新参者に教える態で。
諸王国帝国以来の伝統。
ちょうど今みたいにな。
居合わせ続ける青龍の女。
確かに注目して聴いている。
それを出来ない理由。
今ここに、苦労した者たちの、半分がいない。
恐れより畏れる所以。
誰もが青龍にやられた。
ここに生き残ったのが、半分未満。
皆がやられかけたのか。
何をして何をされた。
被害者の言葉を絞り出さねば。
加害者が皆々様 を視ている前で。
?
皆々様が反応した。




