コーカス・レース/Fury said to a mouse.
【用語】
『再現性』
:同じ物で同じ手順を踏めば同じ過程を経て同じ結果が出る。ただし「完全に等しい」再現は不可能なので差異の分だけ誤差が出なくてはならない。誤差が無ければ観測か結果のいずれかが間違っている。
科学法則の一つ。
出会い頭に全力で殴り付けること。
殺した相手とは付き合う価値がない。
生き残った相手には従える価値がある。
殴り返されたら付き合う意味がある。
殺されたら従う意味が生まれる。
【異世界大陸東南部/国際連合軍大規模集積地「出島1」/竜の巣/青龍の水飛竜横下/若い参事】
僕は知っている。
――――――――――だから聴く以上に解る。
あんな獣が夜中に街中を舐め摂とれた。
大都市の。
同じことが起きたところ。
幸いにして自宅じゃない。
あんな獣が広大な都市全体に揺蕩えた。
莫大な人数。
不幸にして近場ではある。
太守領でもありましたよ!
・・・・・・・・・・と言うわけにはいかない。
飽く迄も、知るだけ。
体験した訳じゃない。
させられてたまるか。
太守領で二回。
・・・・・・・・・・妹が振り向いた。
バカ女とは違う計算された仕草。
妹よ。
兄に代わって集中しなさい。
よく聞かないと殺される。
ツイてた。
町中で召喚された刻。
遠くから観て、去った痕に触れた。
地下都市が呑まれた刻。
報告を読み聴きし、証言を集めた。
生きてた。
ここ大港湾都市で三度目か。
――――――――――妹が振り返った。
バカが居なくとも馬鹿は起きる。
妹。
今、お前が聞くべきことを。
青龍は僕らを助けないぞ。
せめて殺意を持って殺されたい。
――――――――――――――――――――――――――――――無理か。
青龍が使役する獣。
煙獣。
・・・・・・・・・・本来はこういう使い方なんだろう。
最初の刻に死者は出なかった。
青龍が手当てしていたからな。
※第114話〈視線/化学戦考察〉より。
単なるバカ相手だからだろう。
町が半壊した程度で済むとは。
但し、その刻、僕も煙獣の気配を嗅いだ。
・・・・・・・・・・思い出したくもない。
あの痛みは軽いモノ。
煙獣が去った残り香。
敢えて殺さぬように。
学んだことはソレじゃない。
バカが居れば巻き添えが出る。
それが他人とは限らない。
良い経験で済んだこと。
二回目は、そうはいかなかった。
―――――――――青龍の貴族、その癇に障ったから。
ドワーフたちが住む地下層。
太守領の西、内陸の山塊郡。
西の山で何が起こされたか。
そもそも僕には知りようがない。
幸いにして巻き添えにはならなかった。
バカが居なかったからだろう。
だから死者が出る。
強者の機嫌を損ねし哀れな弱者。
観えない地下で起きたこと。
排他的ではないが距離があるドワーフ。
その中内で起こされた惨劇。
部外者から訊ねられるもんか。
いつ起きたと知らされた。
青龍の貴族が殺ったとも。
何が為されたと判らない。
恥ずかしながら、皆と同じように。
それを知ってた女を知っている。
そいつは僕が尋ねれば何でも答える。
それを教えたそうに寄るくらい。
まあ来なくても目を離せないんだが。
バカだし。
参事会議長だし。
何をしたかったか解らないし。
※第111話〈DRONE WARS/ラジコン戦争〉~第115話〈帝国の統治〉まで。
そんな女が青龍の貴族、その目に入る場所にうろうろ。
それが太守府の実態である。
癇に触れば邦が滅ぼされる。
でなくとも街ごと殺される。
軟禁した方が良いんじゃないか。
初見でタメ口を叩いた刻は殴り伏せた。
※第116話〈継承者〉より。
祖父が失脚したのと同じ間違いを、よくまあ。
※第20話〈インターセプト〉より
それを誤りと認識出来ないのがアレだ。
それじゃ手遅れ以後に気が付けた祖父以下だ。
それって代々、悪化してんじゃねーか。
なんで五大家筆頭になれたんだ、あの家系?
能力の有り無しっていうより、向き不向き。
換金できないとは言わないが。
使えるのは僕くらいだろうな。
だから暗黙のうちに押し付け。
他氏族にしても死なれちゃ困る。
五大家の一つが内部分裂。
あの青龍の支配下で。
それが周りへ与える混乱。
参事会の責任だろう。
だから暗闘に押込だんだ。
内紛を続けているのは周知の事実。
他の四家は知らんぷり。
目に余れば叩き潰す。
介入は知られぬ範囲で。
皆で気が付かないことにすれば、責任も生じない。
いずれは他家に吸収されるだろうが。
草刈り場にして終えば誰もが争い合う。
穏便に分け合えば余計な費えが生じない。
実質的な力を失った五大家元筆頭。
遊び金くらいは与える。
遊ぶ暇はないが。
名誉職としての新議長。
青龍向け責任頚。
だから使うのは僕だけ。
内紛を続ける一族、自称の実力者に値は付かない。
――――――――――その当主だったから出来ること。
太守領のドワーフ。
参事会新議長の家。
その伝手は、まだ通じる。
太守領では採掘から精錬はおろか細工や加工まで、ドワーフたちが西の山で行う。
これまでも。
今も。
これからも。
金具の得方、扱い方。
他所のやり方とは違ってる。
太守領の鍛冶屋は手入れまで。
ドワーフが全て行う。
金属採掘精錬設計に加工。
人手が入るのは売り買い以降。
他所のドワーフは精錬まで。
加工細工の大半は人手に拠る。
ドワーフは素材創りに集中。
最高の素材さえ在れば後は人。
その方が大量に造れるから。
だから少ないドワーフ作は、実用鑑賞含めて高値を呼ぶ。
太守領では、そもドワーフ以外は誰もが相手にしないが。
そこに区別はない。
常日頃に使われる金具がドワーフ謹製。
それは意味がある。
佳く切れ深く掘れ易く砕けば良く実る。
太守領の豊かさだ。
むしろ武具防具より鎌鍬鋤の方が多い。
広さ当たりの収穫量。
北の寒さを差し引き。
土地の豊かさを加え。
道具の質も加えよう。
それが僕らの扱える小麦。
その積み出し先で起こされた悲劇。
詳細を聴きながら理解が先回り。
太守領と大港湾都市。
遠隔地の共通点。
青龍が所有すること。
僕は照らし合わせる体験有。
バカ女から聴き出した話も。
恐怖を判るだけでなく、解るってどうよ?
かつての五大家筆頭。
鋼材商い最大手。
ドワーフたちの盟友。
それが太守府参事会前議長の家柄だった。
青龍に喧嘩を売りそうになって没落したが。
前議長を辞めさせた後を引き継いだ孫娘。
没落開始真っ最中一族の惣領娘で在ってしまった。
・・・・・・・・・・僕の昔馴染み。
世襲されるのは伝手と顔。
代々続く馴染みの相手。
幼い刻から知り合う間柄。
参事会は世襲ではないんだがな。
その祖父、がやらかした。
誰にでも大失敗はある!
――――――――――それはそうだろう。
明日が在るならなんとか為る。
どんな危機さえ一から始めるより楽。
商いが頓挫しても、だいたい当代までは続く。
家が転んだら、その代までは立て直せるからな。
そう知っているからこそ氏族から見放された。
新当主に資質が無いのは判られ切ってる。
博打は貧乏人がしてしまうこと。
金持ちがするのは八百長だけだ。
元五大家筆頭氏族は内紛、四分五裂。
うちに蹴り出されてきた名ばかり当主。
なんでうちに、って話ではあるが。
蹴り戻すと死ぬから仕方がない。
僕の執務室で遊んでいる。
なんで執務室に、って話もあるが。
曲がりなりにも五大家筆頭当主。
僕と妹以外、皆遠慮する。
しかも本人は全く遠慮出来ない、悪気はないが。
騒ぐ彷徨く、邪魔ばかり。
殺さぬ程度に無視するか縛るか。
やっていいのは僕ばかり。
妹は触れるのも避けて完全無視。
そんなバカ女を正面から取り扱う唯一の勢力。
商戦の中心、太守府から遥か遠い西の山。
浮き世離れしたドワーフたちは義理堅い。
金や人の世に疎くても困らないからだろ。
人がドワーフの技量を必要としているが。
ドワーフは人の世を必要とはしていない。
だからドワーフたちはバカ女を当主扱い。
ならば引き取ってほしいが。
だから西の山の内情をバカ女だけは訊ける。
無神経で図々しいのも慣れられているから。
僕もバカ女にモノを尋ねるのは慣れている。
バカ女の知識。
知識は共有することになる。
知ってるだけに意味はない。
認識は共有しようがない。
判断力に差がありすぎる。
僕の認識。
太守領のドワーフたち。
幾つかの氏族に別れていた。
そう今は独りの頭を戴いている。
青龍の貴族に叩き伏せられたからだ。
突然、青龍の貴族は西の山へ遠征。
帝国に優遇され排他的なドワーフ。
青龍は帝国を駆逐した、ついでに。
陣を構えたドワーフ戦士たちと園遊会。
―――――――――訳が判らないので密偵に尋ね直し。
奇襲は掛けずとも迎え討つ姿勢のドワーフ。
奇襲どころか真っ直ぐ堂々と征く青龍の貴族。
縄張りを護る者たち。
縄張りを認めぬモノ。
場所の所有と世界の私物化。
なんで酒を酌み交わす?
その刻、現れたのが煙獣。
山塊内中を網羅する地下都市。
その最奥で開けられた箱。
瞬く間に一山を制して昇った。
青龍の貴族を見張っていた麓の密偵たちも驚いたそうな。
・・・・・・・・・・訊いてるこっちが驚いたが。
山の各所から吹き上げる煙。
呆然とする麓のドワーフたち。
冷ややかに杯を干す青龍の貴族。
彼の女たちは困惑していたらしいが。
青龍の貴族。
ドワーフの戦士長。
二人は解り合った、らしい。
ドワーフの地下都市が煙獣に蹂躙される最中。
――――――――――わかんねーよ!
ドワーフの戦士長が西の山の主権を握った。
ドワーフの戦士長が青龍の貴族に忠誠を誓った。
ドワーフの戦士長が西の山の長老を皆殺し。
わざわざ太守領の王城の王の間で皆に見せ付けて一から十までやらかした。
※第193話〈頭上の刀/The Sword of Damocles.〉より
それが事実なのではあるが。
であるならば、大港湾でも斯く為ったのか?
僕の背後で微笑んでいる
――――――――――青龍の女。
僕までを見据える皆々様。
――――――――――生き残り。
僕らは、いつでも傍観者。
・・・・・・・・・・・斯く在りし。
童話「裸の王様」は誰でも知るでしょう。
それなのに何故みんなとやらは「馬鹿にしか観えない」布を必死に死んで殺してまで観てしまうのか?
それが不思議でなりません。
ので「王様のパレード」を冷やかして参ります。
マスクの数を数えれば、観ている数が判るので。
結果、週末、雨と花粉の中を彷徨く嵌めになり、執筆が遅れてしまうんですね。




